226 / 244
226話 ラスカリア 32
しおりを挟む…チュン、チ、チチチ、チュンチュン…
眠りという水の中からゆっくりと浮かび上がるように意識が覚醒していく。
まだぎこちない瞼は半分ほどしか開かず、視界は煌めく銀色に塞がれ上手く世界を映さない。
(…銀色?)
いつもラテルを乗せている伸ばした左腕がやけに重い。
「…キュー、スピー…」
…右腕にラテルのフワフワな毛皮の感触、寝息も右側から聞こえて来る。
違和感からさすがに意識がたちまち覚醒していく…
(…マジか)
何故かオレの左腕にはポラリスが頭を乗せ、左半身に抱きつきながら眠っている…
(…あぁ、なるほどな)
昨夜は飛空艇見学会の後に全員で夕食をとった。
話の盛り上がった大人達がオレの拠点へ行こう、という事になりそこから始まった飲み会。
オレはまだ酒を美味く感じないので、盛り上がる皆を置いてけっこう早くに自室に戻った。
その段階で既にポラリスも飲みに混じっていたから、たぶん酔っ払って間違ってオレのベッドに潜り込んだんだろう。
この世界では15歳で成人だから酒を飲んでも法に触れないが、…まぁ普段飲んでいる素振りも無いし、慣れてなくて部屋を間違えるほど泥酔したんだろうな。
(まぁ、けっこう内向的なポラリスが酔っぱらうほど楽しめたならそれはいい…んだけど、…朝はマズいなぁ)
小柄でまだ成長途中なポラリスはそれほど肉感的なわけじゃないんだけど、これだけ密着されればやっぱりあちこち女性的に柔らかい。
そして朝は、性欲の薄いエルフも肉体の機能として男性の一部が元気になっている…
15歳でも精神は大人なので、性欲に支配されて襲いかかったりはしないけど、ポラリスの感触に身体は正直で元気なのが治まる気配は無い。
(…脇腹に胸が…乗り上げてきてる太ももの位置がヤバい)
「…ポラリス?」
意を決して静かに話しかける。
と、ポラリスがうっすらと目を開け、オレを見上げる。
「んぅ…リルト?」
が、まだ寝ぼけているようで、ぼんやりした返事をするとさらにオレに抱きつき胸元に顔を埋める。
(やめてやめて、モゾモゾ動かないで…)
「…リルト?」
と、突然動きが止まり、今度はハッキリした口調が返ってきた。
「おはようポラリス」
オレも静かにだけどハッキリと返す。
「…この状況…は?」
「昨日けっこう飲んだんでしょ? オレが起きたら隣に寝てたよ?」
「……」
静かにベッドから出て立ち上がるポラリス。
俯いた顔は真っ赤だ。
「ご、ごめん…」
「酔っぱらってたんだから気にしないで」
「…う、うん」
ポラリスは部屋を出ていった。
「…勿体なかったかなぁ?」
「キュー?」
「ピピー?」
オレの意味のあまりない独り言に、寝起きの小さな声で右側から返事がくる。
(…まぁ、このコ達と一緒に寝てる時点で、そういう展開もちょっと難しいよね)
「…そろそろ起きよっか?」
ーーーーーーーーーー
「はぁっ!」
…バキャ!
ガントレットに包まれた拳で殴られた顔面は、瞬時に凍りそのまま砕かれ氷の破片になる。
騎士が抑え込んでいた敵を盾で殴り、よろけた身体に後ろ廻し蹴りが刺さる。
蹴られた敵は凍りついた胸を陥没させながら吹き飛んでいく。
「よし! とりあえず片付いたわね?」
「はい殿下、付近に敵影ありません」
リーチェさんがまさかの格闘系の職業スキルだったとは驚いたが、希少属性である氷の魔力を乗せた攻撃の殺傷力はなかなかエグいな…
現在"コボルド街"の裏ルート10階。
昨日話していた通りに早速2パーティの合同でダンジョンの攻略をしている…が。
オレはポラリスを見る。
「…!」
ポラリスが気づきフイッとあらぬ方向を見る。
(…レベルが上がってるし、リーチェさん達もいるから余裕があるとはいえ、さすがになぁ…)
オレはレシアナを見る。
と、レシアナはオレとポラリスを交互に見て頷く。
「さすがにちょっと疲れたし、今日はこの辺で夜営にしない?」
レシアナが提案する。
「そうですね。 一度連携も話し合った方がいいですしそうしましょう」
リーチェさんも同意してくれたので、戦闘の跡を片付け始める。
…ちょっとポラリスの集中出来て無さを何とかしないと。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
537
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる