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第5章 狂えるオルランド
4 ロジェロ、妹マルフィサと再会する★
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シリア、ダマスカスにて。
ロジェロ(黒崎八式)は生き別れの妹、インド王女マルフィサと邂逅した。
かくいうロジェロ自身、彼女が妹だなどと全く気付かなかった訳であるが。
何しろ物心ついて間もない頃に、山賊に襲われるという不慮の事故に遭い、引き裂かれた身であるのだから。記憶に残っていないのも当然かもしれない。
「ずっと会いたかった……ロジェロ兄さん!」
インド風の民族衣装を纏い、日に焼けた健康的な肌をした美女マルフィサ。
隣で呑気していたイングランド王子アストルフォは、彼女と衝突した為きりきり舞いで宙を飛び、屋台に頭から突っ込んでいた。
そしてロジェロは今、ぎゅうぎゅうと抱き付かれている。妹とはいえ美女の範疇に入る女性に至近距離で抱擁されているのだ。役得――と思っていたのも束の間、ものすごい力で締め上げられ、ロジェロは思わず悲鳴を上げた。
「ちょっ、痛ててててッ! や……めろ、マルフィサ! 苦しい!」
「あっ……ごめんなさい、兄さん」
ロジェロの苦悶の叫びを聞き、マルフィサはようやく状況を察したらしく、力を緩めて愛らしい顔を困ったように俯かせて謝罪した。
ロジェロの記憶にマルフィサとの思い出はほとんどないが、黒崎は知っている。ロジェロに妹がいて、物語の終盤で再会するという流れを。まさかアストルフォの旅に同行する事で、こんなに早く再会できるとは思っていなかったが。
しかも恐ろしく力が強い。ロジェロの恋人、女騎士ブラダマンテもチート性能を誇っているが、彼女はどちらかと言えば技やスピードを重視したタイプだ。
目の前のマルフィサは並の男なら軽く捻り上げそうなほどのパワー型。よくよく見れば引き締まった肢体も鍛えられており、筋肉質である事が伺えるのだった。
「しかし幼い頃に生き別れてそれっきりなのに、よくオレが兄だって分かったな」
「え? だって子供の頃の面影、残っているし。十年以上前だが。
見てすぐに分かった。自分と同じ髪の色だし、顔立ちだって似ている!」
そうか――と、黒崎は一応納得した。ブラダマンテに憑依している司藤アイ以外には、自分の顔はムーア人(註:スペインのイスラム教徒)ロジェロのものに見えているのだ。長旅で鏡を見る機会もめっきり減り、忘れかけていたが。
元々ロジェロは、祖先がトロイの英雄ヘクトルである事からも分かる通り、根っからのイスラム教徒側という訳でもなかった。
ロジェロの父はキリスト教徒であり、アフリカ大王アグラマンの血族である女性と恋仲に落ち、結婚してしまった。その際に産まれたのがロジェロとマルフィサ。イスラム側は意趣返しとばかりにロジェロの父を殺し、二人の子供を魔法使いアトラントに預け、育てさせたのである。
「再会して嬉しいってのは分かるが――親しい間柄の人でも、いきなり全力で抱き締めるのはどうかと思うぞ? 痛いし」
「そ、そう? 親愛を示すにはこれが一番だと――アストルフォ殿に教わったんだが」
「原因あいつか! あのアフォがああああ!?」
マルフィサの抱擁癖の元凶たるイングランド王子は、屋台に突っ込んで気絶している所を他の仲間の騎士から救助され、介抱されている最中だった。
意識を取り戻したアストルフォに、謝罪するマルフィサだったが――当の本人は「気にする事は無いさ! 我々の業界ではご褒美だよ!」と、よく分からない理屈で許してくれた。
結局その後、怪我をしたアストルフォは馬上槍試合に不参加。彼の看病をする事に決めたマルフィサも棄権する事となった。
その他、ロジェロも含めた仲間の騎士たちは参戦。優勝したのは仲間の一人の、サンソンという騎士だった。「誰だよ」と思われるかもしれないが――彼も一応シャルルマーニュ十二勇士の一人であり、後のフランスにおいて代々、死刑執行人を務め上げるサンソン家の先祖だったりする。
**********
その後も仲間を増やし続け、冒険する日々が続く――かに見えたが、突如それは終わりを告げた。
そろそろフランク王国に戻ろうかと船で移動中、お約束のように嵐に見舞われたロジェロ一行。北アフリカのいずこかにあると言われる、伝説のアマゾネスの国に迷い込み、女戦士の大集団に問答無用で囲まれ、戦闘する羽目に陥った。
「まったく、ボクが美しいからといって力づくとはね。こういうのは双方の同意が肝要だというのに」
「呑気なこと言ってる場合か! 口動かす前に武器を動かせよアフォ殿!」
「兄さん、聞いたことがある。このアマゾネスの国、迷い込んだ男性は戦って勝たないと、みんな奴隷にされてしまうらしい!」
「マジかよアマゾネス最低だな!」
アストルフォ、ロジェロ、マルフィサ――そしてサンソン他、仲間の騎士たちも奮闘した。特にマルフィサの実力は凄まじく、奴隷と思しき男戦士どもを瞬く間に十人以上、斬り伏せたりしている。
「マルフィサ――思っていた以上に強いんだな、お前」
「死に物狂いで鍛えたからな! インドの王女の座も! 戦って戦って戦い抜いて勝ち取ったんだ!」
ロジェロの舌の巻きように、マルフィサは誇らしげに応えた。
彼女は奴隷としてインドの地で売られながらも、戦士としての頭角を現し、戦いを重んずる部族の王女の地位にまで上り詰めた。その際にこの世で最も力強き王を三人、生け捕りにする事を誓ったほどの女丈夫なのだ。
騎士の一行は圧倒的な戦力で、縦横無尽の活躍を繰り広げたが。
いくら叩きのめしても、後から後から湧いてくるアマゾネスの集団。多勢に無勢だった。
「皆、頑張ってくれているけれど……ピンチだね! かくなる上は――コレで追い払うしかない!」
そう言ってアストルフォが取り出したのは――とても嫌な予感がしたロジェロの危惧通り、例の恐怖の角笛だった。
「学習能力ねえのかアフォ!? そいつを吹いちまったら――」
ロジェロは慌てて、仲間たちに耳を塞ぐよう叫ぼうとしたが。乱戦の喧騒の最中では、彼の警告はまったく耳に届いていない。
そんな中でも、アストルフォの高らかに奏でる角笛の音は、アマゾネスの国中に響かんばかりだった。
轟音と呼ぶに相応しい、多勢の足音がみるみる遠ざかっていく。
凶暴なアマゾネスの軍団は、一人残らず消えていた。アストルフォの下に集っていた仲間の騎士たちも、例外ではなかった。その場に残っているのは、咄嗟に耳を塞いだロジェロのみ。あの屈強なマルフィサですら逃亡してしまったのだ。
「あ――――しまった。やっちゃった」
「『やっちゃった』じゃねえよウルトラ級のドアフォおおおお!?
どーすんだよ! 皆いなくなっちまったじゃねえか! オレやお前の従者も一人残らず! 操船できる人員もいねェから、もう船でフランク王国に帰れねえぞ!」
「大丈夫だよ。ホラ――ボクらの愛馬、ヒポグリフとラビカンは空を飛んで戻ってきている」
「あ、本当だ――って、二人して空飛ぶ馬に乗って帰るのか? 流石に目立ち過ぎだろそれ!」
なおこの後、アストルフォは戻ってきたヒポグリフに後ろ脚で蹴られてブッ飛ばされたが、幸い怪我はなかった。
**********
結局この冗談のような事件がきっかけで、アストルフォ御一行の大所帯は解散となった。
インド王女マルフィサをはじめとした仲間の騎士たちも――それぞれの目的地を目指し、散りぢりになってしまう。
しかしこれらの紆余曲折を経て、ロジェロとアストルフォは――空飛ぶ馬の助けもあり、ようやく遠きエチオピアの地に辿り着く事ができた。
いくら冒険好きのアストルフォとはいえ、何故エチオピア? となってしまう話であるが、ロジェロこと黒崎にとっては念願の目的地であった。
この地で起きる事件を解決することで、進む事ができるのだ。月へと。
突拍子もない話だが、アストルフォは月に旅行する。ご都合主義極まりない話であるが、そこで見つける。後に発狂してしまう、オルランドを元に戻す手段を。
そして黒崎の目的とは――
(オレの記憶が正しければ。月に行く事ができれば、オレの求めるモノも見つかるハズだ。
アンジェリカの――いや正確にはアンジェリカの中にいる『彼女』の持つ、魂の記憶を探る手がかりがな)
━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━
《 作者落書き・その1 》
妹マルフィサに再会のハグをされるロジェロ(黒崎)
ロジェロ(黒崎八式)は生き別れの妹、インド王女マルフィサと邂逅した。
かくいうロジェロ自身、彼女が妹だなどと全く気付かなかった訳であるが。
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「ずっと会いたかった……ロジェロ兄さん!」
インド風の民族衣装を纏い、日に焼けた健康的な肌をした美女マルフィサ。
隣で呑気していたイングランド王子アストルフォは、彼女と衝突した為きりきり舞いで宙を飛び、屋台に頭から突っ込んでいた。
そしてロジェロは今、ぎゅうぎゅうと抱き付かれている。妹とはいえ美女の範疇に入る女性に至近距離で抱擁されているのだ。役得――と思っていたのも束の間、ものすごい力で締め上げられ、ロジェロは思わず悲鳴を上げた。
「ちょっ、痛ててててッ! や……めろ、マルフィサ! 苦しい!」
「あっ……ごめんなさい、兄さん」
ロジェロの苦悶の叫びを聞き、マルフィサはようやく状況を察したらしく、力を緩めて愛らしい顔を困ったように俯かせて謝罪した。
ロジェロの記憶にマルフィサとの思い出はほとんどないが、黒崎は知っている。ロジェロに妹がいて、物語の終盤で再会するという流れを。まさかアストルフォの旅に同行する事で、こんなに早く再会できるとは思っていなかったが。
しかも恐ろしく力が強い。ロジェロの恋人、女騎士ブラダマンテもチート性能を誇っているが、彼女はどちらかと言えば技やスピードを重視したタイプだ。
目の前のマルフィサは並の男なら軽く捻り上げそうなほどのパワー型。よくよく見れば引き締まった肢体も鍛えられており、筋肉質である事が伺えるのだった。
「しかし幼い頃に生き別れてそれっきりなのに、よくオレが兄だって分かったな」
「え? だって子供の頃の面影、残っているし。十年以上前だが。
見てすぐに分かった。自分と同じ髪の色だし、顔立ちだって似ている!」
そうか――と、黒崎は一応納得した。ブラダマンテに憑依している司藤アイ以外には、自分の顔はムーア人(註:スペインのイスラム教徒)ロジェロのものに見えているのだ。長旅で鏡を見る機会もめっきり減り、忘れかけていたが。
元々ロジェロは、祖先がトロイの英雄ヘクトルである事からも分かる通り、根っからのイスラム教徒側という訳でもなかった。
ロジェロの父はキリスト教徒であり、アフリカ大王アグラマンの血族である女性と恋仲に落ち、結婚してしまった。その際に産まれたのがロジェロとマルフィサ。イスラム側は意趣返しとばかりにロジェロの父を殺し、二人の子供を魔法使いアトラントに預け、育てさせたのである。
「再会して嬉しいってのは分かるが――親しい間柄の人でも、いきなり全力で抱き締めるのはどうかと思うぞ? 痛いし」
「そ、そう? 親愛を示すにはこれが一番だと――アストルフォ殿に教わったんだが」
「原因あいつか! あのアフォがああああ!?」
マルフィサの抱擁癖の元凶たるイングランド王子は、屋台に突っ込んで気絶している所を他の仲間の騎士から救助され、介抱されている最中だった。
意識を取り戻したアストルフォに、謝罪するマルフィサだったが――当の本人は「気にする事は無いさ! 我々の業界ではご褒美だよ!」と、よく分からない理屈で許してくれた。
結局その後、怪我をしたアストルフォは馬上槍試合に不参加。彼の看病をする事に決めたマルフィサも棄権する事となった。
その他、ロジェロも含めた仲間の騎士たちは参戦。優勝したのは仲間の一人の、サンソンという騎士だった。「誰だよ」と思われるかもしれないが――彼も一応シャルルマーニュ十二勇士の一人であり、後のフランスにおいて代々、死刑執行人を務め上げるサンソン家の先祖だったりする。
**********
その後も仲間を増やし続け、冒険する日々が続く――かに見えたが、突如それは終わりを告げた。
そろそろフランク王国に戻ろうかと船で移動中、お約束のように嵐に見舞われたロジェロ一行。北アフリカのいずこかにあると言われる、伝説のアマゾネスの国に迷い込み、女戦士の大集団に問答無用で囲まれ、戦闘する羽目に陥った。
「まったく、ボクが美しいからといって力づくとはね。こういうのは双方の同意が肝要だというのに」
「呑気なこと言ってる場合か! 口動かす前に武器を動かせよアフォ殿!」
「兄さん、聞いたことがある。このアマゾネスの国、迷い込んだ男性は戦って勝たないと、みんな奴隷にされてしまうらしい!」
「マジかよアマゾネス最低だな!」
アストルフォ、ロジェロ、マルフィサ――そしてサンソン他、仲間の騎士たちも奮闘した。特にマルフィサの実力は凄まじく、奴隷と思しき男戦士どもを瞬く間に十人以上、斬り伏せたりしている。
「マルフィサ――思っていた以上に強いんだな、お前」
「死に物狂いで鍛えたからな! インドの王女の座も! 戦って戦って戦い抜いて勝ち取ったんだ!」
ロジェロの舌の巻きように、マルフィサは誇らしげに応えた。
彼女は奴隷としてインドの地で売られながらも、戦士としての頭角を現し、戦いを重んずる部族の王女の地位にまで上り詰めた。その際にこの世で最も力強き王を三人、生け捕りにする事を誓ったほどの女丈夫なのだ。
騎士の一行は圧倒的な戦力で、縦横無尽の活躍を繰り広げたが。
いくら叩きのめしても、後から後から湧いてくるアマゾネスの集団。多勢に無勢だった。
「皆、頑張ってくれているけれど……ピンチだね! かくなる上は――コレで追い払うしかない!」
そう言ってアストルフォが取り出したのは――とても嫌な予感がしたロジェロの危惧通り、例の恐怖の角笛だった。
「学習能力ねえのかアフォ!? そいつを吹いちまったら――」
ロジェロは慌てて、仲間たちに耳を塞ぐよう叫ぼうとしたが。乱戦の喧騒の最中では、彼の警告はまったく耳に届いていない。
そんな中でも、アストルフォの高らかに奏でる角笛の音は、アマゾネスの国中に響かんばかりだった。
轟音と呼ぶに相応しい、多勢の足音がみるみる遠ざかっていく。
凶暴なアマゾネスの軍団は、一人残らず消えていた。アストルフォの下に集っていた仲間の騎士たちも、例外ではなかった。その場に残っているのは、咄嗟に耳を塞いだロジェロのみ。あの屈強なマルフィサですら逃亡してしまったのだ。
「あ――――しまった。やっちゃった」
「『やっちゃった』じゃねえよウルトラ級のドアフォおおおお!?
どーすんだよ! 皆いなくなっちまったじゃねえか! オレやお前の従者も一人残らず! 操船できる人員もいねェから、もう船でフランク王国に帰れねえぞ!」
「大丈夫だよ。ホラ――ボクらの愛馬、ヒポグリフとラビカンは空を飛んで戻ってきている」
「あ、本当だ――って、二人して空飛ぶ馬に乗って帰るのか? 流石に目立ち過ぎだろそれ!」
なおこの後、アストルフォは戻ってきたヒポグリフに後ろ脚で蹴られてブッ飛ばされたが、幸い怪我はなかった。
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結局この冗談のような事件がきっかけで、アストルフォ御一行の大所帯は解散となった。
インド王女マルフィサをはじめとした仲間の騎士たちも――それぞれの目的地を目指し、散りぢりになってしまう。
しかしこれらの紆余曲折を経て、ロジェロとアストルフォは――空飛ぶ馬の助けもあり、ようやく遠きエチオピアの地に辿り着く事ができた。
いくら冒険好きのアストルフォとはいえ、何故エチオピア? となってしまう話であるが、ロジェロこと黒崎にとっては念願の目的地であった。
この地で起きる事件を解決することで、進む事ができるのだ。月へと。
突拍子もない話だが、アストルフォは月に旅行する。ご都合主義極まりない話であるが、そこで見つける。後に発狂してしまう、オルランドを元に戻す手段を。
そして黒崎の目的とは――
(オレの記憶が正しければ。月に行く事ができれば、オレの求めるモノも見つかるハズだ。
アンジェリカの――いや正確にはアンジェリカの中にいる『彼女』の持つ、魂の記憶を探る手がかりがな)
━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━
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