つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

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第9章 物語は綻びる

7 ロジェロ&マルフィサvs「怪物」

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 パリ郊外。微かな月明かり。むせ返るような血の臭い。
 しかし一際鼻孔を不快にくすぐるは、血だまりの中心に立つ「怪物」の放つ死臭である。

 「怪物」は赤い鱗帷子スケイルメイルを纏い、折れた半月刀シャムシールを携え彷徨い歩く。

「近くにいるな……アンジェリカ……何処におられるやァ……?」

 濁りきった不気味な声で「怪物」はうわごとのように呟いている。

(……ここを嗅ぎつけられるのも時間の問題か。
 アストルフォは戦えねえし、疲れてるメリッサやアンジェリカを巻き込む訳にはいかねえ。
 やはりマルフィサと共闘して、奴を倒すしかねえのか……?)

 廃屋から様子を伺っていたロジェロ――黒崎くろさき八式やしきは逡巡していた。
 妹マルフィサの提案通り、ここで迎え撃たなければアンジェリカが危険に晒されるだろう。

 パリ攻防戦の折、ブラダマンテが仕留めた時と同じ装備。
 恐らく怪物の正体は、かつてのアルジェリア王ロドモンであろう。

(ブラダマンテ――司藤しどうの話じゃあ、赤い鎧を着てた時のロドモンはとんでもねえ力を発揮してたらしいな……
 オレたち二人だけでどこまで戦えるか……いや、やるしかねえッ!)

 ロジェロとマルフィサは覚悟を決め、廃屋から飛び出した。
 それぞれ両刃剣ロングソード半月刀シャムシールを抜き放ち、怪物を挟むような形で対峙する。

「そこまでだ化け物! これ以上の狼藉はマルフィサが許さんぞ!」

 マルフィサは堂々と名乗りを上げ、ロジェロと共に「怪物」に突き進んだ。
 ロジェロも妹とタイミングを合わせ、得物の魔剣ベリサルダを振るった。この剣は魔女ファレリーナが鍛え、いかなる防御も通じぬ切れ味を備えている。
 赤い鱗帷子スケイルメイルも例外ではなく、ロジェロの魔剣は易々と「怪物」の左腕を捉えた。しかし――

(ぐッ、なんだこの手ごたえッ……!?)

 怪物はまともに防御姿勢すら取らなかった。ロジェロの疾風の如き踏み込みに、全く反応できていない。
 いや――必要が無いのだ。魔剣から「怪物」の左腕の骨が砕ける感触が伝わってきたが……最初からボロボロで、人体というより腐った泥のようだ。かつて悪徳の魔女アルシナの肉体を斬った時の感覚に似ていた。

 ベリサルダで裂けた傷口からは、鮮血ではなく腐汁が飛び散る。
 悪臭と不快感に戸惑っている場合ではなかった。ロジェロの振るった魔剣は中途半端に「怪物」の腕に食い込み、容易に引き抜けなくなってしまった。

「しまった……オレとした事がッ」

 「怪物」の兜の隙間から覗く、汚い乱杭歯が大きく歪んだ。笑っているらしい。
 迂闊にも己の間合いに飛び込んできた愚かな獲物を屠るべく、「怪物」は折れた半月刀シャムシールを振りかぶった。

「兄さんに触れるな。薄汚い化け物めッ!」

 すんでの所でマルフィサが「怪物」の懐深くに潜り込み、同じく半月刀シャムシールで斬撃を防いだ。
 その隙を突いてロジェロは魔剣を抜く事に成功し、間合いを取る。

 しかし事態は安心には程遠い。マルフィサは両手で半月刀シャムシールを支え「怪物」の武器を受け止めていたが――押されている!

(ンな馬鹿なッ……怪力のマルフィサを片手で、しかもあんなボロボロの剣でねじ伏せてんのかよ。
 この化け物、腐りかけの身体のどこにそんな力がッ……!)

 マルフィサは冷や汗をかき、剣に力を込めるが状況は好転しない。

「くッ……ああああッ! 舐めるなァッ!!」

 インドの王女は雄叫びを上げ「怪物」の斬撃を引き込むようにして受け流した。力では敵わぬと見て体勢を入れ替えるべく動いたのは、流石に歴戦の女傑か。
 「怪物」の姿勢が崩れると、マルフィサは刀を絡めて武器を叩き落とす。彼女の得物ごと二振りの刀が地面に落ち、血だまりが跳ねた。

「でやあッ!」

 マルフィサは気合いと共に「怪物」の頭部に鉄拳を振るった。二撃、三撃!
 無手となっても闘志を失わず、兜の上から殴りつける。インド王女の得意技だ。
 だが歴戦の騎士すら脳震盪を起こす強烈な打撃を続けざまに受けても、「怪物」は僅かによろめいただけだった。

「くッ……ここまでやっても攻め切れないとは……」
「いや十分だマルフィサ! 後はオレに任せろッ!」

 怪物の動きが止まった一瞬に、ロジェロは一気に間合いを詰めた。マルフィサの背後から飛び出す形で、再び魔剣ベリサルダを一閃する!
 得物を失った「怪物」は防ぐ事すら叶わず、首が宙を舞っていた。

「やったか……! 流石ロジェロ兄さん。
 いかな化け物と言えど、首を落とされては――」

 歓声を上げかけたマルフィサだったが、ロジェロは戦闘態勢を解いていない。

 月下の惨状は未だ終わらず、さらなる悪夢が待ち構えていた。
 「怪物」は斬られた首を無造作に拾い上げ、強引に元の位置に押し込んだのだ。先刻より歪な形となったが、腐臭を放つ赤い巨漢は、何事もなく活動を再開する。
 マルフィサは思わず息を飲み、久しく感じた事のない恐怖心が芽生えていた。

 黒崎ロジェロも冷や汗をかきつつ、考えあぐねていた。

(チッ、やはりか。魔女アルシナも首を刎ねた程度じゃ死ななかったしな……
 予想はついても、打開策がある訳じゃねえし……どうしたもんか……)
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