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第6章 アストルフォ月へ行く
17 司藤アイの魂を救出せよ!
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忘却の川レテの水を浴び、意識を失ってしまった司藤アイ。
何よりも深刻なのは、黒崎八式の目から見ても、倒れた彼女の顔が金髪の美女――女騎士ブラダマンテのものに見えてしまっている事だ。
(アルシナが化けたあの顔にそっくりって事は……コレが本来の『ブラダマンテ』の顔なのか。川の水を浴びたら死と忘却に近づくって事は……司藤のやつ、マジで死にかけてんのか!?)
「ロジェロ君。今きみ――ブラダマンテに向かって『シドウ』と呼びかけていなかったか?」
不思議そうな表情でアストルフォが問いかけてきた事で、黒崎はようやく失態に気づいた。事態に動転するあまり、思わず本来の幼馴染の名を呼んでしまっていたらしい。
イングランド王子の怪訝そうな態度に、隣にいた尼僧メリッサも表情を曇らせている。
(しまった……こいつらがいる前で司藤の名前をバラしちまった。
オレとした事が。こんな時にこそ冷静でいなきゃならねえってのに……!)
切羽詰まった状況に、さしもの黒崎も混乱しかけた時。
彼の脳裏に声が響いた。
『アイ君! どうした? 何があった? 返事をするんだ!』
環境大学教授・下田三郎の声であった。
アイの身体に触れている事で、黒崎にも彼の念話が届いたのだ。
ииииииииии
「その声は……下田先生か? そうか、司藤の身体に触れているから……!」
『む? 黒崎君かね? 一体何が起きたんだ?』
黒崎は下田に、アイがレテ川の水を浴びて意識を失った旨を話した。
「今、司藤の顔がブラダマンテのものになっちまってる……
一体どうすりゃいいんだ? 司藤は……まさか死んじまったのか!?」
悲痛な声を上げる黒崎。下田教授は懸命に呼びかけた。
『そう結論を急ぐな黒崎君。もしアイ君が本当に死んでいるなら、この念話も成立しないハズだ。
しかし……心なしか声が遠いな。やはり弱っているという事かもしれん』
言われてみれば確かに、下田の念話の声が聞き取りづらい。
「教えてくれ先生! 司藤を助けるには……どうすればいい!?」
ииииииииии
現実世界。下田教授のマンションにて。
魔本「狂えるオルランド」から、作り物めいた甲高い声が響いた。
『大分ピンチみたいだねえ、下田三郎センセイ?』
「……Furiosoか」
声の主の名はFurioso。魔本に宿る悪魔的な意思。
「状況が分かるなら、アイ君を助ける方法を知らないか?」
『へえ~教授! それ聞いちゃう? このボクに聞いちゃうのォ?』
殊更愉快そうに、意地悪な含み声を上げる「本の悪魔」。
『最近さァ~ボクが呼びかけても、散々無視して書き物に没頭しちゃって!
こォ~んなに邪険にしておきながら、いざ自分が困ったら頼ろうとするワケだ!
ムシが良すぎると思わない? ボクが協力するとでも?』
嫌味ったらしく煽り立てる「本の悪魔」に、下田は冷然と答えた。
「――するさ。お前の性格ならな」
『どうしてそう思うんだい?』
「ブラダマンテが――アイ君がアルジェリア王ロドモンと戦っていた最中、お前は彼女を逃がそうと提言しただろう。
お前はアイ君に期待を抱いている。物語を最後まで進められる逸材だと思い始めている。
お前さんがかつて言った台詞をそのまま返すぞ。せっかくの大団円、フイにして構わないのか?」
下田の言葉に、Furiosoはつまらなさそうに鼻を鳴らした。
『……フン、まあいいさ。ボクがわざわざ口出しをしなくたって、解決法はすぐに分かるだろうし。
聖ヨハネがやり方を知っている。司藤アイの消えかけた魂を取り戻す方法をね』
もっとも教わったからといってその方法が上手く行くかは黒崎たち次第だ、とも付け加える。
「そうか……ありがとう。礼は言っておこう」
『感謝するなら、全て事が上手くいってからにした方がいい。
安心するのはまだ早いぜ』
ииииииииии
下田教授から助言を聞いた黒崎は、さっそく聖ヨハネに大声で尋ねた。
「聖ヨハネ! この状況を何とかする方法を知っているんだろう?
頼む、この通りだ。どうか教えてくれ!」
「……この者の魂は形を失いつつある。この『月』は精神と過去の世界。
だから直接に触れよ。彼女の魂があると思われる箇所を。さすれば彼女の精神の中へと、飛び込むことができるじゃろう」
意外と単純な方法だ。しかし魂があると思われる箇所とは――?
「ロジェロ君、出来れば教えてくれないか? 『シドウ』とは何なんだ?」
アストルフォの問いに黒崎はしばしの間逡巡したが、やがて意を決し説明する事にした。
「今のアンタは、心を取り戻して理性がある状態だったな、アストルフォ。
分かった。今から教える。メリッサも心して聞いてくれ。
オレとブラダマンテは――この世界とは異なる世界から魂を呼び出され、憑依している状態なんだ。
司藤アイはクレルモン家のブラダマンテに。
そしてオレは黒崎八式。ムーア人の騎士ロジェロの肉体を借りている身だ」
「――異なる、世界……!? まさか、そんなッ……!」
理解が追いつかないのか、衝撃が大きいのか。メリッサは口元を両手で押さえてブルブルと震えていた。
「……そうか、そういう事なのか。ロジェロ……いや我が友、黒崎君」
一方でアストルフォは、得心がいったように深く頷いていた。
「思慮分別がある状態とはいえ、理解と順応が早過ぎねえか? アフォ殿」
「もともと前から、きみの態度や行動は先読みが目立っていたからね。なるほど、別世界から魂が飛んできたというのなら――合点がいくというものだよ」
アストルフォはウインクをして「それに」と付け加える。
「きみがいかなる存在であろうとも、ボクのかけがえのない親友である事に変わりはないさ。
だから信じる。きみが嘘をついていないと分かるからね。ボクにできる事であれば、何でも言ってくれ」
「ええ、私も……黒崎様、でしたね? 貴方の言い分を信じますわ」とメリッサ。
「今までのブラダマンテの行動を見ていて、心当たりもありましたもの」
「そうか……ありがとよ。二人とも話が早くて助かる。
信じてくれるなら協力してくれ。司藤を救うために」
黒崎は笑みを浮かべ、倒れたままの司藤――女騎士ブラダマンテの左胸の部分に手を当てた。
(司藤の魂がある場所は――やっぱりここか)
鎧に覆われている筈の胸にやった手が――沈む。精神世界にて魂が希薄になっているせいか、黒崎の手は易々と女騎士の肉体の内側へと入り込んだ。
それを見てアストルフォとメリッサも、黒崎に重ね合わせるように手を伸ばす。そして――三人の視界は一変した。
何よりも深刻なのは、黒崎八式の目から見ても、倒れた彼女の顔が金髪の美女――女騎士ブラダマンテのものに見えてしまっている事だ。
(アルシナが化けたあの顔にそっくりって事は……コレが本来の『ブラダマンテ』の顔なのか。川の水を浴びたら死と忘却に近づくって事は……司藤のやつ、マジで死にかけてんのか!?)
「ロジェロ君。今きみ――ブラダマンテに向かって『シドウ』と呼びかけていなかったか?」
不思議そうな表情でアストルフォが問いかけてきた事で、黒崎はようやく失態に気づいた。事態に動転するあまり、思わず本来の幼馴染の名を呼んでしまっていたらしい。
イングランド王子の怪訝そうな態度に、隣にいた尼僧メリッサも表情を曇らせている。
(しまった……こいつらがいる前で司藤の名前をバラしちまった。
オレとした事が。こんな時にこそ冷静でいなきゃならねえってのに……!)
切羽詰まった状況に、さしもの黒崎も混乱しかけた時。
彼の脳裏に声が響いた。
『アイ君! どうした? 何があった? 返事をするんだ!』
環境大学教授・下田三郎の声であった。
アイの身体に触れている事で、黒崎にも彼の念話が届いたのだ。
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「その声は……下田先生か? そうか、司藤の身体に触れているから……!」
『む? 黒崎君かね? 一体何が起きたんだ?』
黒崎は下田に、アイがレテ川の水を浴びて意識を失った旨を話した。
「今、司藤の顔がブラダマンテのものになっちまってる……
一体どうすりゃいいんだ? 司藤は……まさか死んじまったのか!?」
悲痛な声を上げる黒崎。下田教授は懸命に呼びかけた。
『そう結論を急ぐな黒崎君。もしアイ君が本当に死んでいるなら、この念話も成立しないハズだ。
しかし……心なしか声が遠いな。やはり弱っているという事かもしれん』
言われてみれば確かに、下田の念話の声が聞き取りづらい。
「教えてくれ先生! 司藤を助けるには……どうすればいい!?」
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現実世界。下田教授のマンションにて。
魔本「狂えるオルランド」から、作り物めいた甲高い声が響いた。
『大分ピンチみたいだねえ、下田三郎センセイ?』
「……Furiosoか」
声の主の名はFurioso。魔本に宿る悪魔的な意思。
「状況が分かるなら、アイ君を助ける方法を知らないか?」
『へえ~教授! それ聞いちゃう? このボクに聞いちゃうのォ?』
殊更愉快そうに、意地悪な含み声を上げる「本の悪魔」。
『最近さァ~ボクが呼びかけても、散々無視して書き物に没頭しちゃって!
こォ~んなに邪険にしておきながら、いざ自分が困ったら頼ろうとするワケだ!
ムシが良すぎると思わない? ボクが協力するとでも?』
嫌味ったらしく煽り立てる「本の悪魔」に、下田は冷然と答えた。
「――するさ。お前の性格ならな」
『どうしてそう思うんだい?』
「ブラダマンテが――アイ君がアルジェリア王ロドモンと戦っていた最中、お前は彼女を逃がそうと提言しただろう。
お前はアイ君に期待を抱いている。物語を最後まで進められる逸材だと思い始めている。
お前さんがかつて言った台詞をそのまま返すぞ。せっかくの大団円、フイにして構わないのか?」
下田の言葉に、Furiosoはつまらなさそうに鼻を鳴らした。
『……フン、まあいいさ。ボクがわざわざ口出しをしなくたって、解決法はすぐに分かるだろうし。
聖ヨハネがやり方を知っている。司藤アイの消えかけた魂を取り戻す方法をね』
もっとも教わったからといってその方法が上手く行くかは黒崎たち次第だ、とも付け加える。
「そうか……ありがとう。礼は言っておこう」
『感謝するなら、全て事が上手くいってからにした方がいい。
安心するのはまだ早いぜ』
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下田教授から助言を聞いた黒崎は、さっそく聖ヨハネに大声で尋ねた。
「聖ヨハネ! この状況を何とかする方法を知っているんだろう?
頼む、この通りだ。どうか教えてくれ!」
「……この者の魂は形を失いつつある。この『月』は精神と過去の世界。
だから直接に触れよ。彼女の魂があると思われる箇所を。さすれば彼女の精神の中へと、飛び込むことができるじゃろう」
意外と単純な方法だ。しかし魂があると思われる箇所とは――?
「ロジェロ君、出来れば教えてくれないか? 『シドウ』とは何なんだ?」
アストルフォの問いに黒崎はしばしの間逡巡したが、やがて意を決し説明する事にした。
「今のアンタは、心を取り戻して理性がある状態だったな、アストルフォ。
分かった。今から教える。メリッサも心して聞いてくれ。
オレとブラダマンテは――この世界とは異なる世界から魂を呼び出され、憑依している状態なんだ。
司藤アイはクレルモン家のブラダマンテに。
そしてオレは黒崎八式。ムーア人の騎士ロジェロの肉体を借りている身だ」
「――異なる、世界……!? まさか、そんなッ……!」
理解が追いつかないのか、衝撃が大きいのか。メリッサは口元を両手で押さえてブルブルと震えていた。
「……そうか、そういう事なのか。ロジェロ……いや我が友、黒崎君」
一方でアストルフォは、得心がいったように深く頷いていた。
「思慮分別がある状態とはいえ、理解と順応が早過ぎねえか? アフォ殿」
「もともと前から、きみの態度や行動は先読みが目立っていたからね。なるほど、別世界から魂が飛んできたというのなら――合点がいくというものだよ」
アストルフォはウインクをして「それに」と付け加える。
「きみがいかなる存在であろうとも、ボクのかけがえのない親友である事に変わりはないさ。
だから信じる。きみが嘘をついていないと分かるからね。ボクにできる事であれば、何でも言ってくれ」
「ええ、私も……黒崎様、でしたね? 貴方の言い分を信じますわ」とメリッサ。
「今までのブラダマンテの行動を見ていて、心当たりもありましたもの」
「そうか……ありがとよ。二人とも話が早くて助かる。
信じてくれるなら協力してくれ。司藤を救うために」
黒崎は笑みを浮かべ、倒れたままの司藤――女騎士ブラダマンテの左胸の部分に手を当てた。
(司藤の魂がある場所は――やっぱりここか)
鎧に覆われている筈の胸にやった手が――沈む。精神世界にて魂が希薄になっているせいか、黒崎の手は易々と女騎士の肉体の内側へと入り込んだ。
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