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41話 しがらみと戦いの中へ 11
しおりを挟む※一部グロテスクな表現があります、ご注意下さい。
腰を少し落とし、左半身を少し前に、短剣をすぐ振れるよう右腕に軽く力を入れる。
魔力を体外へ出し、身体の周りに纏うように集める。
こちら側に見せている、ゴブリンの"左耳の穴付近"のすぐ手前の位置を把握、進行ラインは45度、10時の方向。
(…空間弾!)
ドチャッ!という、水音を含んだ嫌な衝撃音と共に、ゴブリンが倒れる。
体勢はそのままに、倒れたゴブリンと周囲を警戒する。
少しして身体の力を抜き、ゴブリンの死体を見る。
(…無事に倒せた、…でもここからも試練だ)
横倒しになったゴブリンを、なるべく凝視しないようゆっくりと近づいていく。
…シャアーー、チキッ、…シャッ
短剣をしまい、代わりに解体用ナイフを抜く。
ゴブリンの左肩付近を掴み、力を入れて転がし、仰向け状態にさせ…
…つい顔を見てしまった。
魔法が貫通したらしく、右目は無い、舌はダラリと伸び出て、顔の右半分から上半身に向けて、真っ赤に染まっている。
「ぐぅぷ!…」
オレは、素早く近くの木にもたれかかり、下を向いて盛大に吐いた。
喉に固形物はあまり感じない。
こうなると思っていたので、よくないけど今日は朝食を抜いて来たから。
「カハッ、…はぁ、はぁ」
(魔物の出る森で何やってる!早くやる事済ませて、一度森を出ろ!)
ペッ…
口に溜まったツバを吐き、もう一度ゴブリンの元へ向かう。
顔は見ないように上半身を見る。
血の無い側にしゃがむと、躊躇を押さえ込み、ゴブリンの胸の中心少し下辺りにナイフを突き立てる。
ジャッ、…ズ、ズズ
手に伝わる嫌な感触に、気づかないフリをしながらゆっくりと刃を滑らせ、20cmほど進めると、震える左手の指を三本立て、鳩尾付近に突き込み、抉り込むように胸骨の裏へ曲げ入れる。
手袋越しに伝わる感触に、吐き気が戻ってくるが、何とか押さえ込んでいると、指の先にゴリッとした"しこり"が感じられる。
ソレを包み込むようにして指を抜き出すと、三本指の上に、血に染まった小石のような物が乗っていた。
ソレを握り込むと、すぐさま立ち上がり、周りの警戒も忘れて、身体強化を使って森を駆け出す。
「ハァッ、ハァ……【洗浄】」
疲労していないのに、乱れる呼吸を整えながら【洗浄】を唱え、地面に胡座をかいて座り込む。
魔物が住むエリアは、普通の土地よりも自然の魔力【魔素】が多く、その流れが淀んで停滞している場所に、魔石の残った魔物の死体を放置すると、【死霊化】と呼ばれる、魔物がアンデッド化する現象が起きる場合がある。
その為撤退中などの、やむを得ない場合を除いて、倒した魔物の魔石を抜くのは、冒険者の義務だ。
そっと左手を開く。
そこには【洗浄】で血の取れた、透明で、奥の白く濁った小さく歪な小石のような物が乗っている。
(…子供の頃、川原で見つけた、水の流れに丸められたガラスの破片みたいだな)
…ギルドの資料を思い出すと、ため息と共につい声が出てしまう。
「"コレ"で500円(大銅貨5枚)って、どんだけキツい仕事なんだよ…」
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