つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

LED

文字の大きさ
160 / 197
第9章 物語は綻びる

5 黒崎八式、真実を知る

しおりを挟む
 引き続き、パリにある場末の酒場にて。
 イングランド王子アストルフォは、これまでの経緯をロジェロとマルフィサに語った。

「アンジェリカはトリエステで意識を取り戻してから、ロジェロ君やブラダマンテに会う為、再びフランク王国に引き返す決意を固めたそうだよ。
 恋人メドロと一緒に、ランゴバルド王国領を通り、マイエンス家のアンセルモ伯爵の治めるアルモリカ城の厄介になったり」

 しかし順調に見えた旅路は、国境を越えてフランク王国入りしてから暗雲が覗き始めた。
 アルモリカ城を越え、南フランスに入ってから――夜な夜な不気味な「怪物」に襲われるようになった。アンジェリカを護衛する為、ガヌロンの息子ボルドウィンや、アンセルモ伯の郎党が彼女に付き従ったのだが――「怪物」の圧倒的な力の前に次々と惨殺され、ボルドウィンも重傷を負い戦線離脱してしまったのである。

「アヴィニヨンでメリッサと合流できたお陰で、どうにか二人は逃げ延びた。
 そこからはボクも旅に加わって、彼女を護衛していこうと思ったんだが……」

 アストルフォが合流してからも「怪物」は度々現れた。
 襲撃に備える為、道中でフランク騎士や傭兵を雇うなどしたが――結果は芳しくなく。

 ロジェロ――黒崎くろさき八式やしきは、彼の話を聞いている内に気づいてしまった。

「アストルフォ、お前……右肩。どうしたんだよ」

 素人であれば気づかないほどの違和感だが、歴戦の騎士ロジェロの目から見れば分かる。分かってしまう。
 アストルフォの何気ない仕草から――彼の右肩から先が、ほとんど動いていない事に。

「参ったね。やはりキミの目は誤魔化せないか」
 イングランドの王子は、困ったように苦笑いしてみせた。
「三度目の襲撃の時に――『怪物』の剣をまともに受けてしまってね。
 メドロ君が助けに入らなければ危うかった。メリッサの応急処置を受けて、どうにか歩ける程度には回復できたんだが……」

 アストルフォは務めて明るい素振りをしているが――ロジェロもマルフィサも、絶望的な気分になった。
 命に別状はないだろうが、もう彼は人並みに剣すら握れないかもしれない。それほどの深手だった。

「ボクがロジェロ君を待っていたのも……実はそれが理由なんだ。
 悔しいけれど、今のボクにはアンジェリカやメリッサを守るだけの力がない。
 どうかボクに代わって、彼女の護衛を引き受けてやってはくれないだろうか?」

「クソッ……済まない。オレ達がアトラントの所に出向いてたばっかりに……」
 どう言葉をかけていいか分からず、黒崎ロジェロは声に無念さを滲ませていた。

「仕方ないさ。育ての親が危篤状態だったんだろう?
 それで、お父君は……大丈夫だったのかい?」
「いや。オレ達が辿り着いた頃にはもう……
 ……だが葬儀は間に合ったし、遺言を聞く事はできた」

「そうか……心よりお悔やみ申し上げるよ」

(どうしてそんな平静でいられるんだよ……
 お人好しにも程があるぞ、アフォ野郎……!)

「……アストルフォ。襲撃してきた『怪物』の特徴を教えてくれ。
 アンジェリカの護衛は勿論引き受ける。それにお前の右肩の仇だ。オレが絶対にブチのめす」
「ロジェロ兄さんがその気なら、このマルフィサも及ばずながら力を貸そう!」

 実の妹にしてインドの王女・怪力自慢の女傑でもあるマルフィサも、快く協力を申し出た。彼女の腕力は、時に実害を被る事もあるが……今はその腕っぷしの強さが頼もしい。

「ありがとう。我が友ロジェロ、そしてマルフィサ。
 『怪物』は鼻が曲がりそうな腐臭を漂わせ、血のように赤い鱗帷子スケイルメイルを身に着けた巨漢だ」

 アストルフォの説明に、思わず黒崎は目を見開いた。

(赤い鱗帷子スケイルメイルだと? まさかそれって、アルジェリア王ロドモン……!?
 何故だ? 奴はパリで、ブラダマンテに殺されたんじゃなかったのか……!)

 ロジェロとマルフィサはアストルフォに案内され――日が沈まぬ内に、メリッサとアンジェリカ達のいる隠れ家に向かうのだった。

**********

 目立たない廃屋同然の場所に――アンジェリカとメドロ、そして尼僧メリッサは潜伏していた。
 ロジェロ達が訪れると、廃屋の周囲には巧妙にカモフラージュされた護符や魔具の類が設置されている。外敵を察知し「怪物」の目を欺くために施した仕掛けなのだろう。

「ロジェロ様、アストルフォ様、それにマルフィサ様も――お帰りなさいませ」

 三人の姿を見ると、憔悴気味だったメリッサの顔もパッと明るくなった。
 やや緊張していた様子からして、万が一にも「怪物」だったら……という懸念が拭えなかったのだろう。

 メリッサに案内され、廃屋の奥に入ると……肩を寄せ合うようにアンジェリカとメドロがいた。
 しかしアンジェリカの姿は黒崎にとって、以前会った時のような絶世の美女ではなく――初めて見る、日本人女性のそれだった。

(そうか……これが綺織きおりの姉だっていう、錦野にしきの麗奈れななのか。
 司藤しどうの言っていた通り、宿っていた魂の記憶を取り戻したんだな――)

「申し訳ないけれど――ロジェロ様にだけ伝えたい話があるの。席を外して貰えるかしら?」

 アンジェリカの提案によって、アストルフォやメリッサ達は一旦、退出する事になった。

「……この顔では『初めまして』、かしら。お久しぶりね」
「ああ……久しぶりだな。アンタは確か、錦野にしきの麗奈れなさん、で良かったか?」

「ええ……そうよ」

 綺織きおり浩介こうすけの姉だけあり、アンジェリカほどでないにせよ清楚な雰囲気の漂う美人の類である。
 寂しげな笑顔に大人の色香を感じ、黒崎は思わず息を飲んでしまった。

「どうしても貴方に知っておいて欲しい話があって、戻って来たの」
「何か……分かったのか?」

 促す黒崎に――麗奈れなは意を決して、一呼吸置いてから告げるのだった。

「この物語を最後まで進んで、ブラダマンテとロジェロの結婚……大団円ハッピーエンドを迎えても。
 現実世界に戻れるのは『一人だけ』なのよ。正確に言えば――ブラダマンテ役のアイちゃんだけ、だと思うわ」
「なッ…………!」

 錦野にしきの麗奈れなの言葉――魔本世界の残酷な真実を前に、黒崎は絶句してしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!

naomikoryo
ファンタジー
【★♪★♪★♪★本当に完結!!読んでくれた皆さん、ありがとうございます★♪★♪★♪★】 気づけば異世界、しかも「ただの数学教師」になってもうた――。 大阪生まれ大阪育ち、関西弁まるだしの元高校教師カイは、偶然助けた学園長の口利きで王立魔法学園の臨時教師に。 魔方陣を数式で解きほぐし、強大な魔法を片っ端から「授業」で説明してしまう彼の授業は、生徒たちにとって革命そのものだった。 しかし、なぜか公爵令嬢ルーティアに追いかけ回され、 気づけば「奥様気取り」で世話を焼かれ、学園も学園長も黙認状態。 王子やヒロイン候補も巻き込み、王国全体を揺るがす大事件に次々と遭遇していくカイ。 「ワイはただ、教師やりたいだけやのに!」 異世界で数学教師が無自覚にチートを発揮し、 悪役令嬢と繰り広げる夫婦漫才のような恋模様と、国家規模のトラブルに振り回される物語。 笑いとバトルと甘々が詰まった異世界ラブコメ×ファンタジー!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主』

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

処理中です...