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幕間4
驚愕と絶望
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現実世界。
環境大学教授・下田三郎の意識は、携帯の着信音によって目覚めた。
通話者の表示名は「足立」。下田の同級生であり、捜査一課に所属する警察官でもある。
「…………下田だ」
「おーう、サブちゃん! その気怠い声は寝起きだな!」
開口一番、馴れ馴れしい声が響いた。
「ここんとこ本当に、無闇にテンションが高いな。
嫁さんとは上手くやっているのか?」
「はっはっは! よくぞ聞いてくれました!
この間の検診で妊娠三ヶ月と発覚した! 俺もついにパパって訳さ!」
能天気極まりない足立の様子に、目覚めたばかりの下田はげんなりした。
「一年半ほど前、モテない者同士の友情を深め合ったばかりだというのに……
トントン拍子に手の平返しすぎだろう、足立!」
「ン~何の事かなぁ? フフフ……
下田三郎! 結婚は大変だが、いいぞ!!」
某漫画の偽天才のような台詞でお道化る親友に、下田は「裏切り者が……!」と吐き捨てるように言った。
とはいえそんな憎まれ口も、罵倒というより仲良く悪口を言い合う、男子学生のような雰囲気である。友情を深め合った矢先に彼女を作り、あれよあれよという間に結婚にまでこぎ着けたこの男に対し、思う所が全く無かった訳ではないが。
「……まあそれはさておき。一体何の用だ?
まさか『おめでた』の惚気話がしたかった、ってだけじゃあるまいな?」
「勿論それもある! が……それだけじゃあない。
サブちゃん。お前がこの前言っていた話……『思い出した』んだよ。
んで、『手掛かり』を掴んだ」
「!」
足立の言葉は、下田にとっても驚くべき話であった。
司藤アイ達が本の中に引きずり込まれた直後のこと。下田は魔本「狂えるオルランド」の奥付に記載されていた、45名の行方不明者について――警察に調査を依頼した事があった。
その時に取り次いだのが同級生の親友でもある足立だった訳だが……それ以来、今日までマトモに報告らしい報告もなく、なしのつぶてだったのだ。
(本の悪魔Furiosoは言っていた。
『魔本と無関係の人間は、真の意味で魔本の存在に干渉できない』と。
だから相談が無視されてしまったのも、魔本の力による認識阻害のせいと諦めていたのだが……)
それが何故今頃になって、足立から依頼の話を振ってきたのだろうか?
ふと気になって、下田は奥付にある行方不明者の一覧と、以前取っていたメモを見比べた。
(!…………ない。名前が『一人』減っている…………!?)
「足立、確認させてくれ。
それはつまり……行方不明者が見つかったという事か?」
「うん。今まで全く足取りの掴めなかった男だが、それが先日急に発見され、警察に保護されたんだよ」
「もしかして、そいつの名前は――」
下田が魔本から消えた名前を告げると、足立は「……ああ、間違いない。ドンピシャだぜ」と口笛を吹いた。
「やはりそうか……! 足立。済まんが至急、その男と会わせてくれないか?
話がしたい。色々と教えてくれ」
「それは構わんが……事情聴取した連中の話じゃ、記憶喪失らしくてなぁ。
あんまり実のある話をするのは期待できそうにない感じだったぜ?」
下田は「それでも構わない」と足立に無理矢理頼み込んで、「その男」との面会の許可を得るため食い下がった。
(せっかく見つけた『手掛かり』だ。取り逃してたまるか……!)
連日の作業や調査で疲弊していた下田だったが、この時ばかりはやる気と使命感に満ちていた。
**********
物語世界。
北イタリアの港町トリエステ。契丹の王女アンジェリカの意識が戻ったと聞いて――東ローマ皇太子レオは早速面会に訪れた。
そこに映る姿は、絶世の美姫の顔ではない。
レオ皇太子に宿る魂――綺織浩介のよく知っている人物。実の姉たる錦野麗奈のものだ。
「……よかった。気がついたんだね。姉さん」
「…………良くなんか、ない」
実の弟に労われたにも関わらず、麗奈の表情は物憂げだった。
「全て、思い出したの――この世界の真実も。
私は忘れたかった……今更こんな事、思い出したくもなかったんだって。
なのにまた、思い出してしまった――」
「何を思い出したって言うんだい? 聞かせてくれ。
ひょっとしたら、僕にできうる事なら力になれるかもしれない――」
浩介の言葉に、姉は蔑むような笑みを浮かべてみせた。
「できもしない事をいけしゃあしゃあと……いいわ。教えてあげる。
私が一体何を知って、絶望してしまったのかを」
姉の口から語られた真実。それを聞き終えた時――さしもの綺織浩介も絶句していた。
「そんな……信じられ、ない……」
「私だって、信じたくなんかないわよ、こんな酷い話。
でも――事実、なのよ……」
語り終えた錦野麗奈は顔を背け――静かにすすり泣いていた。
いたたまれなくなったのか、浩介は無言で部屋を出て行った。
しばらくして浩介は、周囲に誰もいない事を確認すると……一際恐ろしげな声で、虚空に向かって奇妙な呼びかけをした。
「…………今の話は、本当なのか」
『うん、間違いないね~。本当だよ。それがこの世界のルールって奴さ』
誰もいない筈の空間から、作り物めいた甲高い声が響き渡る。
それを聞き、浩介の表情はより一段と険しくなった。
(どうすれば……どうすればいい……!?
この物語の大団円を無事、迎えられたとしても……
現実世界に帰還できる人間は『たった一人だけ』だなんてッ……!)
(驚愕と絶望・了)
環境大学教授・下田三郎の意識は、携帯の着信音によって目覚めた。
通話者の表示名は「足立」。下田の同級生であり、捜査一課に所属する警察官でもある。
「…………下田だ」
「おーう、サブちゃん! その気怠い声は寝起きだな!」
開口一番、馴れ馴れしい声が響いた。
「ここんとこ本当に、無闇にテンションが高いな。
嫁さんとは上手くやっているのか?」
「はっはっは! よくぞ聞いてくれました!
この間の検診で妊娠三ヶ月と発覚した! 俺もついにパパって訳さ!」
能天気極まりない足立の様子に、目覚めたばかりの下田はげんなりした。
「一年半ほど前、モテない者同士の友情を深め合ったばかりだというのに……
トントン拍子に手の平返しすぎだろう、足立!」
「ン~何の事かなぁ? フフフ……
下田三郎! 結婚は大変だが、いいぞ!!」
某漫画の偽天才のような台詞でお道化る親友に、下田は「裏切り者が……!」と吐き捨てるように言った。
とはいえそんな憎まれ口も、罵倒というより仲良く悪口を言い合う、男子学生のような雰囲気である。友情を深め合った矢先に彼女を作り、あれよあれよという間に結婚にまでこぎ着けたこの男に対し、思う所が全く無かった訳ではないが。
「……まあそれはさておき。一体何の用だ?
まさか『おめでた』の惚気話がしたかった、ってだけじゃあるまいな?」
「勿論それもある! が……それだけじゃあない。
サブちゃん。お前がこの前言っていた話……『思い出した』んだよ。
んで、『手掛かり』を掴んだ」
「!」
足立の言葉は、下田にとっても驚くべき話であった。
司藤アイ達が本の中に引きずり込まれた直後のこと。下田は魔本「狂えるオルランド」の奥付に記載されていた、45名の行方不明者について――警察に調査を依頼した事があった。
その時に取り次いだのが同級生の親友でもある足立だった訳だが……それ以来、今日までマトモに報告らしい報告もなく、なしのつぶてだったのだ。
(本の悪魔Furiosoは言っていた。
『魔本と無関係の人間は、真の意味で魔本の存在に干渉できない』と。
だから相談が無視されてしまったのも、魔本の力による認識阻害のせいと諦めていたのだが……)
それが何故今頃になって、足立から依頼の話を振ってきたのだろうか?
ふと気になって、下田は奥付にある行方不明者の一覧と、以前取っていたメモを見比べた。
(!…………ない。名前が『一人』減っている…………!?)
「足立、確認させてくれ。
それはつまり……行方不明者が見つかったという事か?」
「うん。今まで全く足取りの掴めなかった男だが、それが先日急に発見され、警察に保護されたんだよ」
「もしかして、そいつの名前は――」
下田が魔本から消えた名前を告げると、足立は「……ああ、間違いない。ドンピシャだぜ」と口笛を吹いた。
「やはりそうか……! 足立。済まんが至急、その男と会わせてくれないか?
話がしたい。色々と教えてくれ」
「それは構わんが……事情聴取した連中の話じゃ、記憶喪失らしくてなぁ。
あんまり実のある話をするのは期待できそうにない感じだったぜ?」
下田は「それでも構わない」と足立に無理矢理頼み込んで、「その男」との面会の許可を得るため食い下がった。
(せっかく見つけた『手掛かり』だ。取り逃してたまるか……!)
連日の作業や調査で疲弊していた下田だったが、この時ばかりはやる気と使命感に満ちていた。
**********
物語世界。
北イタリアの港町トリエステ。契丹の王女アンジェリカの意識が戻ったと聞いて――東ローマ皇太子レオは早速面会に訪れた。
そこに映る姿は、絶世の美姫の顔ではない。
レオ皇太子に宿る魂――綺織浩介のよく知っている人物。実の姉たる錦野麗奈のものだ。
「……よかった。気がついたんだね。姉さん」
「…………良くなんか、ない」
実の弟に労われたにも関わらず、麗奈の表情は物憂げだった。
「全て、思い出したの――この世界の真実も。
私は忘れたかった……今更こんな事、思い出したくもなかったんだって。
なのにまた、思い出してしまった――」
「何を思い出したって言うんだい? 聞かせてくれ。
ひょっとしたら、僕にできうる事なら力になれるかもしれない――」
浩介の言葉に、姉は蔑むような笑みを浮かべてみせた。
「できもしない事をいけしゃあしゃあと……いいわ。教えてあげる。
私が一体何を知って、絶望してしまったのかを」
姉の口から語られた真実。それを聞き終えた時――さしもの綺織浩介も絶句していた。
「そんな……信じられ、ない……」
「私だって、信じたくなんかないわよ、こんな酷い話。
でも――事実、なのよ……」
語り終えた錦野麗奈は顔を背け――静かにすすり泣いていた。
いたたまれなくなったのか、浩介は無言で部屋を出て行った。
しばらくして浩介は、周囲に誰もいない事を確認すると……一際恐ろしげな声で、虚空に向かって奇妙な呼びかけをした。
「…………今の話は、本当なのか」
『うん、間違いないね~。本当だよ。それがこの世界のルールって奴さ』
誰もいない筈の空間から、作り物めいた甲高い声が響き渡る。
それを聞き、浩介の表情はより一段と険しくなった。
(どうすれば……どうすればいい……!?
この物語の大団円を無事、迎えられたとしても……
現実世界に帰還できる人間は『たった一人だけ』だなんてッ……!)
(驚愕と絶望・了)
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