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086 / 巨大木人との死闘(2/2)

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 脳内で命令文《コマンド》を走らせる。
 眼前から炎の矢が放たれ、それが戦斧に違わず命中する。
 刃から炎が溢れ出し、生木を焦がして戦斧が落ちた。
 がらん、がらん、と重い音が響く。

「いよッし!」

 臆すことなく、フェリテが戦斧を拾いに行く。
 巨大木人が、その両腕を、思いきり地面に叩き付けた。
 衝撃で根がめきめきと折れる。
 だが、フェリテのほうが僅かに早かった。
 三十キロはあるはずの戦斧を軽々と拾い上げると、再び構える。
 炎の噴き出す斧を構えるさまが、ひどく様になっていた。

「リュータ、このまま左足を切り倒しちゃおう!」

「了解!」

 長剣を抜き、炎属性付与《エンチャント・ファイア》を行う。
 これで、あの硬い体にも攻撃が通るだろう。
 巨大木人はフェリテに狙いを定めている。
 俺は、可能な限りの速度で距離を詰めると、半ばほど寸断され焼け焦げている巨人の左足を薙いだ。

 ──ボッ!

 生木が焦げる臭いと共に、その傷がさらに深くなる。
 その巨体ゆえ、炎属性を付与した長剣で斬りつけても、一瞬で燃え上がることはなかった。

「リュータ、なーいす!」

「このまま行けそうだな!」

「切り倒しちゃうよー!」

 巨大木人がフェリテを狙えば、その隙を突いて俺が斬りつける。
 俺に狙いを変えれば、フェリテが同じことをする。
 巨大木人の左足が、どんどんボロボロになっていく。
 やがて、

「──終わりだああああッ!」

 フェリテの炎斧が、ついに、巨大木人の左足を打ち崩した。
 巨人がバランスを崩し、その場に倒れ伏す。

「よーし、勝利!」

「いや、まだわからない。油断するなよ」

「うん!」

 数秒、
 十数秒、
 数十秒──

 木人は、もう動かない。

「……倒したか?」

「みたい、……かな」

「フー……」

 左手の甲で額の汗を拭う。

「まさか、こんなでかいのと対峙するとは思わなかったよ」

「ねー」

 互いに苦笑する。

「さ、樹の中を見に行こう! 何があるかなー」

「なんだろうな。隠されていたからには、重要なものなんだろうけど」

 会話の途中、炎属性付与《エンチャント・ファイア》の効果時間が切れる。
 戦斧と長剣の刃から、熱だけを残し、炎が掻き消えた。

「もしかして、階段だったり──」

 そう、口にした瞬間だった。



 ──唐突に、意識が刈り取られた。



 意識が飛んだのは、ほんの一瞬だ。
 だが、それは、俺がその場に倒れるのに十分な時間だったらしい。

「な、……あ──」

 頭が痺れている。
 こめかみから、ぼたぼたと熱いものが垂れている。

「リュータ!」

 フェリテが俺を抱き起こす。
 何があった?
 その答えは、すぐ傍にあった。
 木人だ。
 普段相手にしているものより遥かに小型の木人が、その右手の先を赤く赤く染め上げている。
 殴られたのだ。
 それも、血液が噴き出すくらいに激しく。
 そして──

 小型の木人は、巨人の残骸から、次々と生み出されていた。
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