35 / 91
元婚約者がよりを戻そうと押しかけて来ましたが……わたくし、もう結婚してますけど
⑨
しおりを挟むブライアンの低い声が耳に届いた。
「カサンドラの肌に跡が残ってしまった……君は僕の妻を二度も傷つけたんだ」
「……ぁ」
「次にカサンドラに触れてみろ……?その首、切り落としてやる」
「!!!」
ブライアンの言葉にエイヴリーは思わず首を押さえた。
「カサンドラ……言いたい事があるなら言ってしまいな?」
「え……?」
「もう彼と会う事は一生ないのだから……」
カサンドラがブライアンの言葉に驚いて顔を上げた。
カサンドラはグッと拳を握った。
あれ程に愛していた男は、今となっては……。
「わたくしを振って下さって、本当にありがとうございます」
「……!」
「その間抜けな顔を、二度とわたくしに見せないで下さいませ」
「カサ、ンドラ…」
「……さようなら」
始めは震えていた声……けれど次第に怒りが籠る。
一時は共に時間を過ごした人……。
進んだその先は、天国と地獄への道に分かれていた。
「……連れて行け」
ブライアンが手で合図すると、後ろに控えていた騎士達がエイヴリーの両腕を掴み、容赦なく引き摺っていく。
その様子をカサンドラは黙って見ていた。
「嫌だッ、待て!いやだああああーー!」
そんなエイヴリーの叫び声を聞いたカサンドラはスッキリとした気分で息を吐き出した。
「ありがとう、ブライアン……」
「これでカサンドラの全ては僕のものだね」
「え…?」
「あの男が少しでも君の心に残っていると思うと嫌だったんだ。今日は全てを断ち切れただろう?」
ブライアンの言葉にキョトンとしていたカサンドラはクスクスと微笑んだ。
ブライアンの可愛らしい独占欲はカサンドラにとっては嬉しいものだ。
「あの男が、カサンドラに触れていたと思うと腹立たしいよ」
「……ブライアン」
「おいで……消毒しなくちゃ」
「きゃ…」
ブライアンはカサンドラを抱き抱えた。
カサンドラはブライアンの首に手を回して体を預けた。
「愛してるよ、カサンドラ…」
「……ブライアン」
「何だい?」
「わたくしを救ってくれて、ありがとう」
「もう……君には敵わないな」
あの後、借金だらけのエイヴリーがどうなったのか。
ブライアンに問いかけてみると「この国にはいない事は確かだね……」と柔らかい笑みを浮かべながら吐き捨た。
そして、あれだけ持て囃されていたヘイリーも社交界で一切見掛けなくなった。
まさかブライアンが手を回したのかとも思ったが、カサンドラは何も聞かなかった。
(悪い事は全て自分に返ってくるのね……)
そう思わずにはいられなかった。
end
524
あなたにおすすめの小説
【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?
雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。
理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。
クラリスはただ微笑み、こう返す。
「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」
そうして物語は終わる……はずだった。
けれど、ここからすべてが狂い始める。
*完結まで予約投稿済みです。
*1日3回更新(7時・12時・18時)
許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?
珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。
それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。
※全3話。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
恩知らずの婚約破棄とその顛末
みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。
それも、婚約披露宴の前日に。
さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという!
家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが……
好奇にさらされる彼女を助けた人は。
前後編+おまけ、執筆済みです。
【続編開始しました】
執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。
矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる