婚約破棄されて闇に落ちた令嬢と入れ替わって新しい人生始めてます。

●やきいもほくほく●

文字の大きさ
21 / 24
番外編

野薔薇物語①

しおりを挟む


「‥‥っ!?」



目が覚めて、ゆっくりと起き上がる。
周囲には沢山の子供達が寝ていた。

窓ガラスに映る自分の顔、黒い髪に焦茶色の瞳‥
ローズレイは今日から野薔薇として生きるのだ。



たった1人で。



今更、怖くなってくる。
記憶はあるけれど、1人で何もした事がないローズレイにとっては全てが初めての体験だ。


(‥今度は何があっても、諦めたりしないわ)


以前は後悔ばかりしていた。
周囲の期待に応えようとするあまり、自分を持たずに言う事ばかり聞いていた。
そこに、ローズレイの意思はなかった。
苦しかった、悲しかった、辛かった‥そんな記憶ばかりだ。


それを塗り替えていくことは出来るだろうか。
蝶が羽化するように野薔薇として輝いて生きたい‥


考えただけでも、強い不安に押し潰されそうになる。


(弱気になってはダメ‥折角、女神様と野薔薇がくれたチャンスだもの)


ここでは全て自分でやらなくてはいけない。
野薔薇の記憶と体に残っている感覚で、何とか布団を畳む。
置いてある着替えに袖を通す。


(これが服なの‥?)


サラリとした衣類に改めて驚いていた。
コルセットも重たいドレスも着なくて良い‥。
ここは音を立てて歩いても、いつ笑っても泣いても誰にも怒られない世界‥



「‥‥ッ!」



野薔薇は寝室を飛び出して、外へ出た。


熱いものが込み上げてくる。
何故か泣きたくて、叫びたくて、仕方なかった。


外はまだ肌寒い。
サンダルを履いて、広い庭を駆けて行った。
涙が次々に溢れ出て、ハラハラと頬を伝った。


庭の端っこ、ボロボロのベンチに腰掛けて辺りを見回した。


家、自転車、車、電気、水道、電柱‥


一つ一つ確認するように野薔薇は目で確認していた。

見た事がないものばかりだけど、野薔薇の記憶の中では、ちゃんと使い方を覚えているから大丈夫だろう。




野薔薇には今、両親も兄弟も居ない。

ここはそんな子供達が沢山集まる''施設"。
以前の世界であった教会の孤児院のような場所だ。



そして、この世界には魔法がない。
魔法陣を浮かべても魔法を使う事は出来なかった。


誰もが平等で、貴族も王族も居ない。
侍女や従者が居ない為、何でも自分でやらなければならないのだ。


(‥何も、してこなかった私に出来るかしら)


震える手を握りしめて、不安を落ち着かせるように野薔薇はずっと空や花、木を見ていた。





「‥‥おい」




前から野薔薇と同じくらいの男の子が歩いてくる。


(この子は‥"カイ"、野薔薇はあまり良い感情を持っていなかったのね)


「なに‥?」

「‥‥おまえ、何泣いてんだよ?まさか誰かに何かされたのか?」

「いいえ、心配してくれてありがとう」

「‥ッ!?」

「私は大丈夫よ」


そう言って微笑むと、カイは呆然として野薔薇を見ていた。


「‥!!」

「何か用?」

「‥‥」

「カイ‥?」

「‥‥あっ、朝ごはんの時間だ」

「そう、わかったわ。一緒に行こう」


なるべく野薔薇の話し方を真似てみたが、大丈夫だろうか。
カイは奇怪そうな顔で野薔薇を見ていた。


(もしかしたら、どこかおかしい‥?)


カイの手を掴むと、思い切り振り払われてしまった。
不安だから食堂に連れてってもらおうと思ったが、どうやら嫌がられてしまったようだ。


「‥カイ、どうしたの?」

「お、お前、っ変だぞ‥!?」

「‥‥?」

「‥‥なんか、気持ち悪い」


その言葉を聞いて、野薔薇はしゅんと下を向く。
また何か間違ってしまったのだろうか。

ローズレイだった時にも、そうだった。
人に上手く自分の意見を伝えられずに黙ってしまう。
野薔薇になったら思った事を相手にしっかりと伝えようと思っていたのに、初めから失敗してしまったようだ。


「ごめんね‥」

「ちっ!?違う‥びっくりしただけだ」

「‥そうなの?じゃあ一緒に行ってくれる?‥‥私、不安で」

「‥‥!!」


手を伸ばすと、控えめに野薔薇の手を握るカイという男の子。
どうやら嫌われてはいないようだ。

カイと共に手を繋いでいると、周りの大人達が珍しそうに野薔薇とカイを見ていた。


「あら、カイ!野薔薇ちゃんと仲良くなれて良かったじゃない」

「うっせぇ!ババァ」

「カイ、女性に汚い言葉を使ってはダメよ?」

「‥‥ぐ」


カイは押し黙る。
何故か顔が真っ赤だ。


「野薔薇ちゃん、おはよう」


(施設の職員の美江さん‥優しい人なのね)


「美江さん、おはようございます」

「ふふっ、野薔薇ちゃんの事、心配だったけど大丈夫そうね!何か素敵な事でもあった?」


美江が野薔薇の涙の跡を拭う。


「‥‥はい」

「貴女はまだ此処に来たばかりだから無理しないでね」


美江を見ていると何故かユーアを思い出す。
いつも、どんな時でもローズレイの側に寄り添ってくれたユーア。
以前は、その恩を返す事が出来なかった。
ユーアには幸せになって欲しい。

優しい手のひらが野薔薇の頭を撫でる。


「カイ、行こう!美江さんまた後で」

「‥‥‥うん」

「カイ、野薔薇ちゃん、沢山食べなさいよ」

「はーい」

「‥‥」












(食事は自分で運ぶのね‥!凄いわ、初めて見る食べ物ばかり)


食べ物を見ていると、味を不思議と思い出せた。
白いご飯と納豆、卵焼きと味噌汁が乗ったトレイを持って席に着く。


「いただきます‥」


ゆっくり箸を掴み、食べ物を運ぶ。
口にパクリといれた瞬間、何故か涙が溢れた。


「‥‥野薔薇!?」

「おいひぃ‥」

「お前、本当にどうしちまったんだよ‥」

「あー!カイがまた野薔薇ちゃん泣かせてる」

「ちげぇよ!」


目の前で元気な女の子がお盆をテーブルに置くと、野薔薇を心配そうに見ていた。

しおりを挟む
感想 185

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。