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第7章 オルランド討伐作戦
22 ロジェロ、包囲網を突破する
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ロジェロ――黒崎八式は、周りを囲むグラダッソの兵に叫んだ。
「聞いての通りだ! オルランドを殺さずに救う手段がある!
フランク・サラセン両軍の休戦及び、オルランド討伐の共同作戦は、かの騎士を殺す以外に方法がないという前提のものであるはず!
急ぎシャルルマーニュ・アグラマン両方の指導者の下に使いを出し、作戦行動の見直しを検討されたし!」
「それは驚くべき報せだ……しかし、その必要はない」
グラダッソの騎兵たちは、あくまで敵対姿勢を崩そうとしない。
「ロジェロ様はフランク陣営の騎士と通じ、そそのかされている恐れがある!
オルランドを正気に戻せる? アストルフォなる騎士がその手段を持つ?
今更そんな話を、にわかに信じられるものか!」
「やっぱな。そう言うと思った」ロジェロは嘆息した。
「だったらあんた達は手伝わなくていい。オレだけでも現地に急がせて貰う。
グラダッソ殿もそこにいるだろう。彼を――『説得』するためにな」
ロジェロの宣言にも、黒騎兵の部隊は道を譲る気など更々ないようだ。
リナルドとの一騎打ちで疲弊した今、この状況を突破するのは容易ではない。
と思っていた矢先――ロジェロとグラダッソ兵たちの間に割って入った騎士たちがいた。
リナルドと、その弟二人――リッチャルデットにアラルド。
そして勿論、ロジェロの妹であるインド王女マルフィサも、である。
「ロジェロ兄さん、遠慮する事はない。ここはあたし達に任せて先に行け!」
マルフィサは心底嬉しそうに笑みを浮かべ、馬上にて槍を構えた。
リナルドたちクレルモン家の騎士も、それに倣いグラダッソ兵に立ちはだかる。
「……恩に着る。マルフィサ! それにリナルド殿も!」
「フン、勘違いしてもらっては困る。オルランドの命を救うためであって、貴殿の為ではない! 確かに実力は認めるが、我が妹に相応しい男と完全に許した訳ではないと心得られよ!」
リナルドはどこかで聞いたような往年の台詞を叫びつつ、マルフィサと同様轡を並べた。
「ブラダマンテと夫婦になったなら、約束せよ。週に一度は手紙を寄越せ!
妹がいかに素晴らしいか、そなたがいかに愛しているか。それを逐一我に余さず報告せよ!」
「……いや、あの……それって今言わなきゃならん事なのか……?」
「何を言うか! 最も重要な事であろう!
万一の事があって、妹を悲しませるような真似をしたら承知せんぞ!」
「……お、おう……分かった。約束する……」
このような状況にあっても、妹への愛情全開なリナルドに対し、鼻白んだ黒崎であったが。
敵同士とはいえ、今は信頼できる共闘だ。ある程度予測はついたとはいえ、黒崎は心が弾んだ。そして先に進む気力と勇気が湧いてきた。
グラダッソの騎兵部隊が、ロジェロ達を踏み潰そうと殺到した。
多勢に無勢。黒い津波のようなグラダッソ兵たちの突撃に、彼らは飲み込まれた――かに見えた。
波は割れた。猛然と槍を振るうリナルド麾下のクレルモン家の騎士は、屈強たる黒騎兵たちに数で劣るにも関わらず、よく持ちこたえていた。
何より目覚ましい活躍を見せたのは、インド王女にして類稀なる女傑マルフィサである。
「ずっと見学だけでは退屈するところだった。
存分にかかってくるがいい! このマルフィサに冷や汗でもかかせてみろ!」
マルフィサは大音声で挑発しつつ、襲い来る騎兵たちに槍を振るい、次々と叩き落としていく。
(済まんな、アルファナ)
マルフィサは己の跨る巨大な黒馬アルファナを一瞥した。
(彼らはお前の主が率いる兵なのに、あたしが乗り手なばかりに戦う羽目になってしまった)
しかしアルファナは、マルフィサの心情を察したのか――意に介する必要はないとばかりに轟く嘶き声を上げ、インド王女の馬として縦横無尽に疾駆した。
少数のクレルモン騎士たちは精鋭ばかりではない。彼らを守りながらの戦いでもある。乱闘に近い激戦となり、さしものマルフィサとて無傷という訳にはいかなかった。
「くッ……! さすがにこの数にもなると、なかなか手強いな!
だがまだまだ! この程度の攻勢で、このマルフィサに膝をつかせられると思うなよ!」
半ば己を叱咤するように、味方を激励するようにマルフィサは声を張り上げる。
決して楽観すべき状況ではない。このまま踏み止まっていても、待っているのは損耗の末の全滅だけだろう。
それでも――彼らの抵抗は、ロジェロを包囲網から脱出させるのに十分な働きだった。
「よくやってくれた! これでオレも先に進めるッ!」
ロジェロは魔馬ラビカンに乗って駆け、グラダッソの軍勢の包囲、最も薄い箇所に肉薄する!
だがそれは、黒騎兵たちの罠であった。最も包囲の弱い場所を見極めさせ、誘い込み、罠を仕掛ける――脱出不可能となれば覚悟を決めた死兵と化し、思わぬ損害が出る事もある。「生き延びたい」という当然の心理を突いた、集団戦では常道とも呼べる戦術だ。
「ククク! 飛んで火にいる夏の虫とは貴方の事だ、ロジェロ!」
目論み通り突き進んでくるロジェロを前に、グラダッソ兵が勝利を確信したその瞬間。
凄まじい突風が吹き荒れ、立ちはだかる騎兵たちは思わずよろめいた。
「なッ……何が……!?」
正面にロジェロの魔馬はいなかった。彼はなんと空中にいた。
ラビカンの鞍には、善徳の魔女ロジェスティラの施した、収納自在の「翼」があった。それをロジェロは直前で広げ――大空を舞ったのだ!
「悪ィな! どうせ罠があるだろうと思ったからよ。空を行かせてもらうぜッ!」
空飛ぶラビカンに向かって、黒騎兵たちは慌てて弓を用意し、矢を射かけるも――その姿はすでに天高く届かない。
ロジェロは敵軍の包囲を破り、一路東へ。南フランスの海岸線を目指した。
(急がねェとな……単なる勘だが、あっちに居るのはグラダッソやオルランドだけじゃねえだろう。
とにかくヤバイ予感がする。マルフィサやリナルド達の頑張り、無駄にする訳にはいかねえ!)
逸る気持ちをどうにか抑えつつ、ラビカンを駆るロジェロは空を翔けた。
「聞いての通りだ! オルランドを殺さずに救う手段がある!
フランク・サラセン両軍の休戦及び、オルランド討伐の共同作戦は、かの騎士を殺す以外に方法がないという前提のものであるはず!
急ぎシャルルマーニュ・アグラマン両方の指導者の下に使いを出し、作戦行動の見直しを検討されたし!」
「それは驚くべき報せだ……しかし、その必要はない」
グラダッソの騎兵たちは、あくまで敵対姿勢を崩そうとしない。
「ロジェロ様はフランク陣営の騎士と通じ、そそのかされている恐れがある!
オルランドを正気に戻せる? アストルフォなる騎士がその手段を持つ?
今更そんな話を、にわかに信じられるものか!」
「やっぱな。そう言うと思った」ロジェロは嘆息した。
「だったらあんた達は手伝わなくていい。オレだけでも現地に急がせて貰う。
グラダッソ殿もそこにいるだろう。彼を――『説得』するためにな」
ロジェロの宣言にも、黒騎兵の部隊は道を譲る気など更々ないようだ。
リナルドとの一騎打ちで疲弊した今、この状況を突破するのは容易ではない。
と思っていた矢先――ロジェロとグラダッソ兵たちの間に割って入った騎士たちがいた。
リナルドと、その弟二人――リッチャルデットにアラルド。
そして勿論、ロジェロの妹であるインド王女マルフィサも、である。
「ロジェロ兄さん、遠慮する事はない。ここはあたし達に任せて先に行け!」
マルフィサは心底嬉しそうに笑みを浮かべ、馬上にて槍を構えた。
リナルドたちクレルモン家の騎士も、それに倣いグラダッソ兵に立ちはだかる。
「……恩に着る。マルフィサ! それにリナルド殿も!」
「フン、勘違いしてもらっては困る。オルランドの命を救うためであって、貴殿の為ではない! 確かに実力は認めるが、我が妹に相応しい男と完全に許した訳ではないと心得られよ!」
リナルドはどこかで聞いたような往年の台詞を叫びつつ、マルフィサと同様轡を並べた。
「ブラダマンテと夫婦になったなら、約束せよ。週に一度は手紙を寄越せ!
妹がいかに素晴らしいか、そなたがいかに愛しているか。それを逐一我に余さず報告せよ!」
「……いや、あの……それって今言わなきゃならん事なのか……?」
「何を言うか! 最も重要な事であろう!
万一の事があって、妹を悲しませるような真似をしたら承知せんぞ!」
「……お、おう……分かった。約束する……」
このような状況にあっても、妹への愛情全開なリナルドに対し、鼻白んだ黒崎であったが。
敵同士とはいえ、今は信頼できる共闘だ。ある程度予測はついたとはいえ、黒崎は心が弾んだ。そして先に進む気力と勇気が湧いてきた。
グラダッソの騎兵部隊が、ロジェロ達を踏み潰そうと殺到した。
多勢に無勢。黒い津波のようなグラダッソ兵たちの突撃に、彼らは飲み込まれた――かに見えた。
波は割れた。猛然と槍を振るうリナルド麾下のクレルモン家の騎士は、屈強たる黒騎兵たちに数で劣るにも関わらず、よく持ちこたえていた。
何より目覚ましい活躍を見せたのは、インド王女にして類稀なる女傑マルフィサである。
「ずっと見学だけでは退屈するところだった。
存分にかかってくるがいい! このマルフィサに冷や汗でもかかせてみろ!」
マルフィサは大音声で挑発しつつ、襲い来る騎兵たちに槍を振るい、次々と叩き落としていく。
(済まんな、アルファナ)
マルフィサは己の跨る巨大な黒馬アルファナを一瞥した。
(彼らはお前の主が率いる兵なのに、あたしが乗り手なばかりに戦う羽目になってしまった)
しかしアルファナは、マルフィサの心情を察したのか――意に介する必要はないとばかりに轟く嘶き声を上げ、インド王女の馬として縦横無尽に疾駆した。
少数のクレルモン騎士たちは精鋭ばかりではない。彼らを守りながらの戦いでもある。乱闘に近い激戦となり、さしものマルフィサとて無傷という訳にはいかなかった。
「くッ……! さすがにこの数にもなると、なかなか手強いな!
だがまだまだ! この程度の攻勢で、このマルフィサに膝をつかせられると思うなよ!」
半ば己を叱咤するように、味方を激励するようにマルフィサは声を張り上げる。
決して楽観すべき状況ではない。このまま踏み止まっていても、待っているのは損耗の末の全滅だけだろう。
それでも――彼らの抵抗は、ロジェロを包囲網から脱出させるのに十分な働きだった。
「よくやってくれた! これでオレも先に進めるッ!」
ロジェロは魔馬ラビカンに乗って駆け、グラダッソの軍勢の包囲、最も薄い箇所に肉薄する!
だがそれは、黒騎兵たちの罠であった。最も包囲の弱い場所を見極めさせ、誘い込み、罠を仕掛ける――脱出不可能となれば覚悟を決めた死兵と化し、思わぬ損害が出る事もある。「生き延びたい」という当然の心理を突いた、集団戦では常道とも呼べる戦術だ。
「ククク! 飛んで火にいる夏の虫とは貴方の事だ、ロジェロ!」
目論み通り突き進んでくるロジェロを前に、グラダッソ兵が勝利を確信したその瞬間。
凄まじい突風が吹き荒れ、立ちはだかる騎兵たちは思わずよろめいた。
「なッ……何が……!?」
正面にロジェロの魔馬はいなかった。彼はなんと空中にいた。
ラビカンの鞍には、善徳の魔女ロジェスティラの施した、収納自在の「翼」があった。それをロジェロは直前で広げ――大空を舞ったのだ!
「悪ィな! どうせ罠があるだろうと思ったからよ。空を行かせてもらうぜッ!」
空飛ぶラビカンに向かって、黒騎兵たちは慌てて弓を用意し、矢を射かけるも――その姿はすでに天高く届かない。
ロジェロは敵軍の包囲を破り、一路東へ。南フランスの海岸線を目指した。
(急がねェとな……単なる勘だが、あっちに居るのはグラダッソやオルランドだけじゃねえだろう。
とにかくヤバイ予感がする。マルフィサやリナルド達の頑張り、無駄にする訳にはいかねえ!)
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