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029 / さあ、剣を取りたまえ
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二色の人工精霊が、石造りの遺跡を淡く照らし出す。
色の異なる光が混じり合い、通路の濃淡を際立たせるさまは、自分が一人ではないことの証明であるように思えた。
「へえー。ここが、リュータがソロで潜ってたところなんだね」
ダンジョンに足を踏み入れて数分、フェリテが物珍しげに周囲を見回している。
「まだ第一層だけどな。とっくに完全攻略された部分だし、危険もない。遺跡観光と大して変わらないよ」
「本番は五層から、だね」
「ああ。俺のログを読んだからわかると思うけど、難度は高いほうだ。フェリテは、どんな魔物までなら相手取る自信がある?」
「……えーと」
フェリテが気まずそうに目を逸らす。
「そもそも、魔物に攻撃が当たったことがないと言いますか……」
「あー」
そりゃそうか。
あんなアホみたいに重い武器を振り回していれば、棒立ちの人形にすら当てることは難しいだろう。
もっとも、当たりさえすれば、大半の魔物は一撃必殺だろうけれど。
「でも、武器が軽くなったから大丈夫!」
そう言って、フェリテが、背中に担いだ戦斧の柄に手を伸ばす。
「頼むから通路で素振りしないでくれよ。隣で大斧をぶんぶん振り回されたら、いくらなんでも怖い」
「たしかに……」
フェリテが素直に柄から手を離す。
「ごめん、自在に動けるのが嬉しくて」
今までバトル漫画の修行パートみたいな真似を延々と続けてきたのだから、それはそれは体が軽いことだろう。
フェリテは、駆け出し冒険者ながら、筋力が一般人より抜きん出ている。
案外、冒険者としての才気に溢れているのかもしれない。
「──そうだな」
試してみるか。
俺は、新しい羊皮紙を生成すると、クリップボードに挟み込んだ。
「お、何書くの?」
「会話を綴っておくんだよ」
「大したこと話してないと思うけど……」
「練習、練習。日常会話のすべてを覚えておくなんて不可能なんだから、余裕のあるときにメモを取る癖をつけておかないと」
「なるほど。吟遊詩人って、やることたくさんあるもんね」
とは言え、この世界に転移してから、記憶力が目に見えて向上している。
吟遊詩人という職業におけるパッシブスキルのようなものだろう。
フェリテに告げたことは、すべて言い訳だ。
彼女の隙を突いて、羊皮紙にこう書き綴る。
【ダンジョン第一層】
【工藤竜太とフェリテ=アイアンアクスは、唐突に魔物と遭遇する】
【それは三体の大ネズミだ】
【恐らく、ダンジョンの奥で細々と生を繋いでいた魔物たちの生き残りなのだろう】
【大ネズミたちは、二人を視界に入れると、問答無用で襲い掛かってきた】
羊皮紙を意識野に収納し、様子を見る。
しばしののち、
「──!」
フェリテが立ち止まり、通路の奥に目を凝らす。
決して大きくはない足音が、こちらに近付いてきていた。
「何か、いる」
人工精霊が照らし出す範囲に無遠慮に入り込んだのは、三体の大ネズミだった。
ネズミとは言え、その身長は俺たちの腰の高さほどもある。
外見がネズミに似ているだけの、まったく別の生物なのかもしれない。
「魔物! こんなところに……」
「フェリテ、行けるか」
フェリテが戦斧の柄を握り締め、構える。
「昨夜と同じように、2ラウンドで片付けてやる!」
「現実はラウンド制じゃないぞ」
「わかってるよー……」
さて、お手並み拝見と行こう。
魔物としては最弱レベルの大ネズミも倒せないようでは、隠し通路の奥へ連れて行くのは厳しいかもしれない。
俺は、クリップボードを邪魔にならないところへ放ると、腰に佩いた長剣を抜き放った。
「──来るぞ!」
色の異なる光が混じり合い、通路の濃淡を際立たせるさまは、自分が一人ではないことの証明であるように思えた。
「へえー。ここが、リュータがソロで潜ってたところなんだね」
ダンジョンに足を踏み入れて数分、フェリテが物珍しげに周囲を見回している。
「まだ第一層だけどな。とっくに完全攻略された部分だし、危険もない。遺跡観光と大して変わらないよ」
「本番は五層から、だね」
「ああ。俺のログを読んだからわかると思うけど、難度は高いほうだ。フェリテは、どんな魔物までなら相手取る自信がある?」
「……えーと」
フェリテが気まずそうに目を逸らす。
「そもそも、魔物に攻撃が当たったことがないと言いますか……」
「あー」
そりゃそうか。
あんなアホみたいに重い武器を振り回していれば、棒立ちの人形にすら当てることは難しいだろう。
もっとも、当たりさえすれば、大半の魔物は一撃必殺だろうけれど。
「でも、武器が軽くなったから大丈夫!」
そう言って、フェリテが、背中に担いだ戦斧の柄に手を伸ばす。
「頼むから通路で素振りしないでくれよ。隣で大斧をぶんぶん振り回されたら、いくらなんでも怖い」
「たしかに……」
フェリテが素直に柄から手を離す。
「ごめん、自在に動けるのが嬉しくて」
今までバトル漫画の修行パートみたいな真似を延々と続けてきたのだから、それはそれは体が軽いことだろう。
フェリテは、駆け出し冒険者ながら、筋力が一般人より抜きん出ている。
案外、冒険者としての才気に溢れているのかもしれない。
「──そうだな」
試してみるか。
俺は、新しい羊皮紙を生成すると、クリップボードに挟み込んだ。
「お、何書くの?」
「会話を綴っておくんだよ」
「大したこと話してないと思うけど……」
「練習、練習。日常会話のすべてを覚えておくなんて不可能なんだから、余裕のあるときにメモを取る癖をつけておかないと」
「なるほど。吟遊詩人って、やることたくさんあるもんね」
とは言え、この世界に転移してから、記憶力が目に見えて向上している。
吟遊詩人という職業におけるパッシブスキルのようなものだろう。
フェリテに告げたことは、すべて言い訳だ。
彼女の隙を突いて、羊皮紙にこう書き綴る。
【ダンジョン第一層】
【工藤竜太とフェリテ=アイアンアクスは、唐突に魔物と遭遇する】
【それは三体の大ネズミだ】
【恐らく、ダンジョンの奥で細々と生を繋いでいた魔物たちの生き残りなのだろう】
【大ネズミたちは、二人を視界に入れると、問答無用で襲い掛かってきた】
羊皮紙を意識野に収納し、様子を見る。
しばしののち、
「──!」
フェリテが立ち止まり、通路の奥に目を凝らす。
決して大きくはない足音が、こちらに近付いてきていた。
「何か、いる」
人工精霊が照らし出す範囲に無遠慮に入り込んだのは、三体の大ネズミだった。
ネズミとは言え、その身長は俺たちの腰の高さほどもある。
外見がネズミに似ているだけの、まったく別の生物なのかもしれない。
「魔物! こんなところに……」
「フェリテ、行けるか」
フェリテが戦斧の柄を握り締め、構える。
「昨夜と同じように、2ラウンドで片付けてやる!」
「現実はラウンド制じゃないぞ」
「わかってるよー……」
さて、お手並み拝見と行こう。
魔物としては最弱レベルの大ネズミも倒せないようでは、隠し通路の奥へ連れて行くのは厳しいかもしれない。
俺は、クリップボードを邪魔にならないところへ放ると、腰に佩いた長剣を抜き放った。
「──来るぞ!」
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