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第7章 オルランド討伐作戦
19 ブラダマンテvsマンドリカルド
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今までメリッサの抱擁で幾度となく繰り返されたセクハラ。
単なる行き過ぎた愛情表現かと思いきや、治療魔術の布石だったとは……
ブラダマンテは有難いやら迷惑やら、目眩がする始末だった。
(ううっ……何だか素直に感謝できないけどッ……!
この際何だっていいわ! あんまり怪我を気にせずに強気で攻められるしっ!)
ブラダマンテは迷いを捨て、一気にマンドリカルドを畳み掛ける事にした。
馬を全速力で走らせ、直線距離を突っ切る構えだ。
「フン。自棄になったかブラダマンテよ……!」
(その速度で突撃すれば俺様の馬に追いつけるやもしれん。だが……
格好の的だ! 我が強弓の餌食となるがいい!!)
タタール王は突進するブラダマンテを狙いすまし――絶好のタイミングで三本の矢を放った!
「はあッ!!」
ブラダマンテは気合一閃、マンドリカルドの矢を三本同時に盾で薙ぎ払った。
しかし無謀な体勢での強引な防御術。放たれた矢のうち二本は盾を貫き、彼女の左前腕に突き刺さる!
「くッ……ううッ……!」
激しい痛みと出血が伴い、衝撃で落馬しそうになるのを必死で堪え……女騎士は馬上に踏み止まった。
そして勢いに任せ、タタール武者の馬へ肉薄する!
「おおおおああああッッッ!!」
「何……だとォ……!?」
マンドリカルドはブラダマンテの猛然たる吶喊に驚愕した。
咄嗟に馬首を返し、距離を取ろうと後退するが――女騎士の捨て身の突撃速度が上回った!
二人の騎士の馬と馬が激しくぶつかり合った。
盾を利用した全力のタックルが、タタール王を馬上から弾き飛ばす。勢い余ってブラダマンテ自身も投げ出され、二人ともほぼ同時に地面に落下した。
互いに全身をしたたかに打ちつけ、苦悶する。二人はしばらくの間、立ち上がる事ができなかった。
しかし大の字に横たわったマンドリカルドより先に、盾を利用して僅かに受け身を取れたブラダマンテが先に起き上がった。
盾を投げ捨て、両刃剣を抜き――女騎士はタタール王に襲いかかる!
(流石に無茶しすぎた……かも……
矢傷はいずれ治るとはいえ、痛みはすぐには消えない……!
でもやった甲斐はあった。このまま一気に決着を……!!)
「覚悟しろマンドリカルドッ!」
雄叫びを上げ両刃剣を振り下ろすブラダマンテ。
勝利は目前に見えた。が――
剣戟が届く瞬間、マンドリカルドは疾風の如く跳ね起きた。彼は獣じみた動きで、女騎士の右手に拳をあてがい、刃の軌道をわずかに逸らす事に成功した。
「なッ……!?」
「危うい所だった……今のは効いたぞ、フランクの女騎士よ!」
頭を狙った斬撃は致命傷の軌道を外れた。タタール武者はさらに懐に飛び込み、繰り出した拳でブラダマンテの顎を捉える!
「がッ…………!?」
兜の上からとはいえ、凄まじい衝撃を受け――女騎士は危うく昏倒しかけた。
マンドリカルドとて無傷ではない。落下の衝撃で口を切ったらしく、血に塗れた怒りの形相であり、呼吸も荒い。
「クックック……やはりマルフィサのようにはいかんな。
兜越しに素手で殴るなど、正気の沙汰ではない……
しかし見事なり、ブラダマンテ。この俺様から力技で弓を取り上げるとはな」
タタール王は腰にぶら下げていた槌矛を抜き、構えた。
ブラダマンテも拳の衝撃からどうにか立ち直り、両刃剣を構え直す。
白兵戦が始まった。互いに著しく損傷し、疲労し、激痛を押しての、壮絶な打ち合いである。
華麗な技の応酬など微塵もない。攻撃を避けるだけの余裕も体力も、今の二人には残っていないのだ。
ブラダマンテの全身に槌矛による打撲が。
マンドリカルドの肉体に両刃剣による裂傷が。
戦いが長引くにつれ、目に見えて数を増していく。
ブラダマンテは矢傷こそメリッサの加護で回復していたが、打撃の損傷は流石に治りが遅い。それに失った血液や体力まで元通りになる訳ではない。
一方マンドリカルドは魔術の加護などなく、持ち前の持久力のみでブラダマンテの斬撃に耐えていた。
「おおおおおッ!」
「ぬああああッ!」
何十合と打ち合っただろうか。永劫と錯覚するほどの激しい戦いの末。
両刃剣と槌矛がぶつかり合った。
そして――ブラダマンテの刃は半ばから折られた。
「…………ッ!?」
「はッはァ!」
全身血みどろになりながらも、マンドリカルドは凄絶な笑みを浮かべる。
刹那、彼の振るった槌矛が女騎士の白兜を捉え、彼女を横薙ぎに吹き飛ばした。
「あ……ぐッ……」
ブラダマンテは川岸近くまで転がった。自慢の白い鎧も、無数の打撃を受け痛々しく変形している。
マンドリカルドはふらつきつつも、倒れた女騎士にゆっくりと歩み寄った。
「勝負……あったな……ブラダマンテ。そなたも、やはり……俺様が見込んだ通りの……勇者よ。インド王女……マルフィサに……勝るとも劣らぬ、女傑……」
タタール王は歪んだ笑みを浮かべ、声高に宣告した。
「生き延びる……チャンスをやろう。俺様の、モノとなれ……
俺様は、古の英雄アキレスと同じ、過ちを犯したくはない……
ブラダマンテ。そなたは強く……そして美しい。敵として討つのではなく、妻とすべき……女だ……」
二千年前のトロイ戦争の英雄アキレスは、アマゾネス女王ペンテシレイアを殺害した時、その美貌を知り激しく後悔したという。マンドリカルドはその事を言っているのだ。
物言いこそ好色に聞こえるが、ブラダマンテはロドモンの時とは違い、不思議とそこまで嫌悪感を覚えなかった。
無骨なるタタール武者は、彼なりにブラダマンテの強さと美貌に崇敬の念を抱き――その命を救いたいと純粋に願ったのだろう。
それでも――彼女の返答は決まっていた。
「……願ってもない申し出、と言いたいけれど……お断りするわ。
わたしの魂の自由と愛は……すでに心に決めた方に捧げたものだから」
(……この後、普通だったら『くっ、殺せ!』とか、啖呵切るんでしょうね――)
ブラダマンテ――司藤アイは、一時流行していた女騎士の台詞を思い出して自嘲した。
「残念だ……そう言われてしまっては仕方ない」
マンドリカルドは憮然とした表情になり、槌矛を振りかぶった。
「ブラダマンテ。そなたの命――今ここで貰い受ける」
重い鉄球が頭蓋に振り下ろされる様を想像し、アイは半ば諦めかけ、死を覚悟したが――
《――惚けている場合か? 司藤アイ|》
《!》
突如、アイの魂に呼びかける声があった。
内なるブラダマンテ。この女騎士の肉体に宿る、本来の魂の声だ。
《精一杯戦った末の敗北。死しても悔いはない。とでも言うつもりか?》
《…………》
《よく考えろ。お前は誰だ? ブラダマンテか?
この一騎打ちの末に果てるのがお前の望みか?》
《……違う。そんなんじゃ、ない……》
(わたしは――女騎士ブラダマンテ――『じゃない』……
わたしは――司藤アイだ。
黒崎とも、綺織先輩とも誓ったんだ。必ず生きて再会するって)
《ならば顔を上げろ。身体を動かせ。敵の動きから目を逸らすな。
わたしも力を貸そう。お前なら我が力、十全に扱える。
まだまだこんな程度ではないと証明してみせろ!》
(死にたくない。どんなにみっともなくても、足掻いて、足掻いて――生き残ってみせる!)
タタール王の武器が振り下ろされる寸前、ブラダマンテは残り僅かの気力を振り絞り、全力で立ち上がった。
半ばから折れた両刃剣を逆手に持ち、柄頭の頂点を槌矛の柄の中心線にぶつけ、突き上げる!
がぎんっ、という鈍い音がして――マンドリカルドの槌矛の柄は砕け散った。
「…………なァッ!?」
よもや振り下ろす軌道を読まれ、合わせられるとは思わなかったのだろう。
熾烈な打ち合いの末、彼の武器も強度に限界が来ていた。そこを狙いすましての武器破壊――だが槌頭と呼ばれる鉄球部分は、折れた拍子にブラダマンテの右耳にぶつかった。
「…………痛ッ」
兜の中で耳が潰れ、焼けつくような痛みが走る――だが、そんなものを意に介している暇はない!
虚を突かれたマンドリカルドに、ブラダマンテは武器を捨て掴みかかった。
そして激しく揉み合った末に――二人はレテ川の中へと転落してしまった。
単なる行き過ぎた愛情表現かと思いきや、治療魔術の布石だったとは……
ブラダマンテは有難いやら迷惑やら、目眩がする始末だった。
(ううっ……何だか素直に感謝できないけどッ……!
この際何だっていいわ! あんまり怪我を気にせずに強気で攻められるしっ!)
ブラダマンテは迷いを捨て、一気にマンドリカルドを畳み掛ける事にした。
馬を全速力で走らせ、直線距離を突っ切る構えだ。
「フン。自棄になったかブラダマンテよ……!」
(その速度で突撃すれば俺様の馬に追いつけるやもしれん。だが……
格好の的だ! 我が強弓の餌食となるがいい!!)
タタール王は突進するブラダマンテを狙いすまし――絶好のタイミングで三本の矢を放った!
「はあッ!!」
ブラダマンテは気合一閃、マンドリカルドの矢を三本同時に盾で薙ぎ払った。
しかし無謀な体勢での強引な防御術。放たれた矢のうち二本は盾を貫き、彼女の左前腕に突き刺さる!
「くッ……ううッ……!」
激しい痛みと出血が伴い、衝撃で落馬しそうになるのを必死で堪え……女騎士は馬上に踏み止まった。
そして勢いに任せ、タタール武者の馬へ肉薄する!
「おおおおああああッッッ!!」
「何……だとォ……!?」
マンドリカルドはブラダマンテの猛然たる吶喊に驚愕した。
咄嗟に馬首を返し、距離を取ろうと後退するが――女騎士の捨て身の突撃速度が上回った!
二人の騎士の馬と馬が激しくぶつかり合った。
盾を利用した全力のタックルが、タタール王を馬上から弾き飛ばす。勢い余ってブラダマンテ自身も投げ出され、二人ともほぼ同時に地面に落下した。
互いに全身をしたたかに打ちつけ、苦悶する。二人はしばらくの間、立ち上がる事ができなかった。
しかし大の字に横たわったマンドリカルドより先に、盾を利用して僅かに受け身を取れたブラダマンテが先に起き上がった。
盾を投げ捨て、両刃剣を抜き――女騎士はタタール王に襲いかかる!
(流石に無茶しすぎた……かも……
矢傷はいずれ治るとはいえ、痛みはすぐには消えない……!
でもやった甲斐はあった。このまま一気に決着を……!!)
「覚悟しろマンドリカルドッ!」
雄叫びを上げ両刃剣を振り下ろすブラダマンテ。
勝利は目前に見えた。が――
剣戟が届く瞬間、マンドリカルドは疾風の如く跳ね起きた。彼は獣じみた動きで、女騎士の右手に拳をあてがい、刃の軌道をわずかに逸らす事に成功した。
「なッ……!?」
「危うい所だった……今のは効いたぞ、フランクの女騎士よ!」
頭を狙った斬撃は致命傷の軌道を外れた。タタール武者はさらに懐に飛び込み、繰り出した拳でブラダマンテの顎を捉える!
「がッ…………!?」
兜の上からとはいえ、凄まじい衝撃を受け――女騎士は危うく昏倒しかけた。
マンドリカルドとて無傷ではない。落下の衝撃で口を切ったらしく、血に塗れた怒りの形相であり、呼吸も荒い。
「クックック……やはりマルフィサのようにはいかんな。
兜越しに素手で殴るなど、正気の沙汰ではない……
しかし見事なり、ブラダマンテ。この俺様から力技で弓を取り上げるとはな」
タタール王は腰にぶら下げていた槌矛を抜き、構えた。
ブラダマンテも拳の衝撃からどうにか立ち直り、両刃剣を構え直す。
白兵戦が始まった。互いに著しく損傷し、疲労し、激痛を押しての、壮絶な打ち合いである。
華麗な技の応酬など微塵もない。攻撃を避けるだけの余裕も体力も、今の二人には残っていないのだ。
ブラダマンテの全身に槌矛による打撲が。
マンドリカルドの肉体に両刃剣による裂傷が。
戦いが長引くにつれ、目に見えて数を増していく。
ブラダマンテは矢傷こそメリッサの加護で回復していたが、打撃の損傷は流石に治りが遅い。それに失った血液や体力まで元通りになる訳ではない。
一方マンドリカルドは魔術の加護などなく、持ち前の持久力のみでブラダマンテの斬撃に耐えていた。
「おおおおおッ!」
「ぬああああッ!」
何十合と打ち合っただろうか。永劫と錯覚するほどの激しい戦いの末。
両刃剣と槌矛がぶつかり合った。
そして――ブラダマンテの刃は半ばから折られた。
「…………ッ!?」
「はッはァ!」
全身血みどろになりながらも、マンドリカルドは凄絶な笑みを浮かべる。
刹那、彼の振るった槌矛が女騎士の白兜を捉え、彼女を横薙ぎに吹き飛ばした。
「あ……ぐッ……」
ブラダマンテは川岸近くまで転がった。自慢の白い鎧も、無数の打撃を受け痛々しく変形している。
マンドリカルドはふらつきつつも、倒れた女騎士にゆっくりと歩み寄った。
「勝負……あったな……ブラダマンテ。そなたも、やはり……俺様が見込んだ通りの……勇者よ。インド王女……マルフィサに……勝るとも劣らぬ、女傑……」
タタール王は歪んだ笑みを浮かべ、声高に宣告した。
「生き延びる……チャンスをやろう。俺様の、モノとなれ……
俺様は、古の英雄アキレスと同じ、過ちを犯したくはない……
ブラダマンテ。そなたは強く……そして美しい。敵として討つのではなく、妻とすべき……女だ……」
二千年前のトロイ戦争の英雄アキレスは、アマゾネス女王ペンテシレイアを殺害した時、その美貌を知り激しく後悔したという。マンドリカルドはその事を言っているのだ。
物言いこそ好色に聞こえるが、ブラダマンテはロドモンの時とは違い、不思議とそこまで嫌悪感を覚えなかった。
無骨なるタタール武者は、彼なりにブラダマンテの強さと美貌に崇敬の念を抱き――その命を救いたいと純粋に願ったのだろう。
それでも――彼女の返答は決まっていた。
「……願ってもない申し出、と言いたいけれど……お断りするわ。
わたしの魂の自由と愛は……すでに心に決めた方に捧げたものだから」
(……この後、普通だったら『くっ、殺せ!』とか、啖呵切るんでしょうね――)
ブラダマンテ――司藤アイは、一時流行していた女騎士の台詞を思い出して自嘲した。
「残念だ……そう言われてしまっては仕方ない」
マンドリカルドは憮然とした表情になり、槌矛を振りかぶった。
「ブラダマンテ。そなたの命――今ここで貰い受ける」
重い鉄球が頭蓋に振り下ろされる様を想像し、アイは半ば諦めかけ、死を覚悟したが――
《――惚けている場合か? 司藤アイ|》
《!》
突如、アイの魂に呼びかける声があった。
内なるブラダマンテ。この女騎士の肉体に宿る、本来の魂の声だ。
《精一杯戦った末の敗北。死しても悔いはない。とでも言うつもりか?》
《…………》
《よく考えろ。お前は誰だ? ブラダマンテか?
この一騎打ちの末に果てるのがお前の望みか?》
《……違う。そんなんじゃ、ない……》
(わたしは――女騎士ブラダマンテ――『じゃない』……
わたしは――司藤アイだ。
黒崎とも、綺織先輩とも誓ったんだ。必ず生きて再会するって)
《ならば顔を上げろ。身体を動かせ。敵の動きから目を逸らすな。
わたしも力を貸そう。お前なら我が力、十全に扱える。
まだまだこんな程度ではないと証明してみせろ!》
(死にたくない。どんなにみっともなくても、足掻いて、足掻いて――生き残ってみせる!)
タタール王の武器が振り下ろされる寸前、ブラダマンテは残り僅かの気力を振り絞り、全力で立ち上がった。
半ばから折れた両刃剣を逆手に持ち、柄頭の頂点を槌矛の柄の中心線にぶつけ、突き上げる!
がぎんっ、という鈍い音がして――マンドリカルドの槌矛の柄は砕け散った。
「…………なァッ!?」
よもや振り下ろす軌道を読まれ、合わせられるとは思わなかったのだろう。
熾烈な打ち合いの末、彼の武器も強度に限界が来ていた。そこを狙いすましての武器破壊――だが槌頭と呼ばれる鉄球部分は、折れた拍子にブラダマンテの右耳にぶつかった。
「…………痛ッ」
兜の中で耳が潰れ、焼けつくような痛みが走る――だが、そんなものを意に介している暇はない!
虚を突かれたマンドリカルドに、ブラダマンテは武器を捨て掴みかかった。
そして激しく揉み合った末に――二人はレテ川の中へと転落してしまった。
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