推し活スポンサー公爵との期限付き婚約生活〜溺愛されてるようですが、すれ違っていて気付きません〜

●やきいもほくほく●

文字の大きさ
7 / 26
一章 「この婚約は間違いだった」

しおりを挟む
こうしてミシュリーヌはクロエのために身を引こうと決意したのも束の間、結局はレダー公爵と連絡が噛み合わずにこうなったというわけだ。
ミシュリーヌはクロエの肩に手を置いた。

(この結婚は間違えた婚約だったのよ。一年経てば、レダー公爵はきっとクロエを迎えに来るはず。だから待っていて……!)

自分はさっさと身を引くべきだったろうかと、うずうずしていたミシュリーヌだったが、クロエには結果的に申し訳ないことをしてしまったと肩に手を置いた。


「ごめんね、ミシュリーヌ……」


クロエは首を横に振った。


「ミシュリーヌお姉様は何も悪くないわ。あの男……ミシュリーヌお姉様を傷つけたらタダじゃおかない。地べた這いずり回らせて後悔させてやる」

「……え? 最後の方、なんて言ったか聞こえなかったんだけど、もう一度言ってくれる?」


今、『あの男』と言ったような気がしたのだが気のせいだろうか。
そこから早口で何を言っているのか聞こえなかった。


「なんでもないわ。ミシュリーヌお姉様には幸せになってほしいと思っているだけだから」


無理して笑みを作るクロエを見ていると胸が痛い。

(……なんていい子なのかしら。クロエは本当に人を思いやることのできる素晴らしい子だわ。だからこそ自分の気持ちを犠牲に欲しくない)

ミシュリーヌは彼女の手を取る。


「そう……本当にごめんね。クロエ」

「ミシュリーヌお姉様、大好き。抱きしめてもいい?」

「えぇ、もちろんよ」


クロエがまったくレダー公爵に微塵たりとも気持ちが傾いておらず、むしろ敵視していることにまったく気が付かないミシュリーヌ。
逆にクロエもまさか自分がミシュリーヌにレダー公爵に嫁ぎたいと思われているなど一切考えていなかった。
大好きなミシュリーヌが婚約したことが嬉しくはあるのだが、嫉妬を抑えられないクロエ。
大きなすれ違いが起きていることなど二人は気づかないまま体を離す。


「ミシュリーヌお姉様が誰かのものになるなんて……わたくし、本当に寂しいですわ」

「今までと何も変わらないわ」

「……嫉妬で頭がおかしくなりそう」

「え……?」

「なんでもありませんわ」


一年後に婚約を解消するのだから何も変わらないだろう。
評判のいいレダー公爵のことだ。
婚約を解消したとしても、きっといい嫁ぎ先を紹介してくれるに違いない。


「ミシュリーヌお姉様は婚約しても推し活を続けるのですか?」


本来、婚約者がいるのに推し活を続けるのは他国なら微妙なラインなのだがベガリー王国の騎士団は別。
彼らのアイドル的な人気は昔からで、国内外からも注目を浴びるほど。
王妃も第二騎士団の団長を推していることも有名だ。
ミシュリーヌも王妃とは推し活仲間である。
つまりファンクラブ的な立ち位置のものが推し活に変わったということだ。

(この国に騎士団があってよかったわ! 元々、ファンクラブがずっとあるくらいだし令嬢たちは受け入れるのも早いわよね)

まだまだ令息たちの理解を得られてはいないが、それも昔から変わらないのだそう。
ミシュリーヌの母親も若い頃は第一騎士団のファンクラブに入っていたらしい。
むしろ令嬢の婚約者も嫉妬するのではなく、自分の婚約者が人気なことはステータスの一つになるそうだ。
令嬢側はいいが、令息は複雑なのかもしれない。
騎士団に所属していなかった父親は、母親が第一騎士団の公開練習の度に訓練場に行くため、暫くは複雑な心境だったそうだ。

父親と婚約した後も推しを追い続けたため、ミシュリーヌの推し活にも理解を示してくれている。

ミシュリーヌが知識を持ち込んだことで、ファンクラブが推し活へと進化した。

(そう、わたしはこの国の歴史を動かした女……!)

神様は推し活が思いきりできる世界に転生してくれたのだろう。
ありがたすぎて頭が上がらないではないか。
それにミシュリーヌも推し活をオレリアンが許可してくれたのだからやめるつもりはない。
むしろ彼は最強のスポンサーだ。


「レダー公爵が快く許してくださったから続けるつもりよ」

「まぁ……さすがレダー公爵。お姉様を喜ばせることはいいことですもの。そこだけは褒めてあげますわ」

「……クロエ?」

「何でもありません。ただのひとり言です」


ミシュリーヌは手を合わせてにっこりと笑みを浮かべる。


「ミシュリーヌお姉様、明日の公開練習の準備を手伝いますわ」

「クロエ、ありがとう。助かるわ」


ミシュリーヌはクロエと共に自室へと向かう。
扉を開けば、そこには大好きがたくさん並べられた可愛らしい部屋だ。

(明日は何をもって行こうかしら……!)

この推し活グッズは試作品から完成品まで大量に並べられている。
この十年で作り上げてきた自作の推し活グッズだ。
友人のジョゼフ・ティティナは、ミシュリーヌとクロエの幼馴染の伯爵令息だ。
転写という写真のような魔法を使うことができ、銀色の髪に鈍色の瞳の色を持つ。
本来はヒロインであるクロエのお助けキャラだ。
この転写魔法でクロエがさまざまな令嬢から追い詰められていくのだが、その証拠を集める大事な役割だ。

しかし今はクロエは虐げらていない。
ジョゼフは記憶を取り戻したミシュリーヌにとって欠かせない魔法を持つ貴重な存在だった。

ミシュリーヌとジョゼフは幼馴染といっても仲は最悪だった。
理由はミシュリーヌがジョゼフの魔法を役に立たない魔法と馬鹿にしていたからだ。

記憶を取り戻してからミシュリーヌはジョゼフと即和解した。
というよりは推し活を手伝ってほしいと理想を語りまくりゴリ押しである。
ミシュリーヌはジョゼフの力がなければ、理想の推し活ができないからだ。
推し活に欠かせないアイテムがいくつかある。
うちわ、缶バッチ、キーホルダー、アクリルスタンド、ぬいぐるみなど数えきれないほどある。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!

恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。 誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、 三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。 「キャ...ス...といっしょ?」 キャス……? その名を知るはずのない我が子が、どうして? 胸騒ぎはやがて確信へと変わる。 夫が隠し続けていた“女の影”が、 じわりと家族の中に染み出していた。 だがそれは、いま目の前の裏切りではない。 学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。 その一夜の結果は、静かに、確実に、 フローレンスの家族を壊しはじめていた。 愛しているのに疑ってしまう。 信じたいのに、信じられない。 夫は嘘をつき続け、女は影のように フローレンスの生活に忍び寄る。 ──私は、この結婚を守れるの? ──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの? 秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。 真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

初恋に見切りをつけたら「氷の騎士」が手ぐすね引いて待っていた~それは非常に重い愛でした~

ひとみん
恋愛
メイリフローラは初恋の相手ユアンが大好きだ。振り向いてほしくて会う度求婚するも、困った様にほほ笑まれ受け入れてもらえない。 それが十年続いた。 だから成人した事を機に勝負に出たが惨敗。そして彼女は初恋を捨てた。今までたった 一人しか見ていなかった視野を広げようと。 そう思っていたのに、巷で「氷の騎士」と言われているレイモンドと出会う。 好きな人を追いかけるだけだった令嬢が、両手いっぱいに重い愛を抱えた令息にあっという間に捕まってしまう、そんなお話です。 ツッコミどころ満載の5話完結です。

勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~

藤 ゆみ子
恋愛
 グラーツ公爵家に嫁いたティアは、夫のシオンとは白い結婚を貫いてきた。  それは、シオンには幼馴染で騎士団長であるクラウドという愛する人がいるから。  二人の尊い関係を眺めることが生きがいになっていたティアは、この結婚生活に満足していた。  けれど、シオンの父が亡くなり、公爵家を継いだことをきっかけに離縁することを決意する。  親に決められた好きでもない相手ではなく、愛する人と一緒になったほうがいいと。  だが、それはティアの大きな勘違いだった。  シオンは、ティアを溺愛していた。  溺愛するあまり、手を出すこともできず、距離があった。  そしてシオンもまた、勘違いをしていた。  ティアは、自分ではなくクラウドが好きなのだと。  絶対に振り向かせると決意しながらも、好きになってもらうまでは手を出さないと決めている。  紳士的に振舞おうとするあまり、ティアの勘違いを助長させていた。    そして、ティアの離縁大作戦によって、二人の関係は少しずつ変化していく。

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。 新聞と涙 それでも恋をする  あなたの照らす道は祝福《コーデリア》 君のため道に灯りを点けておく 話したいことがある 会いたい《クローヴィス》  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

処理中です...