つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

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第9章 物語は綻びる

8 ロジェロ達、一路東ローマへ

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 赤い鱗帷子スケイルメイルを着た「怪物」は、斬られた首を元に戻し平然と活動を再開した。
 悪臭と共に放たれる不気味な瘴気に、ロジェロとマルフィサは戦慄する。

「何なんだ……あいつは一体……ロジェロ兄さん……?」
「この程度で狼狽うろたえるんじゃねえ、マルフィサ。
 首を落とされても死なねえ奴なんぞ、オレはこれまで何人も見てきた。
 悪徳の魔女アルシナや、不死者オッリロとかな。大方こいつも似たような手合いなんだろう」

 ロジェロの返答に、妹マルフィサは感心したようだった。

「そうか……流石は兄さんだな。
 ではあの『怪物』を打ち破る手段も、あるという事だな?」
「…………」

「えっ、そこ黙っちゃうの兄さん!?」
「う、うっせーな! 一口に死なねー連中といっても、それぞれ弱点違ったりすんだよッ!
 コイツの特性もまだ把握できてねーのに、いきなり弱点まで一発で分かってたま――」

 そこまで言いかけて、ロジェロ――黒崎くろさき八式やしきは思い立った。
 不死者オッリロを退治した時の事を思い出したのだ。

「――アストルフォの呪文書だ。あらゆる魔術の解除法が載っている!
 『怪物』の不死身が魔法によるものなら、解決の糸口が見つかる筈だ!」

 二人が話し合っている間に「怪物」は地面に落ちた半月刀シャムシールを――ちゃっかりマルフィサの用意した新品の方を――拾い上げ、猛然と襲いかかってきた!

「ぐッ…………!」
 黒崎ロジェロは咄嗟に魔剣ベリサルダで受け流した。しかし凄まじい怪力で、刃の軌道を逸らすのが精一杯である。

「ロジェロ兄さん!」
「来るなマルフィサ! いくらお前でも、得物なしでコイツとまともにやり合うのは無理だッ!」

 間合いが離れた一瞬。突如「怪物」を稲妻のような一撃が襲った!

「!?」

 恐ろしいまでの光と熱が「怪物」を包み込む。ふと背後を見れば、廃屋から出てきたメリッサ、アストルフォ、アンジェリカとメドロの姿があった。
 中でもアンジェリカは、術式の構えを取り肩で息をしている。今しがたの光の柱は、アンジェリカが放った魔術のようだ。

「アンジェリカ……! お前、そんなすげえ術使えたのかよ……」
「……消耗は激しいし、連発は効かないし。大したモンじゃないわよ……
 並の人間だったら、コレでも大火傷で戦闘不能になるハズなんだけど」

 彼女の懸念通り――赤い巨漢は全身が黒焦げになったにも関わらず、全く動きが止まる気配はなかった。
 赤い鱗帷子スケイルメイルは頑丈すぎるのか未だ健在。中の腐った肉体は所々炭化しているようだが――意に介している様子はない。

「グフフ……見つけた、ぞ……アンジェリカァ……!」

「……済まない、我が友ロジェロ。ボクの本に期待を寄せていたようだが……」
 アストルフォは青ざめた顔で、歯噛みして謝罪した。
「何度目かの襲撃の際にすでに調べたんだ。結果――術者の魔力を断つ以外に、奴を止める方法はない、とさ」

 だがイングランド王子の言葉を聞き、ロジェロは不敵な笑みを浮かべた。

「それだけで十分だぜ、アストルフォ。
 だったらこれから、その術者の所に行けばいいってこった」
「! 心当たりがあるのかい? ロジェロ……」

「アンジェリカもよーく知ってる人物さ。そうだろうマルフィサ!」

 ロジェロから水を向けられ、マルフィサもハッとなって口を開いた。

「アグラマン大王が言っていた――赤い鱗帷子スケイルメイルの贈り主はレオ皇太子だと。
 なら行き先は決まったな。ブラダマンテ達と同様――東ローマ帝国の都・コンスタンティノープルだ!」

 マルフィサの力強い言葉を聞き、ロジェロはニヤリと笑った。
 アンジェリカ――錦野にしきの麗奈れなは少々戸惑っているようだが……この場にいる全員、彼女を守ろうとする事に異論はないようだ。たとえその旅路が危険で、厄介極まりない「怪物」につけ狙われる事になろうとも。

「アンジェリカ、悪かったな。せっかくパリまで戻って来たのに、またトンボ返りになっちまう」
「それは構わないけど……目の前の問題があるでしょッ」

「そうだな。出来ればコイツの足止めをしておきたいが――」

 再び動き出そうとする「怪物」に、ロジェロが再び身構えた、その時だった。

「――そういう事なら、ここは俺に任せて貰おうか」

 低い声が響くと、ロジェロ達と「怪物」との間に筋骨隆々の精悍な騎士が割って入った。
 鎖帷子チェインメイル越しにも分かる鍛え抜かれた肉体。携えしは黄金の柄を持つ聖剣デュランダル。

「お前は……オルランド!? どうしてここにッ」ロジェロは驚いて叫んだ。

「ここはフランク王国の都パリだぞ? 狼藉を働く輩がいると聞いてな。
 それにあの光の柱――あれほどの魔力を扱える者は、契丹カタイの王女アンジェリカに他ならん」

 くぐもった雄叫びを上げる「怪物」の斬撃を、オルランドは声すら上げず聖剣で薙ぎ払った。

「それにコイツは我が友ゼルビノと、その妻イザベラの命を奪った不逞の輩だ。
 この俺にとっても因縁がある。いっそこのまま、打ち倒してしまっても構わんのだろう?」

(何だと……イザベラって姫だよな? 殺されたのか……
 まさか、アンジェリカと勘違いして……? じゃあこの化け物、アンジェリカの命を奪う事も全く躊躇ためらいがねえのかよ……!)

 黒崎ロジェロの心の中に、沸々と怒りにも似た感情が湧き上がった。
 オルランドの言が正しければ、レオ皇太子――綺織きおり浩介こうすけは、実の姉の命を奪おうとした事になる。

「コンスタンティノープルは遠いぞ。グズグズしている暇はあるまい?
 早く行けお前たち! 一晩の間は、俺がコイツを引き受けてやるッ!」

 オルランドの申し出に、ロジェロ達は顔を見合わせ――廃屋から去る事にした。
 これまで何かと因縁のあった男だが、曲がりなりにもフランク王国最強の騎士である。これほど心強い増援はないだろう。

「ありがとう、オルランド」アンジェリカは背中越しに礼を言った。

 オルランドは振り返らず「怪物」を相手取る。
 醜悪で腐臭を放つ恐るべき存在。このような化け物につけ狙われて、彼女は気も休まらなかったに違いない。

(こいつは――かつての俺の姿、か……)

「……今まで済まなかったな、アンジェリカ」
「今回でチャラにしといてあげる。死なないでよ?」

「心配いらん。俺にも守るべきものができた……死ぬつもりは毛頭ない。
 それに俺を誰だと思っている。フランク最強騎士・オルランドだぞ?」
「……そう、だったわね」

 その場にいた全員が立ち去り、一対一になったのを悟ったオルランドは――肉食獣の笑みを浮かべた。

「今宵は舞踏ダンスに付き合って貰うぞ、薄汚い化け物め」
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