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041 / わからないからこそ面白い
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「──……なるほど」
これが、実話なのだ。
人気の娯楽になるはずだ。
同時に、冒険譚における死の重要性についても理解できてしまう。
亡くなった人々には悪いが、死を以て展開が引き締まり、盛り上がることは間違いない。
同時に、死を金儲けの道具にしているという忌避感《きひかん》も、たしかにある。
アーネのような優しい人が好まないのも、また当然だろう。
「……"最高の冒険譚"、か」
最低でも、この物語を超えなければならない。
それも犠牲者を出すことなく。
「やっぱ、パーティメンバーもっと欲しいよなあ……」
可能ならヒーラーを加入させたい。
治癒薬は、飲んだ分量と回復量とが比例しないため、調整が難しいのだ。
軽傷でも重傷でも等しく銀貨が飛んでいく。
だからと言って、ゲームみたいにHPが減るまで治癒薬を温存するわけにも行かない。
痛みで動きが鈍くなれば、一撃で殺されることもあり得るからだ。
"最高の冒険譚"には、最高の仲間が必要だ。
隠し通路の噂を聞きつけてこの街を訪れる冒険者たちは、これから増えていくだろう。
素晴らしい仲間を見つけることができればいいのだが。
そんなことを考えていると、
「──……ん、むー……」
しょぼしょぼと目元を擦りながら、フェリテが身を起こした。
フェリテに借りた懐中時計を確認する。
「おはよう、フェリテ。まだ二時間半しか寝てないけど、大丈夫か? 俺が八時間寝ちまったから、気にせず二度寝していいぞ」
「……ううん、らいじょぶ……」
水で濡らした手拭いで顔を拭くと、フェリテの目がぱちりと開いた。
「おはよ、リュータ。暇じゃなかった?」
「ああ。フェリテから借りた冒険譚のおかげでな」
そう言って、本を返す。
「面白いでしょ。どこまで読んだ?」
「全部読んだよ」
「え、早い!」
「……早いか?」
文庫本一冊で二時間なら、普通だろう。
「……やっぱり、あたしが遅いのかなあ」
フェリテのしおりは、三分の二ほど読み進めたところに挟まれていた。
「そうかもなあ。八時間かけて、そこだろ?」
「ううん」
フェリテが首を横に振る。
「隣の街で買ったから、もっと時間かけてるよ」
「……それは、ちょっと遅いかもしれない」
「やっぱりかー……」
苦笑し、フェリテが言い訳めいた言葉を紡ぐ。
「あのね、読むだけなら普通に読めるんだよ。でも、文章と文章のあいだの出来事とか会話とかを想像してると、いつの間にか時間が経ってて」
想像力が豊かと言うか、妄想力がたくましいと言うか。
「でも、いいことじゃないか」
「いいことなの……?」
「俺みたいにさっさか読んじゃうと、暇つぶしにならないだろ。冒険者なんて要は家無しなんだから、荷物は少ないほうがいい。何冊も持って歩けないんだから、一冊を徹底的に楽しみきるのは正しいよ」
「……そんなふうに考えたこと、なかったなあ。読むのが遅いって、よく馬鹿にされたから」
「書き手にとっては喜ばしいはずだぞ。命を懸けた自分たちの冒険《ログ》を、何日も何日もかけて冒険譚に仕上げたんだ。一時間とか二時間でほいほい読まれるより、フェリテみたいに大切に読み込んでくれたほうが嬉しいに決まってる」
「えへへ。じゃあ、あたしはいい読者なのかも」
「その通り。馬鹿にしたやつらを心の中で見下してやりなさい」
「しないよー……」
いい子だ。
「──じゃ、軽くストレッチしたら、六層を見に行こうか」
「うん、そうしよう。六層も洞窟なのかな」
「かもしれないし、違うかもしれない。わからないのが楽しいだろ」
「たしかに!」
凝り固まった筋肉をストレッチでほぐし、身支度を整えたあと、休憩所代わりの脇道を後にする。
新たなダンジョンを見つけてから初めての階層移動だ。
何が俺たちを待ち受けているのか、まだわからない。
わからないからこそ面白いのだ。
これが、実話なのだ。
人気の娯楽になるはずだ。
同時に、冒険譚における死の重要性についても理解できてしまう。
亡くなった人々には悪いが、死を以て展開が引き締まり、盛り上がることは間違いない。
同時に、死を金儲けの道具にしているという忌避感《きひかん》も、たしかにある。
アーネのような優しい人が好まないのも、また当然だろう。
「……"最高の冒険譚"、か」
最低でも、この物語を超えなければならない。
それも犠牲者を出すことなく。
「やっぱ、パーティメンバーもっと欲しいよなあ……」
可能ならヒーラーを加入させたい。
治癒薬は、飲んだ分量と回復量とが比例しないため、調整が難しいのだ。
軽傷でも重傷でも等しく銀貨が飛んでいく。
だからと言って、ゲームみたいにHPが減るまで治癒薬を温存するわけにも行かない。
痛みで動きが鈍くなれば、一撃で殺されることもあり得るからだ。
"最高の冒険譚"には、最高の仲間が必要だ。
隠し通路の噂を聞きつけてこの街を訪れる冒険者たちは、これから増えていくだろう。
素晴らしい仲間を見つけることができればいいのだが。
そんなことを考えていると、
「──……ん、むー……」
しょぼしょぼと目元を擦りながら、フェリテが身を起こした。
フェリテに借りた懐中時計を確認する。
「おはよう、フェリテ。まだ二時間半しか寝てないけど、大丈夫か? 俺が八時間寝ちまったから、気にせず二度寝していいぞ」
「……ううん、らいじょぶ……」
水で濡らした手拭いで顔を拭くと、フェリテの目がぱちりと開いた。
「おはよ、リュータ。暇じゃなかった?」
「ああ。フェリテから借りた冒険譚のおかげでな」
そう言って、本を返す。
「面白いでしょ。どこまで読んだ?」
「全部読んだよ」
「え、早い!」
「……早いか?」
文庫本一冊で二時間なら、普通だろう。
「……やっぱり、あたしが遅いのかなあ」
フェリテのしおりは、三分の二ほど読み進めたところに挟まれていた。
「そうかもなあ。八時間かけて、そこだろ?」
「ううん」
フェリテが首を横に振る。
「隣の街で買ったから、もっと時間かけてるよ」
「……それは、ちょっと遅いかもしれない」
「やっぱりかー……」
苦笑し、フェリテが言い訳めいた言葉を紡ぐ。
「あのね、読むだけなら普通に読めるんだよ。でも、文章と文章のあいだの出来事とか会話とかを想像してると、いつの間にか時間が経ってて」
想像力が豊かと言うか、妄想力がたくましいと言うか。
「でも、いいことじゃないか」
「いいことなの……?」
「俺みたいにさっさか読んじゃうと、暇つぶしにならないだろ。冒険者なんて要は家無しなんだから、荷物は少ないほうがいい。何冊も持って歩けないんだから、一冊を徹底的に楽しみきるのは正しいよ」
「……そんなふうに考えたこと、なかったなあ。読むのが遅いって、よく馬鹿にされたから」
「書き手にとっては喜ばしいはずだぞ。命を懸けた自分たちの冒険《ログ》を、何日も何日もかけて冒険譚に仕上げたんだ。一時間とか二時間でほいほい読まれるより、フェリテみたいに大切に読み込んでくれたほうが嬉しいに決まってる」
「えへへ。じゃあ、あたしはいい読者なのかも」
「その通り。馬鹿にしたやつらを心の中で見下してやりなさい」
「しないよー……」
いい子だ。
「──じゃ、軽くストレッチしたら、六層を見に行こうか」
「うん、そうしよう。六層も洞窟なのかな」
「かもしれないし、違うかもしれない。わからないのが楽しいだろ」
「たしかに!」
凝り固まった筋肉をストレッチでほぐし、身支度を整えたあと、休憩所代わりの脇道を後にする。
新たなダンジョンを見つけてから初めての階層移動だ。
何が俺たちを待ち受けているのか、まだわからない。
わからないからこそ面白いのだ。
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