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2.闇夜の女神
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「あっ、お礼言うの忘れた……」
リーゼに助けたという認識があったかはわからないが、実際俺はあの酔っ払い冒険者に絡まれて困っていたのだ。
礼の一つくらいするのが筋だろう。
しかし、あの状況で礼を伝えるために近寄ることなんてできなかった。
まあ、リーゼは俺とは違って実力のある新人だ。
受ける依頼や泊まっている宿だって俺より数段上だろう。
そうそう顔を合わせることもないに違いない。
少しモヤモヤするが、もしまた会うことがあればそのときに礼をすればいいか。
俺は屋台で安い串焼きを買い夕飯にした。
そして宿に戻ると、裏手にある井戸へと向かう。
服を脱いで水を汲み、頭から一気にかぶる。
そして濡らしたタオルで一日の汚れを拭っていく。
さっぱりした俺は大部屋へと向かい、壁際の場所を確保した。
宿とはいうが、飯もでなければ、個室ですらない。
大部屋で素泊まりするだけの場所だ。
一応男女で部屋がわかれていて男が三部屋、女が一部屋あるがそれだけであり、だからこそその分値段も安く、俺のような稼ぎの少ない新人冒険者でも泊まることができている。
大部屋の人影はまだまばらだ。
鞄から毛布を取り出すと、すかすかになった鞄を枕にして床に寝転がり、毛布に包まった。
◇
ふと目が覚めた。
開けっぱなしの木戸から外を見やると、瞬く星空が広がっている。
大部屋には金を持っていない奴らが転がっていた。
まだ起きるには早い時間だ。
しかし、どうにも目が冴えてしまったので、気分転換に水でも飲もうと裏手の井戸へと向かう。
そしてそこで俺は見てしまった。
女神の姿を。
女は金糸のような髪を星空に透かしていた。
雪のように白い肌には一点の曇りもない。
豊かに膨らんだ双丘の頂には淡い桃色をした小さな蕾が息づいている。
滑らかな弧を描くくびれに、縦長のへそ。
肉付きのいい臀部とは対照的にスッと引き締まった脚。
股間には髪と同じ黄金の恥毛が薄く茂っていた。
美しいという言葉では言い表せない姿をしていた。
孤児院を出て金のない生活をしてきた俺にとって、女の裸体というのは縁のないものだった。
だから比較対象を知らないわけだが、それでもこれほど心奪われる肉体を持った者はいないだろうと確信できた。
星明かりしかない中で、これほど詳細に女の裸体を観察できるのにはわけがある。
それは俺が持つ天恵、〈暗視〉のお陰だ。
この世界の人は皆、誰しも一つ天恵と呼ばれる神の力を授かって産まれる。
授かる天恵は人それぞれであり、俺の場合は〈暗視〉を授かった。
〈暗視〉は文字通り暗いところを視ることができる能力である。
一切光の届かない場所でも、まるで昼間のように見通すことのできる便利な天恵だ。
冒険者としてもそれなりに有用な天恵ではあるが、いかんせんそれ以外の実力が伴っておらず、未だにパーティーすら組めずソロでゴブリンを狩る日々だ。
いくら闇夜に強くても、休みなく一人で夜戦をするのは厳しい。
夜に戦って昼に寝るのなら夜に戦う意味がない。
結局は他の冒険者と同じように昼に働いて夜には寝る生活に落ち着いていた。
折角の天恵も完全に宝の持ち腐れだったが、まさかこんな形で役に立つ日が来ようとは。
女はタオルで身体を拭いているところだった。
数時間前に自分も同じ場所で身体を拭いたが、同じ行為でも人が違えばこうも絵になるのか。
思わず感嘆の息が漏れる。
どうしてこんな安宿にいるのか。
いったい誰なのか。
好奇心に唆された俺は、女に気がつかれないよう静に近くの物陰へと移動する。
そしてその顔を拝んだ俺は目を見開いた。
リーゼに助けたという認識があったかはわからないが、実際俺はあの酔っ払い冒険者に絡まれて困っていたのだ。
礼の一つくらいするのが筋だろう。
しかし、あの状況で礼を伝えるために近寄ることなんてできなかった。
まあ、リーゼは俺とは違って実力のある新人だ。
受ける依頼や泊まっている宿だって俺より数段上だろう。
そうそう顔を合わせることもないに違いない。
少しモヤモヤするが、もしまた会うことがあればそのときに礼をすればいいか。
俺は屋台で安い串焼きを買い夕飯にした。
そして宿に戻ると、裏手にある井戸へと向かう。
服を脱いで水を汲み、頭から一気にかぶる。
そして濡らしたタオルで一日の汚れを拭っていく。
さっぱりした俺は大部屋へと向かい、壁際の場所を確保した。
宿とはいうが、飯もでなければ、個室ですらない。
大部屋で素泊まりするだけの場所だ。
一応男女で部屋がわかれていて男が三部屋、女が一部屋あるがそれだけであり、だからこそその分値段も安く、俺のような稼ぎの少ない新人冒険者でも泊まることができている。
大部屋の人影はまだまばらだ。
鞄から毛布を取り出すと、すかすかになった鞄を枕にして床に寝転がり、毛布に包まった。
◇
ふと目が覚めた。
開けっぱなしの木戸から外を見やると、瞬く星空が広がっている。
大部屋には金を持っていない奴らが転がっていた。
まだ起きるには早い時間だ。
しかし、どうにも目が冴えてしまったので、気分転換に水でも飲もうと裏手の井戸へと向かう。
そしてそこで俺は見てしまった。
女神の姿を。
女は金糸のような髪を星空に透かしていた。
雪のように白い肌には一点の曇りもない。
豊かに膨らんだ双丘の頂には淡い桃色をした小さな蕾が息づいている。
滑らかな弧を描くくびれに、縦長のへそ。
肉付きのいい臀部とは対照的にスッと引き締まった脚。
股間には髪と同じ黄金の恥毛が薄く茂っていた。
美しいという言葉では言い表せない姿をしていた。
孤児院を出て金のない生活をしてきた俺にとって、女の裸体というのは縁のないものだった。
だから比較対象を知らないわけだが、それでもこれほど心奪われる肉体を持った者はいないだろうと確信できた。
星明かりしかない中で、これほど詳細に女の裸体を観察できるのにはわけがある。
それは俺が持つ天恵、〈暗視〉のお陰だ。
この世界の人は皆、誰しも一つ天恵と呼ばれる神の力を授かって産まれる。
授かる天恵は人それぞれであり、俺の場合は〈暗視〉を授かった。
〈暗視〉は文字通り暗いところを視ることができる能力である。
一切光の届かない場所でも、まるで昼間のように見通すことのできる便利な天恵だ。
冒険者としてもそれなりに有用な天恵ではあるが、いかんせんそれ以外の実力が伴っておらず、未だにパーティーすら組めずソロでゴブリンを狩る日々だ。
いくら闇夜に強くても、休みなく一人で夜戦をするのは厳しい。
夜に戦って昼に寝るのなら夜に戦う意味がない。
結局は他の冒険者と同じように昼に働いて夜には寝る生活に落ち着いていた。
折角の天恵も完全に宝の持ち腐れだったが、まさかこんな形で役に立つ日が来ようとは。
女はタオルで身体を拭いているところだった。
数時間前に自分も同じ場所で身体を拭いたが、同じ行為でも人が違えばこうも絵になるのか。
思わず感嘆の息が漏れる。
どうしてこんな安宿にいるのか。
いったい誰なのか。
好奇心に唆された俺は、女に気がつかれないよう静に近くの物陰へと移動する。
そしてその顔を拝んだ俺は目を見開いた。
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