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第10章 結婚するまで帰れません!?
6 意外な訪問者
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結婚式も近いある日、ブラダマンテとロジェロは主君であるフランク王シャルルマーニュに呼び出された。
「よくぞ来てくれた二人とも。結婚祝いの代わりと言っては何だが、遠方よりはるばるサーカス団が来たのでな。楽しんで貰えれば幸いだ」
サーカス団? 唐突な単語に二人とも目をぱちくりさせる。
シャルルマーニュと廷臣達に連れられ、サーカス団のテントに案内されると……そこにはフランク領内では滅多にお目にかかれないであろう、物珍しい動物たちがひしめいていた。
檻の中には象や猿、孔雀など――他にも見た事のない珍獣の数々がいる。
ブラダマンテ達も驚いたが、二人以上に楽しそうにはしゃいでいたのは他ならぬシャルルマーニュ自身であった。
「なんと! 素晴らしい! ガヌロンよ、余もこんな動物が欲しいぞ!
遠征先に連れて行けば、目の保養にもなるし兵の士気も上がるであろう!」
「陛下が見たいだけのような気がしますが、おっしゃる通りでしょうな」
シャルルマーニュの腹心・悪人ヅラのガヌロンが、ツッコミなのかおべんちゃらなのかよく分からない返答をする。
その様子を見てブラダマンテ(司藤アイ)とロジェロ(黒崎八式)はヒソヒソと話し合った。
《確かにこっちじゃ珍しいのかもだけど……はしゃぎっぷりが凄いわね》
《史実でも後の時代、イスラム帝国の教主に頼み込んで象と猿を贈って貰ったそうだからな。
この王様、実はそんなにサラセン人と仲悪いって訳でもねえんだよなぁ》
実際の所は、近場に敵が多すぎて遠く離れたアラブの異教国に手を出す余裕などなかっただけかもしれないが。
「陛下のおっしゃる通り、サラセン帝国から技術者を招聘しております。
投資の成果が出るのはまだ先の話でしょうが……養蜂やワイン醸造もこれで国内で奨励でき、税収にも繋がるかと」
「うむ! 蜂蜜にボルドーワインが普及すれば、臣下の暮らしも上向くであろう。
大変結構。何しろフランク領内は娯楽も美食もまだまだ発展途上ゆえな!」
何やら楽しそうに内政談義をしていたが、その辺は二人ともさほど興味なかったのでスルーした。
それよりブラダマンテ達にとって意外だったのは、サーカス団にいたサラセン人との出会いだった。
「あらァ~お久しぶりねェお二人とも。
結婚式にギリギリ間に合いそうだったから、こっそり来ちゃったわ」
「あ、あなたは……!」
聞き覚えのあるというか、一度聞いたら忘れそうにない独特の抑揚。
サラセン人の青年と老人。過去にブラダマンテ達と対決した事もある、かつてのアフリカ大王アグラマンと、ガルボの老王ソブリノであった。
**********
実はアグラマン大王と直接出会い、話をしたフランク人は意外と少ない。
ブラダマンテ。ロジェロとその妹マルフィサ。和平交渉時に対談したシャルルマーニュと一部の重臣。後は彼と直接戦場で刃を交えたブラダマンテの兄リナルドくらいであろうか。
それ故か、アグラマンの奇妙な口調を知る者はほとんどおらず、彼が先の大戦で敵軍の首魁であったなどと、言われても信じない人が大半であろう。
「ま、フランク人にとってみれば。
アタシ達がターバン巻いてたら顔の見分けなんてつかないみたいだけど」
お道化た風に、冗談なのか自嘲なのか判断つきかねる事をアグラマンは言った。
「まさかこんな形でパリにやってくるとはな……大丈夫なのかよ?」
「アタシは本国では死んだ事にされてるし。丁稚奉公のフリして一座に加わってるのよ。言うなれば世を忍ぶ仮の姿ってヤツよねェ~。
まァシャルルマーニュちゃんの好みとか、知っておきたかったってのもあるわ。
アタシを雇ってくれた新しい『若旦那』の頼みでもあるし」
楽しげに語るアグラマンの瞳は希望と野望に燃えていた。
近い将来、何かしらサラセン帝国で彼の逆襲が起こるに違いないだろう。
「アタシもアンタ達もまだ若い。人生これからよねェ。
将来何が起こるかまでは分かんないけどさ。せいぜいやれる事やって楽しまなくちゃね」
奇しくも彼の言い分は、ちょうどアイ達がやろうとしていた方針と似通ったものだった。
アストルフォや下田教授たちからは、絶望的な事実を知らされたが――それでもまだ、そうと決まった訳ではない。
**********
放浪の美姫アンジェリカ――錦野麗奈は、恋人であるメドロに世界の真実を打ち明けた。世界が間もなく終わりを迎え、消失するという事実を。
「そうか……じゃあ」
メドロは驚きはしたが、アンジェリカの言葉にそこまで動揺はしていなかった。
「この世界が終わったら、キミも……元の世界に帰るんだね?
アンジェリカが望むならオイラは構わないよ。だってその……キミはあくまでも現実世界の人間なんだか――」
メドロの言葉に被せるようにして、アンジェリカはメドロを抱き締めた。
「いいえ――私は戻らない。この世界に残る」
「……何だって!? バカな事を……!」
メドロは血相を変えて叫んだ。
「この世界は、ブラダマンテ達の結婚式を終えたら消えるんだろう?
そんな場所に残ったら、助かるハズのキミだって――」
なおも言いかけるメドロの口を、アンジェリカは同じく唇で塞いだ。
しばしの間、二人の濃厚な接吻による静寂が場を支配した。
「――ずっと考えていた。でもやっぱり、私はメドロが好き。
現実世界での恋人と過ごした時間より、貴方といた時間の方がずっと長かった。
何度も何度も世界を繰り返し、その度に貴方と出会い、恋に落ち――苦しい時も多かったけど、それ以上に幸せだったわ。
そんな貴方と、今更離れ離れになるなんて――嫌」
「アンジェリカ……」
「オルランドに二人で立ち向かった時にもう、一緒に死ぬ覚悟ぐらいできてるわ。
だからお願いメドロ。物分かりのいい事なんて言わないで。
エゴでもいい、他から嫌われてもいい。私にとっては、貴方が全てなんだから――」
ここまで言われては、メドロも拒む理由がなかった。
彼もまたアンジェリカを愛し、離れたくはないというのが本心であったから。
その事を証明すべく、メドロは言葉でなく「行動」でそれを示した。
**********
それぞれの思惑を経て、日々が過ぎていき――やがて物語の、最後の日がやってくる。
「よくぞ来てくれた二人とも。結婚祝いの代わりと言っては何だが、遠方よりはるばるサーカス団が来たのでな。楽しんで貰えれば幸いだ」
サーカス団? 唐突な単語に二人とも目をぱちくりさせる。
シャルルマーニュと廷臣達に連れられ、サーカス団のテントに案内されると……そこにはフランク領内では滅多にお目にかかれないであろう、物珍しい動物たちがひしめいていた。
檻の中には象や猿、孔雀など――他にも見た事のない珍獣の数々がいる。
ブラダマンテ達も驚いたが、二人以上に楽しそうにはしゃいでいたのは他ならぬシャルルマーニュ自身であった。
「なんと! 素晴らしい! ガヌロンよ、余もこんな動物が欲しいぞ!
遠征先に連れて行けば、目の保養にもなるし兵の士気も上がるであろう!」
「陛下が見たいだけのような気がしますが、おっしゃる通りでしょうな」
シャルルマーニュの腹心・悪人ヅラのガヌロンが、ツッコミなのかおべんちゃらなのかよく分からない返答をする。
その様子を見てブラダマンテ(司藤アイ)とロジェロ(黒崎八式)はヒソヒソと話し合った。
《確かにこっちじゃ珍しいのかもだけど……はしゃぎっぷりが凄いわね》
《史実でも後の時代、イスラム帝国の教主に頼み込んで象と猿を贈って貰ったそうだからな。
この王様、実はそんなにサラセン人と仲悪いって訳でもねえんだよなぁ》
実際の所は、近場に敵が多すぎて遠く離れたアラブの異教国に手を出す余裕などなかっただけかもしれないが。
「陛下のおっしゃる通り、サラセン帝国から技術者を招聘しております。
投資の成果が出るのはまだ先の話でしょうが……養蜂やワイン醸造もこれで国内で奨励でき、税収にも繋がるかと」
「うむ! 蜂蜜にボルドーワインが普及すれば、臣下の暮らしも上向くであろう。
大変結構。何しろフランク領内は娯楽も美食もまだまだ発展途上ゆえな!」
何やら楽しそうに内政談義をしていたが、その辺は二人ともさほど興味なかったのでスルーした。
それよりブラダマンテ達にとって意外だったのは、サーカス団にいたサラセン人との出会いだった。
「あらァ~お久しぶりねェお二人とも。
結婚式にギリギリ間に合いそうだったから、こっそり来ちゃったわ」
「あ、あなたは……!」
聞き覚えのあるというか、一度聞いたら忘れそうにない独特の抑揚。
サラセン人の青年と老人。過去にブラダマンテ達と対決した事もある、かつてのアフリカ大王アグラマンと、ガルボの老王ソブリノであった。
**********
実はアグラマン大王と直接出会い、話をしたフランク人は意外と少ない。
ブラダマンテ。ロジェロとその妹マルフィサ。和平交渉時に対談したシャルルマーニュと一部の重臣。後は彼と直接戦場で刃を交えたブラダマンテの兄リナルドくらいであろうか。
それ故か、アグラマンの奇妙な口調を知る者はほとんどおらず、彼が先の大戦で敵軍の首魁であったなどと、言われても信じない人が大半であろう。
「ま、フランク人にとってみれば。
アタシ達がターバン巻いてたら顔の見分けなんてつかないみたいだけど」
お道化た風に、冗談なのか自嘲なのか判断つきかねる事をアグラマンは言った。
「まさかこんな形でパリにやってくるとはな……大丈夫なのかよ?」
「アタシは本国では死んだ事にされてるし。丁稚奉公のフリして一座に加わってるのよ。言うなれば世を忍ぶ仮の姿ってヤツよねェ~。
まァシャルルマーニュちゃんの好みとか、知っておきたかったってのもあるわ。
アタシを雇ってくれた新しい『若旦那』の頼みでもあるし」
楽しげに語るアグラマンの瞳は希望と野望に燃えていた。
近い将来、何かしらサラセン帝国で彼の逆襲が起こるに違いないだろう。
「アタシもアンタ達もまだ若い。人生これからよねェ。
将来何が起こるかまでは分かんないけどさ。せいぜいやれる事やって楽しまなくちゃね」
奇しくも彼の言い分は、ちょうどアイ達がやろうとしていた方針と似通ったものだった。
アストルフォや下田教授たちからは、絶望的な事実を知らされたが――それでもまだ、そうと決まった訳ではない。
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放浪の美姫アンジェリカ――錦野麗奈は、恋人であるメドロに世界の真実を打ち明けた。世界が間もなく終わりを迎え、消失するという事実を。
「そうか……じゃあ」
メドロは驚きはしたが、アンジェリカの言葉にそこまで動揺はしていなかった。
「この世界が終わったら、キミも……元の世界に帰るんだね?
アンジェリカが望むならオイラは構わないよ。だってその……キミはあくまでも現実世界の人間なんだか――」
メドロの言葉に被せるようにして、アンジェリカはメドロを抱き締めた。
「いいえ――私は戻らない。この世界に残る」
「……何だって!? バカな事を……!」
メドロは血相を変えて叫んだ。
「この世界は、ブラダマンテ達の結婚式を終えたら消えるんだろう?
そんな場所に残ったら、助かるハズのキミだって――」
なおも言いかけるメドロの口を、アンジェリカは同じく唇で塞いだ。
しばしの間、二人の濃厚な接吻による静寂が場を支配した。
「――ずっと考えていた。でもやっぱり、私はメドロが好き。
現実世界での恋人と過ごした時間より、貴方といた時間の方がずっと長かった。
何度も何度も世界を繰り返し、その度に貴方と出会い、恋に落ち――苦しい時も多かったけど、それ以上に幸せだったわ。
そんな貴方と、今更離れ離れになるなんて――嫌」
「アンジェリカ……」
「オルランドに二人で立ち向かった時にもう、一緒に死ぬ覚悟ぐらいできてるわ。
だからお願いメドロ。物分かりのいい事なんて言わないで。
エゴでもいい、他から嫌われてもいい。私にとっては、貴方が全てなんだから――」
ここまで言われては、メドロも拒む理由がなかった。
彼もまたアンジェリカを愛し、離れたくはないというのが本心であったから。
その事を証明すべく、メドロは言葉でなく「行動」でそれを示した。
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