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「申し訳ないんだが、婚約を解消してくれないか?」と言われたので「はい、分かりました。さようなら」 と答えました。
①
しおりを挟む「ヴァレンヌ……申し訳ないんだが、婚約を解消してくれないか?」
「はい、分かりました。さようなら」
「え……?」
「……え?」
こんにちは、ヴァレンヌ・ロレでございます。
只今、わたくしの婚約者であるバレット・マスング様に婚約の解消を求められたので直様了承致しました。
昔から親同士が仲が良く、幼馴染のような関係のバレット様との婚約は自然な流れだったのかもしれません。
今まで至って普通の婚約者として過ごしてきたわたくし達ではありますが、学園の卒業パーティーを迎える一カ月前に嫌がらせの如く、婚約破棄を告げられました。
けれど此処で泣き喚いてもバレット様の心が変わる訳ではございません。
それにわたくしはここで婚約破棄をされても、痛くも痒くもありません。
そもそも少し前からバレット様の様子はどこか違いましたから、前もってある程度の覚悟はしておりました。
それに噂も聞いておりました。
バレット様は最近、ある御令嬢に熱を上げているというものです。
実は、何度かその御令嬢と一緒にいるバレット様をお見掛けした事があります。
とても楽しそうにしていらして微笑ましい光景でした。
まるで恋人同士のように…。
上の空だったり、何か考え事をしている様子でしたが、けれどそれを聞き出した事で何の得がございましょう?
さて……わたくしはバレット様に婚約破棄を告げられた訳ですが、了承しただけですのに、何故か「え……?」と返されてしまいました。
なので、わたくしもその理由が分からずに「……え?」と疑問に思ったのですが、バレット様はポカンとして口を開けております。
わたくしは理由が分からずに首を傾げました。
「………」
「……?」
このままバレット様の言葉を待っていても時間が勿体無いと感じたわたくしは、軽くお辞儀をしてからその場から去ろうとしました。
「ま、待ってくれ……!」
「………。何でしょうか」
「っ、訳を聞かないのか!?」
まさか婚約破棄を告げたバレット様の口からそのような言葉を聞くとは思わずに、わたくしは反対側に首を傾げました。
「聞きません」
「なっ、何故だ」
「別に興味がありませんので……もう宜しいでしょうか?」
「……ッ」
バレット様は焦っているようです。
一体何を気にしているのでしょうか。
わたくしがあっさりと承諾する事で喜んでも良い筈ですのに。
「……僕は、君に申し訳ない事をした」
「………」
「真実の愛を……見つけてしまったんだ。すまない、ヴァレンヌ」
聞いてもいないのにバレット様は恐らく婚約破棄をされた理由を勝手に語り始めました。
わたくしは思いました。
(勝手にしろ……)
もうこの人は赤の他人……最後まで話を聞く必要はないだろう、と。
自分に酔いしれているバレット様を置いて立ち去ろうとするわたくしを再び引き止める声……。
「まっ…ヴァレンヌ!!待ってくれ」
「嫌ですわ」
わたくしを引き留めようと伸ばされたバレット様の手を容赦なく叩きます。
―――パシッ
「……痛っ」
「わたくしに気安く触らないで下さいませ」
「何を言っているんだ……!?」
「…………はい?」
それはわたくしの台詞ではないでしょうか?
余りにも予想外の言葉に声が出ませんでした。
「それは、こちらの台詞ですが……」
「何故だと聞いているんだ…!」
「婚約破棄する以上、もう関係ありませんから」
「……っ、ヴァレンヌ!そんな寂しい事を言わないでくれ!僕達は昔から何でも話せる仲だろう?」
「……何を仰いたいのか、意味が分かりかねます」
「それは、君がもっと僕に…ッ」
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