24 / 26
三章 すれ違い
②④ クロエside1
しおりを挟む
クロエはここで大きな違和感を覚えていた。
(なんだかミシュリーヌお姉様と会話が噛み合っていないような気がするわ)
会話が噛み合っているかと思いきや、何故かミシュリーヌの言っていることがズレているような気がしたからだ。
(ミシュリーヌお姉様、何を言っているのかしら。わたくしなら絶対にうまくいくって…………ま、まさか!)
今までも何度かクロエは疑問なことがあった。
けれどミシュリーヌには伝わっているだろうと思い込んでいたのだ。
(ミシュリーヌお姉様……絶対に勘違いしているわ)
思えば、始まりからそうだった。
オレリアンからの婚約の申し込みはミシュリーヌではなく、クロエだったのではないかと思っていたことが発端ではないだろうか。
令嬢たちのお茶会でも必ずといっていいほどに名前が上がるオレリアン・レダー。
クロエはお似合いだと言われていたが、まったく興味がなかった。
何故ならば、クロエには神よりも素晴らしい存在である〝ミシュリーヌ〟がいるからだ。
彼女より美しく綺麗な存在に会ったことはない。
幼い頃は意地悪ばかりしてきて、お世辞にも好きだとは言えなかった。
けれど『思い出した。このままじゃいけないわ』と青ざめていた時からミシュリーヌは変わった。
大きく変わったのは気持ち悪いくらいに周囲に優しくなったこと。
それと健康に異常に執着するようになったことだ。
誰かが体調を崩すのを極端に嫌い、症状が治るまで自分のことのように苦しそうにしていた。
世話を甲斐甲斐しくやいて、まるで侍女のように動き回っていたのだ。
クロエに突然優しくなったミシュリーヌを最初は警戒していた。
けれど風邪を拗らせて苦しんでいた時、ずっとそばにいて励ましてくれたのだ。
それからもクロエが令嬢に絡まれていれば、すぐに庇い立てにきた。
愛魔法などと可愛らしい言葉でまとめてはいるが、クロエにとっては最悪の呪いだった。
愛など恐ろしくて欲がまとわりつくおぞましいものだ。
容姿も相俟って、クロエにまとわりつく欲望は心を疲弊させていく。
クロエに笑顔で近づいてくる奴らはみんな同じことを言う。
『あの人にわたしを好きにさせて!』
『ボクをみんなからモテるようにしてくれよ』
皆、魔法を使って、誰かの愛情を得ようとする浅ましい奴らばかり。
そもそも人の心を操ることは禁忌だ。
クロエはそういった魔法を使うことを禁じられていた。
当たり前の話だ。そんな魔法ばかり使っていたら国が傾いてしまう。
(気持ち悪い。愛魔法は呪いの魔法よ……人をおかしくさせる)
クロエは家族以外の人を信頼できなくなっていく。
成長すればさらに愛魔法がクロエを追い詰める。
これも魔法の影響なのか、人を惹きつけるこの容姿がクロエを地獄に突き落とす。
『魔法を使って婚約者を奪った!』
『愛魔法で自分が愛されれるように仕向けた』
誰よりもこの魔法を憎んでいるクロエが、そんな悍ましいことをするはずがない。
(大嫌い……こんな世界、消えてしまえばいい)
けれどあんなにクロエを毛嫌いしていたミシュリーヌによって、光が差し込むとは思いもしなかった。
『クロエはそんなことをする子じゃないわ! 自分が愛されないのをクロエのせいにしないでっ』
高熱を出してから別人のようになったミシュリーヌ。
記憶もあるし、見た目が変わったわけではない。
何かが大きく変化したのは確かだった。
ミシュリーヌは必ずクロエを庇う。
クロエはそんなミシュリーヌの姿に苛立って仕方なかった。
この魔法が花魔法を使うミシュリーヌに理解されることはないし、クロエは見えないところで恨みを買って誰かに嫌われ続けるのだから。
今日もパーティーでミシュリーヌはクロエを庇ったせいで、ジュースをかけられてしまった。
汚れたドレスを見つめながら、ヘラリと笑うミシュリーヌを見てクロエは苛立ちから叫ぶように言う。
『ミシュリーヌお姉様、もういいから無駄なことをしないでっ!』
クロエはミシュリーヌを見ていると苛々して仕方なかった。
こんなことをしても何も変わらない。
しかしミシュリーヌはキョトンとして首を傾げた。
『どうして? だってクロエは悪くないじゃない』
『言っても無駄なの。全部……全部っ、無駄なのよ!』
クロエはドレスの裾を握る。
自分が悪くないのに責められ続ける苦痛。
本当は悔しくて苦しくて仕方ない。けれどこれは誰にも理解されることはないのだ。
しかしミシュリーヌはハンカチでジュースを拭いてから「お母様に怒られちゃうわね」と平然と言っていた。
それからクロエの手を握る。少しベタついた手のひら。
クロエを見つめるブラウンの瞳は何かも見透かしているように見えた。
『クロエ、あなたは悪くない』
『──ッ!』
『あなたは堂々としていればいいの。わたしがクロエを守ってあげる。だから大丈夫』
ミシュリーヌがそう言って笑った瞬間、次々と涙が溢れ出た。
今まで我慢しといたものがすべて流れていくようだ。
『わたしだけはクロエの味方だからね』
ミシュリーヌはクロエの泣き顔を隠すように抱きしめてくれた。
その言葉がどれだけクロエを救ったのか、ミシュリーヌは知らないだろう。
(なんだかミシュリーヌお姉様と会話が噛み合っていないような気がするわ)
会話が噛み合っているかと思いきや、何故かミシュリーヌの言っていることがズレているような気がしたからだ。
(ミシュリーヌお姉様、何を言っているのかしら。わたくしなら絶対にうまくいくって…………ま、まさか!)
今までも何度かクロエは疑問なことがあった。
けれどミシュリーヌには伝わっているだろうと思い込んでいたのだ。
(ミシュリーヌお姉様……絶対に勘違いしているわ)
思えば、始まりからそうだった。
オレリアンからの婚約の申し込みはミシュリーヌではなく、クロエだったのではないかと思っていたことが発端ではないだろうか。
令嬢たちのお茶会でも必ずといっていいほどに名前が上がるオレリアン・レダー。
クロエはお似合いだと言われていたが、まったく興味がなかった。
何故ならば、クロエには神よりも素晴らしい存在である〝ミシュリーヌ〟がいるからだ。
彼女より美しく綺麗な存在に会ったことはない。
幼い頃は意地悪ばかりしてきて、お世辞にも好きだとは言えなかった。
けれど『思い出した。このままじゃいけないわ』と青ざめていた時からミシュリーヌは変わった。
大きく変わったのは気持ち悪いくらいに周囲に優しくなったこと。
それと健康に異常に執着するようになったことだ。
誰かが体調を崩すのを極端に嫌い、症状が治るまで自分のことのように苦しそうにしていた。
世話を甲斐甲斐しくやいて、まるで侍女のように動き回っていたのだ。
クロエに突然優しくなったミシュリーヌを最初は警戒していた。
けれど風邪を拗らせて苦しんでいた時、ずっとそばにいて励ましてくれたのだ。
それからもクロエが令嬢に絡まれていれば、すぐに庇い立てにきた。
愛魔法などと可愛らしい言葉でまとめてはいるが、クロエにとっては最悪の呪いだった。
愛など恐ろしくて欲がまとわりつくおぞましいものだ。
容姿も相俟って、クロエにまとわりつく欲望は心を疲弊させていく。
クロエに笑顔で近づいてくる奴らはみんな同じことを言う。
『あの人にわたしを好きにさせて!』
『ボクをみんなからモテるようにしてくれよ』
皆、魔法を使って、誰かの愛情を得ようとする浅ましい奴らばかり。
そもそも人の心を操ることは禁忌だ。
クロエはそういった魔法を使うことを禁じられていた。
当たり前の話だ。そんな魔法ばかり使っていたら国が傾いてしまう。
(気持ち悪い。愛魔法は呪いの魔法よ……人をおかしくさせる)
クロエは家族以外の人を信頼できなくなっていく。
成長すればさらに愛魔法がクロエを追い詰める。
これも魔法の影響なのか、人を惹きつけるこの容姿がクロエを地獄に突き落とす。
『魔法を使って婚約者を奪った!』
『愛魔法で自分が愛されれるように仕向けた』
誰よりもこの魔法を憎んでいるクロエが、そんな悍ましいことをするはずがない。
(大嫌い……こんな世界、消えてしまえばいい)
けれどあんなにクロエを毛嫌いしていたミシュリーヌによって、光が差し込むとは思いもしなかった。
『クロエはそんなことをする子じゃないわ! 自分が愛されないのをクロエのせいにしないでっ』
高熱を出してから別人のようになったミシュリーヌ。
記憶もあるし、見た目が変わったわけではない。
何かが大きく変化したのは確かだった。
ミシュリーヌは必ずクロエを庇う。
クロエはそんなミシュリーヌの姿に苛立って仕方なかった。
この魔法が花魔法を使うミシュリーヌに理解されることはないし、クロエは見えないところで恨みを買って誰かに嫌われ続けるのだから。
今日もパーティーでミシュリーヌはクロエを庇ったせいで、ジュースをかけられてしまった。
汚れたドレスを見つめながら、ヘラリと笑うミシュリーヌを見てクロエは苛立ちから叫ぶように言う。
『ミシュリーヌお姉様、もういいから無駄なことをしないでっ!』
クロエはミシュリーヌを見ていると苛々して仕方なかった。
こんなことをしても何も変わらない。
しかしミシュリーヌはキョトンとして首を傾げた。
『どうして? だってクロエは悪くないじゃない』
『言っても無駄なの。全部……全部っ、無駄なのよ!』
クロエはドレスの裾を握る。
自分が悪くないのに責められ続ける苦痛。
本当は悔しくて苦しくて仕方ない。けれどこれは誰にも理解されることはないのだ。
しかしミシュリーヌはハンカチでジュースを拭いてから「お母様に怒られちゃうわね」と平然と言っていた。
それからクロエの手を握る。少しベタついた手のひら。
クロエを見つめるブラウンの瞳は何かも見透かしているように見えた。
『クロエ、あなたは悪くない』
『──ッ!』
『あなたは堂々としていればいいの。わたしがクロエを守ってあげる。だから大丈夫』
ミシュリーヌがそう言って笑った瞬間、次々と涙が溢れ出た。
今まで我慢しといたものがすべて流れていくようだ。
『わたしだけはクロエの味方だからね』
ミシュリーヌはクロエの泣き顔を隠すように抱きしめてくれた。
その言葉がどれだけクロエを救ったのか、ミシュリーヌは知らないだろう。
399
あなたにおすすめの小説
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!
恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。
誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、
三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。
「キャ...ス...といっしょ?」
キャス……?
その名を知るはずのない我が子が、どうして?
胸騒ぎはやがて確信へと変わる。
夫が隠し続けていた“女の影”が、
じわりと家族の中に染み出していた。
だがそれは、いま目の前の裏切りではない。
学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。
その一夜の結果は、静かに、確実に、
フローレンスの家族を壊しはじめていた。
愛しているのに疑ってしまう。
信じたいのに、信じられない。
夫は嘘をつき続け、女は影のように
フローレンスの生活に忍び寄る。
──私は、この結婚を守れるの?
──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの?
秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。
真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
初恋に見切りをつけたら「氷の騎士」が手ぐすね引いて待っていた~それは非常に重い愛でした~
ひとみん
恋愛
メイリフローラは初恋の相手ユアンが大好きだ。振り向いてほしくて会う度求婚するも、困った様にほほ笑まれ受け入れてもらえない。
それが十年続いた。
だから成人した事を機に勝負に出たが惨敗。そして彼女は初恋を捨てた。今までたった 一人しか見ていなかった視野を広げようと。
そう思っていたのに、巷で「氷の騎士」と言われているレイモンドと出会う。
好きな人を追いかけるだけだった令嬢が、両手いっぱいに重い愛を抱えた令息にあっという間に捕まってしまう、そんなお話です。
ツッコミどころ満載の5話完結です。
勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~
藤 ゆみ子
恋愛
グラーツ公爵家に嫁いたティアは、夫のシオンとは白い結婚を貫いてきた。
それは、シオンには幼馴染で騎士団長であるクラウドという愛する人がいるから。
二人の尊い関係を眺めることが生きがいになっていたティアは、この結婚生活に満足していた。
けれど、シオンの父が亡くなり、公爵家を継いだことをきっかけに離縁することを決意する。
親に決められた好きでもない相手ではなく、愛する人と一緒になったほうがいいと。
だが、それはティアの大きな勘違いだった。
シオンは、ティアを溺愛していた。
溺愛するあまり、手を出すこともできず、距離があった。
そしてシオンもまた、勘違いをしていた。
ティアは、自分ではなくクラウドが好きなのだと。
絶対に振り向かせると決意しながらも、好きになってもらうまでは手を出さないと決めている。
紳士的に振舞おうとするあまり、ティアの勘違いを助長させていた。
そして、ティアの離縁大作戦によって、二人の関係は少しずつ変化していく。
【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
新聞と涙 それでも恋をする
あなたの照らす道は祝福《コーデリア》
君のため道に灯りを点けておく
話したいことがある 会いたい《クローヴィス》
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
2025.2.14 後日談を投稿しました
『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』
ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。
現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる