つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

LED

文字の大きさ
178 / 197
第9章 物語は綻びる

23 連携と発想の転換

しおりを挟む
 ベオグラードの戦場にて、本来は利害の異なる者たちや、軍隊が一つの目的の為まとまった。
 女騎士ブラダマンテ。その恋人の騎士ロジェロ。東ローマ皇太子レオ。
 契丹カタイの王女アンジェリカと、その恋人メドロ。イングランド王子アストルフォに、インド王女マルフィサ。
 ブルガリア軍と、東ローマ軍の精鋭たる皇帝親衛隊ヴァリャーギ

 つい先刻まで敵味方に分かれて戦っていた彼らが、川から出現した赤い鱗帷子スケイルメイルの「怪物」に立ち向かうため。
 「怪物」がつけ狙っている美姫アンジェリカを守るため、共闘するのだった。

「皆、下がって! この『怪物』は血をすする事で力を増す!
 いたずらに傷を負い、命を散らす事は敵を利する行為に他ならない!」

 ブラダマンテ――司藤しどうアイは声高に叫んだ。
 パリ攻防戦で嫌というほど思い知らされた、怪物の纏う鎧の恐るべき能力。
 加えて着用者たるアルジェリア王ロドモンは、かつて女騎士ブラダマンテが殺している。にも関わらず生き返り、全身を腐らせ損壊させながらも、なお蠢くのをやめない。

 マルフィサが重傷を負うのと引き換えに与えた、腹部の大穴が――却って不安と絶望を際立たせていた。

(……こんな『化け物』を、本当に倒せるのかしら?
 倒す手段があるとして、一体どうやって……?)

 ブラダマンテの警告に、周囲の軍勢は「怪物」を遠巻きにして、防御陣形の構えを見せた。
 今はこれでいい。乱戦に持ち込み、多勢に無勢で押し潰せるような敵ではないのだから。

「すまない、ロジェロ兄さん……」
 脇腹を損傷し、力なく横たわるマルフィサ。
 くぐもった声と吐血からして、肋骨の数本は折られてしまっているだろう。

「何言ってんだマルフィサ。お前はよくやってくれた。養生してろ。
 ……むしろ、駆けつけるのが遅くなって悪かったな」

 ロジェロ――黒崎くろさき八式やしきは妹に優しく声をかけると、鋭い視線を「怪物」に向けて魔剣ベリサルダを構えた。

「よくも大事な妹を……許さねえぞ、化け物めッ」

 闘志を燃やすロジェロと同時に――ブラダマンテも武器を抜いた。

(右腕の痛みも大分引いてきたわ。流石メリッサの『加護』ね)

 彼女の武器は両刃剣ロングソードのように見えたが、違った。刃は刀のように片側だけに存在し、先端の形状が分厚くなっている。
 これもまたアフリカ大王アグラマンから得た戦利品トロフィーであり、ブラダマンテ自身が選んだ得物。ダマスカス鋼を用いて鍛えた片刃の剣――ファルシオンであった。

「行くわよ、ロジェロ!」
「おうッ!」

 ブラダマンテとロジェロは呼吸を合わせ、「怪物」へ同時に踏み込んだ。
 凄まじい速度による高度な連携。「怪物」は折れかかった半月刀シャムシールを構えて応戦したが、二人の騎士による同時攻撃を防ぐ事すらままならない。
 たちまちの内に刀は折れ、吹き飛び、怪物は丸腰になった。ベリサルダとファルシオンの刃が次々にヒットし、元々傷だらけだった鱗帷子スケイルメイルは見る間に削られ、切り刻まれ、腐肉や腐汁が飛び散る。

 二人の息の合った絶妙なコンビネーションに、「怪物」はなす術もなく翻弄されていた。
 激闘を固唾を飲んで見守る周囲の者たちから歓声が上がる。これで敵が不死身の化け物でなければ、苦もなく決着がついただろう。

 それだけに皆、恐れていた。二人の連携が途切れた時に起こるであろう、怪物の逆襲を。
 出来うる事なら皆で取り囲み、撃ちかかって貢献したい。しかし――今この状況では難しい。卓抜した実力と相性の良さを兼ね備えているからこそ、二人の騎士は圧倒的な剣技を可能にしているのだ。他者が取って代わろうとすれば、あっという間に優勢は崩れ、再び阿鼻叫喚の地獄が戦場に現出するであろう。それは誰しもが痛感しているのだった。

**********

 レオ皇太子――綺織きおり浩介こうすけFuriosoフリオーソに呼びかけた。

Furiosoフリオーソ、答えろ。
 あの怪物を殺す手段はあるのか?」

『その質問をするのが、ちょっとばかり遅すぎたんじゃない?』
 綺織きおりの影に潜むFuriosoフリオーソは、蔑んだように答えた。
『結論から言えば、今のキミ達に彼を殺す事はできない。
 何故なら奴はとうの昔に、ブラダマンテによって殺されているのだから。
 一度殺された者はもう殺す事はできない。常識だよねェ?』

「ぐッ…………!」綺織きおりはぎり、と歯を軋ませた。

『まァでもさァ。その場しのぎでしかないけど……今のうちにアンジェリカを避難させれば、彼女の命を救う事はできるよ。
 あの二人には囮になってもらって、時間稼ぎをすればいい。
 それすらいとうようなら、キミの率いる皇帝親衛隊ヴァリャーギらに命じて肉壁になって貰えばいいんじゃない?』

 本の悪魔の提案は徹頭徹尾冷酷ではあったが、合理的なものだった。
 「怪物」を殺す明確な手段がない以上、アイと黒崎がどれほど連携して圧倒したとしても、徒労に終わる。

(一体どうすれば……む? いや、待てよ……)

 綺織きおりは焦燥に駆られつつも、限られた時間で考えに考え抜いた。

「……もしかすると、僕はとんでもない思い違いをしていたのかも知れないな」
『どういう意味だい? 綺織きおり浩介こうすけ

 今確かにFuriosoフリオーソは言った。「怪物を殺す手段はない」と。
 この悪魔は嘘「だけは」つかない。言葉だけを捉えれば、絶望的な事実のように聞こえる。知らず知らずの内に語る言霊に仕込まれた「毒」が、聞く者の心を蝕むのだ。悪魔と呼ぶに相応しい狡猾ぶりであった。

(でも奴は……あの『怪物』の元だったロドモンは、ブラダマンテに一度殺されている。
 殺されている者を殺そう、などと考える事自体、そもそもの間違いだったんだ)

「質問を変えようか。奴の命を絶つのではなく、動かなくするためにはどうすればいい?」
『ッ…………!!』

 本の悪魔は言葉を詰まらせたものの……不本意そうに口を開いた。

『奴の本質に多少なりとも気づいたようだね。残念だなぁ。
 ロドモンの肉体にはすでに魂など宿っていない。アレはすでに死んでいる。
 にも関わらず動いているのは、赤い鱗帷子スケイルメイルの力だ』

 苦々しく答える悪魔に対し、綺織きおりはニヤリと笑った。
 気づいてしまいさえすれば、何の事はない話。そう思えたからだ。

「やはり……そういう事か。ではロドモンの肉体ではなく鱗帷子スケイルメイルを破壊すればいいのだな?」
『言うほど簡単じゃないよ。並大抵の力じゃ傷をつける事すら困難だ』

「でも不可能じゃない。ロジェロの妹マルフィサが、騎馬突撃で大穴を開けているからね。
 ブラダマンテとロジェロの持つ武器ならば、あの鎧にもダメージを与えられる」

 Furiosoフリオーソが押し黙ったのを見て、綺織きおりは大声で叫んだ。

「ブラダマンテ! ロジェロ! その調子だ!
 怪物の肉体ではなく、鱗帷子スケイルメイルを削り、破壊する事を狙うんだ!
 怪物ヤツを突き動かし、力を与えているのは間違いなくその鎧の方だからな!」

 綺織きおり――レオ皇太子の鼓舞に、その場を覆っていた恐怖の空気が一転し……二人の騎士を激励する歓声が沸き起こった。

 勢いづく彼らを見て、Furiosoフリオーソは渋面を作ったが――密かに口の端を吊り上げていた。

(うん、間違っちゃいない。間違っちゃあいないよ、綺織きおり浩介こうすけ
 確かに鱗帷子スケイルメイルを攻めるのは正しい判断だ。でもそれだけじゃ『足りない』。
 せっかくのいい雰囲気だし、言わないでおいてあげよう。上げて落とされた時の絶望感のほうが、ボクにとって最高のショーになるからねェ!)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

処理中です...