【短編集】

●やきいもほくほく●

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ふしぎの国の悪役令嬢はざまぁされたって構わない!〜超塩対応だった婚約者が溺愛してくるなんて聞いていませんけど!〜

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ファビオラはマスクウェルに背を向けてから心を落ち着かせるように大きく息を吸って吐いてと繰り返してから空を見上げた。

(眼鏡……いや、あえて顔を見ない様に視線を逸らし続けるのは辛いし失礼よ。でも折角、マスクウェルを独り占めできているんだし、いっぱい見とかないと!あぁ、でも……!)

どのくらいそうしていただろうか。
ファビオラが考えを巡らせていると、いつの間にか目の前に移動していたマスクウェルから声がかかる。


「ファビオラ嬢、大丈夫ですか?顔が赤いようですが……」

「───んがッ!?」


マスクウェルが心配そうに眉を顰めながらファビオラを見ているではないか。
目の前に麗しい顔面があったのには流石に心臓が止まった。
目を見開いて、鼻の穴が開き、唇を噛み締める様はなかなかに不細工ではあるが、今は自らを落ち着かせることに意識を集中させていた。

(ち、近い天使が近い天使が近い天使が近……ッ!?)

乙女らしからぬ声を出してしまったが、咳払いで誤魔化した後に、不自然なほどに思いきり顔を逸らす。
とりあえず応急処置として視線が合わないようにしてから口を開いた。


「………?」

「マ、マスクウェル殿下……ごき、ごきっ、げんよう」

「今日は……以前と大分雰囲気が違うようですが」

「あの、いつもはこんな感じですのよ!以前がたまたま!そうですわ!たまたま珍しかっただけで、本当に……オホ、オホホホ!」


そう言うとマスクウェルは困惑した表情を見せた。
そんな彼の姿を見て心の中でガッツポーズをしていた。
きっとドン引きにしているに決まっている。
このファビオラの姿が好みではなく気に入らないからだろう。

そんな時だった。



「あら、ビオラちゃん……どうしたのその格好は。随分と派手ね」

「珍しいな。最近はこんな感じのドレスはもう絶対に着たくないと言っていただろう?」

「げっ……!」


タイミングが良いのか悪いのか……登場したのはファビオラの両親。
ブラック伯爵と夫人だった。

それにあっさりと今日のための努力をバラされてしまったようだ。
転生してからというものシンプルな格好を好んではいたファビオラが突如、以前好んでいたドレスを引っ張り出したのが不思議だったのだろう。

(これ以上、余計なことを言う前に……!)

ファビオラは父と母に帰ってくれの意味を込めて力を込めてお尻でさりげなく押していたが全く動く気配はない。


「この間はファビオラが粗相をして申し訳ありませんでした。今回は大丈夫かと心配になりましてな」

「大丈夫ですわ!わたくしは大丈夫ですからッ!あっちに行ってくださいませ」

「お邪魔でしたかな!ハハッ」

「まぁまぁ、ファビオラったら……いつの間にか成長して」

「お母様!マスクウェル殿下の前でやめて下さいませ」


父と母は娘の成長を喜んでいるが、今はそれどころではない。
転生した直後から両親はファビオラに対して過保護で過干渉である。
全てを許してファビオラの思い通りにさせることが、彼女の性格を歪めてしまう原因になってしまうのだ。
何をしてもお金で解決できるし、許されてしまう。
ファビオラは怒られたこともないし、注意を受けたこともない。
世界の全てがファビオラを中心に回っている。そう考えてしまうには十分だろう。
それは貴族社会の伝統を壊してしまうほどに強力なものだった。

ファビオラは力で押さえつけさえすればいいと覚えた。
歪んだ考えはファビオラを形成していく。

それがコロリといい子の優等生になってしまえば医者を呼びたくなる気持もわかる。
マスクウェルと出会う前に、マナーを学んでいなかったファビオラは、ある人物を通して急いで講師を大量に呼んで貴族のマナーを会得していた。
全ては断罪回避のため……その必死さはマスクウェルの顔合わせ前に合格をもらえるほどだ。

両親はファビオラがいい方向に向かったことを喜んでいるが、ブラック伯爵邸で働く者達は、ファビオラが何かを企んでいるのではないかと、様子見といったところだ。
追い出した侍女達にはどうすることもできずに申し訳ない気持ちだったが、今から罪滅ぼしをするかのように優しさを配っていた。

そんな三人の様子を見て、マスクウェルは貼りつけた笑みを浮かべている。
マスクウェルはファビオラに気に入られていなければならない。
前もってファビオラの噂を聞いているマスクウェルにとっては予想外の出来事なのだろう。
しかし瞳の奥、明らかに軽蔑した視線が向けられていたことに気づいていた。
突如として焦り出しているファビオラを見た父と母は目を丸くする。


「きっとマスクウェル殿下の前で緊張しているのだろうな」

「マスクウェルが天使みたいで可愛すぎるって、ファビオラったらもうあなたに惚れ込んでいて……「──ストップ!お母様ストップですわ」

「……?」

「何でそのことを知ってるんですか!?」

「エマから聞いたのよ?」

「ぐっ……!」

「まぁまぁ、いいじゃない。ビオラちゃんが変わったきっかけは恋だもの!幸せになって欲しいわ」


マスクウェルはその話を聞いて大きな目を見開いてキョトンとしている。
その後にニコリと困ったように微笑んだマスクウェルに母と二人で心臓を撃ち抜かれていた。

(……か、可愛いっ)


「これだけ美しい殿下ですもの……!ビオラちゃんの気持ちがわかるわぁ」

「も、もうっ、邪魔しないでくださいませ」

「フフッ、そうね」

「マスクウェル殿下、あちらに行きましょう!」

「はい、わかりました。ファビオラ様、お手を」

「…………え!?」
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