つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

LED

文字の大きさ
180 / 197
第9章 物語は綻びる

25 変化する戦場の空気・後編

しおりを挟む
 「メリッサ」は幼い頃から、魔術に関する教育と訓練を受け続けていた。

「あらゆる魔術は、自然のことわりを変化させる事を目的とする。
 故に魔術を『解除する』事は、変化した理を『元に戻す』事と同義なのだ」

 師であるマラジジにより、幾度となく叩き込まれた、魔術原理の基礎。
 変身術の才に秀でていた彼女メリッサにとって、非常に重要な概念だった。「解除する」事ができなければ、変身したが最後二度と元の姿に戻れなくなってしまうからだ。

(そう、魔術の解除とは――あるべき姿に戻る幻視ビジョンを思い浮かべること)

 魔術原理を学ぶ事によって、常人に不可能な筈の「創造」は、より強固となり、具現化し――自然界に急激な変化をもたらす。逆もまたしかり。
 変化を素早く構築する想像・創造の素養こそ「魔力」と呼ばれしもの。
 「メリッサ」の魔力は幼少の頃から、師マラジジをも超えていた。

**********

「良かった。メリッサが来てくれた――」

 イングランド王子アストルフォはガッツポーズを決めた。
 「時間稼ぎ」とはすなわち、尼僧メリッサの救援を待つためのものだったからだ。

「それにアンジェリカ。見たかい? 今のを」

 美貌の騎士の言葉に、同じく絶世の美姫たるアンジェリカは大きく頷いた。

「ええ――ブラダマンテは『怪物』の打撃を受けたにも関わらず、ほとんど損傷ダメージを負っていない。
 アイツの狙いが、手当たり次第ではなく黒崎ロジェロに向けられていた証拠よ」

 これの意味するところは――彼女アンジェリカの「見立て」通りであるという事。

「そうか……ならば後は――」
「メリッサの術の発動を待つだけ」

 アストルフォとアンジェリカは、事前に三人で打ち合わせていた「作戦」の為、それぞれ備えた。

**********

「ロジェロ様。お願いがございます。
 少しの間だけ、ブラダマンテと話をさせて下さいませ」
「おう! 任せとけッ!」

 メリッサの言葉に、ロジェロ――黒崎くろさき八式やしきは魔剣を構えて応じた。
 つまり彼女がブラダマンテと話す間、彼一人で『怪物』と相対せよ、という事だ。
 防御に徹していれば、敵がいかな不死身にして怪力の持ち主といえど、少しの間は持ちこたえられるだろう。

(ここに戻って来たって事は……目途がついたんだな?
 オレも、司藤しどうも……皆で一緒に現実世界に帰るための道筋が見えたんだな?)

 黒崎は数日前、彼女メリッサと別れた時の言葉を思い起こしていた。
 肉体は疲弊の極みにあるが、その事を考えるだけで――眼前の強敵に抗い、戦い続ける意志が湧き上がる。

「メリッサ。話って……?」ブラダマンテ――司藤しどうアイは恐る恐る尋ねた。

「難しい話ではありませんわ。これはロジェロ様にも以前、確認した事です。
 たとえこの先、どんな困難が待ち受けていたとしても――黒崎ロジェロ様と共に元の世界にお帰りになりたいですか?」

 メリッサの問いかけは、聞かれれば迷わず答えが返せるものだった。

「そんなの、当たり前じゃない。物語の大団円ハッピーエンドを迎えても、自分一人しか帰れないなんて……嫌に決まってるでしょ。
 わたしじゃなくたって。黒崎や、綺織きおり先輩だって――同じように思うハズだわ」

 アイの言葉は、メリッサの想定通りのものであった。
 迷う訳がないと知っていたし、本音を尋ねられれば、まっとうな人間なら誰もがそう答えるだろう。不思議な事ではない。

(やっぱり、そうですわよね――)

 愛しく想う「主人あるじ」の為、メリッサは改めて決意を固め……

「――でもね、メリッサ。たとえこの世界を離れる事になっても。
 皆と笑ってさよならしたい。出来れば誰一人欠ける事なく。
 この世界で出会って、親しくなった皆と。結末の瞬間まで一緒に。
 メリッサも、アストルフォも――他のみんなだって」
「…………ッ」

 アイの続けた言葉もまた、彼女にしてみれば至極当然の、平凡な発想であった。
 仲良くなった友達と笑顔で別れたい――それは誰もが思うこと。

 メリッサは深呼吸ひとつすると、微笑んで言った。

「分かりましたわ、ブラダマンテ。
 このメリッサ、貴女の望みを叶える為に尽くしましょう。
 その為にこれから行う私の魔術は、貴女の協力が必要です」
「協力……?」

「思い浮かべて下さいませ。貴女が今まで最も追い詰められ、そして救われた時の事を。私が魔術を行使するために必要な『想像力』を、そこから得ます」

 アイは少しの間、逡巡したものの――単独で「怪物」を相手取って苦戦している黒崎の姿が見えると、思い直して言う通りにした。

(わたしにとっての、危機を救われた記憶。それは勿論――)

 彼女は思い起こした。エチオピア。「月」という名の、過去の記憶世界の旅。
 忘れたかった、見たくなかった昔の思い出。自我が希薄となり「ブラダマンテ」となりかけたあの時。
 彼女を救ってくれたのは。彼女を「好き」と言ってくれたのは。紛れもなく黒崎であった。

 アイの「想像」が膨れ上がる。卓越した魔術師であるメリッサはその力を目敏めざとく察知した。

(……素晴らしい。これなら行けますわ。
 アンジェリカ様、アストルフォ様。そしてロジェロ様――皆の想像力が私の魔術イメージを、より強固なものに。
 後は魔術を行使する上での「触媒」として……!)

 メリッサによる呪文の詠唱が始まり、程なくして。
 彼女たち二人を中心に……轟音と共に、漆黒の空間が広がった!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!

naomikoryo
ファンタジー
【★♪★♪★♪★本当に完結!!読んでくれた皆さん、ありがとうございます★♪★♪★♪★】 気づけば異世界、しかも「ただの数学教師」になってもうた――。 大阪生まれ大阪育ち、関西弁まるだしの元高校教師カイは、偶然助けた学園長の口利きで王立魔法学園の臨時教師に。 魔方陣を数式で解きほぐし、強大な魔法を片っ端から「授業」で説明してしまう彼の授業は、生徒たちにとって革命そのものだった。 しかし、なぜか公爵令嬢ルーティアに追いかけ回され、 気づけば「奥様気取り」で世話を焼かれ、学園も学園長も黙認状態。 王子やヒロイン候補も巻き込み、王国全体を揺るがす大事件に次々と遭遇していくカイ。 「ワイはただ、教師やりたいだけやのに!」 異世界で数学教師が無自覚にチートを発揮し、 悪役令嬢と繰り広げる夫婦漫才のような恋模様と、国家規模のトラブルに振り回される物語。 笑いとバトルと甘々が詰まった異世界ラブコメ×ファンタジー!

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主』

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

処理中です...