つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

LED

文字の大きさ
108 / 197
第6章 アストルフォ月へ行く

23 聖ヨハネの正体

しおりを挟む
 司藤しどうアイと黒崎くろさき八式やしきが塔を出た時、いつの間にか二人の姿は物語世界の鎧姿に戻っていた。
 塔の外で待っていたアストルフォとメリッサは、二人の姿を見るや満面の笑みを浮かべて出迎えた。少し離れたところに座っていたブラダマンテも、アイが元気な様子を見て安堵の表情を浮かべていた。

「無事だったのですね、司藤しどうさん!」

 メリッサは大喜びでアイを抱き締める。彼女に本来の名前を呼ばれるのは面映おもばゆい心地がした。

「ごめんなさいね、メリッサ。それにアストルフォも。
 心配かけちゃった。わたしの事は、黒崎から聞いているのよね?
 でも改めて自己紹介します。司藤しどうアイです――」

 二人にお辞儀をして、これまでの経緯を話すアイ。
 ほとんどは黒崎から聞いた情報の再確認であったが、彼女が自信を無くしかけ「ブラダマンテ」を辞めたくなっていた事、その為にレテ川の水の影響を受け、魂が消滅しかかっていた事などが明らかにされた。

「――でも、みんなが来てくれたお陰で。何とか立ち直る事ができました。
 わたしじゃ『ブラダマンテ』として頼りないかもしれないけれど、精一杯やっていきたいと思っています。
 だから……こんなわたしでも良ければ、みんなの力を貸して欲しいんです。
 どうか、どうか……宜しく、お願いします――」

「そこんとこ、オレからも頼むよ。アストルフォ、メリッサ」黒崎が言った。
「オレから勝手にバラしちまったけどさ。司藤しどうの素性や、抱えている使命。
 信頼できるアンタ達が知っていて、協力してくれれば――司藤コイツの負担も軽くなると思うんだ」

「はっはっは! 今更言われるまでもないよ。我が友、黒崎! それに司藤しどう君!
 このイングランド王子アストルフォ。我が家名と主イエスに誓って、君たちの手助けをすると約束しよう!」

 爽やかな笑顔と共に、アストルフォはひざまずいて協力する旨を誓った。
 同じくメリッサも彼にならい、こうべを垂れる。

「水臭いですわ。お二人がいかなる存在であれ、今のお二人が結ばれる事こそが、このメリッサの使命!
 今後ともお二方に仕える従者として、誠心誠意尽くさせていただきますわ!」

(……だよな。わざわざ聞くまでもなかったよな、この二人なら)

 それでも、アイの表情が輝かんばかりに和らいだのを見て、黒崎も安堵した。
 そして黒崎は、遠くで頬杖をついている女騎士にも声をかけた。

「――そうだ、『ブラダマンテ』。お前も、司藤しどうに協力してやってくれ」
「面白い事を言うな。わたしにまで協力を求めるというのか」

「当たり前じゃねえか。これから先、お前の騎士としての力――必要不可欠なんだからよ」
「…………」

 やや不機嫌そうな顔をしているブラダマンテに対し、アイは歩み寄ってその手を取った。

「お願い。これから先、あなたとも上手くやっていきたいって思っているの。
 あなただって、ロジェロと結ばれる為に頑張っているんでしょう?
 この物語をやり遂げれば、わたし達も元の世界に戻れる。あなたも結婚できる。お互いに利害は一致するわ」
「本当にいいのか? わたしはあなたを乗っ取ろうとした人間だぞ?」

 ブラダマンテの疑問に、アイはかぶりを振って答えた。

「あなたの立場からすれば、望みもしないのに他人の魂に居座られ、操られているようなものでしょう?
 不快に思って追い出したくなるのも分かる。でもわたしだって、消えたくなんかない。
 だったら――二人で落としどころを探って、協力できるようにするしかないじゃない。そう思わない?」

 にっこりと笑うアイに、ブラダマンテは諦めたように溜め息をついた。

「もともとわたしに選択の余地などないよ。分かった――宜しく頼む、司藤しどうアイ」

**********

 気がつけば、そこは忘却の川レテのほとりだった。
 司藤しどうアイ、黒崎くろさき八式やしき、アストルフォ、メリッサの四人は並んで横たわっており、ほぼ同時に目を覚ました。

「ほっほっほ。ようやく彼女の精神から戻ってこれたようじゃな」

 白髪の老人・聖ヨハネがにこやかに言った。その手には水瓶が握られている。

「ご苦労じゃった。お主らが旅立っている間、レテの水を汲んで作っておいたぞ。
 エチオピア王セナプスの目を治療する薬をな。彼奴あやつが患っているのは、忘れたい過去を忘れられず、目を背けたくなった者が陥る病なのじゃ」

 聖ヨハネは水瓶から小さなビン2つに水を入れ、黒崎に手渡した。

「なんで2つもくれるんだ?」
「見えたのじゃよ。今後、その薬が必要な者がもう一人現れる未来がな。
 ま、ちょっとしたサービスじゃと思って、遠慮なく受け取ってくれい。
 わしもいいものを見せて貰ったからの」

 聖者は寂しそうに微笑み、レテ川で死者の名札を掬い上げようとする騒がしい鳥たちを見ていた。
 有象無象の鳥たちの中で名札を見事口にくわえ、天空にそびえ立つ「不滅の柱」にくくりつけられるのは――わずか二羽の美しき白鳥のみであった。

(あの白鳥は、希代の大詩人の象徴よ。物語の英雄として語り継がれるためには、本人が英雄である必要はない。
 大詩人の不滅の物語として謳われる機会に恵まれるか否かじゃ。わしも――あの白鳥のように、なりたかったのう)

 しかし聖ヨハネは気づいていた。アイや黒崎の記憶を通じて、己の著した物語がほとんどの人間に知られてすらいないという事実を。
 彼の正体は「狂えるオルランド」の作者たる詩人アリオスト――が著作に残した残留思念であった。だからこそいにしえの聖者の名を冠しながら、物語のスポンサーの名前を持ち上げるなどの不自然な行動を取っていたのである。

(もはやわしの描いた物語とは、この世界は大きく異なっておる……
 せめて見届けさせてもらおうぞ。お主らがこの世界をどう生き、度重なる試練を潜り抜けていくのか。
 願わくば、お主らの恋が成就する事を、陰ながら祈っておるよ――)

 こうして過去の精神世界「月」の旅路は終わりを告げ、聖ヨハネの宮殿での夜は明けた。
 月世界から戦利品の数々を持ち帰った一行は、伝説の聖者に感謝の礼を述べて、朝日と共に宮殿を後にしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

処理中です...