【完結】光と影の連弾曲

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第十四話

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「透、透……」
 大きく体を揺さぶられ、重たい瞼を仕方なく開く。声の方へ向くと柔和に微笑むヤマトが一番最初に目に映った。
「透、おはよう」
「……おはよう」
 起きたばかりのボソボソした声で返事をして眠気に枕に突っ伏す。
「透、もう昼すぎだぞ。そろそろ起きたらどうだ?」
「…………」
「そか。じゃあ俺も一眠りしよっかな~」
 ゴロンと隣に横になって俺を抱きしめる。クーラーは効いてるものの暑苦しい。
 けれど眠気の方が優って離れる気も起きなかった。ヤマトの好きなようにさせていると、Tシャツの裾から手が入り込んでくる。指の先が肌を沿ってサワサワと感触を確かめるように触れる。
 感じたことのない嫌悪感が湧いてくる。
「ヤマト、くすぐったい……」
 腕を掴み、そう言ってやめてもらおうと思ったが、ヤマトは構わず肌に手を滑らせ胸をじっとりと揉みだす。乳輪に触れるか触れないかのところを執拗に責める。ふと胸の尖りに指の腹が掠める。不意打ちに甘い刺激が走り腰が疼いた。
「っ……ゃあっ──」
 溢れる喘ぎを見逃さなかったヤマトが追い打ちをかけるように胸の尖りを抓ったりクリクリと捏ねったりと弄り回す。
 胸を這う手に嫌悪感を抱いているのに体は熱を持ち始め、既に翻弄されてしまっていた。
「目覚めた?」
 上気しきった顔を悪戯成功とばかりにヤマトが楽しげに覗き込む。涙目で放心状態の俺を見てヤマトは前を寛げ、既に緩く勃ち上がったそれを目の前に突き出す。
「ねぇ舐めて」
 正直気持ち悪さでどうにかなりそうだった。
「ヤマト今日は調子悪くて……」
 そう言って察してもらおうと思った。
「大丈夫。軽くでいいから」
 そう言って溜め込んだ欲を押し付ける。吐き気でも催しそうな勢いだが、この際さっさと終わしてしまった方がいいだろう。ここですっきりさせないで後から中に挿入れられるよりもマシだ。
 四つん這いになって、膨らみを食み、ちゅうと吸い上げる。ねっとりと舌を裏筋に這わせ、竿に手を添えながら雁を舐めるとびくびくと快感に震える。湧き上がる嫌悪感を押し込んで口へと招き入れる。脈動を直に感じる。顔を上げればヤマトと目が合った。ハァハァとヤマトは息を荒げて感じ入っているようだった。
 そのまま口淫を続けて早く早くと促す。じゃないと俺がもたない。尿道を舐めたり、吸い上げたりと刺激する。口に広がるしょっぱさが気持ち悪さを増させる。まだかとヤマトを窺おうとすると頭をガッと両手で押さえられ、根本まで口に挿入れさせられる。
「ぅん、むぅっ……!」
 もう限界が近いのだろう。なりふり構わず竿を挿し入れする。込み上げる吐き気と息苦しさに耐えていると、グッと喉奥まで挿入れられる。反射的に吐き出そうとするも頭を強く押さえ込まれ身動きが取れない。
「っはぁ……」
 甘やかな吐息と共に熱い濁流が強制的に流れ込んでくる。吐き出したくて堪らなかったが、ヤマトは離す気がなく呑まざるを得なかった。
「っげほ、ごほっ……」
 やっとのことで自由になる。今すぐトイレに行って吐き出したくなる。調子悪いと吐いていた嘘が本当になってしまった。
「ごめん。軽くするつもりだったけど透が上手すぎてやりすぎちゃった」
 こうやって流れで激しくなることは度々ある。いつものことだと大して悪気もなさそうに笑うヤマトだったが、俺のあまり良くない顔色を見て事態を把握したらしい。
「マジごめん。ほんとやりすぎた。大丈夫か? 吐き気があるのか?」
 そう背中を優しく摩って少しでも楽にさせようとする。
「吐きたいなら吐いちまえ。待ってろ。今用意するから」
 そうして目の前に風呂から持ってきただろう桶が置かれる。もう耐えれなかった。底をティッシュで敷き詰められたそれに嘔吐する。全部吐き出す間、ヤマトはずっと背中を撫でてくれていた。
「落ち着いた?」
 手渡されたコップの水で喉を潤す。胃液のせいで傷ついたのか喉が少し痛い。けれどもう吐き気はなくなっていた。ヤマトの言葉にコクリと頷くと丁度ピピッと軽い電子音が鳴った。
「どれ見せて」
 ヤマトの言う通り脇の下から差し込んでいた体温計を出して手渡す。「うーん」とヤマトが唸った。
「え? もしかして熱ある?」
「いや熱はないんだけど……心配だし、医者行く?」
 決断を委ねるように俺へと軽く首を傾げる。医者なんて家出をしてから全く行っていない。健康保険証を家に忘れるという痛恨のミスをしでかしたからだ。
「いやいやいーよ。医療費馬鹿デカくなりそうだし。きっと疲れてただけだよ」
「疲れ?」
 余計なことを言ってしまった。ヤマトにとっては働いてもいないのに疲れているってどういうことだと疑問に思うだろう。
 俺はヤマトの専属なのに他の男と関係を持とうとしたことは多分彼にとっては気に触ることではない。ただ俺はヤマトと秀司に間接的にでも接点を持たせたくはなかった。
 そんなことしたら秀司の放つ眩い輝きが淀んでしまう気がした。
「そうそう。色々あってさ、俺疲れてたんだよ」
 訊かれたくないオーラを出せばヤマトは深く追及しないことを利用して浅く答える。案の定ヤマトはそれで納得してくれたようだった。
「そっか。だからこの頃いつも調子悪そうだったのか」
「そ、そうなんだ。そこは迷惑かけてすまん」
 実際に最近は気持ちがずーんと沈んで起きる気力もなくて昼過ぎまで寝ていることが多い。ヤマトがヤりたい時に眠ってしまってるなんてこともあるだろう。
「いや別にそれは仕方ないしいいんだけどさ。そうか…………じゃあ今日はデートしようか」
「……でーと?」
 唐突な誘いにポカンと目を丸くする。
「そうデート」
 そう笑うヤマトはどこか楽しげだった。
 手を握られて外へ連れられる。俺があまり行かない所謂日向に位置する街。休日に人で賑わってなんとも息苦しい。家に帰りたい。
「大丈夫か?」
「大丈夫だけどよー、なぁデートならお家デートしないか?」
「それは次にお預け。まぁちょっと我慢してくれ。良いとこ連れてってやるから。きっと疲れも吹っ飛ぶぞ」
「なぁ良いとこって?」
「着いてからのお楽しみ」
 そう聞いても俺の心は少しも躍らない。
 ヒモとしてはせっかくのデートなのだからもっと楽しくしなきゃいけないんだろうが、今の俺にはそんな元気はなかった。
 疲れてるって言ったら普通家で休ませるだろうに。ヤマトはデートにそこまで自信があるのだろうか。
 連れて行かれるままに電車に乗るとぎゅうぎゅうになるほど人がたくさん乗車していた。気が滅入る。
 ちらほらとプロ野球球団のユニフォームが目に入る。ここで早くもヤマトが俺をどこへ連れて行こうとしているのか察しがついてしまった。
 ……よりにもよってあそこだなんて。
 人前でも気にせずヤマトは俺の手を握ったまま乗っていたたくさんの乗客と共に駅に降りる。俺の予想通り歩いた先に見えたのはドーム状の大きな球場だった。
「伝手を頼っていい席取れたんだよ」
 そう言って俺を席に促す。確かにここからだとチームのベンチからも近くて選手をよく観戦できる。
「これ俺のために?」
「ああ。この頃透よくテレビで野球観戦してただろ。九重が出れば食いつくようにテレビ観てさ。透は野球嫌いだと思ってたんだがまさか生粋の九重ファンだったなんてな。だからこれで少しでも透が元気になればいいなって思って」
 百パーセントの善意に俺は嬉しかった。けれどタイミングが良くなかった。
「……ヤマト、ありがとう」
 俺はちゃんと笑っていれてるだろうか。ヤマトに鬱屈した俺の感情を気付かれてはいないだろうか。
「ほら飯。朝も昼も食べてないで腹減ってるだろ?」
 球場内の店で買っていたチーズバーガーやホットドッグなどのボリューミーなグルメを手に渡す。そういえば俺今日何も食べていないんだった。
 あまり食欲は湧いていなかったけれど、食べないなんてヤマトに悪いからと胃がもたれることを覚悟して黙々と食べる。その間にどんどん観客席も埋まっていって選手がベンチから続々と出て来る。その中に当然秀司もいた。秀司はベンチ付近で監督と話していてその話の内容が聞こえるくらい割と距離が近かった。俺に気づいてしまうんじゃないかと焦ったが、案外観客席の方には目を向けなかったので助かった。
 前の席に座っていた子どもがボールを持って駆け出す。いつの間にかネットを挟んで秀司の前に多くの子どもたちがサインをしてもらおうと待っていた。
 秀司もそのことに気づいて丁寧に対応していく。
 ホットドッグを持つ手を止めじっと見つめる。
 本当に秀司は優しいなぁ。練習時間だって有限なのに。でもだからあんなにファンが多いんだろうな。
 秀司が子どもに優しく微笑んで、細まった瞳が俺を向いて──。
「ッ……!」
 バッと俯いて思わず息を呑む。
 もしかして目が合った……?
 恐る恐るもう一度視線を戻すと秀司は変わらず子どもへとサインの対応をしていた。
 ……気のせいだろうか。そう安堵しかけていると口元に指先が触れる。びっくりして隣を見ると、触れた指先をペロッとヤマトが舐めていた。
「ソースついてたぞ。……これ結構甘いんだな。あっ」
 ヤマトの視線を追うと粗方サインをし終わった秀司がブルペンへと向かう姿が見えた。
「行っちゃったな、九重。やっぱ人が多い分サイン貰うのも難しいんだな。子どもを押し退けて行くわけにもいかないし。一応色紙持ってきたんだけど、試合後ってサイン貰えたりできんのかな」
 そう独り言のように言うヤマトの手には真っ白な色紙が握られていた。
「ヤマトもしゅ、九重のファンなのか?」
「いや、俺は違うよ」
「じゃあなんで──」
「おっ! あれって黒ペンだよな? うわ俺生で初めて見た~かわい~。俺黒ペン大好きなんだよ~」
 途端ヤマトがテンションを急上昇させて声を上げる。グラウンドをどっしりと歩く丸々とした黒いペンギンのマスコットにヤマトはすっかり目を奪われていた。
 試合が開始すると秀司に抱いていた蟠りもいつの間にか綺麗さっぱり忘れ去っていた。俺の存在がバレやしないかとビクビクしていたが、それ以外は心の底から試合を楽しめた。野球は嫌いだけど野球をする秀司の姿は輝いていてやっぱり好きだった。熱い闘志を球に宿して投げる姿を見ているとそれだけで俺のぐちゃぐちゃだった心は好きに溢れていた。
 秀司の光線のような球に相手チームの点を抑えて結果三連勝を飾った。駅へと人で道がごった返す中、はぐれないようにヤマトがしっかりと手を握る。ふいにヤマトが尋ねた。
「今日楽しかったか?」
「ああ。こんなに楽しいのは久しぶりだった。ヤマトのおかげだ。ありがとう」
「透が楽しかったならなによりだ。良かった、透が元気取り戻してくれて」
 ヤマトは俺が気を病んでいることを感じ取ってこうしてデートまで組んでくれた。気を遣わせてしまったな。
「……ごめんな、心配かけて」
「いいんだよ」
 理由は深く訊かず、無理に相手の領域には踏み込まない、けれど寄り添う。ヤマトはそういう優しい人だった。
「あーなんかめいいっぱい応援したら腹減ってきたな。透何食べたい?」
「俺はなんでもいいよ」
「んじゃ焼肉行こう焼肉」
 店には俺たちと同じように野球観戦後に来た人たちでいっぱいで盛り上がっていた。ヤマトは肉を食べ、俺は観戦前に食べたからさほどお腹は減っていなかったからお酒中心に呑む。ふとズボンのポケットに入れておいたスマホがブルブルと震えた。
 画面を確認すると秀司からメッセージが来ていた。
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