【R18】オルクスは闇に女神を視る

黒うさぎ

文字の大きさ
1 / 5

1.出会い

しおりを挟む
「こんにちは、オルクスさん。ゴブリンの魔石五つですね。……はい、ではこちらが報酬になります。ご確認ください」

 俺は銀貨三枚を受けとると大切にしまう。
 飯を食べ宿代を払えばほとんどなくなってしまう程度の金だが、俺にとっては重要な生命線だ。

 俺が冒険者になって三ヶ月。
 予想していた通りと言えばそれまでだが、やはり俺の冒険者としての才能はそれほど高くなさそうだった。
 極端に身体が弱いだとかそういったことはないが、優れた体躯をしているわけでもない。
 基本的に荒事を生業としている冒険者だ。
 熊のような大男どもがゴロゴロしているのである。
 平凡な俺がその中に入れば、必然的に実力は平均以下となるわけだ。

 ゴブリンといえば、魔物の中でも最弱と名高い存在だ。
 新人だってゴブリン五体程度なら初日に余裕で討伐するだろう。
 それが俺の場合、初日はゴブリン一体相手に死闘を演じ、結局倒せず逃げて終わった。

 それでもくじけずコツコツ挑み続け、三ヶ月してようやく新人のスタートラインに並ぶことができた。

 正直、冒険者なんて俺には向いていないと思う。
 しかし、孤児院出身の俺にまともな働き口などあるはずもなく、生きていくには冒険者になるしか道はなかったのだ。

「はあ~、飯食って寝よ」

 冒険者ギルドから立ち去ろうとしたときだった。
 どちらが悪いかといわれれば、どちらも悪かったのだと思う。
 俺もボーッとしていたし、相手の男も仲間と話ながら余所見をしていた。
 したがって、肩がぶつかってしまったのも運が悪かっただけだ。

「すみません」

 俺は軽く頭を下げ距離をとる。
 ここでは、俺はまだまだ新米であり、相手のことはよく知らないが、確実に先輩だろう。
 どちらが悪いかとかではなく、頭を下げるのが平和に生きるための術だと孤児院で育った俺は理解していた。

 しかし、その処世術も万能ではないらしい。

「ってぇな、おい!」

 男がいきなり胸ぐらを掴んできた。

「人にぶつかっといてなに帰ろうとしてんだ!?」

「えっと……」

 男の顔をみると随分と赤らんでいる。
 それに顔にかかる息も酒臭い。

(酔っ払いかよ、めんどくせぇな……)

 そうは思うが、相手は片手で俺を持ち上げるようなやつだ。
 されるがままになって足をぶらぶらさせている俺が、喧嘩したところで勝てるとは思えない。

「すみません、次からは気をつけます」

 どうにか下手に出てやり過ごそうと試みる。
 だが、酔っ払いにそんなものは関係ないらしい。

「お前、俺のことをなめてやがんな!」

「いや、そんなことは……」

「うっせえ! 馬鹿にしたような顔をしやがって!」

 断じてそんな顔はしていない。
 もししているとするならば生まれつきだ。

 俺は周囲に視線を向けるが、助けてくれそうな人はどこにもいなかった。
 男の仲間や他の冒険者たちは面白いものが始まったとニヤニヤ見ているだけだし、受付のギルド職員はそんなの日常茶飯事とばかりに視線すら向けずに仕事に精を出している。

(明日に響くような怪我をしなきゃいいな……)

 既に諦めモードの俺は、殴られる覚悟を決めていた。

 拳を固めた男の腕が振り上げられる。
 しかし、その拳が俺を捉えることはなかった。

「邪魔なのだけれど。どいてくれないかしら?」

 一人の女の声がした。
 その声のほうへと首を向けた途端、全身から冷や汗が噴き出した。

 黄金の髪を伸ばし、その間から笹穂耳が覗いている。
 つり目がちなエメラルドの瞳に、作り物のように整った顔。
 エルフだ。

 この女は絶対的強者だと、一目見ただけで理解した。
 早く逃げろと本能が訴える。

 そしてそう思ったのは俺だけではないらしい。

 胸ぐらの手が離され、バランスを崩した俺はその場に尻餅をついた。
 見ると、先程まで赤らんでいた男の顔は、いつの間にか真っ青になっていた。
 あれだけ横柄だった男が、この女を前にして恐怖しているのだ。

「聞いているかしら? そこを通りたいんだけど」

 俺と男はどちらともいわず後退った。
 女はというと、俺達の間にできた空間を悠然と通り抜けて受付へと向かっていった。

「おい見たか? あれがリーゼだ」

「少し前に来たとかいう新人か? 初めて見たが、確かにあれはやベーな」

 ひそひそと話す冒険者たちの会話に耳をすませる。
 どうやら、あのエルフの女は俺と同じ新人冒険者であり、名前をリーゼというらしい。

 そして同じ新人でありながら俺とは違い、一目置かれているようだ。

 それはそうだろう。
 こんな化け物みたいな存在感を放っている奴、無視しろと言われたって無理だ。

 ふと視線を感じた。
 そこでようやく自分が床に尻餅をついたままだったことを思い出す。
 恥ずかしくなった俺は急いでギルドを飛び出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

金髪女騎士の♥♥♥な舞台裏

AIに♥♥♥な質問
ファンタジー
高貴な金髪女騎士、身体強化魔法、ふたなり化。何も起きないはずがなく…。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる

柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった! ※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

処理中です...