つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

LED

文字の大きさ
184 / 197
第9章 物語は綻びる

29 そして、物語は綻びる

しおりを挟む
 本の悪魔Furiosoフリオーソは下半身を消滅させながらも、アンジェリカの指輪を手にして高笑いを上げていた。

『はァはははははふははははァ! 惜しかったねェ諸君!
 このボクが、ふんぞり返ってるだけの根性なしとでも思ったかい?
 レテ川のせいでボクの存在も半分が失われてしまったが……死ななきゃ安いッ!
 黄金の指輪はこのFuriosoフリオーソのモノだァ!!』

「くっそ……てめェ!」

 ロジェロ――黒崎くろさき八式やしきは罵声を上げつつ、魔剣ベリサルダを抜いて斬りかかろうとしたが――それよりも速く、黒い影は異形の翼をはためかせ……川の中央へ浮上しながら飛び退すさった。

『おっとォ! これでお前の攻撃は届かなァい!
 レテ川を泳いで渡る蛮勇があるなら、ボクを捕まえてごらんよォ!
 ヒィヒヒヒヒ! ヒャッハハハァハハハ……ハ!!』

 狂ったように哄笑し続ける邪悪なる意思。
 その場にいた誰もが、かの悪魔に辿り着く事はできなかった。

「そんなッ……ここまで、来て……!」

 ブラダマンテこと司藤しどうアイも、青ざめ言葉を詰まらせる。
 だが彼女の疲労は限界に達している上に、先ほど胴を薙ぎ払った「怪物」も再び立ち上がろうとしている。黒崎への助勢は叶いそうもなかった。

『これで再び世界はやり直せる。魔本はまた新たな物語を紡げるんだ!
 でもアイちゃん! ボクはキミの大ファンなんだ。だからキミだけは現実世界へ帰してあげよう。
 誇るべきだよ! キミは魔本に囚われながらも生還した、二人目の達成者になるんだからねェ!』

 Furiosoフリオーソは上機嫌で指輪を右の中指に嵌めた。
 指輪の魔力を使って、彼はやるつもりだろう。物語世界にかけた大いなる魔術の解除を。

 為す術もなく、黒い影を見守るしかできない。
 そんな絶望が皆の心を締め上げた――その時だった。

「――指輪を、嵌めてくれたか。礼を言うよFuriosoフリオーソ

 影のような黒塗りの口が、奇妙な響きで蠢いた。
 悪魔の声ではない。黒崎とアイは聞き覚えのある、それは――

「……綺織きおり……」
「えっ……先輩の声……?」

 アイの憧れの先輩、綺織きおり浩介こうすけの声に――最も驚いたのは本の悪魔であった。

『バカな……貴様何故、意識がある? 月世界に来る際にボクと精神を結合し――完全にボクの支配下にあったハズなのにッ』
Furiosoフリオーソ。最も長い時間を共に過ごし、お前の事を一番よく知っているのは――この僕なんだよ。下田教授じゃなくてね。
 お前は嘘だけはつかない……今まで色んな事を質問したね? そしてその全てに答えてくれたね?
 お前は用心深く、自分に不都合な話はしなかったつもりだろうが――それでも少々、喋り過ぎたようだな」

 黒い影の隣に、はっきりと綺織きおりが現れた。
 黄金の指輪を用いて、意識を集中させている。術を解除するためのものだが――それは明らかにFuriosoフリオーソの意図とは違うものだった。

『貴様……おい、待て! 綺織きおり浩介こうすけ! 何のつもりだァ!?』
「僕の狙いや計算は、いつだって外れてばかりだ。
 お前に取り込まれた時、隙を見て操ってやるつもりだったのに……今の今まで、僕の意識は眠ったままだった。
 もしお前が完全な状態だったなら、お前の目論見通りに事は運んだのだろうね」

 綺織きおりの言う通りだった。今のFuriosoフリオーソは下半身が失われている。
 アンジェリカが。アストルフォが。メリッサが。そして勿論、アイや黒崎も死力を尽くして協力し合ったからこそ――この状況が生まれたのだ。
 世界を律する神にも等しき悪魔に、ただの人間が牙を剥き、その存在いのちを刈り取る好機チャンスが。

「指輪は僕が使わせてもらう。但し解除するのは『物語』じゃあない。
 お前の翼にかかっている――浮遊の魔術だ。それを今から解除する」

 彼の凄絶な言葉に、本の悪魔は心底ゾッとした――完全なる破滅への、恐怖心だった。

『ふ、ふざけるな! やめろォ! そんな事をすれば、お前の精神だってレテ川に落ちるんだぞ!
 肉体のガードが無い状態では、たとえ現実世界の魂の記憶があろうが――お前の存在も消失する!
 それにお前ェ……ボクの存在が消えたらどうなるのか、分かってやって――』
「……ああ。完全に『理解した上で』やってるのさ」

 Furiosoフリオーソは恐慌状態となり、綺織きおりの精神集中を妨害しようとしたが――下半身を、存在の大半を失った今、叶わぬ事だった。

『くそッ! くそォ! こんな所でボクは終わりたくない!
 まだまだ物語は不完全なんだ! お前ごときが邪魔立てしていいモノじゃねェんだよこのゴミクソがァァァァ!!』
「フン……ようやく素が出たじゃあないか。Furiosoフリオーソくん。
 この世界に来て本当――ロクな事が無かったけれど。
 お前のようなヤツの切羽詰まった罵り声を聞くのは、最高の気分だね」

 狂乱する悪魔に対し、綺織きおり浩介こうすけはとびきり邪悪な笑みを浮かべ――愉悦に浸っていた。

(これでいい。後の事は頼みましたよ、下田しもだ教授――)

『お、お、お前ら! ボクを助けろォ!』
 何を思ったのか、Furiosoフリオーソは今度はアイ達に助けを求め始めた。
『ボクが死ねば何もかも片付いてハッピーになれるとか、本気で思ってンのかァ?
 そんな訳があるか! 綺織きおり浩介こうすけはお前たちの味方なんかじゃ断じて――』

 なおも見苦しく言葉を続けようとする黒い影だったが――不意に背中の歪な翼が消滅した。
 翼を失い、浮遊魔術の恩恵も無くなったFuriosoフリオーソは力なく落下し――嵌めていた指輪ごとレテ川に沈んだ。

 あぎィィィィヨォオオオォォォオオオ――!

 耳障りな絶叫。黒い影は急速に光を発し、膨大な数の文字となって剥離する。
 それは本当に凄まじい量であり、黒い文字は広大な川面を埋め尽くさんばかりに拡散していった!
 今までに48人を引きずり込み、繰り返し綴られてきた物語に蓄積された「力」が、死と忘却の洗礼を受け解放され――悪魔を構成していた「文字」は遺灰の如く分解され、目映く輝く。川が太陽を飲み込んだかのようでもあった。

 断末魔と輝きが治まると――レテ川は再び静かになった。
 そこには何も残ってはいなかった。Furiosoフリオーソも。黄金の指輪も。そして――綺織きおり浩介こうすけすらも。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

処理中です...