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108話 幕間 時の狭間 6

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 大神殿の外は、王都は大騒ぎになっていた。

 神殿は今も天から降り注ぐ淡い金色の光に輝き、元々荘厳な建物はまるで神が住まうかのような神聖な気配に包まれていた。

 警戒にあたっていた騎士達は触れる事も出来ない大扉を前にどうしていいか分からず、集まりつつある王都民を抑える事しか出来ない。

 同じく警戒にあたっていた神官兵や礼拝殿が開くのを待っていた敬虔な信者達は、汚れるのもいとわず地面に膝を付き祈りを捧げている。



ーーーーーーーーーー

「ではディメンティーナ様からの神託を伝えます」


 皆が息を飲む。


「一つ、罪人ガリオスは天使に預ける事。
 一つ、今回の件でガリオス以外の全員を罪に問わない事。
 一つ、エルフの少年の自由を阻害しない事。
 以上です、 質問があればどうぞ」


 セリアナが口火を切る。
「ガリオスは、…罪人はどうなるのですか?」

「この者は"悪神の意思の波動"を受けています。
 魂を浄化する必要があるので人々の中に置いておく事は出来ません」


 大司教が声をあげる。
「悪神! あ、悪神が復活したのですか?」

「いえ、封印された遥か彼方の地から小さな意思を飛ばし、この男の憎しみの心を増幅させたに過ぎません。
 復活の兆しはありません」

 大司教は胸を撫で下ろす。


 セリアナは震える声で問いかける。
「魂の浄化とは…し、処刑されるのですか?」

「いえ、命を取る事はありません。
 人目に触れない神域で余生を過ごしてもらいます」


 次に口を開いたのはワーディル。
「メサリエル様、罪人が少年を襲ったきっかけには冒険者ギルドの体制不備があると愚行しますが?」

「全て不問としなさい。
 悪神が関わる事象に人間の善悪を当て嵌め騒ぎたてれば、それ自体が悪神の付け入る隙となります」

「了解致しました」


 マリウスが小さく手を上げる。
「少年の自由を阻害しない、とはどの程度の範囲での事なのでしょう?」

「リルト様の意思で権力等に組み込まれるのであれば、その範囲内で束縛されるのは問題ありません。
 あくまでもリルト様の自由意思を尊重せよとの意味です」

「分かりました」


 メサリエルがリルトを"様付け"で呼んでいる事に全員が気づいていたが飲み込んだ。



 メサリエルが何処を見ているのか分からない瞳で人間達を見回す。

「質問はもう無いようですね?」

 大司教が口を開く。
「あの…質問ではないのですが、リルト様は大丈夫なのでしょうか?」

「それは大丈夫です。
 先ほど降りて来た際に直接診て治療も施しましたが、後は意識が戻るのを待つだけです。
 彷徨われているようなので少し時間はかかるかもしれませんが、目覚めるまではここで預かりなさい」

「承知致しました」




 セリアナが皆の前に躍り出る。
「あの! 最後に…彼と話をさせて頂けないでしょうか?」

「あぁ、貴方の元夫でしたね。
 いいでしょう、意識は少し弱いかもしれませんが、話せるようにしましょう、…どうぞ」


 鎧姿の天使に促されてガリオスが前に歩み出る。




「ガリオス…ごめんなさい、私のせいで…」
 セリアナの目は潤んでいる。

 ガリオスは少し定まらない視線でセリアナを映す。
「セリアナ…違うんだ。
 全ては俺の弱さが原因だ、何もかもを強さでしか図れない、それなのに技術を持ったヤツにも、パルディオにも勝てなかった。
 自分より強い全てが憎かった…どうにもならなかったんだ…」

「ガリオス…」


 ガリオスは俯いた顔を上げ、もう一度セリアナを見ると小さく微笑み、自ら鎧姿の天使の元へ戻っていった。




ーーーーーーーーーー

 天使達とガリオスが消え、一度は外の者達がなだれ込んだ礼拝殿は静けさを取り戻していた。



 大司教が寝室へ行き確認すると、リルトは傷痕までさっぱり消えており鼓動も安定していたが、やはり起きる気配は無かった。


 ランドルフが確認すると、主神交代についてと悪神について話そうとすると声を出せず、書こうとすれば手が動かなかった。

「お前なら振り切れんじゃねぇか?マリウス」

「何言ってるんですか、神力による封印ですよ? 限界まで魔力を振り絞っても無理に決まってるでしょう」


 ワーディルはセリアナに向き合い頭を下げる。
「セリアナギルド長、ギルドや貴方の責任を問う発言は撤回させて頂きたい、申し訳なかった」

「いえ、気にしてはいませんので。
 それに少なからず問題点はあると思っていますので謝罪は不要です」

「そうか」


 各々の会話が途切れたのを見計らって大司教が口を開く。
「とりあえず、神託により罪人は教会預かり、頃合いを見て"中央教会"に送る事になる、としておきましょう。
 リルト様は言われた通りお目覚めになるまでここでお預かりします。
 たぐいまれな魔法の素質を持つ少年の災難に神が悲しみ、その命を救うべく私に命を下した。
 そのような公表をこちらでいたします」


「まぁ、そんなとこが無難か。
 しかしリルト"様"か…ホントに何者なんだ?」

 ランドルフはこんな時いつも頼る相棒を見るが、マリウスは軽く首を横に振るだけだ。


「一応言っておくが、詮索して質問責めにして居づらくさせたりすれば、それは"自由の阻害"とも言えるからな?」
 ワーディルが釘を刺す。





 ランドルフが頭を掻く。
「なんだよ!このモヤモヤ解決しねぇのかよ!」




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