推し活スポンサー公爵との期限付き婚約生活〜溺愛されてるようですが、すれ違っていて気付きません〜

●やきいもほくほく●

文字の大きさ
18 / 26
二章 推し活スポンサー

①⑧

しおりを挟む


「お詫びといってはなんだが、この件はすぐにでも対応したい。ミシュリーヌ嬢、予定を聞いてもいいだろうか?」

「ですが……」


すぐに対応してくれるのは嬉しいが、ミシュリーヌはどうしようもなく気になることがあった。

(レダー公爵、今にも倒れてしまいそう……)

オレリアンの顔色が悪いことが気になって仕方ない。
それにオレリアンは騎士団の格好のままだし、剣も携えていた。
艶のある真っ黒なブーツは白いパンツによく映える。
赤いラインと金色のボタンは第一騎士団の証。
ちなみに第二騎士団は青ラインと銀色のボタン、第三騎士団は黄色のラインと銅色のボタンが使われて制服が作られている。

どうやら彼は騎士団の仕事を終えた後、レダー公爵邸でミシュリーヌの手紙を読んですぐにここに来てくれたようだ。


「ミシュリーヌお姉様、レダー公爵を帰……っ!」

「……クロエ?」

「んぅ──!?」


クロエが立ち上がったのと同時に、何かを感じとった侍女たちが彼女の両腕を掴み、部屋の外へと促していく。
「シューマノン子爵家のためですから!」
「いざという時にエーワン様にこうするように許可は得てますからっ」
それからクロエの口元を押さえられながら去って行ってしまう。

ミシュリーヌはどうしたのかと首を傾げる。
エーワンの名前が出てくるところも気になるが、侍女は度々クロエを連れ去るのだ。
そういえばジョゼフや令嬢の友人が来た時も、度々クロエは侍女たちに引きずられいくことがある。

(クロエ、どうかしたのかしら……)

ミシュリーヌが出て行った扉を見つめていると、前から聞こえる咳払い。
姿勢を正したミシュリーヌは先ほどよりも表情が柔らいオレリアンを見る。
するとオレリアンは手紙を広げて指をさす。


「この糸というのが、オシカツに必要なものなのだろう?」

「はい、そうなんです」

「なら、すぐに動いた方がいい。明日は休みだが、ミシュリーヌ嬢が大丈夫ならば今からでも街に行こう」


オレリアンは一週間もミシュリーヌの手紙を放置したことを気にしてくれているのだろう。
誠実な気持ちは嬉しいのだが、今にも倒れそうなオレリアンを見て放っておくことはできそうになかった。
それに頬が赤く、汗ばんでいるように見えるのは気のせいではないはずだ。

(レダー公爵は体調が優れないんだわ。お父様も領地の管理に忙しそうだもの。それに加えて騎士団の仕事……)

第三騎士団で働くミシュリーヌの兄、エーワンも騎士団の仕事でくたくたになって帰ってくる。
身近で大変なことを知っているからこそ、ミシュリーヌはオレリアンの大変さが少しは理解できる。
よく見ないとわからないが、吐く息は荒い。
この状態で買い物に付き合わせることなど出来はしない。

(体調を崩しているのに手紙を届けにここまできてくださったのは嬉しいけど……それに明日は休みだと言っていたから、休むのが先よね! 健康第一だわ)

ここでミシュリーヌはあることを思いつく。


「いいえ、大丈夫です」

「……!」


ミシュリーヌが首を横に振るとオレリアンは大きく目を見開いた。
その顔はショックを受けているようにも見える。
ミシュリーヌはオレリアンに言い聞かせるように話していく。


「レダー公爵、わたしのことよりも体をゆっくり休めてください」

「…………は?」

「休むのが先です!」


オレリアンはまさかこんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。
ミシュリーヌを見つめながら固まってしまった。

(健康はどんなものにも変えられない。何よりも大切なものだもの)

けれど前世は病に冒されて、自由に強く憧れているからこそそう強く思うのかもしれない。
健康で美味しくご飯が食べられることや、自分のやりたい時にやりたいことができるのか。
当たり前のことだけど、当たり前じゃない。
それがどれだけ大切で尊いことなのかが、ミシュリーヌはよく知っている。
だからこそオレリアンにはゆっくりと体を休めて欲しいと思った。


「今すぐに横になった方がいいです。休みましょう!」

「…………!?」


オレリアンはミシュリーヌの提案に驚いている。


「失礼します」


ミシュリーヌは立ち上がると、オレリアンの元へ。
額に手のひらを当てて熱を測る。

(うーん、あまり熱はないようだけど、疲れから出ているものかしら)

それに先ほどミシュリーヌたちを待っている間に瞼を閉じていたことを考えると、相当疲れているのだろう。
オレリアンを見るとますます顔が赤くなっていくではないか。
やはり熱があるのだと確信する。


「医師を呼びますので少々お待ちください」

「……!」


医師を呼ばなくていいというオレリアンにミシュリーヌは身を乗り出して訴えかけるように言った。


「健康第一! それだけは絶対ぜぇーったいに譲れませをから」

「……」

「今にも倒れそうなお顔をしています。今は何も考えずにご飯を食べてゆっくりしてください!」


ミシュリーヌは立ち上がり、侍女たちに指示を出していく。


「ミ、ミシュリーヌ嬢……俺は……っ」

「そうと決まれば行きましょう!」

「……っ!?」


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!

恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。 誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、 三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。 「キャ...ス...といっしょ?」 キャス……? その名を知るはずのない我が子が、どうして? 胸騒ぎはやがて確信へと変わる。 夫が隠し続けていた“女の影”が、 じわりと家族の中に染み出していた。 だがそれは、いま目の前の裏切りではない。 学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。 その一夜の結果は、静かに、確実に、 フローレンスの家族を壊しはじめていた。 愛しているのに疑ってしまう。 信じたいのに、信じられない。 夫は嘘をつき続け、女は影のように フローレンスの生活に忍び寄る。 ──私は、この結婚を守れるの? ──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの? 秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。 真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

初恋に見切りをつけたら「氷の騎士」が手ぐすね引いて待っていた~それは非常に重い愛でした~

ひとみん
恋愛
メイリフローラは初恋の相手ユアンが大好きだ。振り向いてほしくて会う度求婚するも、困った様にほほ笑まれ受け入れてもらえない。 それが十年続いた。 だから成人した事を機に勝負に出たが惨敗。そして彼女は初恋を捨てた。今までたった 一人しか見ていなかった視野を広げようと。 そう思っていたのに、巷で「氷の騎士」と言われているレイモンドと出会う。 好きな人を追いかけるだけだった令嬢が、両手いっぱいに重い愛を抱えた令息にあっという間に捕まってしまう、そんなお話です。 ツッコミどころ満載の5話完結です。

勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~

藤 ゆみ子
恋愛
 グラーツ公爵家に嫁いたティアは、夫のシオンとは白い結婚を貫いてきた。  それは、シオンには幼馴染で騎士団長であるクラウドという愛する人がいるから。  二人の尊い関係を眺めることが生きがいになっていたティアは、この結婚生活に満足していた。  けれど、シオンの父が亡くなり、公爵家を継いだことをきっかけに離縁することを決意する。  親に決められた好きでもない相手ではなく、愛する人と一緒になったほうがいいと。  だが、それはティアの大きな勘違いだった。  シオンは、ティアを溺愛していた。  溺愛するあまり、手を出すこともできず、距離があった。  そしてシオンもまた、勘違いをしていた。  ティアは、自分ではなくクラウドが好きなのだと。  絶対に振り向かせると決意しながらも、好きになってもらうまでは手を出さないと決めている。  紳士的に振舞おうとするあまり、ティアの勘違いを助長させていた。    そして、ティアの離縁大作戦によって、二人の関係は少しずつ変化していく。

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。 新聞と涙 それでも恋をする  あなたの照らす道は祝福《コーデリア》 君のため道に灯りを点けておく 話したいことがある 会いたい《クローヴィス》  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

処理中です...