【完結】光と影の連弾曲

文字の大きさ
13 / 23

第十三話

しおりを挟む
 久しぶりの秀司との邂逅に話に花を咲かせていつの間にか俺はベロンベロンになってしまっていた。店を出た頃には意識はぼんやりとしていて、足元がおぼつかない。対して秀司は酒に強いのか自分の足でしっかり立っていた。
「透、大丈夫か?」
 秀司が倒れないよう俺の体を支える。
「んぁ~? だぁいじょうぶ、だぁいじょうぶ」
「そうか、大丈夫じゃないんだな。透、家どこだ?」
「家~? 家は今日帰らん! 近くで泊まってくぅ」
 そう言うと秀司はスマホを片手に何か調べてくれているようだった。
 眠い……。
 立ってるのも億劫になってきて道端に腰を下ろす。眠気にもうここで眠ってしまってもいいかとさえ思えてきた。
「……透、近くにホテル一件あったぞ──」
 俺を見て慌てて道路に倒れる体を支える。
「はぁ、呑みすぎだっての。透、自分で立てそうか?」
「むりぃ」
「仕方ないな」
 秀司が俺を「よいしょ」とおんぶする。触れる大きな背中は暖かくてお日様のような匂いがした。心地よさに離さないようにぎゅっと首の前に回した手を掴んでしがみついた。
 うなじをスンスンと嗅ぐとポカポカとしたお日様の匂いが強まるようだった。
「透、もしかして俺のこと嗅いでる?」
「……俺、一番この匂い好き」
 変態じみた行為だが酔っ払ってる今の俺に常識は通じない。顔を真っ赤に仰天しようが、くすぐったそうに身を捩ろうが、構わず嗅ぎ続ける。
 リラックスして瞼が重たくなる。次に目が覚めた時は見覚えのない天井だった。ベッドのふんわりした肌触りにもう一度寝たくなるが、物音に目を向けると秀司が荷物を整えて今出て行こうとしているところだった。
 このまま何もしなければ秀司はそのまま部屋を去るだろう。言わなくてはと思った。今言わなきゃずっと言いづらいままだと思った。
「……秀司」
 こちらを振り向く。
「起きたのか。水いるか?」
「いや、いい……」
 起き上がって秀司と向き合う。
「あのさ……」
「ん?」
「ごめんな。あの時、お前にひどいこと言って」
「あの時?」
「俺が家を出て行ったあの日、海で秀司、俺に言ってくれたじゃないか。そん時俺、お前にひどいこと言った。男が男を好きになんのはおかしいって。突き放すようなことお前に言った」
 秀司はじっと俺の言葉に耳を傾ける。
「あれから色々あって俺も色んなことを知った。あん時の俺は戸惑ってて受け入れられなくてとにかく逃げたかったんだと思う。俺、お前がちゃんと想いを伝えてくれたのに俺はそれを無下にして、それどころか秀司を傷つけちまった。……本当にごめん」
 秀司の悲壮な顔を思い出す。ずっと悔やんでいた。秀司にあんな顔をさせてしまったことに。想いをなかったことにしてしまったことに。
 友達だと思ってた奴から告白された。こういう繊細な問題に昔ながらの付き合いでもやっぱり言い出しづらくて結局酒の力を頼ってしまった。
「もう昔のことだ。今はもう気にしてない。けど透がそう言うなら俺は許すよ。けど……」
「えっ」
 柔らかな衝撃が背中に伝わる。秀司の顔が間近に迫って心臓がドクンと跳ね上がった。体の横に両腕で拘束されるようにベッドと挟まれて、押し倒されたと気付いたのはそのすぐ後だった。
「しゅ、秀司!?」
「勝手に過去の話にしないでくれ」
 眉間に皺を寄せて秀司が言う。その言葉に俺の謝り方が悪かったのだとすぐ察した。
「ごめん! 勿論過去の話だなんて思ってない。もう昔のことだからって俺は楽になろうだなんて考えてない」
「そういうことじゃない」
「えっ……」
「勝手に俺がお前のこと好きだったんだなんていう風に言うな。透はそう思い込んでいるようだが、六年前からずっと今も俺の気持ちは変わったことなんてない」
 混乱して意味を上手く掴み取れない。秀司の気持ちは六年前から変わっていない。えっそれってつまり……。
「俺は今も透が好きだ」
 顔から首筋までみるみるうちに赤くなる。頭が沸騰してどうにかなりそうだった。
「透はどうなんだ?」
「っうぇ? ど、どうって?」
「透は俺のことどう思ってるんだ?」
「俺は……」
 秀司は俺の大切な幼馴染だ。それ以上なんて考えたことはなかった。
「わ、分からない」
 秀司が俺の頬に手を添える。
「嫌か?」
 首を横に振る。冷え性の俺とは違って温度の高い骨張った指先。相手は幼馴染だというのに不快感は全く湧かなかった。いやむしろ……。
「……もっとこうしていたい。秀司をもっと感じたい」
 欲と高まる胸の鼓動にやっと気付いた。
 そうか、俺は秀司のことが好きなんだ。
 秀司がゆっくりと顔を近づける。キスされるんだと思った。唇に触れる直前、ヤマトのことが頭に過った。
 俺はヤマトの道具であって恋人でもなんでもない。けど関係を持った自分が秀司に触れていいのだろうか。……そんなのいいはずがない。
 咄嗟に手で俺と秀司の間を防ぐ。秀司が明らかに沈んでいく様子が見てとれた。
「……すまん」
「秀司、違う! これはっ……」
 離れていく秀司に俺はなんとか弁解しようと試みる。けれど理由なんて思い浮かばなかった。だってなんて言えばいいんだ。恋人じゃない、でも関係を持ってる人がいるから無理だって言えば俺がそんな奴だったのかと思われて軽蔑されるだけじゃないのか。
「急にこんなことして悪かったな。俺はタクシー使って帰るから。透、あまり酒は呑みすぎるなよ」
 そうして悩んでる間に秀司はそう言い残して去って行ってしまった。
 追いかけようと思った。ドアノブに手を掛け捻るが、結局俺は開けはしなかった。
 ヤマトと別れてでも秀司と一緒にいたい。それは本気だった。けれど別れたって一緒にいればまた俺は秀司を憎んでしまう。そんなのは嫌だった。
 一緒にいたいのにいれない。
 このどうしようもなさに俺は扉の前に蹲ることしか出来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

寡黙な剣道部の幼馴染

Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……

混血の子は純血貴族に愛される

銀花月
BL
ヴァンパイアと人間の混血であるエイリアは、ある日死んだ父の夢を見る。 父から「忘れないで」と言われた言葉を覚えていなかったエイリアだったが、それは幼馴染みも知らない自分に関する秘密だった。 その夢が発端のように…エイリアから漂う香りが、元祖の血を狂わせていく――― ※改稿予定

【本編完結】黒歴史の初恋から逃げられない

ゆきりんご
BL
同性の幼馴染である美也に「僕とケッコンしよう」と告げた過去を持つ志悠。しかし小学生の時に「男が男を好きになるなんておかしい」と言われ、いじめにあう。美也に迷惑をかけないように距離を置くことにした。高校は別々になるように家から離れたところを選んだが、同じ高校に進学してしまった。それでもどうにか距離を置こうとする志悠だったが、美也の所属するバレーボール部のマネージャーになってしまう。 部員とマネージャーの、すれ違いじれじれラブ。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

番じゃない僕らの恋~俺の唯一だった君~

伊織
BL
高校1年生の蓮(れん)は、成績優秀で運動神経も抜群なアルファ。 誰よりも大切に想っているのは、幼い頃からずっとそばにいた幼なじみのオメガ・陽(ひなた)だった。 初めての発情期(ヒート)──それは、蓮と陽の関係を静かに、でも確実に変えていく。 「陽が、知らない誰かに抱かれるのは嫌だ」 その言葉をきっかけに、陽は蓮だけに身体を預けるようになる。 まだ番にはなれない年齢のふたり。 触れ合えば触れ合うほど、高まる独占欲と焦燥、そして不安。 ただ一緒にいられる今を、大切に過ごしていた。 けれど、優しくあるはずのこの世界は、オメガである陽に静かな圧力を与えていく。 気づけば、陽が少しずつ遠ざかっていく。 守りたくても守りきれない。 アルファであるはずの自分の無力さに、蓮は打ちのめされていく。 番じゃない。 それでも本気で求め合った、たったひとつの恋。 これは、ひとりのアルファが、 大切なオメガを想い続ける、切なくて愛しい学園オメガバース・ラブストーリー。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

素直に同棲したいって言えよ、負けず嫌いめ!ー平凡で勉強が苦手な子が王子様みたいなイケメンと恋する話ー

美絢
BL
 勉強が苦手な桜水は、王子様系ハイスペックイケメン幼馴染である理人に振られてしまう。にも関わらず、ハワイ旅行に誘われて彼の家でハウスキーパーのアルバイトをすることになった。  そこで結婚情報雑誌を見つけてしまい、ライバルの姫野と結婚することを知る。しかし理人は性的な知識に疎く、初夜の方法が分からないと告白される。  ライフイベントやすれ違いが生じる中、二人は同棲する事ができるのだろうか。【番外はじめました→ https://www.alphapolis.co.jp/novel/622597198/277961906】

【BL】正統派イケメンな幼馴染が僕だけに見せる顔が可愛いすぎる!

ひつじのめい
BL
αとΩの同性の両親を持つ相模 楓(さがみ かえで)は母似の容姿の為にΩと思われる事が多々あるが、説明するのが面倒くさいと放置した事でクラスメイトにはΩと認識されていたが楓のバース性はαである。  そんな楓が初恋を拗らせている相手はαの両親を持つ2つ年上の小野寺 翠(おのでら すい)だった。  翠に恋人が出来た時に気持ちも告げずに、接触を一切絶ちながらも、好みのタイプを観察しながら自分磨きに勤しんでいたが、実際は好みのタイプとは正反対の風貌へと自ら進んでいた。  実は翠も幼い頃の女の子の様な可愛い楓に心を惹かれていたのだった。  楓がΩだと信じていた翠は、自分の本当のバース性がβだと気づかれるのを恐れ、楓とは正反対の相手と付き合っていたのだった。  楓がその事を知った時に、翠に対して粘着系の溺愛が始まるとは、この頃の翠は微塵も考えてはいなかった。 ※作者の個人的な解釈が含まれています。 ※Rシーンがある回はタイトルに☆が付きます。

処理中です...