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番外編(本編の内容とは少し異なります。時系列バラバラです)
美味しいクッキーの作り方2
「あと柔らかい白くてまん丸なパンが兎みたいで…可愛くて好きです」
「……ッ」
「あの……?」
料理長の瞳がゆらゆらと揺れて動揺しているのを見て何か知らないうちに地雷を踏み抜いたのかもしれないと思い、リオノーラの頭はプチパニックである。
「………そうか」
「は、はい…」
「おい……だれかお嬢様と一緒にクッキー作ってやれ」
先程の威圧感はどこへやら、料理長は奥の部屋に引っ込んでしまった。
静まり返る厨房で、どうしようかと料理人達にそっと目配せをする。
クッキーを作る許可はおりたものの、厄介者に関わりたくないのかサッと逸らされる視線。
やはり思い付きで押しかけたのは失敗だったようだ。
つい気持ちだけが先へ行ってしまい、仕事の邪魔になってしまったようだ。
(怒るのも当然よね……)
反省しつつ、諦めて庭師に花を貰いに行こうとした時に一人の青年が声を掛けてくれた。
「あの、お嬢様……宜しければ俺がお手伝いします」
「えっ、いいの?」
「料理長には劣りますが、いつもデザートを担当していますし……」
"デザート"と聞いて、その青年の元へ駆け寄った。
そして瞳を輝かせながら手を取った。
「貴方がいつもデザートを作ってくれているのね!わたくし、いつもデザートを楽しみにしているの!プリンもババロアも、ケーキもタルトも可愛くて美味しくて、全部大好きよ!!」
青年はその言葉に顔をほんのりと赤く染めた。
いつも食後のデザートを楽しみにしていた。
寂しい食卓を紛らわせてくれる鮮やかな色彩と可愛らしいデザインは、此方を気遣ってくれているように思えた。
「中でもチョコレートケーキ……!あれは最高に美味しいわ」
どれも絶品なのだが、あのチョコレートケーキだけは何個でも食べたいと思ってしまう。
濃厚で甘すぎなくて、しっとりした生地が口の中で溶け出すのだ。
「あのチョコレートケーキは……」
「……?」
「チョコレートケーキだけは、料理長が作るんです」
「え……?」
「先程も、お嬢様が言った料理が……全て料理長の娘さんの好物と一緒で」
「……娘さん?」
「ずっと病気なんです……」
「!!」
「俺……何度か娘さんに会ったことあるんですけど、お嬢様みたいに白くて丸いパンを兎みたいって言っていたんです。あとパパの作るチョコレートケーキとオニオンスープが大好きだって。だから料理長は……」
どうやら先程、料理長は病気の娘とリオノーラを重ねて考えてしまっていたようだ。
「……そうなのね」
「すみません……料理長には俺が言った事、黙っててくれませんか?」
「分かったわ」
「ありがとうございます!さぁ、お嬢様。クッキーを作りましょう!」
「ありがとう、お名前は?」
「俺は、ワルフです」
ワルフはニッコリ笑うと、厨房に立ちやすいように踏み台を持ってきてくれた。
莉子の時の記憶が役立ったのもあるが、ワルフの教え方も上手く、無事に甘さを控えた美味しいチョコチップクッキーを作ることが出来た。
オーブンの前でワルフと談笑しながらナッツが入ったクッキーが焼けるのを待っていると、バタンと荒くドアが開く音がして、驚いて二人で後ろを振り返る。
「モニカ……!」
「え…?」
「………っ!お嬢様…………申し訳ない」
料理を作る姿を見て、娘と間違えたのだろうか。
料理長は帽子を外して、クシャリと握りしめた後に下を向いて椅子に座り、何かを考え込んでいるようだった。
これ以上は昼食の準備に差し障るからとシンシアに耳打ちされて、料理長とワルフにお礼を行って厨房を後にする。
モヤモヤした気持ちを抱えたままリオノーラは一度立ち止まって後ろを振り返った。
庭師と共に花を摘んで馬車に乗り込み、ゾイの元へ向かった。
end
「……ッ」
「あの……?」
料理長の瞳がゆらゆらと揺れて動揺しているのを見て何か知らないうちに地雷を踏み抜いたのかもしれないと思い、リオノーラの頭はプチパニックである。
「………そうか」
「は、はい…」
「おい……だれかお嬢様と一緒にクッキー作ってやれ」
先程の威圧感はどこへやら、料理長は奥の部屋に引っ込んでしまった。
静まり返る厨房で、どうしようかと料理人達にそっと目配せをする。
クッキーを作る許可はおりたものの、厄介者に関わりたくないのかサッと逸らされる視線。
やはり思い付きで押しかけたのは失敗だったようだ。
つい気持ちだけが先へ行ってしまい、仕事の邪魔になってしまったようだ。
(怒るのも当然よね……)
反省しつつ、諦めて庭師に花を貰いに行こうとした時に一人の青年が声を掛けてくれた。
「あの、お嬢様……宜しければ俺がお手伝いします」
「えっ、いいの?」
「料理長には劣りますが、いつもデザートを担当していますし……」
"デザート"と聞いて、その青年の元へ駆け寄った。
そして瞳を輝かせながら手を取った。
「貴方がいつもデザートを作ってくれているのね!わたくし、いつもデザートを楽しみにしているの!プリンもババロアも、ケーキもタルトも可愛くて美味しくて、全部大好きよ!!」
青年はその言葉に顔をほんのりと赤く染めた。
いつも食後のデザートを楽しみにしていた。
寂しい食卓を紛らわせてくれる鮮やかな色彩と可愛らしいデザインは、此方を気遣ってくれているように思えた。
「中でもチョコレートケーキ……!あれは最高に美味しいわ」
どれも絶品なのだが、あのチョコレートケーキだけは何個でも食べたいと思ってしまう。
濃厚で甘すぎなくて、しっとりした生地が口の中で溶け出すのだ。
「あのチョコレートケーキは……」
「……?」
「チョコレートケーキだけは、料理長が作るんです」
「え……?」
「先程も、お嬢様が言った料理が……全て料理長の娘さんの好物と一緒で」
「……娘さん?」
「ずっと病気なんです……」
「!!」
「俺……何度か娘さんに会ったことあるんですけど、お嬢様みたいに白くて丸いパンを兎みたいって言っていたんです。あとパパの作るチョコレートケーキとオニオンスープが大好きだって。だから料理長は……」
どうやら先程、料理長は病気の娘とリオノーラを重ねて考えてしまっていたようだ。
「……そうなのね」
「すみません……料理長には俺が言った事、黙っててくれませんか?」
「分かったわ」
「ありがとうございます!さぁ、お嬢様。クッキーを作りましょう!」
「ありがとう、お名前は?」
「俺は、ワルフです」
ワルフはニッコリ笑うと、厨房に立ちやすいように踏み台を持ってきてくれた。
莉子の時の記憶が役立ったのもあるが、ワルフの教え方も上手く、無事に甘さを控えた美味しいチョコチップクッキーを作ることが出来た。
オーブンの前でワルフと談笑しながらナッツが入ったクッキーが焼けるのを待っていると、バタンと荒くドアが開く音がして、驚いて二人で後ろを振り返る。
「モニカ……!」
「え…?」
「………っ!お嬢様…………申し訳ない」
料理を作る姿を見て、娘と間違えたのだろうか。
料理長は帽子を外して、クシャリと握りしめた後に下を向いて椅子に座り、何かを考え込んでいるようだった。
これ以上は昼食の準備に差し障るからとシンシアに耳打ちされて、料理長とワルフにお礼を行って厨房を後にする。
モヤモヤした気持ちを抱えたままリオノーラは一度立ち止まって後ろを振り返った。
庭師と共に花を摘んで馬車に乗り込み、ゾイの元へ向かった。
end
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