つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

LED

文字の大きさ
177 / 197
第9章 物語は綻びる

22 「怪物」打倒のための共闘・後編

しおりを挟む
 ブラダマンテとロジェロ、レオ皇太子の三人はそれぞれの愛馬に跨り、美姫アンジェリカの救援へと向かった。

「なあ、司藤しどう……」
 馬を並走させ、ロジェロ――黒崎くろさき八式やしき女騎士ブラダマンテに尋ねた。
綺織レオと会って話したって事は、その……聞いたのか?」

 何とも歯切れの悪い質問だが、無理もなかった。
 物語の大団円ハッピーエンドを迎える為、ブラダマンテとロジェロの結婚を成し遂げたとしても――現実世界に帰れるのは一人だけ。ブラダマンテ役の司藤しどうアイのみという事実を知っているか否か。もし知らなければ、今は伝えるべきではないと思ったからだ。

「……うん、聞いたわ」アイは彼の意図するところを察し、端的に答えた。
綺織きおり先輩から。彼に助言をしている黒い影――Furiosoフリオーソさんからも。
 物語を最後まで進めても、帰れるのはわたしだけだという話……よね?」

「そうか……もう知っちまったんだな……」
 消沈したような、安堵したような声で呟く黒崎。

「何シケた顔してんのよ。下田しもだ教授から聞いたわよ?
 アンジェリカ――麗奈れなさん達が対策を練っていて、動いてくれてるんでしょう?
 わたし達みんなで一緒に、現実世界に帰るための術を。
 今メリッサがこの場にいないのも、解決方法を得るためなのよね」

「確かにそうだけど……それが上手く行くって保証はどこにも――」

 黒崎の言葉を、アイは人差し指を出して遮った。
 馬で並走しながらなので、当然唇を塞げるような距離ではない。
 しかしながらアイの仕草と口調は、ネガティブになっていた黒崎の心情を幾らか軽くしてくれた。

「今は皆を信じましょ。どんな物事だって、100%上手くいく保証なんてないでしょ? やる前からそんな暗い事言っちゃって。
 失敗したら失敗したで、その時また考えればいいじゃない。
 なんだったら先輩の言い分を飲んで、皆でここで暮らしたっていいと思うし。
 もちろん、黒崎も一緒にね」

「え、おま、ちょっ――」

「かつて月世界で黒崎アンタが言ってくれたように。
 ここでの暮らしも案外悪くないかもしれない。変に気負うのはやめましょ?
 今は麗奈れなさんを助ける事に、集中しなきゃだし」

 これから戦いに赴くというのに。
 相手は殺しても死なない、赤い鱗帷子スケイルメイルの「怪物」だというのに。
 そして何よりも、これまで自分たちが頑張ってきたのは――現実世界へ脱出するためだというのに。

 司藤しどうアイは爽やかな笑顔を黒崎に向けている。今この瞬間を楽しんでいるようですらある。
 アイの言い分は過去に黒崎が、絶望していた彼女を励ますためにかけた言葉であったが。

(自分の考えとして、言葉として。受け入れてくれたんだな……
 捨て鉢になったんじゃねえ。余裕ができたんだ。本当にいつの間にか――成長、してたんだ)

「ああ……そうだな。お前の言う通りだ、司藤しどう
 ゴチャゴチャ余計な事を考えてる場合じゃねえ。急ごうぜ」

 黒崎は照れ隠しなのか、魔馬ラビカンにハッパをかけ、女騎士を追い抜いた。

(ここまで吹っ切れられたのも、あの時の黒崎の言葉があったから。
 遠く離れていても、独りぼっちでも。どれだけ支えになったか――)

 これ以上は言葉を重ねるのも無粋だろう。行動で示さなければ。
 そう思い直したアイもまた、馬足を速めるのだった。

**********

 赤い鱗帷子スケイルメイルの「怪物」は、戦場に腐臭と瘴気を撒き散らしつつ、立ちはだかる者全てに牙を剥いた。
 背後を突かれる形となった皇帝親衛隊ヴァリャーギらは「怪物」の存在に気づき、戦力の一部を差し向けたが――

「何だコイツは……いくら突いても、切り刻んでも死なねえ!」

 屈強にして死をも恐れぬ荒くれ部隊といえども、眼前の化け物の異質ぶりに動揺を隠せなかった。
 戦場の異変に、最前線で戦っていたインド王女マルフィサも目ざとく勘付く。

(アレはまさか……パリでもアンジェリカを襲おうとした『怪物』かッ)

 次々とヴァリャーギらを屠り、鮮血を浴び続ける「怪物」。
 ボロボロの醜悪な姿であるが、身に纏う鱗帷子スケイルメイルはさらに深紅の輝きを増し、ひと回り大きくなったように錯覚した。

「お前たち、離れていろ! あの化け物の相手はこのあたしだッ!」

 マルフィサは激闘に次ぐ激闘で、疲弊した肉体に鞭打ち……雄叫びを上げて騎馬突進を敢行した!
 アフリカ大王アグラマンより譲り受けたダマスカス鋼製の長槍ロングスピアが、勢いに任せ「怪物」の胴体を刺し貫く!

 ブルガリア軍からも、ヴァリャーギたちからも、女傑の目覚ましい突撃に喚声が上がった。
 ところが――

「!? そんなッ……」

 「怪物」は確かに串刺しにされたものの……吹き飛ばされる事なく、信じがたい力でマルフィサの馬に組み付いていた!
 どころかそのまま左腕を大きく振りかぶり――馬上の彼女へ向け鉄拳を振るう!
 槍に利き腕を取られていたマルフィサは、これを防ぐ事ができず……脇腹に痛烈な一撃を喰らってしまった。

「…………あ、がッ…………」

 怪物の腕力は凄まじく、鍛え抜かれたインド王女の肉体と鎧を以てしても、衝撃と激痛に抗えなかった。
 マルフィサの馬はバランスを崩した。彼女もまた投げ出され、地面にしたたかに打ち付けられた。

「ッ……しまっ……たッ……」

 盾で落下の衝撃はある程度防げたものの、脇腹へのダメージが酷くマルフィサは立ち上がれない。
 全身を駆け巡る苦痛と不快感。口からこみ上げる血反吐が彼女の呼吸すらも困難にし、意識も朦朧としてしまう。

(立た、なくては……あたしがやられてしまったら、皆を守れない……
 ロジェロ兄さんや、アストルフォ……ブラダマンテの、為……にも……)

 心ははやるが、叩きつけられた損傷は大きく、すぐには身体が言う事を聞かない。
 それでも気力を振り絞って、マルフィサはよろよろと起き上がろうとした。だがその動きは緩慢で、誰の目から見ても戦える状態になかった。

 霞む目で、腹部に大穴を開けられた「怪物」がのし歩く様を見やる。
 本当に不死身なのか。生きた人間ならば絶対に死んでいる筈の負傷なのに、意に介した様子もない。

「くそッ……化け物、め……!」

 立ち向かおうとしたマルフィサは、ふと気が緩んで倒れかかった。
 周りに先刻まで死闘を繰り広げた皇帝親衛隊ヴァリャーギらも集まってくる。絶体絶命――

 ふらつくインド王女の身体が、力強く支えられた。
 薄れかかった意識でも、彼女がよく知る人物だとハッキリ分かった。

「大丈夫か? マルフィサ。よく持ちこたえてくれた」
「……ロジェロ、兄……さん……」

 ロジェロだけではない。「怪物」に対峙するは、女騎士ブラダマンテと東ローマの皇太子レオ。
 三人の救援は間一髪、マルフィサを救った。時を同じくして馳せ参じたメドロが、瀕死の彼女を介抱すべく横たわらせた。

皇帝親衛隊ヴァリャーギよ。皇太子レオの名に於いて命ずる。
 このおぞましき鱗帷子スケイルメイルの巨漢こそ、悪魔の遣わした怪物である!
 ブルガリアの兵と共に、邪悪なる者を誅滅すべし!!」

 すでに親衛隊長とアストルフォの計らいによって、ロジェロ達と共闘体制を整えていたヴァリャーギらは……ときの声を上げて速やかに綺織レオの命令に従った。

(……フン。今頃になって『ロドモン』相手にひとつにまとまっちゃったか)
 本の悪魔・Furiosoフリオーソ綺織きおりの影に潜み――よこしまな笑みを浮かべた。
(感動的だねェ~無意味な事なのにさァ。お前たち全員が束になってかかっても、この『怪物』は死なない。
 何しろ最強騎士オルランドが一晩かかって、仕留めきれなかったんだからね。
 そんな奴相手に、どうするつもりなんだか……ククク)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

【第一部完結】科学で興す異世界国家 ~理不尽に殺された技術者は第三王子に転生し、科学で王座に至る~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。 ※1話から読んでも大丈夫。ただ、0話を読むと「あのシーン」の意味が変わります。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...