乙女ゲームのモブに転生したけど誰も主人公を好きにならない件について

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第二話 転生

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 同じ名の国、同じ名を持つ皇太子。そしてかの混沌極まる騎士養成学校。この三つが存在したことで僕は確信した。僕は乙女ゲームという名の鬱ゲー『トキメキ☆ 騎士は貴女のもとに』の世界へ転生してしまったということを。
 ありふれた乙女ゲームとは一戦を画した作品、『トキメキ☆ 騎士は貴女のもとに』通称『きしあな』。内容は主人公であるシャルロットが騎士養成学校に入学し、そこでイケメン騎士たちに翻弄されるというもの。だがその翻弄のされ具合が異常だった。最初はタイトルに騙されて誰もがキラキラした異世界ものの乙女ゲームかと思いきや、主人公に恋した五人の騎士たちが狂いに狂い、主人公もといプレイヤーの精神を戸惑いなく削っていく鬱ゲーであった。物語では主人公でも容赦なく死ぬ要素を含み、あらゆるところにキャラのバッドエンドが散りばめられている徹底ぶり。乙女ゲームの皮を被った鬱ゲー。しかしそのギャップが大ウケ。アニメ化、映画化までなり大ブームを巻き起こした。
 僕もオタクの端くれ。本来なら乙女ゲームなんて手を出さないがそこまで話題になっているのならプレイせざるを得ない。結果、僕は多くの人と同じように大いにハマった。とにかく分岐が多く、選択肢一つによってその後の展開が大きく変わるため、手に汗握り悶々と事あるごとに悩みながら数少ないハッピーエンドを目指していったものだ。正直僕は小ネタ発見やら裏ルートを攻略するために何十周もプレイして人に引かれるのではないかと思うくらいハマっていた。
 だけどその鬱ゲーに転生するなら話は別。幸いにも僕はゲームの舞台である騎士養成学校に登場する主要キャラではなく、ちょっとした事件に巻き込まれ『助けてください』とサブストーリーを追加する村人Fに転生した。ちなみに何十周もしているのだからモブ中のモブを憶えているのは僕にとっては当たり前だ。
 モブながらの記憶に残りづらいなんとも平凡な顔立ちに灰色の瞳。唯一目立つといえば火のように真っ赤なこの髪くらいなものだろう。
 こんな村人Fこと僕イアンは多分このまま村で過ごせば長くとも二十歳で死んでしまうだろう。なぜなら『きしあな』には帝国滅亡エンドと人類滅亡エンドというぶっ飛んだバッドエンドがあるからだ。それにそのエンドに行き着かないにせよ村人が犠牲になるシーンは数知れない。
 つまり何かしら物語に干渉しなければ僕は高確率で死ぬということだ。
 それに主人公を好きになる主要キャラたちの中にはロイドという見た目も中身も古城門そっくりの人物がいる。ロイドが辿り着くエンドの内で最も陥りやすいエンドは主人公を皇太子に取られまいと謀反を起こし結果死んでしまうというものだ。
 結局あの時は死んでしまったものの、古城門には助けてもらった恩がある。たとえロイドが古城門と全くの別人であってもロイドの悲惨な結末を見過ごすわけにはいかない。
 だから僕は決心した。自分の未来を守るため、ロイドを悲惨な結末から守るため混沌の舞台、騎士養成学校に入学しようと。
 それからというもの僕は今世でも相変わらず運動音痴な身体に鞭打って入学できるべく剣の稽古に励んだ。村人から騎士養成学校に入学だなんて無理だと何度も言われたが、そんなこと僕にとっては気にしてる場合ではないのだ。
 本編が始まる一年前、僕は入学年齢の十八になり試験を受けた。試験内容は剣による実技のみ。もとから騎士になる宿命を背負う貴族はそもそも試験はない。トーナメントで上位二十人が合格とのことで騎士は花形だけあって試験には二百人以上が挑んだ。まさに狭き門。だけど舞台に上がらなければロイドを救うなんて無理。ほんと死ぬかと思うくらい全身傷だらけになりながらも勝利を掴みにいった。結果僕は上位二十の内のギリギリ二十人目となり入学を許された。
 そして今僕は入学式に出ている。
「諸君らに入学おめでとうとは言わない。俺たちは帝国の礎となる騎士になるためにここへ来ている。浮かれている暇はない。学生といっても諸君らは陛下の剣。騎士としての自覚を持って日々励んでくれ。以上だ」
 演台にすっと立ち、大勢の前で堂々と言葉少なに述べるのはアデルバート・ウヌス・ランスレット。アーサー・レークス寮の寮長であり主要キャラの一人だ。黒髪短髪に精悍な顔立ち、男前という言葉がぴったりで、輝きすぎて近付きにくいオーラすら放っている。流石乙女ゲームのキャラ、普通のイケメンとは格が違う。
 その他にも眩しいほどに輝いている人物が二人。ローラン・カントゥス寮長シリル・ドゥオ・ガヌロンとアマディス・デ・ガウラ寮長エヴァン・ウヌス・アルカローだ。
 シリル・ドゥオ・ガヌロン。新一年生と比べて小柄で少し癖ある茶髪、美しい翡翠の瞳を持ち、庇護欲をそそるような可愛らしい顔立ちをしている。
 エヴァン・ウヌス・アルカロー。さらさらとした美しい金糸の髪に青空をそのまま閉じ込めたような碧眼。誰もが振り返るような美形の持ち主でまるで白馬の王子様を体現したようだ。
 二人とも主人公に恋狂う主要キャラたちだ。しかし僕が探し求める人はどこにもいない。ロイド・ドゥオ・モルドレッド。彼もアーテル・オビス寮の寮長のはず。入学式だから来ていると思ったんだけどなぁ。でも古城門同様不良の彼のことだからバックレてそう。
「新一年生はそれぞれの寮長についてこい。ほらぼさっとしてねぇでさっさと動け」
 誰だと思いきや、その口を開いていたのはあのシリルだった。
 可愛らしい顔立ちから発せられるその口の悪さに僕含め一年生皆が茫然と彼を見つめる。
 あれ……幻聴かな。だってシリルはワンコ系隠れSキャラなはず。あんな粗暴な物言いするわけない。
「何してんだてめぇら。自分の寮は既に書面で伝えた通りだから分かってんだろ。だったら早く動け! ……ったくめんどくせぇな」
 ワンコのワの字も掠めていない。誰だお前。こんなのシリルじゃない。お父様、お母様、ご教育はどうなさっていたのですか。あのかわいかったシリルがこんな荒れた姿に。
 いきなりの原作との違いように現実逃避をしてしまいそうになっているとぞろぞろと皆んなが動き出し、いつの間にか僕だけが取り残されてしまった。待って、僕自分の寮なんて知らないんだけど。
「おい、そこで何してる」
 振り向けばそこにはぞろぞろと一年生を連れたアデルバートが立っていた。こうして間近で見ると威圧感がすごい。
「えっいやあの、、僕寮がどこか分からなくて。あの、書面? とかももらってなくて……」
「何言ってる、お前は俺の寮だ。ほら行くぞ」
「えっ!?」
 急にぐいっと腕を強く引っ張られ、そのまま有無を言わせず連れて行かれる。
 原作通りの横暴さ。これは違ってほしかった。というかちゃんとついて行くから手を離して欲しい。地味に痛い。
「邪魔だ!! どけ!!」
 後ろがなにやら騒がしい。喧嘩だろうか。声がどんどん近付いてくる。するとアデルバートが歩みを早め出した。身長の差が大きすぎるせいか、歩調が合わず足がもつれる。
「ちょ、ちょっと速いって!! わっ──!!」
 転ぶ!! そう思った瞬間、誰かに身体をだきとめられる。見上げればそこには美しい銀髪を乱す彼がいた。
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