なんでもできるスキル〈ゲームマスター〉を手に入れたけど速攻飽きたので、ヒロインを「俺の考えた最強の主人公」に仕立て上げます

八白 嘘

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072 / グラスを満たす水撃呪

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 第五層の討伐から一週間、俺は、ルクレツィアの元で水撃呪を学び続けていた。
 ルクレツィアに教えた通り、魔法の修練において最も重要なのは、座学だ。
 だが、実践が伴わなければ、自らの理解が正しいのかどうかを判断できない。
 座学と実践、どちらも欠かしてはならないものなのだ。

「──ル、ヨーシュ、ヘネク」

 木陰に座す切り株に置かれたグラス、その真上に、ちょうど一杯分ほどの大きさの水球が現れる。
 水球はやがて小さく弾け、数滴を周囲に散らしながら、グラスを満たした。

「ふー……」

 ルクレツィアが、小さく拍手を送ってくれる。

「素晴らしいですわ、リュータさん。たった一週間でこのグラスを満たす量の水を生成できるようになるとは。やはり、火炎呪を極めているが故に、他の系統に対しても理解が早いのですわね」

「普通はどのくらいかかるものなんだ?」

「早ければ一ヶ月、遅くて半年といったところでしょう。ただ、これは、実践のみで水撃呪を学んだ場合ですわ。リュータさんの指摘通り座学を中心に行えば、もっと早くなるかもしれません」

 実践のみの鍛錬は非常に効率が悪い。
 解き方を理解していない計算問題を、ひたすらに解かされるようなものだ。
 膨大な試行回数から自分なりの法則を見つけ、習得する。
 こんな手探りの方法では、正しい理解は難しい。

「……しかし、こう、やたらと疲れるな。理解が浅いから魔力のロスが大きいんだろうか。正直、大火炎呪を使ったほうが、まだましな気がする」

「わたくしとしては、そちらの魔力効率の高さに驚きを隠せないのですが……」

〈ゲームマスター〉によって与えられたのは、火炎呪に対する完全な理解だ。
 もともとの職業がプログラマーであったことも重なり、火炎呪と定義される魔法の範疇において、できないことはないと言っていい。
 火炎呪が扱うのは、熱エネルギーだ。
 そのため、熱を奪うことすら可能であり、転じて物体を冷やすことも難しくはない。
 もっとも、攻撃魔法に転用できるほどの威力を持たせることはできないが。

「ともあれ、これだけの水量を一度に生成することができれば、十分に実用段階と言えるでしょう。合格、花マルです」

「おっしゃ!」

 思わずガッツポーズを取る。

「魔力効率に関しては、慣れが大きいと思います。生活水は欠かせないものですから、繰り返し使用するうち、すぐに疲れなくなるはずですわよ」

「了解。今までありがとうな、ルクレツィア先生」

「そんな、先生などと。わたくしから見れば、リュータさんのほうが先生ですわ。事実、詠唱破棄での魔法発動までにかかる時間が徐々に短くなってきているのです。まだ、ほんの一秒ほどですが」

「元はどのくらいかかってたんだ?」

「……恥ずかしながら、三十秒少々は」

 なるほど。
 そりゃ、詠唱したほうが手っ取り早いわな。

「恐らく、多くの魔法使いは、詠唱に頼るから理解がおろそかになるんだろうな。詠唱破棄の有用性に気付いた者、あるいは気付いている者に師事した人間だけが、大呪、極大呪を扱えるようになる」

「たしかに、その通りかもしれませんわね。多くの極大呪使いが滅多に弟子を取らないのも、あの極大火炎呪の威力を見れば頷けます。あれは、強すぎる。容易に国家間のパワーバランスすらも崩すでしょう」

「だろうなあ……」

 戦争などで極大呪使いを味方にできれば、もう勝ち確だ。
 そして、両陣営に極大呪使いが揃っていれば、それは悲劇でしかない。
 互いに互いを潰し合い、雑草一本残らないだろう。

「実際、アーネに借りて有名どころの冒険譚を何冊も読んでるんだけど、極大呪使いって一度も出てきてないんだよ。それだけ少ないんだろうな」

「大呪使いまでは時折見掛けるのですが、極大呪使いは滅多に登場しませんわね。しかし、わかる気もいたします。なんでもかんでも極大呪で蹂躙、解決となれば、面白い冒険譚になるとはとても思えませんから」

「あー……」

 まさしくその通りだ。
 大呪使いで留めておけばよかったかもしれない。
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