Say!Yo!カマタケ物語

伊藤龍太郎

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第8話

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「ただいま~」と珠美と慶太は帰ってきた。2人はたまたま駅の改札で逢って一緒に帰ってきたのだ。
しかし,家の中のただならぬ空気の重さに2人はすぐに気づき、何事かと思ってリビングに入った。そこには舞斗と華奈子が何やら真剣な話をしていた。
舞斗の表情はかなりキツく,華奈子の表情は今すぐにでも消えてしまいそうな感じである。「何してるの?」と珠美は2人の話に割って入った。珠美と慶太に気がついた舞斗は2人も話を聞いてほしい。とダイニングテーブルに移動した。
全員が席に着くと「それでなんの話をしていたんだ?」と慶太は華奈子に聞いたが華奈子は俯いたたままいっこうに話す様子はない。痺れを切らした舞斗が事情をすべて話した。「華奈子が大学受験を諦めたい。って僕に言ってきたんだ。
それで話をしようとしてリビングに来たんだけど,華奈子がそれ以上話さなかったんだ。」それを聞いて珠美と慶太は驚いて「華奈子,それホントなの?」と聞いて華奈子はゆっくりと頷いた。
続けて慶太は「なぜだ?なぜ急に諦めたくなったんだ?」と一気に詰め寄ったが
華奈子は口を固く結んだまま動かない。
すると「お父さん,舞斗。一旦席を外してくれる?わたしと華奈子だけで一回話してみるから。」と珠美が提案し2人は席を外し,部屋を出た。2人の姿が見えなくなったので珠美はもう一度理由を聞いた。華奈子は顔を上げて珠美をじっと見つめ,やがて口をゆっくりと開いた。
「わたし,2年の夏から今までお兄ちゃんと遥子さんと3人で一生懸命取り組んできた。でも,それから模試を何回も受けてるけど結果は全然良くないの。
このまま受験の日までやってもし落ちたらお兄ちゃんと遥子さんに申し訳ない。
だからもう諦める。受験を諦める。」
華奈子の理由を部屋の外でこっそり聞いていた舞斗はたまらず部屋に入ろうとしたが,同時に珠美が華奈子に話し始めた。「何言ってるの?舞斗と遥子さんに申し訳ない?そんなことあの2人が思うわけないじゃん。あの人たちは華奈子に
より良い道を、より良い人生を歩いてほしい。そのためなら自分の時間なんて関係ない。そういう考えをしているの。」
そこに舞斗が入ってきて「華奈子,大学受験をするかしないかお前次第だ。
別に僕たちは絶対に行けとか強制はしない。でもな、僕は華奈子が本気でもう一度受験をしたいというのならば、全力で応援するしサポートもする。もし,本当に諦めるのならば僕はもう何もしない。
応援もしない。さぁどうする?明日の正午まで待とう。慎重に考えて結論を出せ。」とだけ言って舞斗は自分の部屋に戻った。
それから華奈子は「受験はしたいよ。したいけど結果が出なかったら意味ないじゃん。」とブツブツ言いながら悩んで悩んで悩み抜き、翌日の正午が間近に迫った。華奈子は舞斗に結論を言った。
「わたしは、やっぱり大学受験をしたい。わたし、一晩考えて思ったの。ここまでやってやらずに終わるのは嫌だ。
どうせならやれるだけやって全力を尽くして悔いが残らないようにしたい。
だから,もう一度わたしに力を貸してください。お願いします。」華奈子は頭を下げた。舞斗はフゥ~と息を吐いてから
「華奈子,頭を上げて。あぁ~よかった~。てっきりもうここで終わるんじゃねぇかって思ってドキドキしたよ。
でも,華奈子がここで終わるようなやつじゃないって思ってたけどな。」
華奈子は舞斗の意外な反応に驚いて少しひいた。「じゃあ,オッケーってことだよね。」「うん。ここからもう一回一緒に頑張りましょう。」
ここからもう一回受験に向けてギアを入れ直して頑張ろうと心に決めた華奈子は
無事に合格することができるのだろうか。
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