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第7章 オルランド討伐作戦
21 ロジェロvsリナルド・後編
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リナルドは名剣フスベルタを振るい、果敢に打ちかかって来た。
ロジェロ――黒崎八式は手に持つ魔剣ベリサルダ、あるいは新調した円形楯でそれを防ぐ。
魔剣たるベリサルダはともかく、ロジェロの楯は今や何の変哲もない一般品だ。フスベルタの一撃を浴びるたび、ギザギザに抉られていく。
「どうだねロジェロ殿。我が剣フスベルタ! 波打つ素敵な形をしているだろう?
この剣によって傷つけられし者、たとえその場で死を免れたとしても!
易々と癒えぬ傷より病を受け、やがては死に至るのだァ! ふっははははァ!」
フスベルタという名称はイタリア語であり、フランス語読みではフランブワンである。現代ではフランベルジュという名で最も知られている剣で、意味するところは「揺らめく炎」。波のような形の独特の刃によって負わされた傷は止血が困難であり、衛生環境の悪いこの時代、破傷風に感染する危険があった。
(くっそ……! 当たれば鎧じゃ防げねえデュランダルとはまた違った意味で厄介だな……!)
「さすがリナルド兄ィ! あの救国の騎士と噂されたロジェロを圧倒している!」
歓声を上げたのは、立会人であるクレルモン家の三男坊・アラルドだった。
「兄者は妹ブラダマンテの事となると、正直引くほど周りが見えなくなるが……
それでもクレルモン家の騎士として腕は一流! オルランドを除けば間違いなく最強の騎士の一人!」
意外と冷静に分析している次男リッチャルデットも頷いた。
「……いいや、違うな。お二方」
誇らしげな笑みを浮かべ、異を唱えたのはロジェロの妹・インド王女マルフィサだった。
「お二人の兄リナルド殿も確かに、フランク騎士を代表するに相応しき勇者。それは認めよう。
だが我が兄ロジェロも……! 一方的に追い込まれている風に見えるが、あれが兄さんの戦い方なのだ!
優勢に見えるからと言って、油断していては足元を掬われるぞ……!」
両陣営の弟・妹たちが兄自慢合戦を繰り広げている最中にも。
リナルドの斬撃はロジェロを襲い続けている。しかし……
(確かに速くて重い。さすがに力じゃブラダマンテより断然上か……だが。
やっぱりスピードは劣る。楯はこれ以上保たないだろうが……対処できねえ訳じゃねえ)
ロジェロはリナルドの攻撃の合間を縫って、ベリサルダの突きを放つ。
リナルドは難なく盾を使っていなし、再び連撃の雨を降らせる。
「どうしたロジェロ殿。遠慮は要らんと言ったハズだぞ!
そんな温い攻撃では、我が守りを突き破る事すら叶わんぞ!」
リナルドは勝ち誇って攻め立てる。ロジェロは憮然となった。
自分の攻撃が様子見である事にも、気づけているのかいないのか。
「貴殿を討ち取った後には、アフリカ大王アグラマンに挑むとしよう!
パリでの屈辱があるからな! 我はそれを晴らさねばならんのだ!」
(そうか……こいつ、前にアグラマン大王に負けた事あるのか)
それを知った途端、黒崎は心の中が冷めていくのを感じた。
自分もまた、アグラマン大王の底知れぬ実力に戦慄した身。いずれ彼とは決着をつけねばならないだろう。
(となれば……アンタで足止め食ってる訳には、いかねーよな……!)
ロジェロの円形楯が砕けた。
リナルドは勢いづいて畳み掛けるように剣を振るうが、ロジェロの守りは固く、戦いは膠着しているかに見えた。が――
「む? 気のせいか……?」
「どうした? リッチャルデット兄ィ」
「ロジェロの反撃の手数、段々と増えてきていないか……?」
リッチャルデットの指摘した通り、リナルドの間断なき攻勢の合間に、ロジェロのベリサルダによる突きが放たれている。
戦いが長引くにつれその数は増し、突きの速度も徐々にではあるが上がってきている。
(ぐぬ……何なのだ、この男。消極的な割にはこちらを値踏みするような剣を打ち込んできおって……!
まさか今までの動きは様子見で、本気を出していなかったとでもいうのか……)
ロジェロの斬撃が速くなるにつれ、リナルドの心に焦りが出始めた。
ここまで攻め続けているのに、ロジェロに致命の一撃を加えるどころか逆に押し込まれているような錯覚に陥る。
「おのれロジェロ殿……このリナルドを試すような戦い方を……!
全力を隠しているなら、さっさと本気を出すがいい!」
「すまんね、リナルド殿。オレはこういう戦いが領分でなぁ。
じゃ、お言葉に甘えて……行くぜッ」
ロジェロは宣言し――ベリサルダの剣戟速度を一気に引き上げた!
今までの緩やかなスピードアップに慣れ始めたリナルド、しなる鞭のような動きに目を瞠る!
「なッ……!?」
がぎん、と凄まじい音がして、リナルドの持つ盾が宙に飛んだ。
その隙を突き、今まで防戦気味で待ちの姿勢だったロジェロ、一気に直線の動きとなり踏み込む!
「おあッ!!」
守勢に徹するだけの臆病な騎士かと思いきや、攻められる時は躊躇わない。
緩急の切り替えの凄まじさに、リナルドはロジェロの接近を防げなかった。
リナルドは咄嗟にフスベルタを構え応戦しようとしたが――それよりも一瞬早くベリサルダの切っ先が首筋に添えられていた。
「ぐッ……!」
「……まだ続けるか? リナルド殿」
「……いや。こればかりは見苦しい話だな。
分かった……認めよう。貴殿の勝ちだ、ロジェロ殿」
リナルドは悔しげではあったが、意外とあっさりと敗北を認めた。
一瞬の沈黙の後、マルフィサは大喜びで歓声を上げ、クレルモン家の騎士たちは予想外の決着にどよめく。リナルドの弟たちも驚いていたが、やがて「お見事」とロジェロの腕前を褒め称えていた。
「勝負あった! この一騎打ちの勝者は、我が兄ロジェロである!」
立会人を代表しての、マルフィサの勝利宣言が為された。
サラセン側の騎士が勝ったにも関わらず、グラダッソ配下の騎兵たちの反応は今一つではあったが。
(やっぱりこいつら、オレたちの味方っつーより監視役って事みてぇだな。
ま、いいや。そんならそれで、遠慮なくやれるってモンだ)
黒崎は意を決し、リナルドに向き直って言った。
「リナルド殿。もしオルランドを救う方法があるって言ったら……信じるか?」
「何……? どういう、事だ……?」
「オレはイングランド王子アストルフォと共に、エチオピアまで旅したんだ。
そこでアイツは手にした。オルランドの失った正気を取り戻す方法をな」
「それは……本当なのか!」
「自分で言っておいて何だが、よくあっさりと信用できるな?」
「我に勝利した以上、貴殿は妹と愛を交わすに相応しき騎士と認めざるを得まい。
それに貴殿の目を見れば分かる。嘘をついてはおらぬとな」
先刻までの妹に関する乱心ぶりが嘘のように、リナルドは聡明になっていた。
リッチャルデットの言う通り、ブラダマンテが絡まなければ実直で騎士道精神に溢れる男なのだ。
「オレもアストルフォを助け、オルランドを救う手伝いをしたい。
リナルド殿……協力してくれるか?」
「無論だ! 我が友オルランドを殺さずに済む方法があるというなら!
このリナルド以下、クレルモン家の騎士一同、協力せぬ理由はない!」
黒崎の言葉に、リナルドたちは瞬く間に味方についた。
しかし予想通り――グラダッソの騎兵がロジェロやリナルド達を取り囲む。
「ロジェロ様。勝手に話を進めないでいただきたいものだな」
グラダッソの配下たちは、包囲を狭めつつ威圧してきた。
「オルランド討伐作戦の指揮権は、我らが主グラダッソ様のものだ。
グラダッソ様のお言葉無くして、作戦の変更が認められるなどと思うな!」
(チッ――やっぱりそう来ると思ったぜ)
内心で舌打ちしつつも、不思議と黒崎の心には余裕があった。
ロジェロ――黒崎八式は手に持つ魔剣ベリサルダ、あるいは新調した円形楯でそれを防ぐ。
魔剣たるベリサルダはともかく、ロジェロの楯は今や何の変哲もない一般品だ。フスベルタの一撃を浴びるたび、ギザギザに抉られていく。
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この剣によって傷つけられし者、たとえその場で死を免れたとしても!
易々と癒えぬ傷より病を受け、やがては死に至るのだァ! ふっははははァ!」
フスベルタという名称はイタリア語であり、フランス語読みではフランブワンである。現代ではフランベルジュという名で最も知られている剣で、意味するところは「揺らめく炎」。波のような形の独特の刃によって負わされた傷は止血が困難であり、衛生環境の悪いこの時代、破傷風に感染する危険があった。
(くっそ……! 当たれば鎧じゃ防げねえデュランダルとはまた違った意味で厄介だな……!)
「さすがリナルド兄ィ! あの救国の騎士と噂されたロジェロを圧倒している!」
歓声を上げたのは、立会人であるクレルモン家の三男坊・アラルドだった。
「兄者は妹ブラダマンテの事となると、正直引くほど周りが見えなくなるが……
それでもクレルモン家の騎士として腕は一流! オルランドを除けば間違いなく最強の騎士の一人!」
意外と冷静に分析している次男リッチャルデットも頷いた。
「……いいや、違うな。お二方」
誇らしげな笑みを浮かべ、異を唱えたのはロジェロの妹・インド王女マルフィサだった。
「お二人の兄リナルド殿も確かに、フランク騎士を代表するに相応しき勇者。それは認めよう。
だが我が兄ロジェロも……! 一方的に追い込まれている風に見えるが、あれが兄さんの戦い方なのだ!
優勢に見えるからと言って、油断していては足元を掬われるぞ……!」
両陣営の弟・妹たちが兄自慢合戦を繰り広げている最中にも。
リナルドの斬撃はロジェロを襲い続けている。しかし……
(確かに速くて重い。さすがに力じゃブラダマンテより断然上か……だが。
やっぱりスピードは劣る。楯はこれ以上保たないだろうが……対処できねえ訳じゃねえ)
ロジェロはリナルドの攻撃の合間を縫って、ベリサルダの突きを放つ。
リナルドは難なく盾を使っていなし、再び連撃の雨を降らせる。
「どうしたロジェロ殿。遠慮は要らんと言ったハズだぞ!
そんな温い攻撃では、我が守りを突き破る事すら叶わんぞ!」
リナルドは勝ち誇って攻め立てる。ロジェロは憮然となった。
自分の攻撃が様子見である事にも、気づけているのかいないのか。
「貴殿を討ち取った後には、アフリカ大王アグラマンに挑むとしよう!
パリでの屈辱があるからな! 我はそれを晴らさねばならんのだ!」
(そうか……こいつ、前にアグラマン大王に負けた事あるのか)
それを知った途端、黒崎は心の中が冷めていくのを感じた。
自分もまた、アグラマン大王の底知れぬ実力に戦慄した身。いずれ彼とは決着をつけねばならないだろう。
(となれば……アンタで足止め食ってる訳には、いかねーよな……!)
ロジェロの円形楯が砕けた。
リナルドは勢いづいて畳み掛けるように剣を振るうが、ロジェロの守りは固く、戦いは膠着しているかに見えた。が――
「む? 気のせいか……?」
「どうした? リッチャルデット兄ィ」
「ロジェロの反撃の手数、段々と増えてきていないか……?」
リッチャルデットの指摘した通り、リナルドの間断なき攻勢の合間に、ロジェロのベリサルダによる突きが放たれている。
戦いが長引くにつれその数は増し、突きの速度も徐々にではあるが上がってきている。
(ぐぬ……何なのだ、この男。消極的な割にはこちらを値踏みするような剣を打ち込んできおって……!
まさか今までの動きは様子見で、本気を出していなかったとでもいうのか……)
ロジェロの斬撃が速くなるにつれ、リナルドの心に焦りが出始めた。
ここまで攻め続けているのに、ロジェロに致命の一撃を加えるどころか逆に押し込まれているような錯覚に陥る。
「おのれロジェロ殿……このリナルドを試すような戦い方を……!
全力を隠しているなら、さっさと本気を出すがいい!」
「すまんね、リナルド殿。オレはこういう戦いが領分でなぁ。
じゃ、お言葉に甘えて……行くぜッ」
ロジェロは宣言し――ベリサルダの剣戟速度を一気に引き上げた!
今までの緩やかなスピードアップに慣れ始めたリナルド、しなる鞭のような動きに目を瞠る!
「なッ……!?」
がぎん、と凄まじい音がして、リナルドの持つ盾が宙に飛んだ。
その隙を突き、今まで防戦気味で待ちの姿勢だったロジェロ、一気に直線の動きとなり踏み込む!
「おあッ!!」
守勢に徹するだけの臆病な騎士かと思いきや、攻められる時は躊躇わない。
緩急の切り替えの凄まじさに、リナルドはロジェロの接近を防げなかった。
リナルドは咄嗟にフスベルタを構え応戦しようとしたが――それよりも一瞬早くベリサルダの切っ先が首筋に添えられていた。
「ぐッ……!」
「……まだ続けるか? リナルド殿」
「……いや。こればかりは見苦しい話だな。
分かった……認めよう。貴殿の勝ちだ、ロジェロ殿」
リナルドは悔しげではあったが、意外とあっさりと敗北を認めた。
一瞬の沈黙の後、マルフィサは大喜びで歓声を上げ、クレルモン家の騎士たちは予想外の決着にどよめく。リナルドの弟たちも驚いていたが、やがて「お見事」とロジェロの腕前を褒め称えていた。
「勝負あった! この一騎打ちの勝者は、我が兄ロジェロである!」
立会人を代表しての、マルフィサの勝利宣言が為された。
サラセン側の騎士が勝ったにも関わらず、グラダッソ配下の騎兵たちの反応は今一つではあったが。
(やっぱりこいつら、オレたちの味方っつーより監視役って事みてぇだな。
ま、いいや。そんならそれで、遠慮なくやれるってモンだ)
黒崎は意を決し、リナルドに向き直って言った。
「リナルド殿。もしオルランドを救う方法があるって言ったら……信じるか?」
「何……? どういう、事だ……?」
「オレはイングランド王子アストルフォと共に、エチオピアまで旅したんだ。
そこでアイツは手にした。オルランドの失った正気を取り戻す方法をな」
「それは……本当なのか!」
「自分で言っておいて何だが、よくあっさりと信用できるな?」
「我に勝利した以上、貴殿は妹と愛を交わすに相応しき騎士と認めざるを得まい。
それに貴殿の目を見れば分かる。嘘をついてはおらぬとな」
先刻までの妹に関する乱心ぶりが嘘のように、リナルドは聡明になっていた。
リッチャルデットの言う通り、ブラダマンテが絡まなければ実直で騎士道精神に溢れる男なのだ。
「オレもアストルフォを助け、オルランドを救う手伝いをしたい。
リナルド殿……協力してくれるか?」
「無論だ! 我が友オルランドを殺さずに済む方法があるというなら!
このリナルド以下、クレルモン家の騎士一同、協力せぬ理由はない!」
黒崎の言葉に、リナルドたちは瞬く間に味方についた。
しかし予想通り――グラダッソの騎兵がロジェロやリナルド達を取り囲む。
「ロジェロ様。勝手に話を進めないでいただきたいものだな」
グラダッソの配下たちは、包囲を狭めつつ威圧してきた。
「オルランド討伐作戦の指揮権は、我らが主グラダッソ様のものだ。
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