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第3章 最強騎士オルランド
4 色々発覚新事実
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アンジェリカは涙を流したのを隠そうとして、クスクスと笑ってみせた。
「何だかおかしな話ね。
ついさっきまで『記憶を抹消したい』とか『死にたい』とか言ってた人に。
『記憶を取り戻そう』『生きよう』って諭されるなんてね……」
「うっ……それは、その……」
痛い所を突かれたと思ったのか、アイは口ごもった。
「……でも、ありがとう。
そんな風に励まされるなんて思わなかったわ。
私も元の世界の記憶を取り戻せるよう――何とか方法を探してみる」
「……良かった! 一緒に頑張りましょう、アンジェリカ」
パッと顔を輝かせて、無邪気に、まるで自分の事のように喜ぶアイ。
アンジェリカは思った。物語の結末を目指そうとする二人の希望を消してはならない。
もし自分が「希望を取り戻したフリ」をする事によって二人の意欲を引き出せるというなら――それに越した事はない。
(私と違って、この子たちはまだ間に合うから――)
司藤アイと黒崎八式。日本という国の高校生だという。
よく覚えておこう――アンジェリカは二人の名を、己の魂に強く刻み付けておく事にした。
アンジェリカは気を取り直して、伝えておくべき情報を切り出した。
「もうひとつ教えておくわね。
この世界で遠方出身を名乗る王たちがいるけど、実際にその地からやってきてる訳じゃない。
私の契丹だってそう。恐らく外の世界にある地図とは違う場所にある国。
そして――遠国の王たちは私と同様に、この世界が『繰り返されている作り物』だと知っている」
「…………マジか」黒崎は初めて驚いたような顔をした。
「アンタと同じような認識を持っている人物が他にもいるのかよ?
確かにこの物語には『そんな遠くから大軍を率いて来れる訳ねえだろ』って奴らが何人かいるが……
あいつらの存在は、作者アリオストの無知からくる適当な要素だとばかり思ってたわ」
「ま、あなたの見方も実際正しいんだけど」アンジェリカは苦笑した。
「あいつらは私と同様『魂の記憶』が無い。でもこの世界の秘密を知っている。
気をつけてちょうだい。もしあなた達と出くわし、魂の記憶を持つ『主役』だと知られたら――
どんなちょっかいをかけてくるか。あいつらは私みたいに温厚に話ができるとは思えない」
アンジェリカの口にした要注意人物は二人。
韃靼王マンドリカルド。
中国王グラダッソ。
いずれもサラセン帝国軍に与する同盟者として、フランク王国側と敵対している人物だ。
タタールはモンゴル系騎馬民族の総称。
セリカンは古代ローマ時代の中国の呼称「セリカ」から来ており、「絹の国」の意。かつてシルクロードを通じてローマと中国が交易を行っていた事に由来する。
確かにこの二人の出身地は奇妙だ。アンジェリカもそうだが、現実世界の地図に当てはめると、とんでもない長距離を移動してヨーロッパやイスラム教圏まで遠征してきている事になる。
特にグラダッソなど15万の騎兵を率い、何故かイベリア半島経由でフランク王国に侵入した事があった。ルネサンス期イタリア人の、東方世界への理解の乏しさが伺える設定である。
「あの二人が……信じられんな。オレ何回か会って話もしてるぜ?
そんな話は一回も出なかったが……ただの武具マニアだとばかり思ってたわ」
黒崎はサラセン帝国の騎士ロジェロとして、マンドリカルドやグラダッソと面識があった。
二人に共通する性格として、極端な武具収集癖が挙げられる。
フランク人最強の騎士オルランドの持つ聖剣デュランダルや、ブラダマンテの兄リナルドの乗る名馬バヤールなどに執心している。
彼らは非常に仲が悪く、事ある毎にデュランダルの所有権を巡りいがみ合ったり一騎打ちをしたりと、アフリカ大王アグラマンも仲裁に手を焼いているという。
「『この世界が本の中』だとか『何回も同じことを繰り返してる』なんて言い出したら、頭おかしいって思われるのがオチだもの」とアンジェリカ。
「私もあの二人が何を考えて行動しているのかは分からない。物語の中であんまり接触ないから……
でもロジェロ。貴方はマンドリカルドとは浅からぬ因縁があるはず。くれぐれも用心する事ね」
言われてようやく黒崎も思い当たる。
グラダッソは物珍しい武具に目がないだけだが、マンドリカルドはトロイの王子ヘクトルの武具一式を揃えたがっている。
ロジェロは血筋的にヘクトルの子孫であり、彼の持つ盾には英雄ヘクトルの紋章が刻まれている。そのせいで何度かイチャモンをつけられ、危うく殺し合いに発展しかかった事もあった。
そんなこんなで三人が話を続けていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「ブラダマンテ。メリッサです。
ロジェロ様やアンジェリカと随分長い事、話をされているようですが……大丈夫でしょうか?
まさかとは思いますが、私に内緒の話って三角関係の痴情のもつれとかじゃないでしょうね?」
いきなり無茶苦茶な事を言い出す尼僧メリッサ。
彼女の目的はブラダマンテとロジェロが結ばれ、未来のイタリア貴族エステ家の礎を築き上げる事。余計な虫がつかないように警戒するのも無理はないのかもしれないが……
「……ちょ、誤解よメリッサ。ロジェロとアンジェリカはそんな仲じゃないわ」
ブラダマンテは慌てて言ったが、メリッサは納得いかないようだった。
ドアノブに手をかけ、中に入ろうとしている。
《まずいわ黒崎。ちゃんと恋仲が進展してるって思わせとかないと》
《そ、そうだな……じゃあ手でも握っとくか?》
改めて言われると黒崎と手を握ってニッコリ笑うとか、何かの罰ゲーム感が半端なかったが……とにかく時間がない。
手っ取り早く恋仲っぽく見せるにはそれしか思い浮かばなかった。
アンジェリカも空気を読んで、ブラダマンテ達と距離を取る。
メリッサが部屋に入ってきた。仲睦まじそうに寄り添い手を握り合っている二人の騎士を見て、満足げな笑みを浮かべる。
そして横に視線を向けると、先ほどとは裏腹にアンジェリカに対して蔑むような目を向け、鼻で笑い飛ばした。
「ちょっと何? メリッサさん。何かおっしゃりたい事があるのかしら」
さすがのアンジェリカもカチンと来たらしく、不快感を隠そうともせずメリッサに詰め寄る。
「いえ別に? お話は済んだのでしょう?
それなら早く部屋を出て行って欲しいですわ」
二人は正体不明の対抗心を燃やし、火花をバチバチ散らしながらブラダマンテの部屋を出ていった。
先刻浴場で一緒にいた時の仲の良さはどこに行ってしまったのだろうか。
「……やれやれ。なんか疲れた」ロジェロは深々と嘆息した。
「そうね……せっかくお風呂入れたのに」ブラダマンテも溜め息をついた。
その時だった。
『アイ君! 聞こえるかね? 下田三郎だ。
こっちのゴタゴタもようやく落ち着いたんで、連絡が取れるようになったぞ』
不意に響いてきたのは、現実世界の大学教授・下田三郎の念話であった。
魔女アルシナとの対決の途中、音信不通になって以来である。
しかし下田の声は……アイにとっても予想外の結果を引き起こしていた。
「なッ……司藤。今オッサンみたいな声が……いきなり聞こえてきたんだが?」
黒崎が混乱した様子で言った。
「何だかおかしな話ね。
ついさっきまで『記憶を抹消したい』とか『死にたい』とか言ってた人に。
『記憶を取り戻そう』『生きよう』って諭されるなんてね……」
「うっ……それは、その……」
痛い所を突かれたと思ったのか、アイは口ごもった。
「……でも、ありがとう。
そんな風に励まされるなんて思わなかったわ。
私も元の世界の記憶を取り戻せるよう――何とか方法を探してみる」
「……良かった! 一緒に頑張りましょう、アンジェリカ」
パッと顔を輝かせて、無邪気に、まるで自分の事のように喜ぶアイ。
アンジェリカは思った。物語の結末を目指そうとする二人の希望を消してはならない。
もし自分が「希望を取り戻したフリ」をする事によって二人の意欲を引き出せるというなら――それに越した事はない。
(私と違って、この子たちはまだ間に合うから――)
司藤アイと黒崎八式。日本という国の高校生だという。
よく覚えておこう――アンジェリカは二人の名を、己の魂に強く刻み付けておく事にした。
アンジェリカは気を取り直して、伝えておくべき情報を切り出した。
「もうひとつ教えておくわね。
この世界で遠方出身を名乗る王たちがいるけど、実際にその地からやってきてる訳じゃない。
私の契丹だってそう。恐らく外の世界にある地図とは違う場所にある国。
そして――遠国の王たちは私と同様に、この世界が『繰り返されている作り物』だと知っている」
「…………マジか」黒崎は初めて驚いたような顔をした。
「アンタと同じような認識を持っている人物が他にもいるのかよ?
確かにこの物語には『そんな遠くから大軍を率いて来れる訳ねえだろ』って奴らが何人かいるが……
あいつらの存在は、作者アリオストの無知からくる適当な要素だとばかり思ってたわ」
「ま、あなたの見方も実際正しいんだけど」アンジェリカは苦笑した。
「あいつらは私と同様『魂の記憶』が無い。でもこの世界の秘密を知っている。
気をつけてちょうだい。もしあなた達と出くわし、魂の記憶を持つ『主役』だと知られたら――
どんなちょっかいをかけてくるか。あいつらは私みたいに温厚に話ができるとは思えない」
アンジェリカの口にした要注意人物は二人。
韃靼王マンドリカルド。
中国王グラダッソ。
いずれもサラセン帝国軍に与する同盟者として、フランク王国側と敵対している人物だ。
タタールはモンゴル系騎馬民族の総称。
セリカンは古代ローマ時代の中国の呼称「セリカ」から来ており、「絹の国」の意。かつてシルクロードを通じてローマと中国が交易を行っていた事に由来する。
確かにこの二人の出身地は奇妙だ。アンジェリカもそうだが、現実世界の地図に当てはめると、とんでもない長距離を移動してヨーロッパやイスラム教圏まで遠征してきている事になる。
特にグラダッソなど15万の騎兵を率い、何故かイベリア半島経由でフランク王国に侵入した事があった。ルネサンス期イタリア人の、東方世界への理解の乏しさが伺える設定である。
「あの二人が……信じられんな。オレ何回か会って話もしてるぜ?
そんな話は一回も出なかったが……ただの武具マニアだとばかり思ってたわ」
黒崎はサラセン帝国の騎士ロジェロとして、マンドリカルドやグラダッソと面識があった。
二人に共通する性格として、極端な武具収集癖が挙げられる。
フランク人最強の騎士オルランドの持つ聖剣デュランダルや、ブラダマンテの兄リナルドの乗る名馬バヤールなどに執心している。
彼らは非常に仲が悪く、事ある毎にデュランダルの所有権を巡りいがみ合ったり一騎打ちをしたりと、アフリカ大王アグラマンも仲裁に手を焼いているという。
「『この世界が本の中』だとか『何回も同じことを繰り返してる』なんて言い出したら、頭おかしいって思われるのがオチだもの」とアンジェリカ。
「私もあの二人が何を考えて行動しているのかは分からない。物語の中であんまり接触ないから……
でもロジェロ。貴方はマンドリカルドとは浅からぬ因縁があるはず。くれぐれも用心する事ね」
言われてようやく黒崎も思い当たる。
グラダッソは物珍しい武具に目がないだけだが、マンドリカルドはトロイの王子ヘクトルの武具一式を揃えたがっている。
ロジェロは血筋的にヘクトルの子孫であり、彼の持つ盾には英雄ヘクトルの紋章が刻まれている。そのせいで何度かイチャモンをつけられ、危うく殺し合いに発展しかかった事もあった。
そんなこんなで三人が話を続けていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「ブラダマンテ。メリッサです。
ロジェロ様やアンジェリカと随分長い事、話をされているようですが……大丈夫でしょうか?
まさかとは思いますが、私に内緒の話って三角関係の痴情のもつれとかじゃないでしょうね?」
いきなり無茶苦茶な事を言い出す尼僧メリッサ。
彼女の目的はブラダマンテとロジェロが結ばれ、未来のイタリア貴族エステ家の礎を築き上げる事。余計な虫がつかないように警戒するのも無理はないのかもしれないが……
「……ちょ、誤解よメリッサ。ロジェロとアンジェリカはそんな仲じゃないわ」
ブラダマンテは慌てて言ったが、メリッサは納得いかないようだった。
ドアノブに手をかけ、中に入ろうとしている。
《まずいわ黒崎。ちゃんと恋仲が進展してるって思わせとかないと》
《そ、そうだな……じゃあ手でも握っとくか?》
改めて言われると黒崎と手を握ってニッコリ笑うとか、何かの罰ゲーム感が半端なかったが……とにかく時間がない。
手っ取り早く恋仲っぽく見せるにはそれしか思い浮かばなかった。
アンジェリカも空気を読んで、ブラダマンテ達と距離を取る。
メリッサが部屋に入ってきた。仲睦まじそうに寄り添い手を握り合っている二人の騎士を見て、満足げな笑みを浮かべる。
そして横に視線を向けると、先ほどとは裏腹にアンジェリカに対して蔑むような目を向け、鼻で笑い飛ばした。
「ちょっと何? メリッサさん。何かおっしゃりたい事があるのかしら」
さすがのアンジェリカもカチンと来たらしく、不快感を隠そうともせずメリッサに詰め寄る。
「いえ別に? お話は済んだのでしょう?
それなら早く部屋を出て行って欲しいですわ」
二人は正体不明の対抗心を燃やし、火花をバチバチ散らしながらブラダマンテの部屋を出ていった。
先刻浴場で一緒にいた時の仲の良さはどこに行ってしまったのだろうか。
「……やれやれ。なんか疲れた」ロジェロは深々と嘆息した。
「そうね……せっかくお風呂入れたのに」ブラダマンテも溜め息をついた。
その時だった。
『アイ君! 聞こえるかね? 下田三郎だ。
こっちのゴタゴタもようやく落ち着いたんで、連絡が取れるようになったぞ』
不意に響いてきたのは、現実世界の大学教授・下田三郎の念話であった。
魔女アルシナとの対決の途中、音信不通になって以来である。
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