つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

LED

文字の大きさ
156 / 197
第9章 物語は綻びる

1 それぞれへの来訪者

しおりを挟む
 ランペドゥーサ島から、無事にフランク王国領に戻ったブラダマンテ達。
 彼らは先の戦争での傷病者たちが収容されている、南フランス・アヴィニヨンの施療院に立ち寄った。

「はっはっは! 遅かったねロジェロ君!
 それにブラダマンテにマルフィサ。皆変わりなさそうで何よりだよ!」

 能天気な声を上げて出迎えたのは、すっかり怪我も完治したイングランド王子のアストルフォだった。

「ボクはこの通りさ! メリッサの治療のお陰で、手遅れだった者たちを除き、皆元気になった。
 オルランドやフロリマール、ピナベルも回復して元の領地に戻っていったよ!」

「お、おう……聞いてもないのに全快報告ありがとうよ……
 あいつら怪我治ったのか。メリッサに礼を言わねえとな? ブラダマンテ」

 ロジェロ――黒崎くろさき八式やしきは務めて明るく言ったが。
 ブラダマンテ――司藤しどうアイの微笑みには、ぎこちなさが僅かに残っていた。

(ランペドゥーサ島でアグラマン大王に言われた事……気にしてんのか)

 黒崎も話の大筋は把握していた。
 東ローマ皇太子レオの肉体に、アイの憧れの先輩・綺織きおり浩介こうすけの魂が憑依していた事。
 かつてパリ攻防戦で戦ったアルジェリア王ロドモン。彼の着ていた赤い鱗帷子スケイルメイルの贈り主が、他ならぬレオであるという事。

司藤しどう。あんま思い詰めんなよ?
 まだ綺織きおりの奴が敵と決まった訳じゃねえ。
 思い悩むのは、向こうの意図を確かめてからでも遅くはねえはずだ」
「う、うん……そうよね。
 ありがとう、黒崎。ごめん……もう少しでエンディングって時に」

「何言ってんだよ。不安要素があるのはオレだって一緒さ。
 だから言っておく。少しでも気になる事があったら、何でも相談してくれ。で、オレを頼ってくれ。負い目に感じる必要なんてねえからな?」
「…………」

 黒崎の言葉に、少しは落ち着いたのだろうか。
 アイは伏し目がちだった顔を上げ、ニッと笑みを浮かべてみせた。

「……わかった。その時になったら、頼りにさせてもらうわ。
 黒崎だって頼ってよね。忘れてるかもしれないけど――わたしの方がちょっぴり『お姉さん』なんだから」

 二人は現実世界では、同じ高校に通う同級生。だが誕生日の関係上、3か月ほどだがアイの方が年上なのだ。

「……忘れてなんか、ねえさ」

 小声で呟いた黒崎の声が、背を向けたアイに聞こえたかどうかは分からずじまいだった。

**********

 アヴィニヨンに着いた翌日。ブラダマンテとロジェロにそれぞれ使者が訪れた。

 ブラダマンテの下に来たのは、彼女の長兄にして、十二勇士のひとりリナルドだった。

「……リナルド兄さん? どうしたの、そんな血相を変えて」
「久しぶりだな我が妹よ……悪いが至急、パリに戻って来て欲しい。
 早馬があってな。我らが母、ベアトリーチェから火急の用があるとの事なのだ」

 リナルドの口から、母ベアトリーチェの名が出た途端。
 司藤しどうアイは全身が泡立ったような寒気を覚えた。

(なに……この湧き上がる……強い恐れの感情……?
 わたしじゃあなくて……『ブラダマンテ』のもの、なのかな……?)

 物語世界の途上で憑依したアイは、ブラダマンテの母親との直接の記憶はない。
 だが「ブラダマンテ」当人は、よく知っているようだ。それだけに意外だった。あの気高く剛直で、怖いもの知らずの女騎士の魂が、こんなにも震え上がっているという事実が。
 報せを持ってきた兄リナルドも、心なしか語尾が震えている気がする。

「我としても、妹と結婚するであろう、未来の義弟おっとを父母に紹介したい。
 是非ともロジェロ殿も共にパリに来て欲しいのだが……?」
「あれ……? ロジェロ?」

 黒崎ロジェロの姿が見えなかったので、ブラダマンテとリナルドは彼の行方を探した。
 折悪しく彼は妹マルフィサと共に、別の部屋で火急の報せを受けていたのだ。

「……何だと。オレたちの養父アトラントが……危篤なのか!?」
「はい。倒れられたのが数日前ですので、今もまだご存命かはちょっと……
 何にせよお急ぎ下さいませ。ロジェロ様にお伝えしたい事があるように、言っておられました故」

 使者のサラセン人は青ざめた様子で、兄妹の顔色を伺いながら言った。

「これは行くしかないな、ロジェロ兄さん……
 あたしとて、育ての親の死に目に会えないのは不本意だ」

 結局、ブラダマンテ達は話し合った結果。
 ブラダマンテはリナルドと共に、パリのクレルモン家へ。
 ロジェロとマルフィサは、養父アトラントのいるカレナ山へ。
 それぞれの用件を済ませるため、別れて出立する事になってしまった。

「……やれやれ、皆慌ただしいなぁ」

 逃げるようにアヴィニヨンを去っていった彼らを見送るアストルフォ。
 彼の傍らには――尼僧メリッサが立っていた。

「あれ? メリッサ――ブラダマンテについて行かなくて平気なのかい?」
「無論のこと、狂おしいほどに後ろ髪を引かれますけども……今はその時ではありませんわ。ところでアストルフォ様――貴方の下にも客人が見えられてますの。
 お会いしていただけますね?」

「それはもちろん……構わないが」

 アストルフォは怪訝そうな声を上げつつも承諾した。訪問者の心当たりがない。
 メリッサに促され、面会を求めてきたのは――放浪の美姫アンジェリカと、その恋人メドロであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!

naomikoryo
ファンタジー
【★♪★♪★♪★本当に完結!!読んでくれた皆さん、ありがとうございます★♪★♪★♪★】 気づけば異世界、しかも「ただの数学教師」になってもうた――。 大阪生まれ大阪育ち、関西弁まるだしの元高校教師カイは、偶然助けた学園長の口利きで王立魔法学園の臨時教師に。 魔方陣を数式で解きほぐし、強大な魔法を片っ端から「授業」で説明してしまう彼の授業は、生徒たちにとって革命そのものだった。 しかし、なぜか公爵令嬢ルーティアに追いかけ回され、 気づけば「奥様気取り」で世話を焼かれ、学園も学園長も黙認状態。 王子やヒロイン候補も巻き込み、王国全体を揺るがす大事件に次々と遭遇していくカイ。 「ワイはただ、教師やりたいだけやのに!」 異世界で数学教師が無自覚にチートを発揮し、 悪役令嬢と繰り広げる夫婦漫才のような恋模様と、国家規模のトラブルに振り回される物語。 笑いとバトルと甘々が詰まった異世界ラブコメ×ファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主』

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

処理中です...