つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

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第7章 オルランド討伐作戦

20 ロジェロvsリナルド・前編

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 無我夢中でマンドリカルドと格闘していたブラダマンテは、レテ川へと転落してしまった。

(しまった……! この川って……月でも見た、死と忘却の川……!
 以前、ほんの少し川の水を浴びただけでも意識を失うぐらいだったのに……飛び込んじゃう……なんてッ……!)

 以前の恐ろしい記憶を思い出し、青くなる司藤しどうアイであったが。

《そこは心配いらん》内なるブラダマンテの声が響いた。
《今のお前は、わたしの暗示の効果もあり、司藤しどうアイとしての自我が強い。
 以前わたしの存在に取り込まれかけていた時とは状況が違う》

(言われてみれば、確かに……全身にレテの水を浴びているのに、意識もハッキリしてる……!)

《問題は別にある。この川、大して深くもなく流れも緩やかだが……
 それでも鎧兜を着たまま川に落ちるというのは、普通に溺死の危険があるぞ》

 ブラダマンテの指摘は、きわめて現実的なものだった。

(ええっ……!? じゃ、じゃあどうすれば……!)

《まず落ち着け。息はしばらく保つ。
 わたしだって溺れ死ぬのは嫌だからな。わたしの言う通りに体勢を整えるんだ》

 ブラダマンテがアイに教えたのは、体幹を川面に垂直とし、膝を限界まで曲げてから大きく水を漕ぐ泳法である。

(……何コレすごい。鎧着たままなのに身体、ちょっとずつ浮き始めた……)

《頭だけ水面に出ればいい。身体が沈んでいた方が浮力を得やすいはずだ。
 そして手の動かし方だが、両手を同時に腰のところまで引いてだな――》

 やがてブラダマンテの身体は、無事に浅瀬まで辿り着いた。
 戦闘による疲労も相まって、水を吸った服や鎧がひどく重たいが、それでも溺死は免れた。

「けほっ……けほっ……」
《よくやった。何とか岸まで辿り着けたな》
「……凄いわね。西洋の騎士って、鎧着たまま泳ぐ方法とか……知ってたんだ」
《いいや? この泳法は以前、『わたし』となった魂の一人が習得していた、日本古来のものだそうだ。
 確か『扇足』とか何とか言っていたかな? 便利そうだから覚えていたんだよ》
「えぇえ…………」

 呼吸も落ち着いたところで、アイはハッとなって辺りを見渡した。

「そう言えば、マンドリカルドは? あいつは……どうなったの?」
《奴なら……あそこだ》

 ブラダマンテが目を向けるよう見据えた先に――タタール武者のなれの果ての姿があった。
 彼は軽装の革鎧姿であり、浅瀬には彼女より早く辿り着けていたのだが……

 全身は所々奇妙に輝き、黒い文字の塊となってとめどなく剥がれ落ちている。
 手足はおろか、肩や腹部ももはや原型を留めていない。まだ息があるのが不思議なぐらいの惨状であった。

「……マンドリカルドッ!?」

 先刻まで命の取り合いをしていた輩だが……それでもアイは駆け出していた。

「……なん……なのだ……この川の……水は……?
 俺様の……身体は……なぜ……こんな……こと、に……」

《奴は戦う前に言っていたな。魂の記憶がほぼ無いと。
 奴はすでに物語世界のマンドリカルドとなっていた。
 だからレテの死の忘却の力を全身に浴び――存在を保てないほどの深手を負ってしまったんだ》

 タタール王の痛々しく欠損した肉体を見て、アイは思わず息を飲んだ。

「……もう、助からないの……?」
《……あそこまで形が崩れてしまってはな……》

 マンドリカルドはブラダマンテの接近にも気づかず、虚空を見つめ、うわごとを呟いていた。

「……俺、様は……タタールの……王……俺……は……
 ……誰、なんだ……? 思い……出せ、ない……」

 その身体はさらに崩れていく。「存在」を忘却の彼方に帰す力は、彼のマンドリカルドとしての記憶すらも奪いつつあった。

「……ド、ラ、リー……チェ……」

 タタール王マンドリカルドは、最期に愛する者の名を呟き。
 一滴、涙を残して――消えた。

「……そんな……マンドリカルド……」

 目の前の消失劇が信じられず、アイは呆然としていた。

《気持ちを切り替えろ、司藤しどうアイ。
 肉体面でも疲労が限界の今、精神にまでダメージを負っては本当に身動きが取れなくなるぞ》

 ブラダマンテの言葉はぶっきらぼうだったが、正論でもあった。

《忌々しい空間がまだ解除されていないのも気になる。メリッサを探すんだ》
「……うん、分かったわ……」

 促され、アイは重い足取りながらも歩き出した。

**********

 サラセン帝国軍・オルランド討伐隊の駐屯地にて。
 ロジェロこと黒崎くろさき八式やしきは、クレルモン家長兄・リナルドとの一騎打ちに臨む事となった。

 立会人を務めるは、ロジェロの妹マルフィサに、リナルドの弟二人。
 周囲を囲む観衆は、クレルモン家に仕える騎士たちに、グラダッソ配下の騎兵隊である。

(リナルド……ブラダマンテの兄貴だったな。
 フランスじゃあモンタルバンルノー・ド・モのリナルドントーバンとして有名な騎士だ。
 高潔で職務に忠実、騎士道精神にも溢れるって完璧超人だったハズだが……)

「ふっはははは! ロジェロ殿が我が妹に相応しき騎士であるか! このリナルドが判定してやろう!
 一騎打ち故、不幸な事故が重なる事もあるかもしれん! そこは覚悟してもらうしかなかろう?
 貴殿が妹につく極悪害虫の類であれば、起きない方がおかしいよなァ事故!? むしろ起これ事故!」

(こいつ……こんな性格だったのかよ……)

 嫉妬と欲望を剥き出しにして殺意満々のリナルドを前に、黒崎は心の底からげんなりしていた。
 一騎打ちの作法として、まずはお互い馬上での槍の応酬から始まる。

 馬を駆け、すれ違いざま戦槍ランスを交わすロジェロとリナルド!

 馬術は馬の力が7割だと言われる。馬をいかに活かすか――つまり馬の性能差で決まる。
 今リナルドは愛馬バヤールを失っており、むしろ魔馬ラビカンを駆るロジェロの方が有利な筈だ。

 にも関わらず、互いの槍は同時に折れた。引き分けだ。

「ぐッ…………!」

 黒崎ロジェロは予想外のリナルドの地力に呻いた。

「フン。当てが外れたか? バヤールに乗らぬリナルドなど、槍で圧倒できると思ったか?」
 リナルドは不敵な笑みを浮かべ勝ち誇った。
「もともと貴殿とは剣で決着をつけるつもりだった。ここからが真の勝負だ!
 我が剣フスベルタと、貴殿の持つ魔剣ベリサルダ! どちらが上かハッキリさせようぞ!」

 槍の技が互角となった以上、二人は馬を降り――互いに向き合い、一礼して同時に剣を抜いた。

「リナルド、あんたはブラダマンテの兄だ。
 妹を娶る者として、オレはあんたを殺すつもりは――」

 ロジェロの言葉は、リナルドの高笑いによって遮られた。

「遠慮は要らんぞロジェロ殿! むしろ我を殺す気でかかってくるがいい!
 可憐にして最愛なる我が妹と結婚する騎士だ! 妹は勿論のこと、我以上に強い騎士であると証明せねば、絶対に認めんぞ!
 それができなければ死ね! 死あるのみだウワッハハハハーッ!!」

 狂気じみた笑みを浮かべ、リナルドは猛然と白兵戦を挑んでくるのであった。
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