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───カイルの一突き、胸を捉えました。うなり声を上げて、オークが倒れこみます。飛び退くカイル。危なげない勝利です。えもいわれぬ鮮やかなお手並み、返り血一つ浴びずに、いわんやかすり傷をや。実に見事であります。…
「消してくれ」
退屈そうにソファーにもたれながら、男がそう告げると、魔音器のそばにいた別の男が音声を切った。
ソファーの男は体躯がよくいかにも戦士といった風貌で、もう一人の男は、対照的な優男である。
「これまた退屈な詩だ。カイルのところもメンツはいいが、詩人がいまいちだな。堅苦しくて聞いちゃいられない。もう他のパーティはないのか?」
催促され、優男の方が魔音器を操作する。長い時間、このようなやり取りを繰り返していたのだろうか、二人とも傍にあるグラスの中身は乏しい。
「もうだいぶ聞いたからなぁ…ん、ちょうど今から始まるのが一つだけあるね。」
「おっ、何てところだ?」
「えーっと、ヴィクトリー・エンジェルズ、だって。聞いたことないパーティだね。」
「しゃらくさいパーティ名だな。まいい、つけてくれ。詩人はマシなのかもしれん。」
「だといいけど」
──勇気を讃え、怒りを歌え、女神よ。英雄ユーリ達の勇姿を今、歌い給えよ。
さぁ、全国1000万の冒険者ファンの皆様、ごきげんよう。ユーリパーティ所属、吟遊詩人のフレキスであります!
本日ミノタウロスの月、14日、時刻は凡そ正午から一刻を過ぎたところでありましょうか。午前の内はここ、アガノン領も柔らかな春雨が通りすぎ、キリ盆地の花畑一帯を白く霞ませて幻想的な風景を創出しておりましたが、正午を過ぎに一転、今は気持ちの良い日差しが差し込めて参りました。私の魔導詩が届く王都におかれましては、ご近所の奥様方とおしゃべりに興じながらこれを聞いている方々も多いかもしれません、あるいはまた、仕事場で午後の業に取りかかりはじめ、職場でながらに耳を傾けている、そんな旦那方も多いことでしょう。いずれにせよ、麗らかな午後の昼下がりといったところ。しかし、しかしながら今日、我がパーティにそのような余裕は一切ございません。ユーリ一向は何と、これより、邪竜が住まうという湖畔の洞窟へと、足を踏み入れようという、まさにその瞬間であります。これをお聞きの皆様はまだ記憶に新しいことでしょう、お忘れの方もどうか思い出して頂きたい、先日の緊急魔導詩において何があったか。そう、領主アガノン伯爵は、女性だけの穢らわしいパーティに、自領を通過されるなど我慢ならないと、我がヴィクトリー・エンジェルズに通行許可証を発行しないという暴挙に出たのであります。胸先三寸、ヒレネ山脈とシュリ大森林に挟まれたこの要地、他に道はないと知っての傍若無人。十全なる偏見、そして十二分の悪意をもって、ユーリ達を出迎えたのであります。並大抵の冒険者であるなら、そこで進路を変更するものでしょう。ところが、ヴィクトリー・エンジェルズのリーダー、ユーリは、売られた喧嘩は買うか落札するか、領主が怖じ気づき放置されている哀れな領民を助けるためにも、ドラゴンの首を通行手形としてくれてやろう、とそう決断したのであります。さすがはデンジャラス・ウーマンといったところであり、おっと、今休憩もそこそこに、ユーリ達が荷を背負い、いよいよ、洞窟の中へと入る模様です。ゆっくりと、何やら一言二言言葉を交わし、今、歩を進めながら洞穴へ向かいながら周囲を見渡すユーリ。事情を知らなければハイキングのような、そんな穏やかな光景。横に広がる、午後の光に照らされた静かなこの、セルレアン・ブルーの湖畔の美しさとは対象的、ぽっかりと口を開いた、巨大な天然石造りアーチ、さながらタンテールの地獄門か、一寸先は闇、それを彷彿とさせるその不気味さは、やや後方の私でさえも足が震えようという迫力であります。今、入っていきました、早くもパーティは一人、また一人と、地獄門の先、その暗闇に飲みこまれていきます、後を追いましょう。…
男二人は無意識に、ただ真剣に耳を傾けていた。
「消してくれ」
退屈そうにソファーにもたれながら、男がそう告げると、魔音器のそばにいた別の男が音声を切った。
ソファーの男は体躯がよくいかにも戦士といった風貌で、もう一人の男は、対照的な優男である。
「これまた退屈な詩だ。カイルのところもメンツはいいが、詩人がいまいちだな。堅苦しくて聞いちゃいられない。もう他のパーティはないのか?」
催促され、優男の方が魔音器を操作する。長い時間、このようなやり取りを繰り返していたのだろうか、二人とも傍にあるグラスの中身は乏しい。
「もうだいぶ聞いたからなぁ…ん、ちょうど今から始まるのが一つだけあるね。」
「おっ、何てところだ?」
「えーっと、ヴィクトリー・エンジェルズ、だって。聞いたことないパーティだね。」
「しゃらくさいパーティ名だな。まいい、つけてくれ。詩人はマシなのかもしれん。」
「だといいけど」
──勇気を讃え、怒りを歌え、女神よ。英雄ユーリ達の勇姿を今、歌い給えよ。
さぁ、全国1000万の冒険者ファンの皆様、ごきげんよう。ユーリパーティ所属、吟遊詩人のフレキスであります!
本日ミノタウロスの月、14日、時刻は凡そ正午から一刻を過ぎたところでありましょうか。午前の内はここ、アガノン領も柔らかな春雨が通りすぎ、キリ盆地の花畑一帯を白く霞ませて幻想的な風景を創出しておりましたが、正午を過ぎに一転、今は気持ちの良い日差しが差し込めて参りました。私の魔導詩が届く王都におかれましては、ご近所の奥様方とおしゃべりに興じながらこれを聞いている方々も多いかもしれません、あるいはまた、仕事場で午後の業に取りかかりはじめ、職場でながらに耳を傾けている、そんな旦那方も多いことでしょう。いずれにせよ、麗らかな午後の昼下がりといったところ。しかし、しかしながら今日、我がパーティにそのような余裕は一切ございません。ユーリ一向は何と、これより、邪竜が住まうという湖畔の洞窟へと、足を踏み入れようという、まさにその瞬間であります。これをお聞きの皆様はまだ記憶に新しいことでしょう、お忘れの方もどうか思い出して頂きたい、先日の緊急魔導詩において何があったか。そう、領主アガノン伯爵は、女性だけの穢らわしいパーティに、自領を通過されるなど我慢ならないと、我がヴィクトリー・エンジェルズに通行許可証を発行しないという暴挙に出たのであります。胸先三寸、ヒレネ山脈とシュリ大森林に挟まれたこの要地、他に道はないと知っての傍若無人。十全なる偏見、そして十二分の悪意をもって、ユーリ達を出迎えたのであります。並大抵の冒険者であるなら、そこで進路を変更するものでしょう。ところが、ヴィクトリー・エンジェルズのリーダー、ユーリは、売られた喧嘩は買うか落札するか、領主が怖じ気づき放置されている哀れな領民を助けるためにも、ドラゴンの首を通行手形としてくれてやろう、とそう決断したのであります。さすがはデンジャラス・ウーマンといったところであり、おっと、今休憩もそこそこに、ユーリ達が荷を背負い、いよいよ、洞窟の中へと入る模様です。ゆっくりと、何やら一言二言言葉を交わし、今、歩を進めながら洞穴へ向かいながら周囲を見渡すユーリ。事情を知らなければハイキングのような、そんな穏やかな光景。横に広がる、午後の光に照らされた静かなこの、セルレアン・ブルーの湖畔の美しさとは対象的、ぽっかりと口を開いた、巨大な天然石造りアーチ、さながらタンテールの地獄門か、一寸先は闇、それを彷彿とさせるその不気味さは、やや後方の私でさえも足が震えようという迫力であります。今、入っていきました、早くもパーティは一人、また一人と、地獄門の先、その暗闇に飲みこまれていきます、後を追いましょう。…
男二人は無意識に、ただ真剣に耳を傾けていた。
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