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三章 悪女のお気に入り
③②
シャルレーヌはそういいきったモルガンを見つめながら考えていた。
(まるでお友だちにおもちゃを取られて奪い返しにくる子どものようですわね)
モルガンにとって、カラスたちはそれほど特別だったということだろうか。
まずはシャルレーヌがモルガンと同じ魔法を使えるという誤解を解いた方がいいだろう。
彼は自分の居場所を取られまいと必死なのだ。
「勘違いなさっておりますわ。わたくしは魔法を使えませんが……」
「──嘘だ! この魔法は陛下が認めてくださった特別な魔法なんだぞ」
まるで聞き分けのない子どもと話しているようだ。
半べそで訴えかけてくるモルガンを見ていたが、あまりにも弱々しい姿に飽き飽きしてしまう。
(結局、何がいいたいのかしら。文句を言うのは構いませんけれど、まったくかわいくないですわ)
彼の言い分としては、自分の居場所を守るためにカラスを返してほしいのだろう。
だけど力ずくで奪い返すだけではなく、泣き喚くだけ。
(…………気に入りませんわ)
シャルレーヌの口端がぴくりと動く。
これではいつ殺されても文句は言えない。とは言ってもサンドラクト王国での場合だが。
ここは温和に対応した方が後々、面倒くさいことにならないだろうと判断したシャルレーヌは丁寧に説明していく。
「わたくしがカラスを奪ったわけではありませんわ。あの子たちが懐いてくれただけですから」
「嘘だ! カラスたちが僕を裏切るなんてありえないんだからな……!」
諭すように言ったもののついに泣き出したモルガンを見て、シャルレーヌはどうするべきか考えていた。
「ぐすっ……!」
「あらあら、どうしましょう」
本来ならビンタをして涙が出なくなるほどに根性を叩き直してやりたいが、ナリニーユ帝国でそれをしてしまえば問題になるだろうか。
(これが許されるのね……あまり見ていて気持ちのいいものではないけれど)
シャルレーヌからどんどんと表情が消えていく。
何度か説得を試みるも彼は駄々を捏ねてばかりで納得はしてくれない。
もうこちらの言葉は届かないと判断したシャルレーヌは頬に手を当てて満面の笑みを浮かべる。
こちらは今できる最大の譲歩をした。
それに妃である以上、シャルレーヌのほうが立場が上だ。
シャルレーヌはチラリとルイに視線を送り合図を送る。
ルイは無表情のままわずかに頷くとモルガンを見た。
「ウフフ……仕方ありませんわねぇ?」
「……え?」
シャルレーヌの変化に気づいたモルガンは動きを止めた。
言葉が通じないのなら、力でねじ伏せるまでだ。
拳を握りしめて振り上げた時だった。
ヒュッと風を切る音。
シャルレーヌの拳があと少しでモルガンの頬に届くという時に、大きくゴツゴツとした手のひら間に入り、拳を受け止められてしまう。
しかし受け止めきれなかったのか腕ごとモルガンにぶつかってしまった。
「あらまぁ……!」
「……いだっ!?」
モルガンは尻もちをついた。尻を押さえながら叫んでいるが、それよりも驚くべきことはシャルレーヌの拳を防いだことだ。
まさかこんなことがあるとは思わずに驚きに目を見開くばかりだ。
(気配を消すのがうまいですわね。わたくしも油断しておりましたわ)
シャルレーヌが苛立っていたこともあるが、ここまで近づかれて気がつけなかったことが信じられなかった。
スッと手を引いて、何事もなかったかのようにドレスを整えた。
顔を上げると、そこにはモルガンと共にヴィクトールの側近であるオノレの姿があった。
「まぁ……ごきげんよう。オノレ様」
(モルガン様の様子を見ていらっしゃったのかしら)
モルガンは手のひらが痛むのか、開いたり閉じたりを繰り返している。
それから顔を上げると、警戒するようにシャルレーヌを睨みつけた。
シャルレーヌはしばらく考えつつ、この場をどう切り抜けるか考えていた。
何故ならそのまま殴り飛ばして、モルガンを気絶させようと考えていたからだ。
「モルガン様もお一人ではなかったのですね。わたくしをあんなに責めたのに騙すなんてひどいですわ」
「僕はちゃんと……一人で、きたぞ……!」
ひっくり返っていたモルガンはお尻を押さえながら立ち上がる。
どうやら何が起こったのかわかっていないようで、どうして自分が尻もちをつくことになったのか理解できていないようだ。
オノレはモルガンを庇うように前に出た。
また手を出すことを警戒しているのだろうか。
服の下からもわかる逞しい筋肉、彼がどうしてこの場に現れたのか。
それは後々、カラスたちに聞くことにしよう。
(やっぱりバレておりますよねぇ……困りましたわ)
シャルレーヌがオノレがどう動くつもりなのを観察していた。
背も高く頬の傷や、体が大きいことからその威圧感は凄まじいものがある。
ルイも警戒しているからか、シャルレーヌの前に出た。
気まづい沈黙の後、彼は小さくため息を吐く。
片手を上げたことでシャルレーヌも構えようと一歩後ろに下がった時だった。
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