推し活スポンサー公爵との期限付き婚約生活〜溺愛されてるようですが、すれ違っていて気付きません〜

●やきいもほくほく●

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一章 「この婚約は間違いだった」

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(マリアン様は推し活どころか、レダー公爵に想いを寄せる令嬢は絶対に許さなかったものね……)

盛り上がる第二騎士団とは違い、第一騎士団の訓練場は張り詰めた空気で静まり返っていた。
マリアンよりも身分が低い令嬢たちは、彼女に見つからないように静かに見守るしかないそうだ。
声を上げるようならマリアンヌからの水魔法の鉄槌がくだり、ずぶ濡れになってしまうという。

第二騎士団とは違い、平民は入れないというのだから驚きだ。
そのため第一騎士団の令嬢たちは第二騎士団に推し替えすることもあると聞いた。

もちろん第一騎士団のファンは元々、第二騎士団よりも多い。
けれど今は同じくらいになっている。
何より楽しそうだと思ってくれているようだ。

第一騎士団に所属しているのが魔法の力が強いということなので、自然と公爵から侯爵家の令息が集まることが多い。
つまり王族の血を色濃く引いている身分が高く家格の高い令息が集まりやすい。
第二騎士団が伯爵から子爵、第三騎士団が子爵家から男爵家という風に自然と分けられている。
訓練所は途中から分かれているため、実際に水をかけられているところは見たことはないのだが、ずぶ濡れで泣きながら歩いてくる令嬢たちは度々見かけるため、そういうとなのだろう。

一方、第二騎士団は平和である。
和気藹々としており推し活を楽しんでいた。
どんなに推していても、婚約者がいる令息を奪ってはやいけない。
推しと恋愛感情は混同せずに、清く正しく推し活を楽しむ。
婚約者がいない令息には大丈夫という暗黙のルールがあり、それがあるからこそ第二騎士団の推し活は平和である。

ミシュリーヌも第二騎士団副団長、モアメッド・ディーラーという侯爵家の令息を推している。
彼にはまだ婚約者はいないため、どんな令嬢が婚約者となるか楽しみにしていた。
二人で仲睦まじい様子で寄り添う姿なんて見た日には涙が溢れ出るだろう。

(モアメッド様が幸せになるまでは見届けたいもの……!)

推しの幸せは自分の幸せ。ミシュリーヌの信念はどんどんと周りに伝染していい空気を作り出していた。

けれどクロエの言うことも一理ある。
オレリアンとの婚約の件が社交界に広がれば、マリアンはミシュリーヌを目の敵にするに違いない。

けれど一年で婚約は解消されるとはクロエにも家族にも言えないことがもどかしい。

(何も考えずにレダー公爵と婚約してしまったけど……ちゃんとクロエのことも考えていれば)

こうなると自分の選択が悔やまれる。
けれどもう婚約してしまった以上、ミシュリーヌにはどうしようもできないではないか。

(クロエ、ごめんね! 一年間だけ推し活を楽しませていただきます。推し活のスポンサーになってもらう代わりに、わたしもレダー公爵の婚約者として精一杯がんばらないと!)

目指すはギブ&テイク。
もらうだけでは申し訳ないため、そこはしっかりと婚約者として努めるつもりだ。
互いに利益がある素敵な一年にしてみせる。

(それからクロエには大丈夫だとアピールしつつ、しっかりと繋げていかないと!)

婚約した以上、任務は全うする。
クロエにいい形で引き継げるようにジョゼフと同じようにビジネス関係でサッパリとした関係を築けば、クロエならば察してくれるかもしれない。
ミシュリーヌはクロエを安心させるように笑みを浮かべた。


「クロエ、わたしなら大丈夫よ!」

「……ミシュリーヌお姉様」

「わたしにはクロエという一番の味方がいてくれるもの。それに推し活仲間もいるから大丈夫よ!」

「ミシュリーヌお姉様がそこまで言うなら、わかりましたわ」


クロエに手伝ってもらい明日の準備を済ませた。
一緒に紅茶を飲んで、クロエは自室へと戻っていく。
手を振り彼女を送ったミシュリーヌは寝る準備をするためにベッドへと向かう。

(婚約かぁ……)

侍女たちが部屋から出ていき、ミシュリーヌは窓の外を見ながら気まずそうに視線を逸らしていたオレリアンのことを考えていた。

(オレリアン様、麗しかったな……第一騎士団の副団長。副団長といえば、わたしの推しのモアメッド様と同じだわ)

ミシュリーヌは第二騎士団の副団長であるモアメッド・ディーラーを激推ししていた。
彼は二十歳で第二騎士団の副団長を務めている。

その理由は前世にまで遡る。
前世で病床で毎日、配信を楽しみにしていた。
ディーというVチューバーはとにかく明るくて優しく、ファンを大切にしていた。

猫のように可愛らしい容姿とは裏腹、性格は男らしくて豪華。
笑顔がとても素敵で、いつも明るい気分にさせてくれる。
母親に頼んで初めて投げさせてもらった長文のスパチャ。
丁寧に読み上げて、寄り添い応援の言葉をくれた。
それから名前を覚えてくれて、いつも体調を心配してくれる。
リスナーもいい人ばかりで、コメントをすると優しく声をかけてくれた。
温かい言葉をくれるディーもディーのリスナーも大好きだった。
つらい治療中も支えてくれた彼に、最後にお礼を言えなかったことは悔やまれるが、彼は今日も誰かを笑顔にしてくれるだろう。

そんなミシュリーヌが十二歳の時だ。
友人の令嬢に第二騎士団の公開練習に連れていかれたのだが、ディーと瓜二つと言っても過言でもないモアメッドに出会った。
ミシュリーヌは金色のふわふわとした髪、可愛らしい笑顔、オレンジ色の瞳。
ケラケラと笑顔を絶やさないところもディーそのものだ。
ミシュリーヌはモアメッドに釘付けになっていた。

それこそジョゼフに「モアメッド副団長は競争率高いよ~」と、言われたが、ミシュリーヌはそれどころではなかった。
そして家名がディーラーだと聞いたミシュリーヌはさらに拍車がかかる。

(こ、これは運命の出会いというやつでは……!?)

前世で推していたVチューバーの名前もディー。
モアメッドの家名もディーラーで、どこか親近感が湧く。
これを運命とは言わずに何というのか。
その時はまだ副団長ではなかったが、彼はあっという間に副団長に登り詰めた。

ミシュリーヌはこうしてこの世界でずっと夢見ていた推し活を始めたのだ。
一応、モアメッドにも許可をとり、迷惑にならない程度に推し活をしていた。

令嬢たちは騎士団の令息たちを見て狙いを定め、パーティーなどで声をかけて近づくのがお決まりのパターン。
肩書きがあるほどに結婚も遅くなるが、競争率も高くなり射止めるのが大変なのだそう。

(明日もいい日になりますように……。レダー公爵の体調は大丈夫かしら)

ミシュリーヌはベッドに潜り込み、気まずそうに視線を逸らすオレリアンの姿を思い出しながら眠りについた。


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