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1巻
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* * *
パトリックは今日も、魔法研究所でローズマリーに会うのを楽しみにしていた。
ローズマリーに出会ってから、渇いていた心に花が咲いたように潤いを感じている。
(今日は何の話をしようか。美味しい菓子や紅茶を取り寄せたが、喜んでくれるだろうか)
そんなことを考えながらパトリックはローズマリーとの出会いからこれまでのことを思い出す。
その日はマデリーンからいつものようにうるさい小言を言われてイライラしていた。
『民のためには魔法の訓練は欠かしてはいけません……! きちんとご自分の立場を考えてくださいませ』
幼い頃から魔法が使えるからと、ちやほやされてきたせいなのか何なのか知らないが、えらそうな態度を取るマデリーンのことがパトリックは気に入らなかった。
同じように、ただ珍しい魔法を持っているというだけで研究員に持て囃されているローズマリーの姿を見て腹立たしく思っていたため、『調子に乗るなよ』と言ってやるつもりで彼女に話しかけたのだ。
『おい、お前……』
『まぁ! とっても素敵、夢みたいっ!』
『……は?』
『本物の王子様に会えるなんて、なんて運がいいのかしら……! わたしはローズマリー・シーアです。よろしくお願いしますっ』
ローズマリーの小さな手がパトリックに触れる。
触るな、と声を上げようとした時に、キラキラと期待に満ちた瞳を向けられて、パトリックは動きを止める。
『ずっと王子様に会ってみたかったんです。とてもかっこいい炎の魔法を使うと聞きました。本当に素敵ですね……!』
そう言われてパトリックはピタリと唇を閉じる。なんなんだコイツは、と思わないでもなかったが、悪い気はしなかったため、『これのことか?』と魔法で小さな火の鳥を作ってやった。
するとローズマリーは、そんな些細な魔法で『すごいわ、とってもかっこいい!』と飛び跳ねて喜んだのだ。
彼女の感情に合わせるようにして、ポンポンと音を立てて花が現れては地面に落ちていく。
パトリックは驚きながら花とローズマリーを交互に見ていた。
『なっ、何故、こんなところに花が……?』
『まだ魔力をうまくコントロールできなくて、こうして花が出てしまうんです。えへへ、ごめんなさい。本当はこうやって……』
『……?』
手を握って力を込めたローズマリーの手から一輪のピンク色の薔薇が現れる。
『これ、よかったらどうぞ! 素敵な王子様、またお話してくださいね』
『あっ、おい……!』
そう言って元気に手を振って去っていったローズマリー。
暴言を吐くことも忘れて、彼女の背中を見送っていた。
手元に残ったのは一輪のピンク色の薔薇だけ。
その日から、パトリックはローズマリーのことが気になって仕方なかった。
研究所に行ってはローズマリーと話し、他の令嬢たちとは違う彼女に惹かれていく。
ローズマリーはパトリックのやることすべてを肯定してくれるのだ。
『パトリック殿下は本当にすごいですね! 天才だわ』
『こんな素敵なこと、初めての経験です』
彼女はいつも、花のような笑顔を向けて、パトリックを褒めてくれる。
次第に、ローズマリーを守れるのは自分しかいないと思うようになっていった。
一方で幼い頃から婚約者のマデリーンはどうだろうか。
いかにもプライドの高そうな口調と、美しくはあるが氷のような表情。
彼女はいつも何かを言いたげな視線をこちらに向けてくる。
パトリックが粗相をした際のフォローはうまいが、その後の小言は煩わしくて聞いていられない。
それなのにパトリックよりも国民や貴族たちから人気があるマデリーンに嫌気がさしていた。
自分よりも褒め称えられているマデリーンの姿を見ることが何よりも腹立たしい。
(氷という珍しい魔法属性を持っているというだけで、偉そうにするなよ!)
王になる自分こそが敬われるべきだと思っていた。
そんなマデリーンとの関係は幼い頃から変わらない。とてもつまらないものだ。
(俺はただウォルリナ公爵の票が欲しかっただけなのに……)
王太子指名の一票を得るため、王子たちは三大公爵家のご令嬢の中から次期王妃である婚約者を選ぶことが多い。
現在の次期国王候補は二人。
パトリックは弟のドウェインと王位を争っている。ただでさえ炎魔法の適性を継げなかった出来損ないである上、ドウェインは三大公爵の令嬢の誰とも婚約することはなかった。
もう王位を継ぐことを諦めているのだろう。
(残り二家のどちらかの票がとれれば、俺の勝ちで決まりだ……!)
マデリーンを婚約者にしたことでウォルリナ公爵を引き込むことができたのは本当に大きかった。
ウォルリナ公爵本人には、あまりいい印象を持たれていない。
だが娘のマデリーンがパトリックの婚約者である以上、パトリックを選ばずにはいられまい。
(つまらない女でも利用価値がある。王位を継いだら絶対に捨ててやるからな)
そう、それでもこの時までは、王位のためにマデリーンとの婚約は続けてやるつもりでいたのだ。
そんな時、ローズマリーから相談を受けるようになった。
どうやら彼女は学園でマデリーンに嫌がらせを受けているらしい。
『マデリーン様にまた怒られてしまいました。やっぱりわたしのことを嫌っているんだわ……!』
そう言って、ローズマリーは悲しそうな表情をしながら涙を浮かべていた。
彼女を追い込むマデリーンや周りの令嬢たちに怒りを感じる。
自分が守らなければと学園でも常にローズマリーのそばにいるようになった。
『パトリック殿下がそばにいてくれるだけで、わたし……安心します』
ローズマリーにそう言われると心が安らぐ。彼女が笑ってくれるだけでパトリックの気分は高揚するのだ。
(ローズマリーこそ俺のパートナーとして相応しいんだ。結婚するならばローズマリーがいい)
次第に、ローズマリーと結ばれたいと強く思うようになっていった。
そのためにはマデリーンに婚約者の座から退いてもらわなければならない。
たとえウォルリナ公爵の票が入らなくても、他の公爵たちから二票を得られれば何も問題はないではないか。
過去に三大公爵家以外の家の令嬢を娶った王がいないわけではないのだ。あの出来損ないのドウェインと比べれば自分のほうが王位にふさわしいだろう。
今はローズマリーと結ばれることが最優先だった。
彼女は魅力的だ。いつ他の令息に取られてもおかしくない。
それにドウェインもよく研究所を出入りしている。
婚約者がいないドウェインにローズマリーを取られてはたまらない。
両親や公爵たちが出席しない卒業パーティーでは、パトリックが一番の権限を握っており、逆らえるものは誰もいない。
ローズマリーを養女として迎えたシーア侯爵もうまく手を回してくれると言っていたので問題ないだろう。
プライドの高いマデリーンはドレスを贈られていないことも、自分が一緒に参加できないと言ったことも周りには言えないはずだ。
マデリーンにドレスを贈らなかったために浮いた予算で、ローズマリーに花の刺繍をふんだんにあしらった美しいドレスをオーダーする。
心の底から嬉しそうにしているローズマリーを見ていると誇らしい気持ちになった。
ローズマリーにずっと可愛らしく微笑んでいてもらうため……マデリーンを追い込むためにやることがあるとシーア侯爵に言われたパトリックは、その通りに動いていた。
いつもマデリーンと行動を共にしている三人の令嬢を呼び出して、嘘の証言をするように言ったのだ。
『マデリーン様を裏切るなんてありえません』と生意気にも反抗してきた三人の令嬢を脅せば、令嬢たちは眉を寄せて唇を震わせる。
幸い、マデリーンの友人は伯爵家や子爵家の者たちばかり。
シーア侯爵の協力もあり、すぐに従わせることができた。これで、マデリーンがローズマリーに嫌がらせ行為をおこなっていたと皆の前で簡単に証明できる。
希少な花魔法を扱えるローズマリーを排除しようとしていた。それは国外追放を告げても問題ない罪だろう。
他にも使える者が山ほどいる水魔法と、珍しくはあるが使える者がいないわけではない氷魔法を扱うマデリーン。
現状、この国どころか近隣諸国でも唯一無二の花魔法を扱うローズマリー。
どちらが大切かと問われれば一目瞭然だろう。
(くくっ……マデリーンを捨てる場所ももう考えてあるからな!)
川のない森の中に放り込めばいい。
水がない場所ではマデリーンも魔法が満足に使えないと知っている。
これはすべてローズマリーの養父であるシーア侯爵と話し合い考えた作戦だった。
(ハハッ、完璧な作戦だ。俺の未来は明るいぞ……!)
パトリックは勝利を確信していた。卒業パーティーが待ち遠しくて仕方ない。
そうして浮かれながらローズマリーが研究所から出てくるのを待っていると、どこからか焦ったような声が聞こえてくた。
「兄上、こんなところにいたのですか!?」
「なんだドウェインか。はっ、出来損ないの分際に兄などと呼ばれたくないんだよっ」
「…………」
「用件があるならさっさと言え。俺は忙しいんだよ」
「忙しい、ですか。研究所に何のご用事で?」
「お前には関係ないだろう?」
ドウェインもローズマリーと同じく唯一無二の魔法を扱い、それが理由で昔から研究所によく出入りしていたが、ローズマリーと違い、昔から敬遠されていた。
彼の持つ黒い髪と紫の瞳は、歴代の王家に誰一人としていなかったからだ。
両親も王家から新しい属性が発現したと喜んではいたが、実際は自分と同じく、ドウェインを忌み嫌っているに違いないとパトリックは思っていた。
無言でこちらを睨みつけてくる弟に、パトリックは苛立ちをぶつけるように言葉を吐き出した。
「……さっさと用件を言え」
早くしないとローズマリーが研究所から出てきてしまう。
ローズマリーをドウェインに会わせたくはなかった。
昔はもっと根暗で引っ込み思案で、パトリックが怒鳴ればすぐに泣いていたというのに、今は怯える素振りすら見せない。
それどころか、こちらを軽蔑するような視線を向けてくるのが腹立たしい。
(生まれたときから出来損ないのくせに……!)
幼い頃のドウェインは、魔法のコントロールがうまくできずに、周囲の者たちに怯えられてばかりいた。
ローズマリーの花なら微笑ましいで済む現象も、ドウェインの毒では笑いごとではない事態に発展したからだ。
希少な魔法だったため師を仰ぐこともできず、そのうち部屋に閉じこもり気味になっていたドウェインをパトリックは『出来損ないの恥晒し』と鼻で嘲笑っていた。
次第に大きくなる魔法の力がドウェインの体を蝕み始め、指先から手首まで紫色に変色した皮膚を、いつも手袋で隠すようになる。
その時は可愛げもあったが、ある日を境にドウェインは部屋に閉じこもるのを止めた。
人が変わったように魔法の訓練に進んで取り組み始め、真剣な表情で『目標ができたから』と言って、いろんなものに打ち込み始めた。
ふと気がつくとドウェインの周囲に魔法研究所の職員や人が集まるようになっていく。
あんなに嫌われていたのにそれが不思議で仕方なかった。
一方、パトリックは、ガイナ王国を支えて貴族たちをまとめていくためには魔法の力が足りないのではと言われるようになっていく。
王家の炎魔法の適性を受け継いだのはパトリックであるにもかかわらず、だ。
魔力がコントロールできるようになっただけで父と母に褒められるドウェインの姿を見て、悔しさが込み上げてきたこともよく覚えている。
思えば、昔は可愛げがあったのに、生意気になってしまったのはマデリーンも同じだ。
三大公爵の令嬢たちと顔合わせをすることになった日、ドウェインは無理が祟ったのかひどく体調を崩してしまった。
そのため、顔合わせはパトリック一人で決行されることとなる。
風の公爵の娘、土の公爵の娘、そして最後に水の公爵の娘。
その中で一番、目を惹いたのはマデリーン・ウォルリナだった。
少し焼けた肌、アイスブルーの髪にサファイアのような瞳を輝かせた少女は嬉しそうにこちらを見つめている。
『お久しぶりです。ようこそおいでくださいました!』
『あ、あぁ……!』
会うのはウォルリナ公爵邸で開かれたパーティー以来だった。
今まで会ってきた令嬢たちの中で、もっとも美しく明るく快活な令嬢だと思った。
(どうせ婚約者にするのなら美しい方がいいか……それにウォルリナ公爵の影響力は無視できないからな。確かマデリーンは水と氷の二属性を使うらしいな。母上と同じ二属性だ。基盤を固めるにはマデリーンが一番の適役だな)
母も三大公爵の土の公爵出身で〝緑の乙女〟と〝土の乙女〟両方の称号を持っていた。
作物の実りを助ける魔法を使う母の力は重宝されている。
ドウェインの毒魔法も母の珍しい緑の力が大きく影響して、父の火の魔法が合わさることで偶然生まれたのではないかと言われていた。
そんなことを思い出しているとマデリーンは何故か期待のこもった眼差しをパトリックに向けている。何か言葉を待っているように見えた。
パトリックにはその意図がわからずに、しばらくは当たり障りのない会話を繰り返していた。
マデリーンと話していると、遠くからウォルリナ公爵の厳しい視線を感じていた。
城でもそうだが、値踏みされているような感覚にいつも体を固くしていた。
確実に王位を継ぐためにやるべきことは何なのか、令嬢たちが喜びそうな言葉を適当に思い浮かべ、そしてウォルリナ公爵邸で開かれたパーティーの話ばかりするマデリーンの話を遮るように言った。
『マデリーン嬢、俺と結婚してくれないか?』
『……!』
『俺は、マデリーン嬢と一緒に国を支えていきたいんだ』
『──やっぱりパトリック殿下は、公爵邸で開かれたあのパーティーの時のことを覚えていてくださったんですね!』
『…………え?』
パトリックはマデリーンが何のことを言っているのか、さっぱりわからなかった。
『パトリック殿下?』
『えっと……ああ、もちろんだ。あの時のことだな。ちゃんと覚えているさ!』
『本当に?』
『あ、あぁ……本当だ』
『よかったですわ。あの日の約束を忘れられていたらどうしようって思っていたんです』
マデリーンは胸元に手を当ててホッと息を吐き出している。
数年前にウォルリナ公爵で開かれたパーティーのことは、ほとんど記憶に残っていなかった。
『海辺でたくさんお話しましたよね。強くなるからって……あの時、わたくしはとても嬉しかったですわ!』
『あー……そうか、そうだったな』
『ふふっ、確かにあの時よりずっと堂々としているような気がしますわ!』
『……ま、まぁな』
ここは頷いておいた方がいいだろうとマデリーンに話を合わせていた。
するとマデリーンは満面の笑みを浮かべながらパトリックを見つめているではないか。
(マデリーンは俺のことが好きだったのか。ははっ、もう一押しでウォルリナ公爵の票が手に入る……!)
『なぁマデリーン嬢、今すぐに婚約の手続きをしたい!』
『本当ですか!? 嬉しい! ……ですがドウェイン殿下にお会いしてからじゃないと……』
パトリックはすぐにマデリーンと婚約したかったため、懸命に説得した。
マデリーンは渋っていたが、このまま何もしなければドウェインもマデリーンを選ぶかもしれない。
自分が先に目をつけたマデリーンを取られるのは嫌だった。
『マデリーン嬢を取られたくないんだ。ほら、約束したじゃないか!』
『……!』
約束という言葉が決め手になったのか、マデリーンは頬をほんのりと赤くして小さく頷いた。
何の約束かはまったくわからないが、話を合わせておいて損はないだろう。
『お父様に話してきますわ!』
そう言って立ち上がったマデリーンの背中を見ながら、パトリックはニヤけるのを抑えられなかった。
(ははっ、三大公爵の中で一番美しい令嬢と婚約してやったぞ)
後に、ドウェインがマデリーンに会うのを楽しみにしていたようだったと知り、パトリックはニヤニヤとして告げた。
『俺がウォルリナ公爵家のマデリーンと婚約したからな!』
『……っ!?』
ドウェインはまるでこの世の終わりのような顔をしていた。
『マデリーンもとても嬉しそうにしていたんだ』
『……そ、そんな』
『すぐに俺と婚約を決めるほどに、俺のことが好きらしいぞ?』
そう言うとドウェインは今にも泣きそうになりながら唇を噛んで背を向けた。
やはり見目の良いマデリーンをドウェインも密かに狙っていたのだろうか。
出来損ないのドウェインが王座を狙っていたのかと思うと驚きではあるが、やはりマデリーンを選んで正解だったようだ。
ドウェインは一週間近く落ち込んで部屋から出てこなくなる。
(ハハッ、熱を出す方が悪いのだ。早い者勝ちだろう?)
以降、兄弟間にろくな交流はなく、ローズマリーと親しくなってからドウェインが嫌味らしきものを言ってくることはあったが、適当に聞き流していた。
そして今、ドウェインは目の前に立ったまま、何故か黙り込んでいる。
「おい、ドウェイン聞いているのか! さっさと用件を話せと言ってるんだ!」
「……マデリーン様のことで、お話があります」
「はぁ…………あの女の話か。なんだ?」
聞きたくもない名前に溜息を吐いた。
しかし次の瞬間、ドウェインの発言に言葉を失うこととなる。
「マデリーン様が、海に飛び込んだそうです」
「は……?」
何の冗談かと動きを止めてドウェインを見た。よく見ればドウェインの顔は真っ青だ。
「な、何を……」
「僕も詳しくはわからないのですが、部屋から海に身を投げたと聞きました」
「……!?」
ドウェインは悲しげに顔を伏せて唇を噛んでいる。
パトリックはその姿を呆然と見ていたが、次第に内容を理解してバッと口元を押さえる。
マデリーンが身を投げて、悲しくてショックだったからではない。
彼女が自ら消えようとしたことに対して、笑いが込み上げてきたからだった。
(卒業パーティーを待たずとも自然とローズマリーを婚約者にできるではないか!)
驚きはしたが、ある意味最高だと思った。パトリックはニヤける口元をドウェインにバレないように隠す。
(あの女が自ら命を投げるとは信じられないが、最後に俺とローズマリーのために役立ってくれたのだな)
内心喜んでいると、ドウェインは心配そうな声を出しながら言葉を続けた。
「怪我はしたそうですが命に別状はないそうです」
「なっ……無事だったのか!? どうし……っ」
どうして、そう言いかけてすぐに口を閉じた。マデリーンがいなくなって喜んでいると知られてはさすがにまずい。
「…………は?」
「いや……普通海に身を投げたと聞いたら生死に関わると思うだろう。深い意味はない」
「……。このことはくれぐれも内密にと、ウォルリナ公爵から今朝、手紙が届きました」
「ウォルリナ公爵が?」
「知らせを聞いて、すぐにウォルリナ公爵邸に帰ったそうです。マデリーン様は自害するつもりはなく、頭を冷やすために飛び込んだそうですが……」
そんな訳がわからない理由で、あんな場所から飛び降りるなど正気の沙汰ではない。
(はっ……そのまま、逝っていたほうが幸せだったろうに)
卒業パーティーで信頼していた友人たちに裏切られ、皆の前で辱めを受けることになるのだ。更にその後、水のない森の中で彷徨うことになる。今死んでいた方が森で獣に食い殺されるよりはマシだっただろうに……
自己中心的な考えに沈むパトリックに、ドウェインの言葉が突き刺さる。
パトリックは今日も、魔法研究所でローズマリーに会うのを楽しみにしていた。
ローズマリーに出会ってから、渇いていた心に花が咲いたように潤いを感じている。
(今日は何の話をしようか。美味しい菓子や紅茶を取り寄せたが、喜んでくれるだろうか)
そんなことを考えながらパトリックはローズマリーとの出会いからこれまでのことを思い出す。
その日はマデリーンからいつものようにうるさい小言を言われてイライラしていた。
『民のためには魔法の訓練は欠かしてはいけません……! きちんとご自分の立場を考えてくださいませ』
幼い頃から魔法が使えるからと、ちやほやされてきたせいなのか何なのか知らないが、えらそうな態度を取るマデリーンのことがパトリックは気に入らなかった。
同じように、ただ珍しい魔法を持っているというだけで研究員に持て囃されているローズマリーの姿を見て腹立たしく思っていたため、『調子に乗るなよ』と言ってやるつもりで彼女に話しかけたのだ。
『おい、お前……』
『まぁ! とっても素敵、夢みたいっ!』
『……は?』
『本物の王子様に会えるなんて、なんて運がいいのかしら……! わたしはローズマリー・シーアです。よろしくお願いしますっ』
ローズマリーの小さな手がパトリックに触れる。
触るな、と声を上げようとした時に、キラキラと期待に満ちた瞳を向けられて、パトリックは動きを止める。
『ずっと王子様に会ってみたかったんです。とてもかっこいい炎の魔法を使うと聞きました。本当に素敵ですね……!』
そう言われてパトリックはピタリと唇を閉じる。なんなんだコイツは、と思わないでもなかったが、悪い気はしなかったため、『これのことか?』と魔法で小さな火の鳥を作ってやった。
するとローズマリーは、そんな些細な魔法で『すごいわ、とってもかっこいい!』と飛び跳ねて喜んだのだ。
彼女の感情に合わせるようにして、ポンポンと音を立てて花が現れては地面に落ちていく。
パトリックは驚きながら花とローズマリーを交互に見ていた。
『なっ、何故、こんなところに花が……?』
『まだ魔力をうまくコントロールできなくて、こうして花が出てしまうんです。えへへ、ごめんなさい。本当はこうやって……』
『……?』
手を握って力を込めたローズマリーの手から一輪のピンク色の薔薇が現れる。
『これ、よかったらどうぞ! 素敵な王子様、またお話してくださいね』
『あっ、おい……!』
そう言って元気に手を振って去っていったローズマリー。
暴言を吐くことも忘れて、彼女の背中を見送っていた。
手元に残ったのは一輪のピンク色の薔薇だけ。
その日から、パトリックはローズマリーのことが気になって仕方なかった。
研究所に行ってはローズマリーと話し、他の令嬢たちとは違う彼女に惹かれていく。
ローズマリーはパトリックのやることすべてを肯定してくれるのだ。
『パトリック殿下は本当にすごいですね! 天才だわ』
『こんな素敵なこと、初めての経験です』
彼女はいつも、花のような笑顔を向けて、パトリックを褒めてくれる。
次第に、ローズマリーを守れるのは自分しかいないと思うようになっていった。
一方で幼い頃から婚約者のマデリーンはどうだろうか。
いかにもプライドの高そうな口調と、美しくはあるが氷のような表情。
彼女はいつも何かを言いたげな視線をこちらに向けてくる。
パトリックが粗相をした際のフォローはうまいが、その後の小言は煩わしくて聞いていられない。
それなのにパトリックよりも国民や貴族たちから人気があるマデリーンに嫌気がさしていた。
自分よりも褒め称えられているマデリーンの姿を見ることが何よりも腹立たしい。
(氷という珍しい魔法属性を持っているというだけで、偉そうにするなよ!)
王になる自分こそが敬われるべきだと思っていた。
そんなマデリーンとの関係は幼い頃から変わらない。とてもつまらないものだ。
(俺はただウォルリナ公爵の票が欲しかっただけなのに……)
王太子指名の一票を得るため、王子たちは三大公爵家のご令嬢の中から次期王妃である婚約者を選ぶことが多い。
現在の次期国王候補は二人。
パトリックは弟のドウェインと王位を争っている。ただでさえ炎魔法の適性を継げなかった出来損ないである上、ドウェインは三大公爵の令嬢の誰とも婚約することはなかった。
もう王位を継ぐことを諦めているのだろう。
(残り二家のどちらかの票がとれれば、俺の勝ちで決まりだ……!)
マデリーンを婚約者にしたことでウォルリナ公爵を引き込むことができたのは本当に大きかった。
ウォルリナ公爵本人には、あまりいい印象を持たれていない。
だが娘のマデリーンがパトリックの婚約者である以上、パトリックを選ばずにはいられまい。
(つまらない女でも利用価値がある。王位を継いだら絶対に捨ててやるからな)
そう、それでもこの時までは、王位のためにマデリーンとの婚約は続けてやるつもりでいたのだ。
そんな時、ローズマリーから相談を受けるようになった。
どうやら彼女は学園でマデリーンに嫌がらせを受けているらしい。
『マデリーン様にまた怒られてしまいました。やっぱりわたしのことを嫌っているんだわ……!』
そう言って、ローズマリーは悲しそうな表情をしながら涙を浮かべていた。
彼女を追い込むマデリーンや周りの令嬢たちに怒りを感じる。
自分が守らなければと学園でも常にローズマリーのそばにいるようになった。
『パトリック殿下がそばにいてくれるだけで、わたし……安心します』
ローズマリーにそう言われると心が安らぐ。彼女が笑ってくれるだけでパトリックの気分は高揚するのだ。
(ローズマリーこそ俺のパートナーとして相応しいんだ。結婚するならばローズマリーがいい)
次第に、ローズマリーと結ばれたいと強く思うようになっていった。
そのためにはマデリーンに婚約者の座から退いてもらわなければならない。
たとえウォルリナ公爵の票が入らなくても、他の公爵たちから二票を得られれば何も問題はないではないか。
過去に三大公爵家以外の家の令嬢を娶った王がいないわけではないのだ。あの出来損ないのドウェインと比べれば自分のほうが王位にふさわしいだろう。
今はローズマリーと結ばれることが最優先だった。
彼女は魅力的だ。いつ他の令息に取られてもおかしくない。
それにドウェインもよく研究所を出入りしている。
婚約者がいないドウェインにローズマリーを取られてはたまらない。
両親や公爵たちが出席しない卒業パーティーでは、パトリックが一番の権限を握っており、逆らえるものは誰もいない。
ローズマリーを養女として迎えたシーア侯爵もうまく手を回してくれると言っていたので問題ないだろう。
プライドの高いマデリーンはドレスを贈られていないことも、自分が一緒に参加できないと言ったことも周りには言えないはずだ。
マデリーンにドレスを贈らなかったために浮いた予算で、ローズマリーに花の刺繍をふんだんにあしらった美しいドレスをオーダーする。
心の底から嬉しそうにしているローズマリーを見ていると誇らしい気持ちになった。
ローズマリーにずっと可愛らしく微笑んでいてもらうため……マデリーンを追い込むためにやることがあるとシーア侯爵に言われたパトリックは、その通りに動いていた。
いつもマデリーンと行動を共にしている三人の令嬢を呼び出して、嘘の証言をするように言ったのだ。
『マデリーン様を裏切るなんてありえません』と生意気にも反抗してきた三人の令嬢を脅せば、令嬢たちは眉を寄せて唇を震わせる。
幸い、マデリーンの友人は伯爵家や子爵家の者たちばかり。
シーア侯爵の協力もあり、すぐに従わせることができた。これで、マデリーンがローズマリーに嫌がらせ行為をおこなっていたと皆の前で簡単に証明できる。
希少な花魔法を扱えるローズマリーを排除しようとしていた。それは国外追放を告げても問題ない罪だろう。
他にも使える者が山ほどいる水魔法と、珍しくはあるが使える者がいないわけではない氷魔法を扱うマデリーン。
現状、この国どころか近隣諸国でも唯一無二の花魔法を扱うローズマリー。
どちらが大切かと問われれば一目瞭然だろう。
(くくっ……マデリーンを捨てる場所ももう考えてあるからな!)
川のない森の中に放り込めばいい。
水がない場所ではマデリーンも魔法が満足に使えないと知っている。
これはすべてローズマリーの養父であるシーア侯爵と話し合い考えた作戦だった。
(ハハッ、完璧な作戦だ。俺の未来は明るいぞ……!)
パトリックは勝利を確信していた。卒業パーティーが待ち遠しくて仕方ない。
そうして浮かれながらローズマリーが研究所から出てくるのを待っていると、どこからか焦ったような声が聞こえてくた。
「兄上、こんなところにいたのですか!?」
「なんだドウェインか。はっ、出来損ないの分際に兄などと呼ばれたくないんだよっ」
「…………」
「用件があるならさっさと言え。俺は忙しいんだよ」
「忙しい、ですか。研究所に何のご用事で?」
「お前には関係ないだろう?」
ドウェインもローズマリーと同じく唯一無二の魔法を扱い、それが理由で昔から研究所によく出入りしていたが、ローズマリーと違い、昔から敬遠されていた。
彼の持つ黒い髪と紫の瞳は、歴代の王家に誰一人としていなかったからだ。
両親も王家から新しい属性が発現したと喜んではいたが、実際は自分と同じく、ドウェインを忌み嫌っているに違いないとパトリックは思っていた。
無言でこちらを睨みつけてくる弟に、パトリックは苛立ちをぶつけるように言葉を吐き出した。
「……さっさと用件を言え」
早くしないとローズマリーが研究所から出てきてしまう。
ローズマリーをドウェインに会わせたくはなかった。
昔はもっと根暗で引っ込み思案で、パトリックが怒鳴ればすぐに泣いていたというのに、今は怯える素振りすら見せない。
それどころか、こちらを軽蔑するような視線を向けてくるのが腹立たしい。
(生まれたときから出来損ないのくせに……!)
幼い頃のドウェインは、魔法のコントロールがうまくできずに、周囲の者たちに怯えられてばかりいた。
ローズマリーの花なら微笑ましいで済む現象も、ドウェインの毒では笑いごとではない事態に発展したからだ。
希少な魔法だったため師を仰ぐこともできず、そのうち部屋に閉じこもり気味になっていたドウェインをパトリックは『出来損ないの恥晒し』と鼻で嘲笑っていた。
次第に大きくなる魔法の力がドウェインの体を蝕み始め、指先から手首まで紫色に変色した皮膚を、いつも手袋で隠すようになる。
その時は可愛げもあったが、ある日を境にドウェインは部屋に閉じこもるのを止めた。
人が変わったように魔法の訓練に進んで取り組み始め、真剣な表情で『目標ができたから』と言って、いろんなものに打ち込み始めた。
ふと気がつくとドウェインの周囲に魔法研究所の職員や人が集まるようになっていく。
あんなに嫌われていたのにそれが不思議で仕方なかった。
一方、パトリックは、ガイナ王国を支えて貴族たちをまとめていくためには魔法の力が足りないのではと言われるようになっていく。
王家の炎魔法の適性を受け継いだのはパトリックであるにもかかわらず、だ。
魔力がコントロールできるようになっただけで父と母に褒められるドウェインの姿を見て、悔しさが込み上げてきたこともよく覚えている。
思えば、昔は可愛げがあったのに、生意気になってしまったのはマデリーンも同じだ。
三大公爵の令嬢たちと顔合わせをすることになった日、ドウェインは無理が祟ったのかひどく体調を崩してしまった。
そのため、顔合わせはパトリック一人で決行されることとなる。
風の公爵の娘、土の公爵の娘、そして最後に水の公爵の娘。
その中で一番、目を惹いたのはマデリーン・ウォルリナだった。
少し焼けた肌、アイスブルーの髪にサファイアのような瞳を輝かせた少女は嬉しそうにこちらを見つめている。
『お久しぶりです。ようこそおいでくださいました!』
『あ、あぁ……!』
会うのはウォルリナ公爵邸で開かれたパーティー以来だった。
今まで会ってきた令嬢たちの中で、もっとも美しく明るく快活な令嬢だと思った。
(どうせ婚約者にするのなら美しい方がいいか……それにウォルリナ公爵の影響力は無視できないからな。確かマデリーンは水と氷の二属性を使うらしいな。母上と同じ二属性だ。基盤を固めるにはマデリーンが一番の適役だな)
母も三大公爵の土の公爵出身で〝緑の乙女〟と〝土の乙女〟両方の称号を持っていた。
作物の実りを助ける魔法を使う母の力は重宝されている。
ドウェインの毒魔法も母の珍しい緑の力が大きく影響して、父の火の魔法が合わさることで偶然生まれたのではないかと言われていた。
そんなことを思い出しているとマデリーンは何故か期待のこもった眼差しをパトリックに向けている。何か言葉を待っているように見えた。
パトリックにはその意図がわからずに、しばらくは当たり障りのない会話を繰り返していた。
マデリーンと話していると、遠くからウォルリナ公爵の厳しい視線を感じていた。
城でもそうだが、値踏みされているような感覚にいつも体を固くしていた。
確実に王位を継ぐためにやるべきことは何なのか、令嬢たちが喜びそうな言葉を適当に思い浮かべ、そしてウォルリナ公爵邸で開かれたパーティーの話ばかりするマデリーンの話を遮るように言った。
『マデリーン嬢、俺と結婚してくれないか?』
『……!』
『俺は、マデリーン嬢と一緒に国を支えていきたいんだ』
『──やっぱりパトリック殿下は、公爵邸で開かれたあのパーティーの時のことを覚えていてくださったんですね!』
『…………え?』
パトリックはマデリーンが何のことを言っているのか、さっぱりわからなかった。
『パトリック殿下?』
『えっと……ああ、もちろんだ。あの時のことだな。ちゃんと覚えているさ!』
『本当に?』
『あ、あぁ……本当だ』
『よかったですわ。あの日の約束を忘れられていたらどうしようって思っていたんです』
マデリーンは胸元に手を当ててホッと息を吐き出している。
数年前にウォルリナ公爵で開かれたパーティーのことは、ほとんど記憶に残っていなかった。
『海辺でたくさんお話しましたよね。強くなるからって……あの時、わたくしはとても嬉しかったですわ!』
『あー……そうか、そうだったな』
『ふふっ、確かにあの時よりずっと堂々としているような気がしますわ!』
『……ま、まぁな』
ここは頷いておいた方がいいだろうとマデリーンに話を合わせていた。
するとマデリーンは満面の笑みを浮かべながらパトリックを見つめているではないか。
(マデリーンは俺のことが好きだったのか。ははっ、もう一押しでウォルリナ公爵の票が手に入る……!)
『なぁマデリーン嬢、今すぐに婚約の手続きをしたい!』
『本当ですか!? 嬉しい! ……ですがドウェイン殿下にお会いしてからじゃないと……』
パトリックはすぐにマデリーンと婚約したかったため、懸命に説得した。
マデリーンは渋っていたが、このまま何もしなければドウェインもマデリーンを選ぶかもしれない。
自分が先に目をつけたマデリーンを取られるのは嫌だった。
『マデリーン嬢を取られたくないんだ。ほら、約束したじゃないか!』
『……!』
約束という言葉が決め手になったのか、マデリーンは頬をほんのりと赤くして小さく頷いた。
何の約束かはまったくわからないが、話を合わせておいて損はないだろう。
『お父様に話してきますわ!』
そう言って立ち上がったマデリーンの背中を見ながら、パトリックはニヤけるのを抑えられなかった。
(ははっ、三大公爵の中で一番美しい令嬢と婚約してやったぞ)
後に、ドウェインがマデリーンに会うのを楽しみにしていたようだったと知り、パトリックはニヤニヤとして告げた。
『俺がウォルリナ公爵家のマデリーンと婚約したからな!』
『……っ!?』
ドウェインはまるでこの世の終わりのような顔をしていた。
『マデリーンもとても嬉しそうにしていたんだ』
『……そ、そんな』
『すぐに俺と婚約を決めるほどに、俺のことが好きらしいぞ?』
そう言うとドウェインは今にも泣きそうになりながら唇を噛んで背を向けた。
やはり見目の良いマデリーンをドウェインも密かに狙っていたのだろうか。
出来損ないのドウェインが王座を狙っていたのかと思うと驚きではあるが、やはりマデリーンを選んで正解だったようだ。
ドウェインは一週間近く落ち込んで部屋から出てこなくなる。
(ハハッ、熱を出す方が悪いのだ。早い者勝ちだろう?)
以降、兄弟間にろくな交流はなく、ローズマリーと親しくなってからドウェインが嫌味らしきものを言ってくることはあったが、適当に聞き流していた。
そして今、ドウェインは目の前に立ったまま、何故か黙り込んでいる。
「おい、ドウェイン聞いているのか! さっさと用件を話せと言ってるんだ!」
「……マデリーン様のことで、お話があります」
「はぁ…………あの女の話か。なんだ?」
聞きたくもない名前に溜息を吐いた。
しかし次の瞬間、ドウェインの発言に言葉を失うこととなる。
「マデリーン様が、海に飛び込んだそうです」
「は……?」
何の冗談かと動きを止めてドウェインを見た。よく見ればドウェインの顔は真っ青だ。
「な、何を……」
「僕も詳しくはわからないのですが、部屋から海に身を投げたと聞きました」
「……!?」
ドウェインは悲しげに顔を伏せて唇を噛んでいる。
パトリックはその姿を呆然と見ていたが、次第に内容を理解してバッと口元を押さえる。
マデリーンが身を投げて、悲しくてショックだったからではない。
彼女が自ら消えようとしたことに対して、笑いが込み上げてきたからだった。
(卒業パーティーを待たずとも自然とローズマリーを婚約者にできるではないか!)
驚きはしたが、ある意味最高だと思った。パトリックはニヤける口元をドウェインにバレないように隠す。
(あの女が自ら命を投げるとは信じられないが、最後に俺とローズマリーのために役立ってくれたのだな)
内心喜んでいると、ドウェインは心配そうな声を出しながら言葉を続けた。
「怪我はしたそうですが命に別状はないそうです」
「なっ……無事だったのか!? どうし……っ」
どうして、そう言いかけてすぐに口を閉じた。マデリーンがいなくなって喜んでいると知られてはさすがにまずい。
「…………は?」
「いや……普通海に身を投げたと聞いたら生死に関わると思うだろう。深い意味はない」
「……。このことはくれぐれも内密にと、ウォルリナ公爵から今朝、手紙が届きました」
「ウォルリナ公爵が?」
「知らせを聞いて、すぐにウォルリナ公爵邸に帰ったそうです。マデリーン様は自害するつもりはなく、頭を冷やすために飛び込んだそうですが……」
そんな訳がわからない理由で、あんな場所から飛び降りるなど正気の沙汰ではない。
(はっ……そのまま、逝っていたほうが幸せだったろうに)
卒業パーティーで信頼していた友人たちに裏切られ、皆の前で辱めを受けることになるのだ。更にその後、水のない森の中で彷徨うことになる。今死んでいた方が森で獣に食い殺されるよりはマシだっただろうに……
自己中心的な考えに沈むパトリックに、ドウェインの言葉が突き刺さる。
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