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「おかしいって! いっつも行儀良くしろって俺には言うのになんで兄ちゃんには何も言わないんだよ!」
「シュルル、お兄ちゃんはベータで、長男でもない。でもシュルルは嫁ぐ立場よ。貴方はこの家の顔。だからお兄ちゃんみたいにだらしない人間になっちゃいけないの」
朝食の最中、俺の食事の態度を見て弟と母が口論を始めた。だがこれはいつものこと。俺は、テーブルに組んだ両足を乗せて、フォークにさした三枚のベーコンを豪快に頬張る。煽るために弟になんでもアリな俺の有様を見せつけ、眉をクイクイと上げ下げするのは忘れない。
弟がそれを見てまた顔を赤くした。ほんと反応が面白い奴。
「嫁ぐからってこんな態度の違い……兄弟差別だ!」
「差別だなんて大げさな。嫁ぐのはお前が決めたことだろ。あのアルファがどんなにかっこいいか俺に熱弁してたじゃないか。別に嫁がないなら母様もそこまで厳しく言わねぇよ」
息を荒くする弟に言ってやる。だが弟の苛立ちは治らないようだ。
すると爽やかな朝を乱す喧騒を見かねた父が二人を静かにさせる。
「キクル、弟を苛立たせるようなことはやめなさい。シュルルはヒートが近くて精神的に不安定なんだ。兄なら弟のことを気遣いなさい。それとシュルル、世の中にはどうしようもない人間がいてな。私たちもキクルをなんとか矯正しようとしたんだがこやつはそのどうしようもない人間の一人。どうか妬まず、反面教師にしてくれ」
シュルルはいい子だから父の話を聞いて渋々納得したようだった。対して俺はどうしようもない人間だから兄貴として恥ずかしがることはせずにテーブルに足を乗せたまま朝食を進めた。
父と兄はアルファで母と弟はオメガ。家族の中でベータなのは俺だけだ。
貴族はアルファがほとんどで、ベータなら能力から見て期待はされないし、実際家族からもされていない。
だが期待されないのは気楽でいい。詰め込み教育だの、早く子ども作れだの長男みたいに期待されたら色々窮屈だ。
「キクル、せめて口に入れるまでは足を下げろ。誤ってフォークが喉に刺さると危ない」
長男シクトの言葉にそれもそうだなと言う通りにする。そんな兄に弟は不満げで甘いなと言いたそうにしていた。
兄は俺にちょっと甘いし、俺も兄には割と従う方だ。それも兄と共に過ごしてきた時間の重みが他とは違うからだ。
俺らは昔、異国からやってきた戦闘民族。
鍛えを欠かさない褐色の肌。白に近い短い銀髪。この俺の肌と髪はその民族特有のものだ。
俺たちの家系はこの国へ移り、戦果が認められて貴族にまでなった。だから戦争が起きれば前線で戦うのが俺たちの役目。貴重なオメガは戦争に行かせはしないが、俺と兄は別だ。俺は兄の部下として背中を預けていつも戦ってきた。
そうなりゃあ兄が少し甘いのは当然だって思うだろ。
使用人が部屋に入ってきて、銀盤で手紙を各々に運ぶ。いい感じに椅子を傾けさせて揺らしながらコーヒーを飲む俺を使用人が若干引いていたが、気にせず手紙を受け取る。
手紙は王室からのものだった。
もちろん悪事なんか働いてないが、隠し続けてきた悪事がバレたかのような、そんな感情に襲われる。
俺、何かしただろうか。
緊張気味に封を切る。最後まで読んだが、あまりの内容に体が固まった。それを不審に思った兄が「どうした?」と訊ねてくる。反応も出来そうにないと、兄が俺の手紙を覗き込む。
「王様からじゃないか!?」
「っごほ、ごほ!」
兄が俺の手紙をひったくり、母が紅茶で思わずむせる。王様からの手紙なんてこの家自体、滅多にこない。
「陛下から!? キクル、貴方一体何をやらかしたの!?」
母が物凄い形相で俺に迫る。父も母と同じで、目を見開き顔を険しくさせる。
「キクル、お前──」
ただ兄だけは手紙を読むのに熱心になっていた。兄の口は声のない言葉を呟き、そしてふと声をのせて文を吐く。
「……王命により、キクル・フォルロスはダンテ・グレイン侯爵と夫夫の契りを結ぶべし」
声に出した兄は信じられないとでも言うようにまた最初から手紙を読み始めた。両親は、口を大きく開き仰天する。父は「……まさかそんな」と感情を吐いた。
対して弟だけは嫌に口角を上げて瞳を輝かせていた。
「うっわ~、兄ちゃん終わったね」
弟にムカつく余裕もなかった。
「シュルル、お兄ちゃんはベータで、長男でもない。でもシュルルは嫁ぐ立場よ。貴方はこの家の顔。だからお兄ちゃんみたいにだらしない人間になっちゃいけないの」
朝食の最中、俺の食事の態度を見て弟と母が口論を始めた。だがこれはいつものこと。俺は、テーブルに組んだ両足を乗せて、フォークにさした三枚のベーコンを豪快に頬張る。煽るために弟になんでもアリな俺の有様を見せつけ、眉をクイクイと上げ下げするのは忘れない。
弟がそれを見てまた顔を赤くした。ほんと反応が面白い奴。
「嫁ぐからってこんな態度の違い……兄弟差別だ!」
「差別だなんて大げさな。嫁ぐのはお前が決めたことだろ。あのアルファがどんなにかっこいいか俺に熱弁してたじゃないか。別に嫁がないなら母様もそこまで厳しく言わねぇよ」
息を荒くする弟に言ってやる。だが弟の苛立ちは治らないようだ。
すると爽やかな朝を乱す喧騒を見かねた父が二人を静かにさせる。
「キクル、弟を苛立たせるようなことはやめなさい。シュルルはヒートが近くて精神的に不安定なんだ。兄なら弟のことを気遣いなさい。それとシュルル、世の中にはどうしようもない人間がいてな。私たちもキクルをなんとか矯正しようとしたんだがこやつはそのどうしようもない人間の一人。どうか妬まず、反面教師にしてくれ」
シュルルはいい子だから父の話を聞いて渋々納得したようだった。対して俺はどうしようもない人間だから兄貴として恥ずかしがることはせずにテーブルに足を乗せたまま朝食を進めた。
父と兄はアルファで母と弟はオメガ。家族の中でベータなのは俺だけだ。
貴族はアルファがほとんどで、ベータなら能力から見て期待はされないし、実際家族からもされていない。
だが期待されないのは気楽でいい。詰め込み教育だの、早く子ども作れだの長男みたいに期待されたら色々窮屈だ。
「キクル、せめて口に入れるまでは足を下げろ。誤ってフォークが喉に刺さると危ない」
長男シクトの言葉にそれもそうだなと言う通りにする。そんな兄に弟は不満げで甘いなと言いたそうにしていた。
兄は俺にちょっと甘いし、俺も兄には割と従う方だ。それも兄と共に過ごしてきた時間の重みが他とは違うからだ。
俺らは昔、異国からやってきた戦闘民族。
鍛えを欠かさない褐色の肌。白に近い短い銀髪。この俺の肌と髪はその民族特有のものだ。
俺たちの家系はこの国へ移り、戦果が認められて貴族にまでなった。だから戦争が起きれば前線で戦うのが俺たちの役目。貴重なオメガは戦争に行かせはしないが、俺と兄は別だ。俺は兄の部下として背中を預けていつも戦ってきた。
そうなりゃあ兄が少し甘いのは当然だって思うだろ。
使用人が部屋に入ってきて、銀盤で手紙を各々に運ぶ。いい感じに椅子を傾けさせて揺らしながらコーヒーを飲む俺を使用人が若干引いていたが、気にせず手紙を受け取る。
手紙は王室からのものだった。
もちろん悪事なんか働いてないが、隠し続けてきた悪事がバレたかのような、そんな感情に襲われる。
俺、何かしただろうか。
緊張気味に封を切る。最後まで読んだが、あまりの内容に体が固まった。それを不審に思った兄が「どうした?」と訊ねてくる。反応も出来そうにないと、兄が俺の手紙を覗き込む。
「王様からじゃないか!?」
「っごほ、ごほ!」
兄が俺の手紙をひったくり、母が紅茶で思わずむせる。王様からの手紙なんてこの家自体、滅多にこない。
「陛下から!? キクル、貴方一体何をやらかしたの!?」
母が物凄い形相で俺に迫る。父も母と同じで、目を見開き顔を険しくさせる。
「キクル、お前──」
ただ兄だけは手紙を読むのに熱心になっていた。兄の口は声のない言葉を呟き、そしてふと声をのせて文を吐く。
「……王命により、キクル・フォルロスはダンテ・グレイン侯爵と夫夫の契りを結ぶべし」
声に出した兄は信じられないとでも言うようにまた最初から手紙を読み始めた。両親は、口を大きく開き仰天する。父は「……まさかそんな」と感情を吐いた。
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「うっわ~、兄ちゃん終わったね」
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