ファンタジー世界で溺愛される短編集

星野銀貨

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救いの巫女姫の私は、3人の王子(ヤンデレ)に囚われて……。

3人の王子様を愛し始めた私

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「やあ、よく眠れたかな? 今日はこの城を案内させてもらうよ」
 
 翌朝、侍女に身なりを整えてもらい、部屋での朝食を終えると、アインスお兄様がやって来た。
 朝の澄んだ光を浴びたアインスお兄様は優美な流れるような銀の髪と、アメジストの目を輝かせ、その美しさはまるで夢の中から抜け出してきたようでーー。
 彼の優しい笑顔が、まだ現実に慣れない私を安心させてくれた。

「改めて言うよ妹姫。ようこそ、お城へ。君と城を歩くのを楽しみにしていたんだよ」
 
 穏やかで落ち着いた声が耳朶をくすぐった。
 清廉な白いコートに包まれた長身を折ってアインスお兄様が私の腰を抱き、エスコートしてくれる。
 豪華な絵画や装飾品に飾られた廊下を歩く。
 ふかふかの絨毯はまるで、雲の上を歩いているかのようでーー。
 
(ーー私が救いの巫女の一族で、こんなにすごい場所にいるなんて……夢みたい)

 アインスお兄様の導きに従って、私たちはまず、王室図書館へと足を踏み入れた。
 高い天井には壮麗なシャンデリアが輝き、棚には数えきれないほどの本が並べられている。
 
「すごい……」

 感動する私にアインスお兄様は、一冊の本を手渡してくれた。

「これは、私のお気に入りの物語なんだけど……読んでみてくれると嬉しいな」
 
 美しい皮の装丁と色とりどりの挿し絵に飾られたその本は、孤児の女の子が、努力して幸せになり、最後はお姫様になる可愛らしい童話の本で。
 なんだかアインスお兄様が私を受け入れてくれる優しさの象徴のようで。
 私はその本を大切にぎゅっと胸に抱き締めたのだった。

 お城の案内が続く中で、私たちは庭園へと足を運んだ。
 そこには色とりどりの花々が可憐に咲き誇り、爽やかな小川が流れる風景が広がっている。
 ーーなんて綺麗なんだろう……。
 アインスお兄様は優雅に手を差し伸べ、私を花々の中へと誘ってくれた。

「庭園は私の心の拠り所なんだ。ここで過ごす時間は、いつでも平穏で幸せなものになるからね。これからは君ともここでたくさんの時間を過ごしていきたいな」

 私たちは庭園をゆっくりと歩きながらたくさんのことを話した。
 小さな頃から今までの、思い出の数々を。
 そうしているうちに、私たちはだんだんと仲良くなっていく気がしてきてーー。
 私たちはきっと幸せな家族になれる。
 私はそう、純粋に心から思ってーー未来の幸せを願った。

 太陽が沈み、夜が訪れる頃には、私たちはお城の美しい展望台へとやって来た。
 きらきらと銀の粒を散りばめたような星空が広がり、遠くには灯りが輝く街の風景が宝石箱のように広がっていた。
 アインスお兄様はそっと私の手を取り、一緒に星を見上げた。

「この瞬間が、私にとっては最高に特別なものになったよ。君とこうして過ごせて、心から感謝しているんだ。今日はありがとう、私の妹姫」

 優しい優しい表情で私を見つめるアインスお兄様に、私も無邪気な笑顔を返した。
 ーーきっと今日の思い出が、私にとっても特別な思い出になる。
 そう、踊る心で思いながら。





 翌日は突然、ツヴァサお兄様からアフタヌーンティーの誘いがあった。
 しかし、誘いというよりも決定事項、といった感じで……。
 
(しかも私に用意しろだなんて……。ツヴァサお兄様は私が養女になるのに反対のようだったし……)
 
 まさか姫らしくない私を追い出すためのお茶会だったらどうしよう……。
 不安な心を無理矢理押さえつけ、私は侍女の助けを借りてアフタヌーンティーの準備を始めた。

 お茶の時間になってすぐに部屋にやって来たツヴァサお兄様は、私の向かいの椅子にどかりと座り込んだ。
 アインスお兄様とは違った野生味溢れる美貌。
 まだ少し少年らしさの残った表情は挑戦的で。
 オッドアイのアメジストとアクアマリンが、私を獲物のように捕らえて逃がさない。
 黒い皮のコートの上からでも分かる、逞しいが均整の取れた身体。
 
「ツヴァサお兄様、お茶の準備が整いました。お菓子もたくさん用意しましたよ」

 私が丁重に告げると、ツヴァサお兄様は鼻で笑った。

「当然だ。俺様のために菓子が用意されるのは当然のことだ。さあ、座れ」

 私たちは二人向かい合い、アフタヌーンティーが始まった。
 アインスお兄様とは違ってなんだか気まずいけれど……。
 テーブルには、美しくデザインされたマカロンやケーキが並べられている。
 侍女に頼んで、私が孤児院にいた頃に手伝いをしていた美味しいお菓子屋さんから届けてもらったものだ。
 ツヴァサお兄様は満足そうに眉を上げながら見つめた。

「マカロンだな。まあ、見た目はいい」
 
 ツヴァサお兄様が興味津々の様子でマカロンを手に取る。
 下町でも珍しく人気のデコレーションマカロンだ。
 王子であるツヴァサお兄様だから、初めて見たのかもしれない。

 喜びと興味を隠し切れていない表情のツヴァサお兄様に、なんだか可笑しくなってくる。 ワイルドな見た目ではあるが、案外子供っぽい、無邪気な人なのかもしれない。
 私は思わず微笑みながら言った。
 
「ツヴァサお兄様、これは薔薇のジャムのマカロンです」

 ツヴァサお兄様はマカロンを口に運び、舌で転がすように幸せそうに味わった後、わざとらしくしかめっ面をしてうなずいた。

「悪くない。まあ、こんなものだろう。」

 言いつつも無骨な指は次のマカロンへと伸びていて……。
 次に、シンプルなストロベリーショートケーキをツヴァサお兄様に差し出してみた。
 これは見た目はシンプルだが、材料にこだわった一品で、私も昔は材料を集めるために森を駆けまわったっけ……。

「こちらはストロベリーショートケーキです。お召し上がりください」

 ツヴァサお兄様は少し考えた後、フォークを使ってケーキを切り取り、口に運んだ。
 すると、彼の顔が瞬間満面の笑みに変わった。

「なかなかじゃないか。このケーキ、結構美味しいな」
 
 結構、などと言いながら、すぐにケーキは姿を消してしまった。

「ありがとうございます、ツヴァサお兄様」
 
 私も思わず吹き出して笑ってしまう。
 
「……? 何が可笑しい? お前も一緒に食べようぜ。あと、敬語もやめろ」

 それから私たちは、おしゃべりをしながらアフタヌーンティーを楽しんだ。
 ツヴァサお兄様のツンツンした態度も、お菓子の美味しさで少しずつ和らいでいくようだった。

 その日以降、ツヴァサお兄様は毎日アフタヌーンティーにやって来るようになった。
 こうして私たちは少しずつ仲の良い兄妹になっていったーー。
 





 次の日、澄みきった青い空が広がる森の中を、私は歩いていた。
 
 庭園から続く森は空気が綺麗で、たまに一人になりたい時は森を散歩することにしているのだ。
 木々を抜け、優しい木漏れ日の中を歩く。

「あっ! そっちに行っちゃダメっ‼︎」
 
 不意に静かな森に響き渡る、まだ幼さの抜けない少年の声。
 この声はーーイオ?
 
「人に見つかったら大変ーー姉様⁉︎」
 
 木々の合間から、何か白いフワフワしたモノと、慌てた様子のドライオが現れた。
 
「妖精ウサギ……?」
 
 ドライオが抱き上げたそれは、白いふわふわの長い毛と、妖精のような透き通った小さな羽を持つ妖精ウサギと呼ばれる珍しい生き物で。
 
「……いつもは森の奥にいるんだけど」
 
「わぁ……イオのお友達なの? 可愛い……!」
 
 私を姉と慕ってくれるドライオとは、兄弟の中で一番打ち解けていたけれど。
 動物好きだとは知らなかった。
 
 ツヴァサお兄様も意外にもすごい甘党だったりしたし、みんなまだまだ私の知らない姿がたくさんあるんだろうな……。
 もっとたくさんみんなのこと知りたいな。
 家族なんだから。
 
 妖精ウサギに手を伸ばすと、キュウキュウと愛らしく鳴いてこちらへ飛び跳ねてきた。
 
「ふふ、フワフワ♡ 妖精ウサギなんて見るの初めて!」
 
 柔らかな毛並みを撫でていると、ドライオがぽかんとしてこちらを見ているのに気づいた。
 
「どうしたの? イオ」
 
「姉様は、怖くないの?」
 
「何のこと?」
 
「妖精ウサギって魔獣だから……みんな駆除したりするじゃない……」
 
 魔獣といっても害のないものはたくさんいて、下町ではペットとして家族の一員になっていたりもする。
 そう説明すると、ドライオはとても驚いていた。
 
「……でも、鬼人はさすがに怖いよね? 人と見た目も違うし」
 
 ドライオが自身の透き通ったツノを指で弄ぶ。
 
「そうかな? 少なくとも私は、イオのことは怖くないしーーそのツノもすごく綺麗だと思ってるよ?」
 
 大事な弟だものーー……。
 
 私はドライオのツノにそっと触れた。
 ドライオが、潤んだアメジストの瞳で私を見る。
 
「本当、本当に? 姉様ーー」
 
「本当だよ?」
 
 縋りついてきたドライオを抱きしめる。
 
 私たちは幸せな家族ーー。
 もっともっとみんなで仲良く、幸せになれる……私はこの時まで心から、そう思っていた……。
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