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3.『聖水』の秘密
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「ではこれより、『聖水』を生成していきます」
十分な時間をかけ身体を洗われた私は、髪を結い上げられると、ようやく浴槽へとその身を浸けた。
やや熱めに調整された湯に入ると、たちまち汗が噴き出してくる。
すると、浴槽の湯に変化が起こった。
ただの湯だったものが、うっすらと発光を始めたのだ。
「グフォッ! この輝きは間違いなく『聖水』のもの! 本当にミレーユ様が風呂に入るだけで『聖水』ができるなんて!」
サイトの目が見開かれる。
これが人々に伏せられている『聖水』の秘密だ。
『聖水』とはつまり、私の汗が溶け込んだ水である。
どうしてこのような体質に生まれたのかはわからない。
ただ、孤児院で過ごすなかで、私と一緒に風呂に入ると擦傷が治ることに気がついたのが始まりだ。
初めは子供うちだけの、戯言のような話だったが、それがいつの日か孤児院の院長に伝わり、そして孤児院の支援者でありグリメンス領の領主であるロフトへと伝わった。
ロフトも初めからこんな与太話を信じたわけではないだろう。
だが、実際に私の入った風呂の湯を傷口にかける実演を見てその効果が本当であると確信した。
それからロフトは、孤児院を出て食堂の下働きとして生活していた私の身柄を引き取り、『聖女』として祭り上げた。
私が十五歳のときだった。
それから三年。
私はロフトの指示のもと、私の体質について徹底的に調べあげられた。
思い出すだけでも屈辱的なことを沢山やらされたが、その時間を経て『聖水』が領民の間にも浸透していった。
私の入った風呂の湯を皆が身体にかけたり飲んだりしているというのは羞恥と、『聖水』の真実を知られたらという不安で今後も慣れそうにない。
ただ、そのお陰で今の私の生活が成り立っているというのも事実だ。
大切な商品である私の健康を損なわないためだろうが、今の私は確実に孤児院にいたときや下働きをしていたときよりも豊かな生活を送っている。
既に私はロフトの手の上で、引き返せないところまで来てしまっているのだろう。
「デュフッ。父上、出来立ての『聖水』を飲んでみても?」
「ああ、いいぞ。私も飲ませてもらおうか」
「なっ……」
サイトの提案に思わず批難しそうになるが、その瞬間ロフトに視線で制され、それ以上言葉になることはなかった。
修道女が持ってきたカップを直接浴槽へと入れ『聖水』を掬い上げる二人。
そして私の裸体を眺めながらカップに口をつけた。
「グフフッ。温かい『聖水』というのも美味しいですな。ミレーユ様の姿を眺めながら飲むというのも悪くない」
入浴で火照った頬の赤みが増す。
これまでも『聖水』を飲む人を見たことはあるが、それは瓶詰めされた製品としてのものだけだ。
さすがにこうして目の前で入浴中の湯を飲まれたことはロフト以外にない。
生理的に受け入れがたい存在であるサイトにされるこの仕打ちに、嫌悪と羞恥でおかしくなってしまいそうだ。
「ところで父上、ひとつ疑問なのですが。汗以外の体液にも同様の効果があるのですかな?」
汗以外の体液。
その言葉に、これまで受けた恥辱の日々が思い出される。
「いいところに気がついたな」
ロフトが私のほうを見た。
見透かしているのだろう。
私が恥辱の日々を思い出し、心を掻き乱されていることを。
「お前の推測通り、ミレーユ殿から分泌される体液であれば、なんであっても汗と同様の効果があるぞ」
「ブフォッ! それは、それは……」
入浴中の私の裸体を眺める、サイトの下卑た視線に熱がこもる。
いったいどのようなことを思い描いているのか。
何であれ私にとって気分のいいものではないだろう。
何より、サイトの思い描いていることのことごとくをロフトにされているというのが、一番屈辱的である。
あらゆる液体を採取され、そして『聖水』として飲まれているのだから。
「今日は駄目だが、いずれお前が領主を継いだら自由に『聖水』の研究をしてみるといい。
ミレーユ殿も快く協力してくれるだろう。そうですよね?」
「っ……。私にできることであれば、喜んで」
どうにか言葉を絞り出す。
どれだけ屈辱的な目に遭い、また今後辱しめられようとも、日々は一日、また一日と過ぎていく。
それでも私はお務めとして『聖水』を作り出していくのだろう。
それが皆に慕われる『聖女』なのだから。
十分な時間をかけ身体を洗われた私は、髪を結い上げられると、ようやく浴槽へとその身を浸けた。
やや熱めに調整された湯に入ると、たちまち汗が噴き出してくる。
すると、浴槽の湯に変化が起こった。
ただの湯だったものが、うっすらと発光を始めたのだ。
「グフォッ! この輝きは間違いなく『聖水』のもの! 本当にミレーユ様が風呂に入るだけで『聖水』ができるなんて!」
サイトの目が見開かれる。
これが人々に伏せられている『聖水』の秘密だ。
『聖水』とはつまり、私の汗が溶け込んだ水である。
どうしてこのような体質に生まれたのかはわからない。
ただ、孤児院で過ごすなかで、私と一緒に風呂に入ると擦傷が治ることに気がついたのが始まりだ。
初めは子供うちだけの、戯言のような話だったが、それがいつの日か孤児院の院長に伝わり、そして孤児院の支援者でありグリメンス領の領主であるロフトへと伝わった。
ロフトも初めからこんな与太話を信じたわけではないだろう。
だが、実際に私の入った風呂の湯を傷口にかける実演を見てその効果が本当であると確信した。
それからロフトは、孤児院を出て食堂の下働きとして生活していた私の身柄を引き取り、『聖女』として祭り上げた。
私が十五歳のときだった。
それから三年。
私はロフトの指示のもと、私の体質について徹底的に調べあげられた。
思い出すだけでも屈辱的なことを沢山やらされたが、その時間を経て『聖水』が領民の間にも浸透していった。
私の入った風呂の湯を皆が身体にかけたり飲んだりしているというのは羞恥と、『聖水』の真実を知られたらという不安で今後も慣れそうにない。
ただ、そのお陰で今の私の生活が成り立っているというのも事実だ。
大切な商品である私の健康を損なわないためだろうが、今の私は確実に孤児院にいたときや下働きをしていたときよりも豊かな生活を送っている。
既に私はロフトの手の上で、引き返せないところまで来てしまっているのだろう。
「デュフッ。父上、出来立ての『聖水』を飲んでみても?」
「ああ、いいぞ。私も飲ませてもらおうか」
「なっ……」
サイトの提案に思わず批難しそうになるが、その瞬間ロフトに視線で制され、それ以上言葉になることはなかった。
修道女が持ってきたカップを直接浴槽へと入れ『聖水』を掬い上げる二人。
そして私の裸体を眺めながらカップに口をつけた。
「グフフッ。温かい『聖水』というのも美味しいですな。ミレーユ様の姿を眺めながら飲むというのも悪くない」
入浴で火照った頬の赤みが増す。
これまでも『聖水』を飲む人を見たことはあるが、それは瓶詰めされた製品としてのものだけだ。
さすがにこうして目の前で入浴中の湯を飲まれたことはロフト以外にない。
生理的に受け入れがたい存在であるサイトにされるこの仕打ちに、嫌悪と羞恥でおかしくなってしまいそうだ。
「ところで父上、ひとつ疑問なのですが。汗以外の体液にも同様の効果があるのですかな?」
汗以外の体液。
その言葉に、これまで受けた恥辱の日々が思い出される。
「いいところに気がついたな」
ロフトが私のほうを見た。
見透かしているのだろう。
私が恥辱の日々を思い出し、心を掻き乱されていることを。
「お前の推測通り、ミレーユ殿から分泌される体液であれば、なんであっても汗と同様の効果があるぞ」
「ブフォッ! それは、それは……」
入浴中の私の裸体を眺める、サイトの下卑た視線に熱がこもる。
いったいどのようなことを思い描いているのか。
何であれ私にとって気分のいいものではないだろう。
何より、サイトの思い描いていることのことごとくをロフトにされているというのが、一番屈辱的である。
あらゆる液体を採取され、そして『聖水』として飲まれているのだから。
「今日は駄目だが、いずれお前が領主を継いだら自由に『聖水』の研究をしてみるといい。
ミレーユ殿も快く協力してくれるだろう。そうですよね?」
「っ……。私にできることであれば、喜んで」
どうにか言葉を絞り出す。
どれだけ屈辱的な目に遭い、また今後辱しめられようとも、日々は一日、また一日と過ぎていく。
それでも私はお務めとして『聖水』を作り出していくのだろう。
それが皆に慕われる『聖女』なのだから。
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