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ー猛毒ー
②⑥
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【あらすじ】
次期宰相であるチェルヴォニは裏表が激しい男だった。
「うるさいっ! 今はそれどこれではないんだよ」
「私の言うことが聞けないのか!?」
「口答えをするんじゃねぇよ」
隣国から嫁いできたエリュテイカは彼に惚れており言うことに従っていた。
何をしても怒らないエリュテイカ。彼女に隠れて不貞行為を繰り返していた。
けれどチェルヴォニはエリュテイカの本当の顔を知らなかったのだ。彼女は──。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「カハッ……どう、して…………っ?」
痛みが強くなり言葉に詰まってしまう。
腹部を押さえながら膝をついた。
チェルヴォニの口端からも血が流れていく。
目の前にある赤いエナメルの靴がコツコツと音を立てながらこちらに近づいていく。
「エリーだけは心から愛してあげようって思っていたのに……」
「な、に……っ?」
「……本当にどうしようもない人」
うっとりとした表情、高揚した頬を見て全身に鳥肌が立っていく。
「ク、ソッ……このっ、クソや、ろう……ッ! ぶっ殺……っ」
『ぶっ殺してやる』そう言おうとした瞬間、エリュテイカのゴールドの瞳が大きく見開かれた。
最後まで言葉が紡ぐ前に手のひらが口元を塞いだ。
血走った大きな目がこちらをじっと見つめていた。
あまりの恐怖にチェルヴォニは唇を閉じる。
無意識にガタガタと体が震えてしまう。
(な、なんなんだよ! どうしてこんなことにっ!?)
腕で傷口を押さえながら、後ろに下がっていくが背中が壁にぶつかってしまう。
とにかく今は彼女から逃げたかった。
* * *
チェルヴォニ・ベリガールはダルモンテ王国で宰相補佐として父と国を支えている。
ベリガール公爵の嫡男として生まれたチェルヴォニは、とにかく幼い頃から厳しい教育を受けてきた。
政略結婚だったからか父と母の仲は冷めきっていて、父は愛人が何人もいたし、母はそんな父を心の底から毛嫌いしていた。
嫌っていたが、彼の立場に文句を言うことはできはしない。
それはチェルヴォニも同じだった。
いくら理不尽な扱いをされても、厳しく躾られても、父には文句を言うことはできない。
圧倒的な地位にいることが、すべてなのだとチェルヴォニは学んだのだ。
(オレもいつか……父上を超えてやる)
周囲に当たり散らす父に恐怖する日々。
だけど要領がよく、外面がいいせいか皆に慕われていた。
次第に力がないことが惨めに思えた。
母もいくら文句を言っていたって結局は父に逆らえない。
社交界に出るようになって思ったことは、結局のところ権力がすべてだということだ。
父は外面はいいがチェルヴォニにとっては酒癖が悪く女遊びの激しいクズだった。
裏ではやりたい放題で表では紳士の皮を被っている。
そのことが滑稽で仕方がない。
彼を反面教師にして生きていたつもりだったが、息苦しさに溺れてしまいそうな感覚と常に隣り合わせだった。
チェルヴォニは次期宰相として、凄まじいプレッシャーの中で生きてきた。
王太子のシュヴァルツと辺境で国境を守るサフィードと共にいることも彼らの立場を見てのことだ。
〝チェルヴォニ〟は完璧でなければならない。
そうすれば何をしても許されるのだとわかっていたからだ。
しかれたレールの上をはみ出さないように歩くだけの人生は楽だと思うのと同時に退屈で仕方ない。
お堅いサフィードとは違い、シュヴァルツとは学園時代に隠れてヤンチャばかりしていた。
バレるかバレないか、そんなスリルを楽しむうちに退屈が遠ざかっていく。
成長するとチェルヴォニも酒と女遊びの楽しさを知る。
サフィードは相変わらず堅苦しくルールを守る男だったが、ああいう奴ほど欲に溺れると一気に転がり落ちていくのだ。
その点、チェルヴォニは適度に火遊びをして退屈を発散していた。
そのうちアーテルム帝国との争いも一気に激しくなったことで、彼とは顔を合わせることもなかった。
どうやら彼は戦いに明け暮れているそうだ。
(アーテルム帝国……厄介な相手だな)
父も口癖のようにそう言っていたことを思い出す。
シュヴァルツと身分を隠して下町の地下にあるバーで酒を飲み、適当に女をひっかけて欲を発散する。
だけどチェルヴォニは父と同じように表向きでは完璧な令息を演じていた。
そうすれば誰も文句を言うこともない。
自分は頭もよく信頼されている。
優等生で完璧なチェルヴォニが誰も裏でこんなことをしているとは思わないだろう。
(ハハッ、バカな奴らだ……!)
令嬢たちもチェルヴォニと結婚したいと必死にアピールをして擦り寄ってくる。
媚びるような甘い声にボディータッチ。
そんなものは遊び慣れているチェルヴォニには効果はない。
むしろ紳士に対応することで令嬢たちからの評価も上がり、さらに信頼されるようになる。
(私の人生は完璧なんだ! だからこそすべてを手にすることができる)
シュヴァルツに「お前は役者だな。よく疲れないよな」と言われたがその通りだと思った。
「シュヴァルツ、あなたも私を見習ったらどうですか? 少しは紳士的に振る舞わなければ困るのはあなたなんですから」
「……やめてくれ。息が詰まる」
「そうでしょうか? 慣れれば楽になりますよ?」
「冗談だろう? オレは面倒なのはごめんだ」
次期宰相であるチェルヴォニは裏表が激しい男だった。
「うるさいっ! 今はそれどこれではないんだよ」
「私の言うことが聞けないのか!?」
「口答えをするんじゃねぇよ」
隣国から嫁いできたエリュテイカは彼に惚れており言うことに従っていた。
何をしても怒らないエリュテイカ。彼女に隠れて不貞行為を繰り返していた。
けれどチェルヴォニはエリュテイカの本当の顔を知らなかったのだ。彼女は──。
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「カハッ……どう、して…………っ?」
痛みが強くなり言葉に詰まってしまう。
腹部を押さえながら膝をついた。
チェルヴォニの口端からも血が流れていく。
目の前にある赤いエナメルの靴がコツコツと音を立てながらこちらに近づいていく。
「エリーだけは心から愛してあげようって思っていたのに……」
「な、に……っ?」
「……本当にどうしようもない人」
うっとりとした表情、高揚した頬を見て全身に鳥肌が立っていく。
「ク、ソッ……このっ、クソや、ろう……ッ! ぶっ殺……っ」
『ぶっ殺してやる』そう言おうとした瞬間、エリュテイカのゴールドの瞳が大きく見開かれた。
最後まで言葉が紡ぐ前に手のひらが口元を塞いだ。
血走った大きな目がこちらをじっと見つめていた。
あまりの恐怖にチェルヴォニは唇を閉じる。
無意識にガタガタと体が震えてしまう。
(な、なんなんだよ! どうしてこんなことにっ!?)
腕で傷口を押さえながら、後ろに下がっていくが背中が壁にぶつかってしまう。
とにかく今は彼女から逃げたかった。
* * *
チェルヴォニ・ベリガールはダルモンテ王国で宰相補佐として父と国を支えている。
ベリガール公爵の嫡男として生まれたチェルヴォニは、とにかく幼い頃から厳しい教育を受けてきた。
政略結婚だったからか父と母の仲は冷めきっていて、父は愛人が何人もいたし、母はそんな父を心の底から毛嫌いしていた。
嫌っていたが、彼の立場に文句を言うことはできはしない。
それはチェルヴォニも同じだった。
いくら理不尽な扱いをされても、厳しく躾られても、父には文句を言うことはできない。
圧倒的な地位にいることが、すべてなのだとチェルヴォニは学んだのだ。
(オレもいつか……父上を超えてやる)
周囲に当たり散らす父に恐怖する日々。
だけど要領がよく、外面がいいせいか皆に慕われていた。
次第に力がないことが惨めに思えた。
母もいくら文句を言っていたって結局は父に逆らえない。
社交界に出るようになって思ったことは、結局のところ権力がすべてだということだ。
父は外面はいいがチェルヴォニにとっては酒癖が悪く女遊びの激しいクズだった。
裏ではやりたい放題で表では紳士の皮を被っている。
そのことが滑稽で仕方がない。
彼を反面教師にして生きていたつもりだったが、息苦しさに溺れてしまいそうな感覚と常に隣り合わせだった。
チェルヴォニは次期宰相として、凄まじいプレッシャーの中で生きてきた。
王太子のシュヴァルツと辺境で国境を守るサフィードと共にいることも彼らの立場を見てのことだ。
〝チェルヴォニ〟は完璧でなければならない。
そうすれば何をしても許されるのだとわかっていたからだ。
しかれたレールの上をはみ出さないように歩くだけの人生は楽だと思うのと同時に退屈で仕方ない。
お堅いサフィードとは違い、シュヴァルツとは学園時代に隠れてヤンチャばかりしていた。
バレるかバレないか、そんなスリルを楽しむうちに退屈が遠ざかっていく。
成長するとチェルヴォニも酒と女遊びの楽しさを知る。
サフィードは相変わらず堅苦しくルールを守る男だったが、ああいう奴ほど欲に溺れると一気に転がり落ちていくのだ。
その点、チェルヴォニは適度に火遊びをして退屈を発散していた。
そのうちアーテルム帝国との争いも一気に激しくなったことで、彼とは顔を合わせることもなかった。
どうやら彼は戦いに明け暮れているそうだ。
(アーテルム帝国……厄介な相手だな)
父も口癖のようにそう言っていたことを思い出す。
シュヴァルツと身分を隠して下町の地下にあるバーで酒を飲み、適当に女をひっかけて欲を発散する。
だけどチェルヴォニは父と同じように表向きでは完璧な令息を演じていた。
そうすれば誰も文句を言うこともない。
自分は頭もよく信頼されている。
優等生で完璧なチェルヴォニが誰も裏でこんなことをしているとは思わないだろう。
(ハハッ、バカな奴らだ……!)
令嬢たちもチェルヴォニと結婚したいと必死にアピールをして擦り寄ってくる。
媚びるような甘い声にボディータッチ。
そんなものは遊び慣れているチェルヴォニには効果はない。
むしろ紳士に対応することで令嬢たちからの評価も上がり、さらに信頼されるようになる。
(私の人生は完璧なんだ! だからこそすべてを手にすることができる)
シュヴァルツに「お前は役者だな。よく疲れないよな」と言われたがその通りだと思った。
「シュヴァルツ、あなたも私を見習ったらどうですか? 少しは紳士的に振る舞わなければ困るのはあなたなんですから」
「……やめてくれ。息が詰まる」
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