つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

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第9章 物語は綻びる

11 承前の物語★

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 司藤しどうアイは、現実世界の下田しもだ教授と念話で連絡を取る事ができる。
 そのギミックが綺織きおり浩介こうすけにバレた。

『私の声が……君にも聞こえるのか? 綺織きおり君』
「ええ。お久しぶりですね、下田教授。
 何とか僕も、ここまで死なずに生き永らえていますよ」

 綺織きおりはアイに抵抗の意思が無いのを確認すると、スッと身体から手を離した。
 しかし彼女の腕は握ったまま。綺織きおりも知っているのだ。黒崎くろさき八式やしきがそうであったように――アイと身体が触れ合っていれば下田教授と意思疎通が可能であるという事を。

(そっか。忘れてたけど――綺織きおり先輩って、下田教授のゼミ生だったわね)
 アイは今更ながら、ぼんやりと現実世界の話を思い出した。
(それに確か魔本『狂えるオルランド』って、元々は綺織きおり先輩が教授の所に持ってきたんだっけ。
 今まで気にも留めてなかったけど、わたしが物語世界に引きずり込まれる前――何が起こっていたんだろう?)

「――教えてくれる? 綺織きおり先輩。下田教授。
 わたしが『ブラダマンテ』として物語世界ここにやってくる前の事を」
「分かった。僕としても司藤しどうさんに心行くまで考えて貰って、納得してから結論を出して欲しいからね。
 僕が知り得る限りの事は教えよう」

「黒崎も、先輩も――わたしと一緒で、いきなり本の中に引きずり込まれたのよ、ね……?」

 アイの問いかけに綺織きおり浩介こうすけは首を振り、優しく諭すように言った。

「僕は君や、黒崎君と違って――『自分の意志で』この世界に転移したんだ」

**********

 レオ皇太子――綺織きおり浩介こうすけは、これまでの経緯を語り始めた。

「僕の姉さん、錦野にしきの麗奈れなは知っているよね?
 姉さんは僕が中学生に上がる直前――『いなくなって』しまった。
 結婚が決まって、夫と一緒に住む新居を見繕っていた矢先にね」

 単なる失踪事件なら、浩介こうすけもここまで思い詰める事はなかったのかもしれない。
 だが奇妙な事に周りの人間からは、姉がいた、という「事実」すらも消え去っていた。

「誰も姉さんの事を覚えていない。両親も。結婚するはずだった錦野さんも。
 『僕だけが』存在しないハズの姉を覚えている――とても、苦しかったよ」

 浩介こうすけは後に知った。読んだ人間を物語世界に引きずり込むという、魔本の存在を。
 魔本の世界に引きずり込まれた人間は、近しい人から徐々に忘れ去られてしまうという事実を。

「僕も皆と同じように忘れていたのなら、話は違っていたかもね。
 でもどういう訳か僕だけが、姉さんの記憶を忘れなかった……いや、忘れる事が『できなかった』。だから誓ったのさ。いつか必ず魔本の世界に赴いて、囚われた姉さんを救い出すって」

 浩介こうすけは密かに魔本について研究を始めた。
 魔本は人間を引きずり込み、閉じ込めると――忽然と姿を消し、全く別の場所に現れるという。
 一箇所に留まって不審に思われないように。そして新たな人間を引きずり込む為に。

 綺織きおり浩介こうすけは「狂えるオルランド」の原典を読み込んだ。そして西洋史学の教授にして、魔本からの生還者と血縁のある下田しもだ三郎さぶろうの存在を知った。
 試しに下田教授に「人を引きずり込む魔本」の話をしたら、馬鹿にするでもなく真剣に食いついてきた。間違いなく彼は「魔本」を知っていると確信を抱くに十分な反応だった。

「えっ……ちょっと待って先輩。
 下田教授が魔本から生還した人と、血の繋がりがあるって、まさか――」
『ああ。綺織きおり君の言う通りだ。
 私の母である綾子あやこは、初代”ブラダマンテ”にして――魔本から唯一帰還する事のできた人物なのだ』
「…………ッ!」

 アイが驚いている間にも、話は続いていた。
 浩介こうすけは入念な調査の結果、ついに姉を引きずり込んだ魔本を入手した。
 後は本を下田教授の所に持っていき、協力を取り付ければ――という所まで来た時、想定外のハプニングが起きた。
 家族の付き合いで交流を始めた、司藤しどうアイの存在である。

「え――そこでわたしの名前が出てくるの?」

「本当にすまない、司藤しどうさん。出来れば君を巻き込みたくなかったんだ」
 綺織きおりは申し訳なさそうにかぶりを振った。
「君の好意や告白――本当は嬉しく思ったよ。でもいずれ僕は魔本の世界に旅立ち戻って来れないかもしれなかった。
 そんな僕と付き合う事になっても、すぐにいなくなってしまう。それはちょっと忍びなかったからね。
 曖昧に流さず、もっとハッキリ断っていれば……良かったのかもしれない」

 しかし結果として、綺織きおりの煮え切らない態度は裏目に出た。
 その後、アイが傷つけられた事に憤った黒崎が綺織きおりの家に怒鳴り込んで来て――魔本の中に引きずり込まれてしまった。
 すがるように下田教授の所へ魔本を持ち込んだものの――綺織きおりも、そしてアイも「狂えるオルランド」の世界に囚われてしまったのは、今更繰り述べるまでもない事実である。

「僕の目論見は外れてばかりさ。自分でも嫌になるぐらいにね」
 自虐するように、綺織きおりは乾いた笑みを浮かべた。
「姉さんを救い出すどころか、関係ないハズの黒崎君や司藤しどうさんまで、巻き込んでしまって。
 しかも挙句に、物語を最後まで進めても帰る事のできる人間はたった一人。物語の主役である『ブラダマンテ』を演じた者だけという、絶望的な事実まで発覚する始末だよ」

「で、でも綺織きおり先輩。どうして一人しか帰れないって分かるの?
 現に生還者だっているんだし。もしかしたら分かってないだけで、皆一緒に帰る方法があるかもしれないじゃない」

「そうだね、ひょっとしたら存在するのかもしれない。でも――少なくとも僕たちでは為し得ない。『あいつ』がそう言っていた。
 残念だが、奴は嘘だけはつかない。真実しか語らないんだ」

「……その、さっきから言ってる『あいつ』って……?」

 恐る恐るアイが尋ねると――綺織きおりの瞳に宿る濁った影がより一層濃くなった。
 瞳だけではない。彼の背後にある「影」が急激に膨れ上がったかと思うと、部屋中を取り囲んだ。
 「闇」が翼を広げたのだ。歪な形をした翼持つ影――下半身は巨大な馬そのものであり、腹部から馬首がそそり立つように突き出している……!

「ひッ…………!?」さしものアイも恐怖に息を飲んだ。「あなたは……誰?」

『……キミの事はずーっと見ていたよ。楽しみながらね。
 お初にお目にかかる――ブラダマンテの演者さん』
 巨大な影は甲高い作り物めいた声で、愉しげに喋った。
『ボクの名前はFuriosoフリオーソ。魔本そのものに魂を宿す存在さァ』

━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━

《 作者落書き・その12 》

綺織浩介(レオ皇太子)&Furioso。
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