【短編集】

●やきいもほくほく●

文字の大きさ
44 / 84
ふしぎの国の悪役令嬢はざまぁされたって構わない!〜超塩対応だった婚約者が溺愛してくるなんて聞いていませんけど!〜

しおりを挟む

「それに今日、マスクウェル殿下の顔面に見惚れていたら、ついつい紅茶にお砂糖入れ過ぎてしまったわ……!えへへ、でもさすがエマね。あの手捌き惚れ惚れしてしまうわ。あっ、何でああなったかって言うと、マスクウェル殿下が何でわたくしにだけ塩対応なのかってことを考えていたからで……まぁ、少し寂しいけどマスクウェル殿下のためなら何でも我慢出来るわ!欲を言えば、優しく微笑み掛けてもらったりなんかしちゃったりして!フフッ、そしたらまるで本当の婚約者同士みたいになれるのかしら」

「…………」

「ああ、言わなくてもわかってるわ。本当はマスクウェル殿下に嫌われているのかしら。笑ってくれないし、一緒にいても詰まらなそうにしているもの。でも嫌われてたっていいの!わたくし愛に生きるって決めたから!たとえ使い捨てにされるだけだとしても、マスクウェル殿下の幸せを見届けるまで生きていこうって決めたのに……わたくしったらダメね」

「…………」

「エマ、怒らないでね。でもマスクウェル殿下が別の人と結ばれたら……結ばれたら、多分ご飯が一週間くらい喉を通らない自信があるわ!でもトレイヴォン様が〝そうなっても俺がもらってやる〟って言っていたし、大丈夫よね?三年前のあの約束はまだ有効なのかしら……エマはどう思う?」

「……!?」

「でもね、正直なところ……こうしてマスクウェル殿下と過ごすとどんどん欲張りになっていくの。こんなわたくしじゃマスクウェル殿下に嫌われちゃうわ……!ねぇ、エマ。さっきからわたくしの話を聞いてる?怒ってるなら機嫌直してよ。わたくしはエマの幸せも勿論、願ってるし……そういえばこの間、縁談がきたって言っていたけど、やっぱりわたくしは受けるべきだと思うの!」


ノックの音が聞こえて、バタンと扉が開く音と共にファビオラは
体を起こす。
ワゴンを引いたエマがこちらににやって来る姿が見えた。
それと同時に紅茶の良い香りが立ち込める。
ここでファビオラが何かが違うことに気づく。

(あれ……?何でワゴンを引いたエマが扉からやってくるの?)

エマから「ファビオラお嬢様、目が覚めたのですね」と冷静な言葉が聞こえた。
エマが今、扉から入ってきたというのなら今、誰と話していたのだろうか。

(き、気のせいよ……!たまたまカタンって音がして、わたくしが勝手に一人で喋っていただけよ!そ、そうでしょう!?誰かそうだと言って)

冷や汗がタラリと流れていく。
ギギギッと首をゆっくりと動かすと、ベッドの横に座っている人物を見て思いきり目を見開いた。

(───ギャアアアアアァアアァァッ!)

自分が今、早口すぎて何を言ったのか思い出せなかった。
エマにいつも語りかけるようにして喋ってしまったのはマスクウェルについてだ。
つまり本人に相談していたということになる。

(わ、わたくし……マスクウェル殿下に何を言ったの?)

答えは自分の心内を全てである。
鋭い視線にファビオラはエマに助けを求めるように視線を送る。
ただ自分が普段、エマに話しているような気持ちを赤裸々に喋ってしまったことだけは理解できた。

しかしエマはまたいつものようにマスクウェルの前ではしゃいでいただけだろうと思っているのだろう。
エマのフォローを期待できないと思ったファビオラは人差し指を合わせながら視線を泳がせる。


「あー……」

「…………」


目の前に座っているのは、氷のような表情でこちらを見ているマスクウェル。
その瞬間、ファビオラの頭が真っ白になる。
思考を停止したファビオラの口から咄嗟に出てきた言葉は自分でも予想できないものだった。


「あっ……好きです」


「……」

「…………っ!」


二人の間に、今までにない気まずい沈黙が流れた。
ファビオラの全身の毛穴から汗が噴きだしていく。
エマも何かやらかしたのだと状況を把握しようと頭をフル回転させているようだった。
ワゴンを持ったまま珍しく固まっている。
ずっと長い時間、地獄のような時間を過ごして数秒……。

マクスウェルの形のいい唇がゆっくりと開いた。


「…………君の気持ちは十分、わかったよ」

「へ……?」

「目が覚めてよかった。僕は失礼するよ」

「…………は、ひ?」


立ち上がって部屋から出て行くマスクウェルの後ろ姿を見ながらファビオラは動けずにいた。
エマがマスクウェルを案内するために早足で彼の後を追いかけていった。
どのくらい時間が経ったのかはわからない。
その間「マスクウェル殿下にここまで付き添ってくれた御礼をいわなくちゃ」とか「わたくし、何を喋ったんだっけ?」と答えが出ないことをぐるぐると考えていた。
エマが部屋に戻ってきたことはわかっても、声すら出せずにいた。


「…………ファビオラお嬢様」

「……ッ」

「大丈夫ですか?」


エマの声に、ファビオラの体の力がフッと抜けてベッドの後ろに倒れ込んだ。
そして「うわぁあぁあぁん!」と、子供のように泣きながらベッドの上に伏せになりゴロゴロと体を左右に動かした。


「どうしようぅうぅ、やっちゃったあああぁ!マスクウェル殿下の前でッ、マスクウェル殿下の前でぇぇっ」

「落ち着いて下さい、ファビオラお嬢様。マスクウェル殿下は……」

「うわあぁん!エマァァァッ!エマァアアァァッ」

「……うるさいです。お嬢様」

「クールゥウゥッ、でも好きぃ」

  
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

真実の愛に祝福を

あんど もあ
ファンタジー
王太子が公爵令嬢と婚約破棄をした。その後、真実の愛の相手の男爵令嬢とめでたく婚約できたのだが、その先は……。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

売られたケンカは高く買いましょう《完結》

アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。 それが今の私の名前です。 半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。 ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。 他社でも公開中 結構グロいであろう内容があります。 ご注意ください。 ☆構成 本章:9話 (うん、性格と口が悪い。けど理由あり) 番外編1:4話 (まあまあ残酷。一部救いあり) 番外編2:5話 (めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

処理中です...