つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

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第8章 ランペドゥーサ島の決戦

6 馬上の攻防

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 ブラダマンテとロジェロは同時に馬を走らせ、挟み撃ちにする格好でアグラマンとの距離を詰めた。
 女騎士ブラダマンテには、いかなる敵も必ず突き崩し、落馬させる「黄金の槍」の感覚がある。常軌を逸した武芸を持つアフリカ大王とて、この洗礼を免れる事は叶わない筈だ。

 だがアグラマンは二人の挙動を見据え、即座に行動を起こした。
「あらやだ、怖い」
 お道化た声と同時に、ロジェロに向かって踏み込む。

 同時に槍を突かれれば、ブラダマンテの必中の一撃に対処できない。それを瞬時に見抜いたのだ。
 大王の芦毛の白馬の、おっとりした動きからの瞬発的な突進に、ロジェロは僅かに対応が遅れた。

 双頭の槍を振り回し交差させ、ロジェロの戦槍ランスを撥ね退ける。
 力のみではない、技とタイミングを合わせた絶妙の動き。ロジェロは咄嗟に軌道を変え、槍を手放さないよう踏ん張るのが精一杯だった。あのまま突撃していれば武器を落とされ、そのまま串刺しにされかねなかった。

「ロジェロッ!?」
 ブラダマンテは窮地のロジェロを救うべく、さらに馬を踏み込ませた。
 黄金の感覚に従い、どこでもいい、大王の身体に槍を届かせる事さえ出来れば――!

 次の瞬間、大王の取った行動にブラダマンテは度肝を抜かれた。
 持っていた二つの槍を惜しげもなく投げ捨てたのである。と同時に素早い動作で半月刀シャムシールを抜き放ち、背中の複合弓コンポジットボウに矢をつがえて女騎士へと狙いを定めたのだ。

(えっ、ちょっと待って。今何が起こったの!?)

 常識で考えて、槍を捨てた後に刀と弓を同時に扱うなど不可能だ。
 しかしアグラマンは半月刀シャムシールを左肩に乗せつつ、弓を引き絞りブラダマンテに矢を放った。恐るべき平衡バランス感覚、しかも馬上でだ。この間わずか1秒にも満たず。

 矢は滑るような動きで、正確にブラダマンテの右腕を捉える。鎖帷子チェインメイルを裂かれ、鮮血が飛び散った。
「くうッ…………!」

 女騎士ブラダマンテが痛みを堪える一瞬、すでに大王は次の行動に移っていた。
 肩に乗せた半月刀シャムシールを落とす事なく手に取り、猛然と突き進んできたのだ。

 狙いは彼女の持つ戦槍ランス。その切っ先に叩きつけるように刃を振るう。傷の痛みも相俟あいまって、ブラダマンテは耐え切れず槍を取り落とした。

「しまったッ……!」
「アナタの槍、ちょっと危険な匂いがしたから……封じさせてもらった。
 お陰で予定が狂っちゃったわァ。もっと遠距離でアナタ達を翻弄してやるつもりだったのに」

「てめェ! ブラダマンテから離れろッ!!」
 体勢を立て直したロジェロが背後から駆け寄り、槍をアグラマンに突き立てようとする。

 自ら槍を放り捨てた大王に対し、戦槍ランスを使えばリーチで優位に立てる。
 そう判断した黒崎ロジェロであったが……アグラマンはニヤリと笑った。

「槍は捨てたんじゃないわ。『置いといた』のよォ」

 アグラマンが手綱を動かすと、白馬は呼応して奇妙な動作に移った。
 蹄で地面に落ちた槍を蹴り上げたのだ。回転した槍はアグラマンの眼前まで浮上し――大王は事もなげに左手でそれを掴む!

(馬鹿な……馬が主人の武器を手元に戻すだなんてッ……あり得ねえ!?)

 ロジェロの戦槍ランスはアグラマンの槍と交差し、必殺の進撃を防がれてしまった。
 アグラマンの手には半月刀シャムシール長槍ロングスピア。ロジェロの槍は健在だが、ブラダマンテは槍を失い、やむなく両刃剣ロングソードを抜く羽目になった。
 依然として二対一だが、これではどちらが押しているのか分からない。

 薄々分かっていた事だが、突進突破力に重点を置いた西欧の戦槍ランスでは、小回りの利く大王の長槍ロングスピアに挑むのは不利だ。加えて彼自身の尋常ならざる腕前もある。

(だがやるしかねえ。少なくとも大王アイツを馬から引きずり降ろさねえ事には……戦いにもなりゃしねえ)

 幸いにして、今のアグラマンの右手の獲物は半月刀シャムシール。二槍流ではない。もう一本の槍は彼の白馬から遠い。
 瞬時に判断したロジェロは、果敢に馬を走らせ大王との距離を詰めた。リーチに勝る右手側から攻める為だ。

「おッらァッ!!」
「ガムシャラに見えるけど、いい判断ねェ」

 アグラマンは馬を旋回させ、不利な間合いを入れ替えようとするが――ロジェロもまた巧みに馬を操り軌道を変え、反対側に回り込んだ。

「……ちッ」
「てめェの間合いは取らせねェぜッ!」

 武器の射程距離で優位に立てないと見るや、大王の切り替えも素早かった。
 突進してくるロジェロに、逆に間合いを詰めてきたのだ。そして今手にする得物も刀ではない。いつの間にか槌矛メイスに持ち替えている。

(どんだけ器用なんだよコイツ! 曲芸師かッ!?)

 旋回・突進・武器変更。全ての動作が一連の流れに沿って、かつロジェロの槍の間合いまで外された。攻防一体の絶技!
 苦し紛れで突かれた戦槍ランスを難なくかわし、続けざま槌矛メイスを振るいロジェロの右手をしたたかに打ち据えた。

「……ッ!?」
 強い衝撃を受け、ロジェロの槍は虚しく弾き飛ばされてしまう。

「さァて後は――ブラダマンテちゃんかしらァ?
 もっとも両刃剣ロングソードでアタシの槍に挑むなんて無謀もいいトコだけど……?」

 アグラマンは旋回しつつも、彼の死角から飛び込んでくるブラダマンテの存在に気づいていた。
 だからこそ左手に長槍ロングスピアを携えたまま。後は迎撃すればいい――筈だったが。

「……流石だぜ大王。奇抜に見えるけどアンタの技、基本に忠実で堅実な動きだ」
 右手の痛みを堪えつつ、黒崎ロジェロは不敵に笑った。
「無意識に最適な行動を取っちまうんだろうな……それだけに『読み易い』」

「!」アグラマンは失策に気づいた。死角にいたブラダマンテが剣を持たず、無手になっていたのを確認するのが僅かに遅れた。

 戦槍ランスの一撃を躱させたのも、槌矛メイスで武器を落とさせたのも。
 この為だったのか。弾かれるであろう軌道まで計算ずくで、馬同士の間合いまで織り込み済みで。

(ウッソでしょ――何よこの二人。妬けるくらい息ピッタリじゃないのッ)

 さしもの大王も、ここまでの連携を見せられるとは予想だにしなかったらしい。
 ブラダマンテは弾かれたロジェロの戦槍ランスを――馬を走らせて掴み取った。そしてそのまま、勢いに任せアグラマンに向けて突き立てる!

「はあッ!!」

 女騎士の「黄金の槍」の感覚は健在だ。大王も咄嗟に長槍ロングスピアを重ね合わせ、軌道を逸らそうとしたが間に合わない!
 激しい金属音と、一拍置いて落馬する鈍い衝突音が戦場に響き渡った。
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